Official髭男dism「Cry Baby」に見る、めまぐるしい転調とダイナミックな物語
Rolling Stone Japan / 2021年5月31日 18時0分
Official髭男dismのニューシングル「Cry Baby」が大きな話題となっている。今年2月の「Universe」に続いて、気鋭のライター/批評家・imdkmが考察。
去る5月7日に配信リリースされたOfficial髭男dism(以下、ヒゲダン)の新曲、「Cry Baby」。アニメ『東京リベンジャーズ』の主題歌でもあるこの曲、リリースされるなり、ちょっと異様な反応を巻き起こしている。
まず語り草になっているのが、転調の多さだ。作曲した藤原聡本人も、「今回の『Cry baby』は、「鬼のように転調してやろう!」と思って作っています。たぶんですけど、フル尺で10回くらい転調してるんですよね」と語っている(『東京リベンジャーズ』公式サイト掲載の対談より)。リスナーもこのポイントがとにかく気になっているようで、YouTubeやSNSで話題になっている。
じっさいこの曲、これでもかと転調する。しかも、転調によってドラマチックに場面を転換するというよりも、世界がぐんにゃりと曲がるかのような奇妙な効果をもたらしているのが面白い。マイナーで展開していくAメロ~Bメロからサビでがらっとメジャーになるのはいかにも劇的でわかりやすいけれども、サビの途中で転調する「ぐんにゃり」感はなかなか独特だ。
この「ぐんにゃり」感、おもしろいだけじゃなくて、サビの歌詞に貫かれる主題とよくマッチしていると思う。
この曲のAメロやBメロは、具体的な情景や主人公の心情が軸になっている。最初のAメロは特に見事で、1行ごとに鮮烈な映像を喚起しつつ、主人公と「お前」とのバディ感を過不足なく伝え、そこはかとない「負け犬」の哀しみも湛えている。それに対してサビは、そうした具体的な情景や心情を前提とした意志の表明になっている。繰り返し味わってきた苦渋を振り返りながらも、”腐り切ったバッドエンドに抗”い、リベンジを誓う。この曲のなかに勝利の影はつゆほどもないのだけれども、不思議と清々しい。
曲がることのない意志を力強く綴るサビの言葉は、「ぐんにゃり」とした転調をものともせず進んでいくメロディと組み合わさることで、いっそうまっすぐに響く。どれほど世界のフレームが変わっていったとしても、意志だけは揺らがないのだ。さらにこの意志はかなりねばっこい。”土砂降りの夜に 誓ったリベンジ”とバシッとキメる1番サビの簡潔さを最後の最後にも期待すると裏切られる。これだけ強力で印象的なフレーズでもまだ足りないとばかりに、実に6小節ほどのダメ押しのフレーズが挿入されるのだ。しかもここでもまた転調して、さらにまた転調して戻る! このしつこさ、生半可な”誓い”なんかでは収まらなさそうだ。
リズムの緩急がもたらすもの
うーむなるほど、聴いていてびっくりするポイントではある。けれども、もうひとつ個人的に、転調に加えておもしろいところがある。リズムの緩急のつけかただ。転調やコードチェンジがドラマをつくったり、あるいは引き立てたりすることはよく語られるところだ。けれどもリズムも同じくらい雄弁だ。
具体的に言うと、「Cry Baby」はスウィングする躍動感あふれるグルーヴに貫かれているけれども、それがふっと薄れ、あるいは途切れるところがある。どちらもBメロに相当する部分だ。
最初のBメロ(”いつも口喧嘩さえ~目が潤んだ”)の部分では、それまで力強くビートを刻んでいたピアノが流れるような和音と装飾的なメロディを奏で始める。それと同じくして、歌メロも三連符を多用してグルーヴ感を変えてゆく。メロディが刻むリズムは8分音符が中心となって、16分音符が出てくるときもあえてスウィングさせずにスクウェア寄りに流して歌っている。とはいえ、ベースとドラムは変わらずスウィングするグルーヴを叩き出していて、ピアノとヴォーカルのこうした変化はささやかなアクセント程度にも思えるかもしれない。
ただ間奏が明けて先程と同じモチーフが展開する、実質2度めのBメロと言える部分(”傘はいらないから~抉るような言葉を”)はもっとわかりやすい。というのも、バックの演奏ごと6/8拍子(もしくは、3連の4/4拍子)のバラード的なリズムを刻みだすからだ。拍子は違えど、前半の基本的なメロディの輪郭はほとんど同じ。とすれば、最初のBメロで聴かれたグルーヴ感の変化もはっきりと演出上の意図があったと考えるのが自然だろう。それだけじゃなく、先のBメロから比べて大きく変化する後半では、6/8拍子の上にスクウェアな8ビートのフィーリングがさらっとかぶせてある。「"よわねにおか"された"むねのお"くを"えぐるよ"うなことばを」という一連のフレーズのなかで、ダブルクォーテーション(””)で囲った部分に注目すると、ここだけリズムの刻み方が6/8拍子(三連)と違うのがわかると思う。これによって、歌メロが楽曲のリズムと緊張感を保ちながら伸びやかに動き出すような印象が生まれている。
声の表現、効果的なレトリック
この2つのBメロ(に相当する部分)は、曲全体から俯瞰すると同じような役割を持っている。主人公の語りかけるような(心の)声の表現だ。”いつも口喧嘩さえうまく出来ないくせして/冴えない冗談言うなよ”という2行は、実際に声に出して”お前”にかけた言葉かはわからないけれども、主人公が率直に感じた生の言葉だろうと想像がつく。小説だったら地の文とは区別して、カッコにくくりたいところだ。よりいっそうリズムの変化が顕著な”傘はいらないから~抉るような言葉を”なんて、隅から隅までが主人公が心から思っている、声に出したい言葉に違いない。
楽曲を貫くグルーヴから離れたリズムを刻むことによって、Bメロには心の声が響きわたっている。そのように言えるのではないかと思う。そう考えてみると、”土砂降りの夜に 誓ったリベンジ”というキメのフレーズでここぞと用いられる三連符とロングトーンも同じような効果でもって浮かび上がってくる。太く刻まれるビートを振り切るように力強く違うリズムを刻んで歌い上げられるこのフレーズは、主人公のこの上なく強靭な意思表明であり、まさに楽曲のハイライトでもある。
過剰とも言えるくらい聴きどころだらけの「Cry Baby」だけれども、しかし一箇所だけを取り出して「ここが最高のポイントです!」というのが難しい。転調やリズムの変化を繰り返しながらも、全体が切り離しがたいひとつの大きな流れにまとまっている。
それは歌詞にもあらわれている。この曲の大部分は「~(し)て」や「~(し)ながら」、「~に」といった助詞を連ねて、言葉に言葉を接ぎ木していくような歌詞になっている。先に述べたクライマックスで挿入されるダメ押しのフレーズも、「土砂降りの夜"に" 囚われの日々"に" 問いかけるよう"に"」と、文を途切れさせまいと言葉が連ねられていく。この接ぎ木は、あるときは巧みな省略的話法でショットをつないで物語を紡いでいくような効果を生み(最初のAメロ)、またあるときには粘り強い意志の表現となる(サビ)。
こうしたシンプルだが効果的なレトリック(言葉だけじゃなく、音楽的な意味でも……)を駆使することで、ばらばらにほどけてしまいそうな場面や感情の数々をつなぎとめ、うねるようにダイナミックな物語を提示する。この点が、「Cry Baby」の凄みであり、またヒゲダンの凄みなのだと思う。
Official髭男dism
「Cry Baby」
配信中
配信リンク:https://hgdn.lnk.to/CryBaby
特設サイト:https://crybaby.ponycanyon.co.jp/
Official髭男dism Road to「one - man tour 2021-2022(仮)」
2021年6月23日(水)神奈川県 ぴあアリーナMM
2021年6月24日(木)神奈川県 ぴあアリーナMM
Official髭男dism one - man tour 2021-2022(仮)
2021年9月4日(土)神奈川県 ぴあアリーナMM
2021年9月5日(日)神奈川県 ぴあアリーナMM
2021年9月18日(土)青森県 盛運輸アリーナ
2021年9月19日(日)青森県 盛運輸アリーナ
2021年9月20日(月・祝)青森県 盛運輸アリーナ
2021年10月2日(土)長野県 ビッグハット
2021年10月3日(日)長野県 ビッグハット
2021年10月8日(金)新潟県 朱鷺メッセ・新潟コンベンションセンター
2021年10月9日(土)新潟県 朱鷺メッセ・新潟コンベンションセンター
2021年10月10日(日)新潟県 朱鷺メッセ・新潟コンベンションセンター
2021年10月15日(金)広島県 広島グリーンアリーナ
2021年10月16日(土)広島県 広島グリーンアリーナ
2021年10月17日(日)広島県 広島グリーンアリーナ
2021年10月27日(水)兵庫県 ワールド記念ホール
2021年10月28日(木)兵庫県 ワールド記念ホール
2021年11月2日(火)神奈川県 横浜アリーナ
2021年11月3日(水・祝)神奈川県 横浜アリーナ
2021年11月12日(金)徳島県 アスティとくしま
2021年11月13日(土)徳島県 アスティとくしま
2021年11月14日(日)徳島県 アスティとくしま
2021年11月20日(土)福井県 サンドーム福井
2021年11月21日(日)福井県 サンドーム福井
2021年11月30日(火)大阪府 大阪城ホール
2021年12月1日(水)大阪府 大阪城ホール
2021年12月17日(金)宮城県 セキスイハイムスーパーアリーナ
2021年12月18日(土)宮城県 セキスイハイムスーパーアリーナ
2021年12月19日(日)宮城県 セキスイハイムスーパーアリーナ
2022年1月4日(火)福岡県 マリンメッセ福岡
2022年1月5日(水)福岡県 マリンメッセ福岡
2022年1月6日(木)福岡県 マリンメッセ福岡
2022年1月15日(土)愛知県 Aichi Sky Expo(愛知県国際展示場)
2022年1月16日(日)愛知県 Aichi Sky Expo(愛知県国際展示場)
2022年1月22日(土)東京都 国立代々木競技場第一体育館
2022年1月23日(日)東京都 国立代々木競技場第一体育館
2022年2月15日(火)東京都 東京ガーデンシアター
2022年2月16日(水)東京都 東京ガーデンシアター
2022年2月26日(土)沖縄県 沖縄コンベンションセンター展示棟
2022年2月27日(日)沖縄県 沖縄コンベンションセンター展示棟
2022年3月24日(木)愛知県 日本ガイシホール
2022年3月25日(金)愛知県 日本ガイシホール
2022年3月26日(土)愛知県 日本ガイシホール
2022年4月1日(金)北海道 真駒内セキスイハイムアイスアリーナ
2022年4月2日(土)北海道 真駒内セキスイハイムアイスアリーナ
2022年4月3日(日)北海道 真駒内セキスイハイムアイスアリーナ
2022年4月16日(土)島根県 松江市総合体育館
2022年4月17日(日)島根県 松江市総合体育館
Official髭男dism 公式HP:https://higedan.com/
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