österreich初ワンマン、高橋國光が戦友たちと提示した「新たなポップスのスタンダード」
Rolling Stone Japan / 2021年5月4日 11時0分
4月30日、österreich(オストライヒ)がワンマンライブ「四肢の文脈」を無観客で開催し、生配信が行われた。この日はösterreichにとって初のワンマンというだけでなく、高橋國光にとって音楽人生初のワンマンライブ。緊急事態宣言の発令に伴い、中止の可能性もあったが、高橋の希望で急遽配信ライブへと切り替え、本番を迎えたことが最後のMCで明かされている。
【画像を見る】österreich「四肢の文脈」ライブ写真(記事未掲載カットあり:全16点)
ボーカルの飯田瑞規(cinema staff)と鎌野愛、ベースの三島想平(cinema staff / peelingwards)、ドラムのGOTO(DALLJUB STEP CLUB)、ピアノの佐藤航(Gecko & Tokage Parade)、ヴァイオリンの須原杏というお馴染みの面々をバンドに迎えたこの日は、曲間に高橋の朗読を挟みながら、物語性の高いステージを展開。フィードバックノイズからバンドサウンドへとなだれ込むオープニングを経て、序盤は鎌野がボーカルを務める「映画」「贅沢な骨」を続けていく。音大のオペラ専攻を修了し、ハイスイノナサを経て、現在はソロやサポートなどで幅広く活躍する鎌野は、そのノーブルな存在感が際立つ。
飯田瑞規(Photo by Kana Tarumi)
鎌野愛(Photo by Kana Tarumi)
österreichの楽曲は歌を中心に据えつつも、複雑な拍子やキメ、展開が多分に含まれていてアヴァンポップの要素が強く、そのアンサンブルはいわゆる「ロックバンド」とは一線を画す、非常に緻密なもの。バンマス的な役割の三島の存在も大きいが、自身のバンドDALLJUB STEP CLUBではビートミュージックを生演奏するGOTOによる、抑制が効きながらもアグレッシブなプレイがグルーヴの軸を担っていて、そこにピアノやヴァイオリンがミニマルミュージックやクラシック的な意匠を加えることで、ドラマチックな世界が作られている。イヤモニもしつつ、メンバーそれぞれが細かくリズムを刻みながら、高い集中力でアンサンブルを構築していることが、画面の中からはっきりと伝わってくる。
GOTO(Photo by Kana Tarumi)
三島想平(Photo by Kana Tarumi)
佐藤航(Photo by Kana Tarumi)
須原杏(Photo by Kana Tarumi)
続いては飯田とともにゲストボーカルの紺野メイがステージに立ち、「きみを連れてゆく」を披露。高橋と飯田がキンセラ兄弟に代表されるシカゴ産ポストロック直系のメランコリックなフレーズを奏で、紺野の無垢な歌声が楽曲を淡く色づける。SoundCloudにデモが公開されている「Question」も紺野がボーカルを務め、鎌野と異なるキャラクターを持った紺野は、これからもösterreichの楽曲で重要な役割を果たすことになりそうだ。
紺野メイ(Photo by Kana Tarumi)
ライブ中盤では再び鎌野がボーカルを務め、ともに7拍子を基調とした「caes」と「無能」を続ける。2015年に発表された「無能」はösterreichのレパートリーの中でももっとも難易度が高いと思われる一曲であり、演奏するメンバーからは緊張感も伝わるが、アウトロでヴァイオリン、ピアノ、クラップのみになったときに、指揮者のように手を動かす高橋の姿に目を奪われた。朗読時は黒縁メガネのナイーヴな文学青年といった趣もある高橋だが、やはりこのバンドのコンダクターは彼なのだということを、改めて印象付ける。
佐藤と鎌野によるピアノの連弾と、須原のヴァイオリンによるポストクラシカルなインスト「外科室」に続いては、この日のもう一人のゲストであるTHE NOVEMBERSの小林祐介が登場し、『四肢』のCD盤に収録されている「ずっととおくえ」を披露。THE NOVEMBERSは長く日本のオルタナティブなバンドシーンをリードし、今も新たな領域に挑み続ける開拓者であって、小林を自身の楽曲に迎えたことは、高橋にとってとても大きな意味があったはず。この曲は音源だと打ち込みだが、この日はバンドアレンジで演奏され、ヴァイオリンのピチカートをアクセントに、マーチングのリズムを用いることで、新たな命が吹き込まれていた。そしてやはり、小林の色気を感じさせるボーカルが実に素晴らしかった。
小林祐介(Photo by Kana Tarumi)
ライブ後半では飯田が満を持してメインボーカルを務め、歪んだギターをフィーチャーしたオルタナ寄りの作風がcinema staffにも通じる「swandivemori」から、鎌野とのツインボーカルによる「動物寓意譚」を続け、この曲のラストの2人の掛け合いは何度聴いても琴線を揺さぶられる。そして、本編の締め括りとして披露されたのは、飯田が初めてösterreichに参加した曲でもある「楽園の君」。この曲のアレンジも一筋縄ではいかないが、圧倒的な歌とメロディーの力が楽曲を引っ張っている。アウトロでは全員の演奏が熱を帯びる中、高橋は気づけば眼鏡がどこかに飛んでいて、口の中に指を突っ込む不穏なアクションを交えながら、がむしゃらにギターをかき鳴らしている。カメラはメンバーを均等に映し出していて、特別高橋にフォーカスが当てられていたわけではないが、やはりスイッチが入ったときの高橋のステージングはösterreichのライブの大きな見せ場。最後はステージ上に置かれたギターからフィードバックノイズが垂れ流される中、本編が終了した。
高橋國光(Photo by Kana Tarumi)
Photo by Kana Tarumi
アンコールではまず高橋が姿を現し、普段はやらないメンバー紹介をすると言って、「今日の出来が悪かった順に呼びます」と話すと、バックステージからゲラゲラと笑い声が聞こえてくる。高橋、三島、飯田、鎌野はもともとレーベルメイトであり、他のメンバーも含めてそれぞれが活動をともにしている7人は、もはやすっかり「バンド」であることがその雰囲気から伝わってくる。そして、小林を除く出演者がステージに立ち、この日初めての明るい照明の下、全員黒の衣装で並んでいる姿を見ると、たとえメインストリームのど真ん中ではなかったとしても、オルタナティブな感性を突き詰め、時代の波と対峙してきた戦友たちが、時を経て高橋のもとに集ったのだということも、はっきりと伝わってきた。
そんな彼らがアンコールで披露したのは、Mr.Childrenの「and I love you」。意外な選曲だと感じる人もいるかもれないが、高橋は昨年行ったRolling Stone Japanのインタビューで普遍的なポップスへの憧れを語り、その象徴としてMr.Childrenの名前を挙げていたように、この選曲は高橋にとってのどストレートである。そして、オルタナやポストロックの系譜に連なりながら、閉じることなく、緻密に構築されたポップスをマスに向けて作ってきたのがösterreichの世代だとしたら、彼らから直接的にも間接的にも影響を受けたボカロ以降の世代が台頭し、変拍子や転調が複雑に盛り込まれた楽曲がこの国のメインストリームの一端を担うようになった今、もはやösterreichの楽曲に「アヴァン」という形容詞は必要ないようにも思う。最後に「またどこかで」と一言残してステージを去った高橋が、いつか仲間とともに新たなポップスのスタンダードを生み出すことを期待したい。
【関連記事】österreichが遂に本格始動、新作『四肢』全曲解説&制作を語り尽くす
Photo by Kana Tarumi
〈セットリスト〉
1.映画
2.贅沢な骨
3.きみを連れてゆく
4.Question
5.caes
6.無能
7.外科室
8.ずっととおくえ
9.swandivemori
10.動物寓意譚
11.楽園の君
en. and I love you (Mr.Children)
2021年5月23日(日)
「österreich presents 四肢の文脈」アーカイブ配信
OEPN 17:45/START 18:00
Ticket(Zaiko) : 2,800yen
アーカイブ(JST): ~5/26 23:59 まで ※予定
詳細:https://perfectmusic.zaiko.io/_item/339946
österreich
『四肢』
発売中
配信リンク:https://linkco.re/RYFzPuQc
購入リンク:https://recomall.theshop.jp/categories/1448839
【ライブ情報】
「österreich presents 序文」
2021年5月23日(日)
大阪・心斎橋Live House Anima
※2020年6月14日(日)/2021年2月21日(日)の振替対応公演
第1部 OPEN 14:30/START 15:00
第2部 OPEN 17:30/START 18:00
ローソン https://l-tike.com/search/?lcd=52840 (Lコード:52840)
イープラス https://eplus.jp/osterreich/
チケットぴあ https://w.pia.jp/t/osterreich-o/ (Pコード:185-630)
cinema staff TOUR 2021 NEWDAWN/NEWBORN
Special Guest:österreich
2021年6月4日(金)
東京・恵比寿LIQUIDROOM
開場/開演:18:30/19:00
詳細:https://osterreich.jp/contents/421752
österreich公式サイト:https://osterreich.jp/
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