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ポストジャンルの停滞を超える喜ばしき変化の予兆? 2021年1stクォーターを象徴する6曲

Rolling Stone Japan / 2021年5月10日 18時30分

セイント・ヴィンセント(Photo by: Will Heath/NBC/NBCU Photo Bank via Getty Images)

音楽メディアThe Sign Magazineが監修し、海外のポップミュージックの「今」を伝える、音楽カルチャー誌Rolling Stone Japanの人気連載企画POP RULES THE WORLD。ここにお届けするのは、2021年3月25日発売号の誌面に掲載された2021年1stクォーターを象徴するソング6選の記事。

ここにもし共通する何かがあるとすれば、大半の曲がどれもジャンル横断的なサウンドを持っているということ。2010年代というディケイドが果たした「ポストジャンル」という流れの果てに訪れたのはサウンドの画一化だったが、その停滞にもまた、喜ばしき変化が訪れようとしているのかもしれない。ラナ・デル・レイ、FKAツイッグス&ヘディ・ワン&フレッド・アゲイン、セイント・ヴィンセント、シルク・ソニック、ノー・ローム、アリアナ・グランデ――今聴くべき6曲を紹介しよう。

1. Lana Del Rey / Chemtrails Over The Country Club



2021年最初の3カ月におけるベストは間違いなくこの曲。TikTokを主戦場に蔓延するフック至上主義的な価値観に楯突く、どこにもフックらしいフックが見当たらないシンプルかつミニマルな曲構成。演奏は20世紀前半のジャズ。オングリッドなリニア・ビートでもなく、ディラビート的な揺らぎに拘泥するわけでもなく、低音至上主義にしなやかに別れを告げる、いまだ名付けられることのない斬新なプロダクション。レコードに針を落とした時のグリッチノイズを筆頭に、倍音混じりのアナログな音色を空間全体の中心に配置しつつ、ダイナミックレンジの広がりをしっかりと担保。20世紀前半アメリカ文化全般への過剰な偏愛が、誰も作りえなかった新たなサウンドを手に入れさせた。誰もが欲望を抑えながら暮らす自粛要請期間の真っ只中で「私は退屈していないし不幸でもない/今も奇妙でワイルドなまま」と艶かしく歌うこと。2010年代を通して誰もが政治的な正しさに向かう中、そこから取りこぼされていくアンモラルな欲望や官能性を表現してきた作家のひとつの到達点。


2. FKA twigs, Headie One, Fred again.. / Dont Judge Me



英国を震源地に今再び刺激的なジャンルクロスオーバーが進行しつつあることを示す好サンプル。昨年2020年の主役のひとり、新世代UKドリルの覇者=ヘディ・ワンが、フレッド・ギヴソンとのダブル・ネーム名義でリリースしたミックステープ『GANG』ではインタールード扱いだった「Judge Me」を、客演扱いだったFKAツイッグスを前面に押し出し、新たにリリース。さりげないラテン風味のビートは、おそらくは共同プロデュースに名を連ねるスペイン人プロデューサー、エル・グインチョ――現在ではロザリアのプロデューサーとしての認知が一般的だが、2000年代後半に英国〈ヤング・タークス〉からリリースした3枚のアルバムが日本でも好意的に受け止められた――がリコンストラクトしたものだろう。FKAツイッグスやジェイミーxx、サンファとの共演という新たなクロスオーヴァーの象徴だった『GANG』の論理的発展。FKAツイッグス、ヘディ・ワンそれぞれの抑圧体験をトピックにしたリリックもまた、連帯の表明に他ならない。


LCDサウンドシステムの意志を今に継ぐ1曲

3. St. Vincent / Pay Your Way In Pain



デヴィッド・ボウイ1971年の傑作『ハンキー・ドーリー』のシグネチャーサウンドと言えば、イエスのリック・ウェイクマンがアルバム全編で演奏していたジャンル横断的なピアノ。曲冒頭から思わず彼のプレイを連想せずにはいられないホンキートンク風ピアノから始まったと思えば、いきなりbpm63(!)という抑えたテンポの粘っこいグルーヴにシフト・チェンジ。「Fame」と「Shame」で韻を踏んだ、おそらく誰もがボウイ1975年の「Fame」を連想するだろうコーラスを持った密室的なファンク。プラスティックソウル時代のボウイサウンドの理想的なパスティーシュ=LCDサウンドシステムの意志を今に継ぐ1曲とも言えるかもしれない。スティーヴィ・ワンダーとスライ&ザ・ファミリー・ストーンが音楽的な二大リファレンスだと予告された新作『ダディーズ・ホーム』からの初リード曲としては、露払いとしての役割を十二分に果たしている。サウンドと呼応した70年代風のグラマラスなアートワークも前作からの更なる飛躍を否が応でも期待させる。


4. Silk Sonic / Leave The Door Open



生ドラムのフィルに続いて鍵盤と弦楽が何の臆面もなくメジャー7thを自信たっぷりに鳴らす。ミュートしたギター弦をピックでなぞる音にはアナログエコーがたっぷり。ユニット名そのものの、艶かしい絹のようなすべすべした手触りのリッチサウンド――今ここは本当に2021年なのか? 思わずそんな疑念さえ頭を過ぎる、信じられないほどオーセンティックな仕上がり。だが、良くも悪くもデビュー当初からずっと伝統的なサウンドのパスティーシュ(紛い物)であり続けたブルーノ・マーズが、2016年の終わりには2010年代サウンドの集大成とも言える「Thats What I Like」という特大の奇跡を産み落としたことを忘れてはならない。アルバムにはきっと彼らにしか生み出せない新たなサウンドを持った曲が収録されるはず。俺は全肯定派。と、ここまで書いてきたところで、彼らシルク・ソニックが実質的な昨年の覇王=ザ・ウィークエンドを締め出した本年度のグラミーで急遽パフォーマンスすることに決まったことをようやく知る。伝統が権威と接続されるメカニズムって難儀ですよね?


浮上しつつある〈PCミュージック〉周辺のサウンド

5. No Rome / Spinning ft Charli XCX & The 1975



オウテカとの接近という驚きもまだ記憶に新しいソフィ突然の訃報と入れ替わりに、ここ日本では映画『シン・エヴァ』主題歌の共同プロデューサーとして脚光を浴びたA.G.クックがスマッシング・パンプキンズ1993年のメガ・ヒット「Today」のリミックスを上梓。過去と現在とが交錯しながら、2010年代初頭英国アンダーグラウンドの象徴のひとつ〈PCミュージック〉周辺のサウンドが今また浮上しつつある。soundcloudミックス『Dream Logic』に収録されたA.G.クックの二種類のリミックスを聴くまでもなく、キャリア最初期から〈PCミュージック〉と密接な関係にあったチャーリーXCXと〈ダーティ・ヒット〉二大看板作家が邂逅したこのオリジナルのビートにも同じシグネチャーが刻印されている。最初のライン――「朝4時にあなたをみつけた」は、チャーリーXCX2016年の傑作パーティアンセム「After the Afterparty」のリリックと呼応したもの。パーティはまだ続いている。ソフィ2015年の名曲を思い出さずにはいられない。「私たち、まださよならを告げてないみたい」。


6. Ariana Grande / 34+35 Remix feat. Doja Cat and Megan Thee Stallion



社会における女性の地位向上と、セックスの対位という二重の意味を持った『ポジションズ』というタイトルだけでも、昨年のアリアナ新作は十二分に賞賛に値する作品だったと言ってもいいかもしれない。社会システムの改革をシリアスになりすぎず、エモーショナルになりすぎずユーモラスに訴えることと同等に、女性側からの性的な欲望を時には官能的に、時にはユーモラスに肯定する――そんなアクロバティックな同居を可能したのは、1stアルバム『ユアーズ・トゥルーリー』以来久しぶりの、ディズニー映画『ファンタジア』のサウンドトラックを彷彿させるシルキーかつエレガントな弦楽サンプリングを軸にしたビート・プロダクションあってこそだろう。このリミックスは、アルバムの後者の側面を代表する曲――セックスの対位のひとつ、69をモチーフにした「34+35」に昨年の主役二人がヴァースを加えたもの。ミーガンは自らのヴァースで、女性主導のスパンキングプレイやマスターベーションについてのリリックをライムすることで、アリアナからのバトンを受け取っている。

Edited by The Sign Magazine

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