DIR EN GREYが語る、今しかない表現方法と面白さ
Rolling Stone Japan / 2021年5月18日 21時0分
5月6日に東京ガーデンシアターで開催予定だったライブが延期となってしまったDIR EN GREY。だが、ライブ延期決定の2日前に行われたこのインタビューを読んでもらえば、このバンドは何があっても前進を続けることは想像に難くない。4月28日にリリースされたシングル『朧(おぼろ)』をフックに、リーダーの薫(Gt)、そしてRolling Stone Japana初登場となるToshiya(Ba)の2人にDIR EN GREYの今を聞いた。
【動画を見る】DIR EN GREY「朧」ミュージックビデオ
ーまずはこのタイミングでのリリースの経緯を教えてください。
薫:前々からこの辺りで出すかって話はしてたんです。けど、事務所から、もっと早くリリース出来ないか?と聞かれ(笑)。2月ぐらいに出せへんの?って。でもそんな急にレコーディングできへんって言って押し返しました(笑)。で、当初予定の時期にリリースすることになったんです。
ー曲は書き下ろし?
薫:ストックにある中から選びましたね。
ーどういう風に選ぶのですか? メンバーで合議していく感じ?
薫:バラードというか、メロディが立ってる曲が今回いいんじゃないか?みたいな話になったんです。で、その時あったそういう曲の中から選んだ感じでしたね。
Toshiya:そうですね。歌ものというか、メロウなものが良いよねってなって、ストック曲の中からチョイスしていき、皆んなで話し合った結果「朧」が一番良いんじゃないかって話になりました。この曲、個人的にはシングルカットするのもありだと思うし、アルバムのために取っておくのもありかなと思っていた曲だったんです。アルバムに入るにしても、アルバムの核になるぐらいポイントになる曲じゃないかなとは思ってた曲でした。
薫:シングルでバラードってここ最近はなかったんですよね。結構前には出してますけど。だからやってみてもいいかみたいな感じでもありました。
ー確かにシングルでバラードはDIR EN GREYとしてはかなり新鮮だと思うし、しかもアレンジが……。
薫:シンプルです。かなりシンプルにしてるんですけど、そこに行き着くまでは結構時間かかりましたけどね。
ー一度はもっと音数も多くしたり?
薫:いや。ガチャガチャいじっていくというよりは、じんわりずっと睨み合ってたみたいな感じでしたね。大きく変わっていったんじゃなくて、どういう風に進んで、最後着地するかっていう全体の流れが決まるまでが時間がかかったんです。
バンドとして模索している部分は大きい
ーDIR EN GREYはやはりライブバンドとしてのイメージが強く、今までリリースしてツアー、リリースしてツアーを繰り返して来たわけですが、今もリリースは止まってないですけど、ツアーもだしライブ自体がコロナで止まっています。バンドの状態はどんな感じですか?
Toshiya:ライブが出来なくなってからバンドとしては模索している部分は大きいのかなとは思います。けど、個人的にはどこかでもう吹っ切ってますけどね。バンドは動きたいと思っているんですけど、なかなかできない状態です。でも考えてもどうにもできないのが現状なので、考えるのをやめたわけではないですけど、どっかで吹っ切ったんじゃないかと思ってますけどね。というより吹っ切るしかないんでしょうね。
ー考えてばかりいても何も生まれないし。
Toshiya:そうですね。ずっと曲を作ってプリプロをやってても、それっていつものことなんだけど、さらにずっと机上の空論をしているみたいな感じですから。なんかちょっと不思議な感じですよね。別に今までも答えがあったわけじゃないですけど、そこに向かうためのプロセスが今までとは変わってしまった。音源を作りながらライブもやって、また音源を作って、ライブをやってという一連の流れがルーティンのようにあったわけですけど、それが一切遮断されたわけじゃないですか。そうすると、自分達ではいつものようにやってるんですけど、どこかで何かが変わってきてしまっている。そして、これからはそういう時代になっていくのかもしれないし。そこに順応するしかないと思うんです。ただ今までのように考えていても、今までのようにはならないんだろうなって思うようになって、吹っ切ってるのかもしれません。
ーライブがないことで制作そのものは変わりましたか? 曲ってライブでやりながら育っていくとよく言われますが、そのライブが想像しにくい状況で曲を作るとなると、曲に対するイメージや作り方、作る時の深さが変わってきたりしますか?
薫:制作しててもいつもと違う感じはあります。逆に言ったら、今が特殊なわけで、だから今しかできないような曲になってるのかもしれないし。けど、それはそれで面白いものが創れるんだったらいいんじゃないの?ってぐらいです。考え込んでも分かんないですしね。今まではツアーがあったのが大きく左右しているところはあると思いますよ。ツアーがあるから、それまでを制作のリミットにしてきた。だから切り替えがあったのが、今は時間が無限とある状態なんで。正直気を抜くとボヤーっとはしちゃいますよね。やっぱりケツを叩かれて追い込まれて力を発揮してきたのが大きかったので(笑)。
自分たちで「タイミング」を作る
ー制作の時間が無制限にあったことに関して、Toshiyaさんは?
Toshiya:ありがたいことだと思います。ただ、あればあるだけ使いたくもなるし、だらけてしまう部分もあるので良いところもあれば悪いところもある気がしますね。それが正直なところです。
ー今回のレコーディングで良いところで言うと? 新しいことを試せたとかありますか?
Toshiya:結局最後は時間に追われはするんです(笑)。でも、今回はちょっと心に余裕がある感じがしました。その分、色々と考えちゃったんですよ。じゃあこれリリースして聴いてもらえるのかなとか、下世話ですけど数字的なものを考えだしちゃうとこのタイミングで出すことが良いのか悪いのかぐらいなところまで考えてしまいましたね。もうちょっとコロナ禍が落ち着いた時の方がいいのかなとか。じゃあそのタイミングを待つにしても、いつそのタイミングが来るんだろうって考えたら、考えてもしょうがないなってやっぱり思ったんです。タイミング来ないなら、タイミングを作れば良いじゃんって思って。悩んでいるよりも、こういう曲が出来上がって良い感じになってるんだったら、出すべきなんじゃないかなって思いました。
Toshiya
ータイミングを作っていくって確かに大事ですよね。
Toshiya:今世界中の人達が我慢というか、ずっと待ってるわけじゃないですか。でも、個人的には、待っていても元には戻んないと思うんです。だったら、この状況下でどういう風にやっていくかを考えていく方が建設的だと思うんです。そういうところに個人的には行き着いたというか、行き着こうとしてます。
ーお話を聞いていてサミュエル・ベケットの『ゴドーを待ちながら』という戯曲を思い出しました。主人公の2人は、ゴドーさんを待っているのですが、実はゴドーさんが誰かも知らないし、ゴドーさんが実在するかもわからないんです。でも、来ると信じて待っているんです。
Toshiya:今って自分も含めて誰もが待っています。でもそれって一体何を待ってるんだ?って考えたら、「あの頃」を待ってるだけでしょ?って。でも正直俺は戻んないなって思ってるんで。もう変わってしまったんだなと思っているから。ならばそこに向かって動いていく。もう待つのは止めて、ちょっと怖いけど一歩踏み出さなきゃいけないのかなと思ってますけど。
薫:俺も同感ですね。
DIR EN GREYならではのアイデア
ーさて、新曲の「朧」はある曲の続編とも言われています。作詞はボーカルの京さんですが、お二人は続編ということは?
薫:聞かされてはいましたけど、特に引っ張られることはなかったです。「朧」の原曲の拍数やテンポ感がその曲と似てるんですよ。だからそこに引っ張られて、そういう歌詩ができたのかもしれないです。詩がそういう風になると聞いてからは意識したことはないですね。
Toshiya:自分も意識は全くしてなかったです。これはこれかなと思っています。
ーちなみに、Toshiyaさんの言葉を借りれば、「朧」は次のアルバムの核になってもいいぐらいの曲とのことですが……。
Toshiya:それはあくまでも音源としてですよ。話が飛躍しちゃうんですが、今ってライブのやり方も含めて無限の可能性があるわけです。なので、音源として存在してる楽曲があってもいいと思うし、逆にライブでしかやらない曲があってもいいだろうし。つまり、ここからは付加価値をどんな風に付けていくのかが、今まで以上にすごく大事になってくると思うんです。
薫:ライブでしかやらない曲っていいね。
Toshiya:それって、その時にもしかしたらやるかもしれんってなったら、ライブに行きたいなって思う可能性もあるわけじゃないですか? そういう付加価値をどうやったら付けられるかを考えています。ライブをやりたいけどできないし、しかも普通にライブをやってもきっと面白くないんだろうなとか。
ーぶっちゃけ普通の配信ライブは大変そうですからね。
薫:配信のみはちょっとキツイですね。そういう意味ではToshiyaが言ったライブしかやらない曲、つまり音源にならない曲って面白いわ。
Toshiya:分かんないですよ。俺も一人で考えて言ってるだけだから(笑)。
薫:結構ありかもしれないなぁ……。「何なんだ、あの曲は?」ってなりますよね。しかも誰もその曲に関してはインタビューとかでも触れない(笑)。
Toshiya:アハハハ。
薫:ファンの中だけで「あれ、何て曲?」みたいな感じで、タイトルすらも知らない。セットリストもそこだけ曲のタイトルがないとかね。
Toshiya:音源だけじゃなくても、演出でも何でもいいと思うんですよ。最近、思ったんですよ。昔ってDIR EN GREYのCDにも遊び心がすごくあったなって。それが最近「あ、結構普通だな」って思いだして。でもこれからも自分達で盤を出していくんだったら、やっぱり何かで楽しめるものにしたいなって。昔のDIR EN GREYのCDってどこに詩が載っているのか探したりとかしてもらったと思うんです。今考えると結構悪ふざけなんですけど、でもその悪ふざけが意外と面白かったなぁって。
ーリーダーいかがですか(笑)?
薫:俺は音に色々込めてるんで(笑)。
薫
「朧」に詰め込んだこだわり
ーToshiyaさんが言っていた”悪ふざけな奇抜なアイデア”も、いつの間にかに普通に飲みこまれる。表現ってその戦いだとは思うんですが、ネット時代の今、その飲み込まれるスピードが加速しています。なので、たとえ飲み込まれても”俺はこんなもんじゃない”と自覚して戦い続けることが大事なんだと思っています。
薫:まさに俺はそれだけでやってますもん。自分にセンスがあるとか絶対思ってないんで。曲なんかできないのに、本当負けん気だけでやってるみたいな感じです。
ー凡庸なものに取り込まれたくないというか、今までにないものでやりたいと?
薫:やりたいし、けど、時間もかかるし。ギミックの話でいえば、「朧」は曲の中にいっぱい仕掛けてあります。
ーどういうギミックがあるか、いくつか教えてください。
薫:言ったら面白くないです(笑)。聴こえてない音がいっぱいあります。感じてもらう音がいっぱい入ってます。それを感じてもらえたらいいなと思って仕上げました。そして次のアルバムはそういうのをいっぱいぶち込んでいこうかなって思っています。
ーライブに関して、ひとつ聞いておきたいことがあって。今って価値観のぶつかり合いの状態だと思うんです。ライブをやるにしても、ファンの中でも”こんな時にライブやらないで”という価値観と”こんな時でもライブをやってくれてありがとう”という価値観が衝突してしまいます。
薫:難しいですよね。どちらの価値観も間違ってはいないので。ただ、バンドとしては歩みを止めることはしないです。なので、条件が許せばライブはやっていきます。だから「あ、こんな時にライブするんだ。この人達の見方変わったわ」って言う人達いっぱいいると思うんですよ。まぁそれは他のバンドでも起きていると思いますが。
ーそうですよね。どのバンドにも、ライブやって派とやめてくれ派がいますが、どう折り合いをつければいいのか……。
薫:そこはしばらく戻んないじゃないんですかね。誰かが「はい! 何でもなかったですよ!」って言ってくれれば、変わるかもしれないですけど、そんなのないじゃないですか? 要は感染者数が落ち着いて来ない限り難しいと思います。だって、感染者数が減った台湾はフェスですらやってますからね。
Toshiya:今ってどっちつかずのやり方を、我々も選んでるわけなんですけど、それを政府がやってるから微妙なんじゃないですか?って俺はそう思ってるんです。人々は何によって動かされているかと言えば、それは薫さんが言ったみたいに感染者の数字だと思うんですよ。その数字を減らすには単純に痛手を負うしかないのかもしれない。イギリスみたいにハードなロックダウンしますってなったら、経済的にものすごいダメージを受けます。それこそ、全ての人が路頭に迷うことになりかねないと思うんですよね。でも、極端ですがそれぐらいの強い意志を持たない限りは、このままやんわりやってて、また数字が下がりました、「お、ちょっと数字が下がったから大丈夫でしょ」って必ずなって、そしたらまたきっと増えるんじゃないかな? その繰り返し。ってなると、どっかで区切りつけないと、もしかしたらずっと繰り返していくことになるのかなっていう不安があります。
薫:東京は今3度目の緊急事態宣言下なんですけど、ロックダウンも突然やるのはやめてほしいですね。もうちょっと助走期間がないと本当に大変です。
Toshiya:今回の緊急事態宣言に関しても、やるぞって言うのには従いますよ、従うしかないんで。でもやるからには、何か希望になるようなものがほしいですよね。いきなり時間を取られちゃったみたいな感じがしています。
光が見えてくる前の「朧」
ー希望は欲しいですよね。それで言うとDIR EN GREYの音楽って常に最後に光が見えてくる。でも、今の状況は光が見えてこない。詞の意味は京さんじゃないと分からないとは思うんですが、「朧」が何を意味しているのか気になります。今の時代のように全てが曖昧な意味での朧なのか? それとも朧月夜じゃないけど薄っすら光が見えてくるという朧なのか。お二人はどう解釈しますか?
Toshiya:できることなら、光が見えてくる前の朧であってほしいなって思います。ずっと霧に包まれたまんまで、人々の頑張れる勇気がなくなってしまうその前に。
ー確かにそんなに人間強くないですよね。希望があるとしたら何ですか? 今見えている希望はどんなものですか?
Toshiya:それはもう、コロナが終息するのが一番です。けどその前は、ちゃんと「朧」をリリースさせてほしいですね。緊急事態宣言でCDショップが閉まっているところもあって、予約していても発売日に入手できない人もいるかもしれないんです。なので予約していただいた皆さんの手に「朧」が届くことを願っていますね。
ー薫さんの朧はどっちですか?
薫:どっちでも面白いかなって思います。どっちの状況でも、今しかないものなんで。今しかできない表現方法もあるし。もちろん、この先もバンドは続くし、曲も書きますが、今しかできない表現方法だったり、面白さだったり、そういうのが出せればいいんじゃないかなと思います。
ーそれにしても『朧』って秀逸なタイトルですね。
Toshiya:今考えるとそうですね。はっきりしないこの状態とも解釈できますし、ほのかに光が見えている状態とも取れますからね。
薫:聴いてみて感じて欲しいですね。
<INFORMATION>
●ライブの振替日程が決定!
DIR EN GREY ”疎外”
2021年5月6日(木)【東京都】東京ガーデンシアター
[開場 / 開演] 18:00 / 19:00
↓
2021年6月5日(土)【東京都】東京ガーデンシアター
[開場 / 開演] 17:00 / 18:00
※日程の変更に伴い、開場・開演時間に変更がございますのでご注意ください。
また、残念ながら振替公演にご来場が叶わないお客様には、チケット(電子/紙共に)の払戻しをさせていただききます。
払戻期間及び方法は5月中旬にDIR EN GREY公式サイトにて発表致します。
尚、払戻期間が大変短くなる場合がございますので、ご希望の方はご注意いただきますようお願い致します。
https://direngrey.co.jp/
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