仮想通貨ビジネスにも参入 セレブラッパーの先駆け、リル・ヨッティの第二幕
Rolling Stone Japan / 2021年5月22日 21時45分
若くしてラッパーとして成功を収め、「キング・オブ・ティーンズ」と呼ばれる一方で、大勢からの批判に晒されてきたリル・ヨッティ。業界の実力者にして若手の指南役となった現在、彼は何を思うのか。
【動画を見る】リル・ヨッティ「Minnesota」ミュージックビデオ
パンデミックが始まるまで、リル・ヨッティは自分がいかに短期間のうちに名声を手にしかを常に意識していた。「高校のステージに立った1年後には、俺はここアトランタのミッドタウンにあるペントハウスに住み、Gワゴンを乗り回し、母さんが住む家を用意した」。ヨッティはそう話す。「何もかもが目まぐるしく変わって、いつも時間に追われてるよ」
子守唄のようなムードを漂わせる2016年作「Minnesota」でブレイクを果たしたヨッティは、17歳にして「キング・オブ・ティーンズ」の異名を持つこととなった。しかしその後、彼は若きスーパースターたちの指南役として、Z世代におけるディディのような存在へと変化していく。NauticaやTargetといったブランドとのコラボレーション、映画『How High 2』への出演、スプライトとのスポンサー契約などで、彼は絶えずメディアを賑わせてきた。自身のレーベルConcrete Boysも運営し、契約アーティストにはダイヤを散りばめたネックレスが贈られる。
間もなく発表されるヨッティのミックステープ『Michigan Boy Boat』は、若きMCたちが台頭する現在のヒップホップのシーンへのオマージュだ。それは同時に、23歳のラッパーの最大の武器のひとつである「才能を嗅ぎ分ける能力」のショーケースでもある。「眠っている才能を掘り起こしたいんだ」。ヨッティはそう話す。「ミシガンにはお粗末なラッパーは1人もいないんだよ。誰もがラップのいろはを心得てる」。ヨッティのリリックは幾度となくこき下ろされてきたが(純粋主義者たちは早い段階から彼への嫌悪感をあらわにしていた)、ミシガン屈指のMCたちとの掛け合いが繰り広げられる「Royal Rumble」等のトラックを聴けば、彼が成長を遂げたことは明白だ。ワードプレイはパンチ力を増し、皮肉はよりウィットに富んでいる。彼が放つ言葉は、スマートなラインが求められる現在のシーンに完璧にフィットし、『ザ・グラッジ 死霊の棲む屋敷』にちなんだダジャレは知性さえ感じさせる。
ラップはいかに自分が楽しんでいるかを示す手段
ヨッティは時に、ラップはいかに自分が楽しんでいるかを示す手段だと語る。「俺は好きなようにやってるだけさ」。彼はそう話す。「それが楽しむための秘訣だからね。別にビルボードのナンバーワンを狙ってるわけじゃないんだ」。そういった姿勢は、キャリア初期に批評家たちから真摯さを疑問視された理由だったのかもしれない。ジョー・バデンはヨッティがレコード契約の意味を理解していないと批判し、ナズのビートを用いたフリースタイルを披露した『Ebro in the Morning』でのインタビューは物議を醸した。2016年、彼はビルボード誌のインタビューで、トゥパックとノトーリアス・B.I.Gについて「本当に5曲も知らなかった」と明かしている。『Ebro』での発言に端を発した「リル・ヨッティはラッパーではない」という見方は、その後何年も彼につきまとう。彼が当時まだ18歳だったという事実を、世間はまるで考慮していないようだった。「俺は他とは違う存在だった。異物と接したとき、世間は目を反らしたがるもんだからね」。ヨッティはそう話す。「2017年は、目覚めるたびにパンクしそうな数のメールがケータイに届いてた。ロクでもない内容ばかりだったよ」
そして現在、状況は大きく変わった。「リリカルな」ラップとヨッティのようなラッパーを比較する向きは、今ではほとんど見られない。ラッパーの定義は過去10年で大きく拡大され、次々と確立される新たなスタイルがクラシックと共存する状況が生まれた。タイラー・ザ・クリエイター、カーディ・B、そしてナズという過去3年間におけるグラミー賞の最優秀ラップアルバム賞の受賞者の顔ぶれは、そのことを雄弁に物語っている。
リル・ヨッティことMiles Parks McCollumは、過去10年間で音楽業界が経験した変化を象徴するような存在だ。サイバースペースで人気を確立した彼は、新曲の有無関係なしに世間からの注目を集める。3月に遠隔インタビューに応じた彼はとても落ち着いていて、質問への回答について熟慮していた。とはいえ、若者らしい溢れんばかりのエネルギーが失われたわけではない。取材の途中で、すぐ近所に住んでいる母親から電話があり、近所のスーパーで買っておいて欲しいものはあるかと尋ねられると、彼は甘えるような声で「Pop-Tartsを買っといて」と言った。「シナモン味のやつが食べたいな」
業界の実力者になるべき
その気になれば、彼は掃いて捨てるほどのPop-Tartsを買うことができる。彼が2016年と2017年に交わしたスポンサー契約の総額は、実に1300万ドルに上るとされている(「よく働いて、よく遊ぶってことだよ」。彼は金額についての質問にそう答えた)。最近公開されたある記事によると、彼が月に支払う諸経費の合計は5万ドル以上だという(「本当はもうちょっと多いよ。資産や保険がたくさんある上に、給与体系が複雑だからね」)。現在はシリアルのReeses Puffsとのコラボレーション、カードゲームのUnoをテーマにした映画の撮影を進めているという彼は、いち早く仮想通貨ビジネスに参入したラッパーの1人でもある。昨年12月にはNifty Gatewayで「YachtyCoin」なるものを販売しており、Coinbaseのレポートによると、そのトークンは1万6050ドルで落札されたという。ヨッティはQuality Controlの創設者Kevin ”Coach K” Leeによって発掘された際に、彼が語ったことを引き合いに出してこう話す。「ブランドを確立することの大切さを、俺は彼から教わった。ただのアーティストじゃなく、業界の実力者になるべきなんだ」
そういう考え方だからこそ、彼はチャートアクションに無頓着なのかもしれない。昨年、彼は最新作の『Lil Boat 3』を発表したが、パンデミックの真っ只中にして、警察官による黒人男性の殺害に対する怒りの声が全米中に広がっていた最中でのリリースは、リスナーの関心を集める上で良いタイミングとは決して言えなかった。「発売からの数カ月間、世界は混沌としてた」。ヨッティはそう話す。「アンラッキーだったけど、もっと重要なことが起きてたからね。仕方ないよ」。それでもなお、『Lil Boat 3』は良質なコラボレーションだけをとっても、聴き直すだけの価値のある作品だ。「Pardon Me」におけるフューチャーは水を得た魚のように生き生きとしており、同曲のミュージックビデオは暗かった1年において、純粋な喜びに満ちた特筆すべき作品のひとつだった。昨年11月にリリースされた、デラックス版の内容も申し分ない。プレイボーイ・カルティとフューチャーがゲスト参加した「Flex Up」は、ヴァイブスにこだわるヨッティの真骨頂だ。
「キング・オブ・ザ・ティーン」からラップ界の実力者へと転身を遂げたヨッティにとって、コラボレーションは有用なツールとなった。「俺がコラボレートするのは、個人的な友人であると同時に、心から尊敬しているやつらだけだ」。ヨッティはそう話す。「まだ世に出ていない、才能ある若手たちを引っ張り上げるのも好きだね」。ヒップホップの世界において、スーパースターとサイバースペースのヒーローの狭間という独自のポジションを確立したヨッティは、現在の状況に馴染んでいるようだ。「若い才能と絡むのがただ楽しいんだ。『うちと契約しよう、俺が育ててやる』なんていう感じじゃなくてさ」。ヨッティはそう話す。「彼らが置かれている状況を身をもって体験した俺は、何をどうすべきかをよく知ってるからね」
ファンとのやり取りは日常の一部
ヨッティがConcrete Boysを立ち上げたのは昨年のことだ。レーベル設立直後に契約したアーティストの1人は、ヨッティの古くからの友人であり、『Lil Boat 3』の「Demon Time」で突出した存在感を放っていたDraft Dayだ。「歳くったなって感じることもあるよ」。ヨッティはそう話す。「世間から注目されてる存在の名前を知らない時なんかはね。そういうことは稀だけどさ、俺はいつもアンテナを張ってるから」
またヨッティは、コミュニティ内におけるよりダイレクトなコミュニケーションを可能にする、TwitchやDiscord等の新しいソーシャルプラットフォームでも存在感を示している。彼は両プラットフォームで頻繁にファンと接しており、この4月にはDiscordの「sound packs」とのコラボレーションを果たし、デフォルトの通知音の代替となるサウンドを提供している。
これは時代の動向に敏感な、最近の有名人らしい動きだと言える。ファンがソーシャルプラットフォームを介してセレブの暮らしを垣間見る機会が増えた分、彼らとのより積極的なやり取りが求められるが、ヨッティにとってそれは日常の一部だという。「俺は毎日、四六時中ファンと繋がろうとしてる。よくやり取りをする相手は、だいたい名前も覚えてるよ」。ヨッティはそう話す。「俺と直に会っても、彼らは狂喜したりしないだろうね。『よおブラザー』って感じで、友達感覚で接するんじゃないかな」
ヨッティはもう1人の若き実力者であるタイラー・ザ・クリエイターと、頻繁に電話で話しているという。「物事をあるべき方向に進めていく」上で、彼のような仲間を持つことは重要だと彼は話す。ヨッティは現在『Michigan Boy Boat』のリリース準備を進めており、その後にはプロデューサー集団のWorking on Dyingとのプロジェクト、そしてリル・テッカとのコラボレーション作の発表が控えている。また彼は今サイケデリックロックに傾倒しており、次回作にはその影響を反映させるつもりだという。「MGMTのアンドリューとか、いろんな人と話をしてる。ケヴィン・パーカー(テーム・インパラ)とも面識があって、いろいろと話してるんだけど、すごく刺激になるよ」。彼はそう話す。「次のアルバムを出す前に、サイドプロジェクトをいくつか公開するつもりだよ。でもって次のアルバムは、とにかく細部までこだわったものにしたいと思ってる」
5年後の自分はどうなっていると思うかという問いに、彼はこう答えた。「俳優として大成功していたいね」。彼はこう続ける。「腹筋がバキバキに割れてて、髪はバッサリ切って、髭をたくわえたりしてさ。まさにセックスシンボルって感じの存在になりたいね」。セレブラッパーの先駆けであるヨッティにとって、それは決して夢物語ではないだろう。彼が第一線にとどまっていることは、堅固なフローとネットに関する知識という武器の有効さを物語っている。「やりたいことが山ほどあるんだよ。俺にはそれができるって分かってるからね」。ヨッティはそう話す。「自分がどんな力を持っているのかを悟ったんだ。誰がなんと言おうと、俺を止められるのは俺だけさ」
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