ベールに包まれたシンガー、Anonymouzが告白「孤独に刺さる歌を」
Rolling Stone Japan / 2021年5月27日 12時0分
誰もが知る人気の楽曲を独自の解釈で英詞に訳してカバーした動画が、音楽ファンのみならずRADWIMPSの野田洋次郎を始め、有名アーティストからも支持をされているAnonymouz。しかし、彼女に関する情報は「ある日突然自分名前を失った19歳の少女…」というアーティストコンセプトのみで、顔出しはおろかプライベートな情報も謎に包まれている。Anonymouzとは何者なのか? 今回は5月17日にリリースした3rdEP『Greedy - EP』についてだけでなく、彼女の幼少期から現在までの道程にも迫っていく。
ー今は4月ですけど、来月で二十歳になるんですか?
はい。5月21日にLIQUIDROOMで1stワンマンライブがありまして、その日が二十歳の誕生日なんです。Anonymouzを知ってくださった方々にお会いするのが初めてなので、期待に応えたい気持ちもありますし、大好きな歌を皆さんと共有できることが本当に楽しみです。
ーそんなAnonymouzさんはYouTubeに上げたMVが総再生数1100万回を超えてますが、認知されるきっかけは何だったと思います?
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RADWIMPSさんの「そっけない」をカバーしたことですね。野田(洋次郎)さんが「This is great. Should copy?」とツイートをしてくださったのが大きかったと思います。あとはOfficial髭男dismさんの「Pretender」のカバーもたくさんの人に聴いていただけたので、そこから私のカバーだけじゃないアーティスト活動にも興味を持ってくださる方が増えていった気がします。
ーカバーにも関わらず、YouTubeで多くの方が考察コメントを書き込みしているのが面白い状況だなと思いました。
そうですね。元々の日本詞を私なりの解釈で英詞に訳してカバーしているんですけど、そのスタイルを面白がってたくさん考察を書いてくださったりして。皆さんのコメントを読んでいて私も嬉しい気持ちになります。
ー「まとを得てるな」と思った考察はありました?
wacciさんの「別の人の彼女になったよ」で<ちゃんと「好きだ」という言葉でくれるの>の箇所を<three words you never said>と訳して歌ったんですけど。それを「好きと言ってくれない」という受け取り方をしてもらえたのが嬉しかったです。
ー野田さんもそうですけど、藤井風さんもAnonymouzさんのカバーを褒めていましたね。どこが皆さんの琴線に触れたと思いますか。
ピアノを弾いてくださっている方と私の2人だけという構成が原曲とは違った物語にも思えて、そこが引っかかって聴いてくださったのかなと思います。
ーそれと気になるのが、MVでもライブ映像でも顔出しをしてないですよね。これにはどういう意図があるんでしょう?
自分の容姿に自信がないのもそうですけど、見た目とか顔とか喋り方で音楽性を判断されたくないのが大きな理由です。やっぱり聴く方の中には「顔が好みじゃないから曲を聴かない」というのが往々にしてあると思うので、そんな偏見に捉われずに声をまっすぐに聴いてほしくて顔出しをしてません。
ー今後、顔出しをする可能性はあるんですか。
そうですね。ビジュアルに関係なく私の音楽についてきてくれる人たちができたタイミングで、顔出しをしていこうかなと思ってます。
ーなるほど。幼少の頃から音楽は好きだったんですか。
はい。家でお母さんがいつもピアノを弾いていたり、お父さんが常にクラシックやオペラを流している家庭に育ったので、私も自然と音楽が好きになりました。振り返ると、幼少期は明るくてちょっとヤンチャな子供でした。……だけど中学1年生の頃の引っ越しをきっかけに、明るいというよりは大人しくなっていって。人見知りが激しくなり、いつしか塞ぎ込むようになりました。
ー何が原因なんですかね。
私が住んでいた地域はクラスで目立つ事が良いと思われていない環境でした。
―出る杭は打たれるみたいな。
はい。目立たないように目立たないように、と思い始めたのがきっかけで口下手にもなりましたし、人見知りにもなりました。しかも2学期に入ってから転校したので、よけいに馴染みにくかったです。
ーAnonymouzさんは優しそうな雰囲気だし、見た目もお綺麗じゃないですか。だから黙っていても、クラスメイトが近づいてきそうな感じがするんですけど。
いやいや! とけ込みたい気持ちは強かったんですけど、仲良くなりたいと思ってズカズカ入っていくと逆に話を合わせるのが辛くなってしまうので、1人とか2人とか特定の友達を作って、小さなグループで安心して生活するようにしてました。
ーみんなの輪に入って盛り上がるよりも、少人数で過ごす方が居心地が良かった。
そうですね。輪の中に入ってしまったら、本当の性格以上に明るい人間を演じなければいけない。それが疲れてしまうので……少人数の方が楽でした。
ー部活は入ってました?
帰宅部でした。放課後は友達と遊ぶこともなくて、真っ直ぐ家に帰ってギターを弾いて歌ってました。なので、中学の頃はほぼ家族と過ごしていましたね。
ーギターはどのタイミングで手にしたんですか。
当時「ちっぽけな愛の歌」を歌ってた大原櫻子さんに憧れたのがきっかけで、14歳の誕生日に母からもらいました。そこからYUIさんも聴くようになり、miwaさんも聴くようになり、どんどん弾き語りを練習していきました。
ー3人ともJ-POP然としているアーティストですけど、最初は弾き語り系の曲をカバーしていたんですか。
そうです。そこからバンドに興味を持つようになって、My Hair is BadさんとかRADWIMPSさんとか、色んな方の楽曲を歌ってました。ギターを買ってもらう前は、テイラー・スウィフトさんなど洋楽をいっぱい聴いていたので、邦楽も洋楽も歌ってましたね。
ー中学生になると将来の夢を考えると思うんですけど、その時はどんな未来予想図を描いてました?
唯一やりたかったのが歌でした。それで母に相談をしたらボイトレに通わせてくれて、そこからボイトレスクールの発表会を経験した時に「やっぱり歌が好きだ」という気持ちが確信に変わって。みんなが「先生になりたい」とか現実的な夢を決めていく中、私は小さい頃から憧れだった歌手になる夢を抱きました。
ーそれが定まったのはいつですか。
ギターを買ってもらって、ボイトレに通い始めてからだったと思います。なので14歳の時には歌の世界でやっていこうと決めていました。
ー当時はどんなアーティスト像をイメージしてました?
YUIさんみたいにギターで弾き語りをするJ-POPシンガーになりたいと思っていたんですけど、やっていく中で自分にしかできないことを模索するようになりました。母が外国の人なんですけど、もしかしたら英語と日本語を混ぜて会話をしてたことが私を少数派にしてくれる要素なのかなと思うようになってから、英語の曲を書くようになりました。
ー日本語を覚えるのと英語を覚えるのと、どちらが早かったですか。
日本語だったと思います。とはいえ母が話しかけてくるのはいつも英語なので、最初は英語を聞いて日本語で返す感じでした。それから母にわかってもらいたい気持ちで英語を使うようになったら、少しずつ喋れるようになっていった気がします。
ー高校時代はどうでした?
通信コースという時々しか通わない高校に入ったので、そんなに友達ができたわけじゃなくて。その間もずっと家でギターを弾いて、ひたすら歌を歌う3年間でした。
ー学校に通わない日は、どういう1日の過ごし方をされていたんですか。
携帯のメモに「どう過ごすのか」と細かく予定を書くのが好きで、家の中にいるとしても8時に起きて、9時に布団を干して洗濯機を回して、みたいにすごく細かくタスクを決めてました。結構何もしてないように見えて、レポートは何時に書くとか自分の中では忙しい日々を送ってましたね(笑)。
ー音楽活動は?
どういうアーティスト活動をやっていくべきなのか中々定まらずに、とにかく曲を作っていました。自分と向き合っていく中で英語を話せることが強みになるかもしれないと思ってから、英詞カバーに取り組み始めて、今の活動に繋がっていきました。
ーオリジナル曲はいつから作っているんですか。
ギターをもらってから本格的に作るようになりました。最初の頃は自分の気持ちいい音を感覚で探して、歌詞も思うままに書いていたんです。だけど最近は「このフレーズを入れたら頭に残るかな」とか聴く人の記憶に残る曲を意識して考えるようになりました。
ー今はどんな感情を音楽で昇華してますか。
悲しい心にそのまま寄り添うような曲を書くのが一番やりやすいというか、自分でもしっくりくるので、そういう曲が多いような気がします。
ー表現したいことの原体験は何があります?
やっぱり中学生で引っ越しした時期が人生で一番沈んでいたんですけど、その時に悲しい曲ばっかりを聴いていて。というのも元気な曲を聴いて「頑張れ」と言われても、それが逆に辛くなってしまって。「こんなに元気になれたらいいのに」という気持ちが勝ってしまうので、一緒に悲しんでくれる曲が自分を元気にしてくれていたのが音楽を表現する上での原体験です。なので、私も心が痛んでいる人たちを1人にさせないような曲を書けたらと思ってます。
ーAnonymouzさんの音楽は、世間に馴染めない少数派の人たちが抱えるデリケートで内向的な感情を描いてると思うんですよね。にも関わらず、これまでリリースした2作のEPはいずれもiTunesオルタナティブチャート1位を獲得している。この状況をどう受け止めてますか。
私が顔出しをしてないのもあって、それほど聴いていただけていると実感することもないんです。だけど友達に「Anonymouzって私なんだ」と言った時に「そうなの!?」と知っててくれたりすると「ちゃんと聴いてくれる方がいるんだ」と分かりますね。
ー過去の作品を振り返ると、どんな想いが込められていますか。
1stEP『No NAME』はAnonymouzの尖った部分と言いますか、あまり素性を明かしていないミステリアスなりに悲しみとか痛みの部分を表現した作品。2ndEP『Addiction』は前作よりも優しさを取り入れたような感じで、「Eyes」がまさに優しい曲なんですけど、暗いだけじゃなくてちょっと光が差し込むようなEPを目指して作りました。今回の3rdEP『Greedy - EP』は「ここからもっとAnonymouzを大きくしたい」という欲張りな気持ちを込めた1枚で、ちょっとポップで、本当にグリーディ(貪欲)な作品になりました。
ー欲張りな部分はどこに表れているのでしょう?
「足りないよ」は「もっと愛されたい」とか分かりやすく欲張りな歌詞なんです。「In Our Heart」、「Homesick」も向上心という意味での欲張りとか自分を縛っちゃうような欲張りとかも込めたので、まずは歌詞も読んでいただけたらより分かると思います。
ー1曲目「足りないよ」は珍しくジャジーな日本詞の曲ですけど、どういうきっかけで作ることになったんですか。
Anonymouzが始まる前はこういう曲ばかりを書いていたので、どちらかというと「足りないよ」は自分の中で幼くて、歌っている時もちょっと恥ずかしくなる感じがあって。それこそジャズチックな曲を書けたら良いなということで、ノラ・ジョーンズさんのコードを真似しながら日本語を乗せてできた曲でした。
ー確かに、ノラ・ジョーンズのニュアンスは色濃く出てますね。
オシャレなコード感というか、ジャズっぽいコード感が歌っていて一番しっくりきて言葉が震える感じがしたんです。個人的に「足りないよ」は新しい挑戦というよりは、書きやすい印象がありました。
ーレコーディングはどうでした?
今作の中で「足りないよ」は一番時間かけて歌いました。自分の力を出し切ったと思っても、ヘッドフォンで聴くと全然イメージ通りになってなかったので、この曲は何回も撮りなおして理想に近づけました。
ー何が足りなかったんですかね。
初めて日本語だけの曲だったから、すごく感情を込めたかった気持ちが逆に大袈裟になってしまったりとか、引かなきゃいけないところもが引ききけれてなかったり、もっとしっかり歌っていいところが語りっぽくなっていたりとか。そういうのがちゃんと収まりがいいように、バランスを考えるのが大変でした。やっぱり欲張りだからと言って、ずっと叫ぶように歌っても誰にも届かないと思うので、引くところは引いて足すところは足すというのを意識しましたね。
ー3曲目「Homesick」はどうでしょう?
今、一人暮らしをしているんですけど、この1年ずっと家にこもってて私自身がホームシックに陥ってたんです。その寂しさを大切な誰かと別れてしまった時の恋愛感情と重なると思いました。簡単に言えば大切な人を失って元に戻らない状況と、ホームシックの感情が相まって出来た曲です。サウンドで言うと「In Our Hearts」は歩いて登っていくようなイメージなんですけど、「Homesick」は自分のかけてしまった心の一部を探すように走り回るようなイメージです
ー4曲目「4D」はどのように作られたんですか。
私が曲を作る時はピアノかギターだったので、こういう水の中にいるような音の感じの曲をどうしたら一番綺麗に見せられるのかを試行錯誤しながら作りました。4曲の中で「4D」が最初の段階から、いろんなものが足されていった気がします。
ーこのジャンル特有の音楽の乗り方を体に染み込ませてないと、歌いこなすのは難しいですよね。
そうなんです。全然違うパターンの曲をもう1曲作って、その2曲を組み合わせたような曲になってて。なのでサビも違うところから持ってきたフレーズも沢山あります。だけど、今はそれがしっくり収まっているので良かったです。
ー今日はありがとうございました。個人的には幼少期の経験が歌に繋がっている話が面白かったです。
ありがとうございます。引っ越しをして人と関わるのが辛くなって、家に真っ直ぐ帰って音楽にいっぱい触れられたことで、自分の中で歌手になりたい決心がついた。あの頃の孤独みたいなものが、聴いてくれる人の孤独にも刺さってくれたらいいなと思います。
ー孤独を味わってないと、Anonymouzさんのような歌詞は書けないし歌えないですよね。
はい。一度、痛い気持ちになったからこそ歌を歌えてる気がするので良かったと思います。
<リリース情報>
Anonymouz
3rd EP『Greedy』
各配信サイトより配信中
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