カート・コバーン「死の真相」に言及、FBIが封印されていたファイルを初公開
Rolling Stone Japan / 2021年5月11日 12時30分
カート・コバーンの死因は自殺と断定されているが、「実は暗殺された」という噂も未だ根強い。FBIはカート・コバーンの死にまつわる陰謀論のファイルを数十年にわたって保管。この度、その全容が明らかとなった。
【画像を見る】カート・コバーンは誰かに殺された? 初公開されたFBIの極秘ファイル(全10点)
この1カ月、カート・コバーンとニルヴァーナは再びニュースの見出しに返り咲いた。コバーンの27周忌に当たる4月5日には、彼が生前最期に撮影された写真のNFT作品が売りに出された。ニルヴァーナは1949年のイラストを無断でグッズに使用したとして、著作権違反で訴えられた。さらに、1989年に切ったコバーンの毛髪6束がロック・オークションにかけられることも発表されている。
そして今度は、コバーンのFBIファイルだ。
折に触れて、連邦捜査局は政治家やエンターテイナー、その他著名人に関するアーカイブファイルの一部を一般公開している。そして先月、FBIはひそかにコバーンに関するファイルを取り出し、初めて一般公開した(理由については言及されていない)。今は亡きギャングのボス、ヴィト・ジェノヴェーゼに関する資料を公開した直後だった。
たった10ページの薄いファイルだが、内容は濃い。メインとなるのは差出人が伏字になった2通の手紙で、1994年のコバーンの死を自殺ではなく殺人事件として捜査するようFBIに要請している。そのうち2003年9月付の手紙には、「世界中の数百万人のファンは、彼の死にまつわる不審な点をこの際はっきりさせたいと願っている」とタイプされている。手紙にはこうした疑念の一例として、ニック・ブルームフィールド監督のドキュメンタリー『カート&コートニー』が挙がっている。
もう1通も差出人は伏字だが、こちらは手書きで、消印は2007年。「事件を担当した警察は、殺人として真剣に捜査に取り合わず、最初から自殺として断定した」と、手紙には書かれている。「私にとってはそれが一番気がかりだ、彼を殺した犯人がいまだ野放しなのだから……」 手紙の主はいわゆる証拠についても触れ(「彼が自殺に使ったとされる銃からは指紋がひとつも検出されなかった」)、コバーンのメモには「死にたいとは一言も書かれていなかった。ただし、別の手書きのメモにはそれらしきことが文末に書き加えられていた」と主張している。
2通の手紙はそれぞれ別のFBI職員に宛てられていたが、文面はほぼ同じ。公開されたファイルには、FBIからの返信も含まれていた。いずれの場合も「コバーン氏が殺人の被害者だという懸念をお寄せいただき、感謝申し上げます」としたためられている。「しかしながら、一般的に殺人捜査の大半は、州または地元当局の管轄です」 さらにこの後、FBIが捜査を開始するには「連邦法違反」に関する「特定の事実」が提出されなくてはならないが、これらの手紙から判断したところ「FBIの操作管轄に該当する連邦法違反は一切見受けられません」と続く。特定の事実があれば当局も捜査開始の手続きを取る、と書かれていた。
またファイルには、2000年に当時のジャネット・レノ司法長官に宛てた手紙に対する同様の返信も含まれていた。ただし、返信のきっかけとなった手紙そのものは含まれていない。
初公開ファイルに含まれていた「奇妙なFAX」
さらに奇妙なことに、公開されたファイルには1997年1月にFBIロサンゼルス支局とワシントンDC支局に(さらに複数のNBC重役にも)送信されたFAXも含まれていた。FAXの送信元はロングヒットTVシリーズ『未解決ミステリー』を制作したロサンゼルスのドキュメンタリー制作会社Cosgrove/ Meurer Productions。事件に関する諸説が1パラグラフにまとめられ、「元ロサンゼルス郡保安官代理で、ロサンゼルスを拠点に活動する私立探偵トム・グラント氏」の名前と、自殺と断定するのは「時期尚早だ」という同氏の疑念が書き添えられていた。概要報告書には、グラント氏が「遺書とみられるメモに関する疑問など、数々の不審な点を発見した」と書かれている。遺書について、グラント氏は「コバーンからファンへの引退宣言」だと考えていた。
Cosgrove/ Meurer Productionsの共同創業者テリー・モイラー氏は、当時の要請についてあまり覚えていなかったが、たしかにこの年に『未解決ミステリー』はこうした説を検証するエピソードを放映している。「うちでは様々な事件でFBIにコンタクトし、情報収集しています」とモイラー氏。「今でも手法は変わりません――昨日もFBIと話をしたばかりです。FBIとは頻繁に連絡を取っています。あのFAXもいつもと同じやり方です」
ローリングストーン誌はファイルの公開時期についてFBIに問い合わせたが、記事掲載の段階では返答は得られなかった。だがファイルの公開により、コバーンはFBIの監視・捜査対象となったミュージシャンの顔ぶれに名を連ねることとなった。彼以外にはノトーリアス・B.I.G.(殺人事件の捜査は2005年に終了しているが、事件に関するFBIのファイルは300ページを超える)、モンキーズ(60年代のコンサートのビデオ映像に反アメリカ的な「サブリミナル・メッセージ」が盛り込まれていた件)、ビージーズのロビン・ギブ(離婚協議中、当時の妻の代理人を務めた法律事務所に、当人の署名入りの「脅迫ともとれる」電報を送った件)、ジョン・デンバー(1979年に脅迫状を受けと言っていた件)などがいる。
コバーンのファイルはそこまで際どくないにしても、ミュージシャンの情報を収集するFBIの関心がクラシックロック時代にとどまらなかったことを改めて実感させた。謎の男たちにも、「オルタナティブ」な別の一面があったのだ。
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