デイヴィッド・バーンが語る『アメリカン・ユートピア』、トーキング・ヘッズと人生哲学
Rolling Stone Japan / 2021年5月27日 18時0分
ローリングストーン誌が2020年度のベスト・ムービー第3位に選出した、デイヴィッド・バーンのライブ映画『アメリカン・ユートピア』がいよいよ5月28日より日本公開される。同作で監督を務めたスパイク・リーやブライアン・イーノから学んだこと、トーキング・ヘッズ時代の「過ち」から長年のファンに思うことまで。バーンが忌憚なく語った。(※US版記事初出:2020年10月)
2020年のデイヴィッド・バーンは相対的に好調といっていい時期を迎えつつある。おそらくは彼自身もまた、ほかの世界全体と同様に隔離を余儀なくされているがゆえだ。新しい料理も覚えたらしい。「カントリーの歌にでもありそうだね。”さあ行くぞ、一人分のお料理だ”みたいなさ」。Zoomでの取材で、御年68才になるシンガーはそう笑った。「ものすごく美味しくできる時もあるし、失敗としか言いようのないものにしかならないこともある。だけど、そんなのは誰も知ったことではない。失敗作だって僕は食べちゃうよ。二度とやってみたりしないだけで」
だが、料理のほかにもやることが山積みで、バーンはとても忙しい。まずは「Reasons to Be Cheerful」(=元気でいる理由)の監修。これは彼の主導で始まった、もっぱら世界における前向きな変革だけを扱うことを旨とするウェブサイトだ。また、最近の彼は『アメリカン・ユートピア』の制作にも勤しんでいた。こちらは大成功を収めた同名ブロードウェイ公演の映画化作品だ。ここで彼は、実に表情豊かなミュージシャンたちを引き連れて、ステージの上を自由自在に闊歩しながら、自身のソロ作品や、トーキング・ヘッズのカタログからのナンバーを披露した。
映画の原案となったのは、2018年にバーンが発表したアルバム『アメリカン・ユートピア』。同作のワールドツアー後、2019年の秋に始まった舞台版の映像化を考えたデイヴィッド・バーンがスパイク・リーに声をかけ、映画化がスタートした。(©2020 PM AU FILM, LLC AND RIVER ROAD ENTERTAINMENT, LLC ALL RIGHTS RESERVED)
映画版の監督を勤めたのはスパイク・リー。舞台裏からの独特のアングルに加え、バーンの一座がジャネール・モネイの「Hell You Talmbout」を演奏するシーンでは、曲中の、不当な暴力の犠牲となったアフリカ系アメリカ人らの名前を繰り返す箇所に、その遺族たちのショットをかぶせるような演出が施され、ショウの全体にさらなる深みを与えている。
曲の合間にバーンは、聴衆らに投票を呼びかけ、人間の脳の能力を論じ、いかに自分が世界を違う視点から見られるようになったかを語っている。今回のインタビューにおいても彼は、自身のこの哲学を詳述してくれた。
スパイク・リーと『アメリカン・ユートピア』から学んだこと
―映画版の『アメリカン・ユートピア』を観てから「Every Day Is a Miracle」が頭を離れないんです。あなたは毎朝いったいどうやって、「奇跡」というべき新たな一日を送る準備をご自身にさせているのでしょう?
バーン:起こったことをただありのままに受け止めるんだ。確かに目を覚まして、ネットでいくつかの新聞に目を通したところですっかり鬱々として、落ち込んでしまう朝もある。寝返りだけ打ってすぐ、もうちょっとベッドの中にいたい気がするなあ、とか思ってしまう場面もね。でもそうでない時にはこう思う。「だめだ、ほら、僕には今日やらなくちゃならないことがあるじゃないか」ってね。時にはそれが至極つまらないことだったりする場合もある。でもそれでいいんだ。だから、そうやってまあ、身を乗り出すわけさ。自分のしているそういった単純なことどもにも、今は喜びを見つけられるようになったからね。
―スパイク・リーと仕事をして勉強になったことはなんですか?
バーン:思うに彼から学んだことというのは、僕自身がずっと何年もかけて学んできたことでもあるんだが、それは仕事に向かう時の信じられないくらいの熱量だ。そういうのは伝染するんだよ。彼はカメラマンが何をしているかに熱狂するし、俳優たちやバンドのやることなすこと一つ一つにわくわくしてる。周りで起こるすべてにだよ。彼は何もかも自分のエネルギーにしてしまうんだ。するとそれがまた伝染し、誰も彼もからよりよい仕事を引き出す結果になるんだよ。
デイヴィッド・バーンとスパイク・リー(©2020 PM AU FILM, LLC AND RIVER ROAD ENTERTAINMENT, LLC ALL RIGHTS RESERVED)
―「少しくつろぎたいな」と思うような時には何をなさるんですか?
バーン:自転車で出かける。友達やバンドのメンバーたちに「一緒に走ろう」と声をかけることもある。そして、ブルックリンやクイーンズやブロンクスに繰り出すんだ。どこだっていい。新しい御近所さんを開拓するわけさ。ああ、けっこうな運動になるよ。リラックスとはほど遠いのかも知れないが、でも、ただ座っててもだめなんだ。出かけないと。そうすればほかの誰かと一緒になる。近場にだって知らなかったような人々や場所が見つかって、自分の住んでいる地域に対する視野が広がる。理解が深まる。そういうのは素敵だよ。
―私も映画の『アメリカン・ユートピア』が、皆さん全員が自転車に跨がっている映像で終わっているところが好きです。
バーン:そうかい。実は、冬中ずっと自転車を走らせている人間は、ひょっとして自分一人かも知れないなとも思ってる。それはでも、僕が近場でしか生活していないからでね。僕らはツアーにもこの自転車を持って行くんだ。折りたためるからバスにも積める。そうやって、また別の町を探検するのさ。
―『アメリカン・ユートピア』の中では、あなたの曲「Everybodys Coming to My House」を子供たちの一群が歌ったこと、そして、それがいかにも楽しげだったというエピソードも語られていました。でも、ご自身による同曲のパフォーマンスはむしろ不安げです。子供たちがそんなふうに歌うのを聴いて、何か気づいたことはありますか?
バーン:曲を書きながら、自分が何について書こうとしているのか、どこかではっきりとしないままでいるという事態は、実はままある。そして、時にそういった具合に、子供たちが歌を解釈して僕に跳ね返してくれるような場面がある。するとこう思うんだ。「ああ、これが僕の言おうとしていたことじゃないか。書こうと思っていたのはこれだ」って。だから、ある意味では彼らが、覆いを取り払ってそこにあったものを明らかにしてくれた、とでもいうような現象なんだ。そういうのはやっぱり素敵だよ。
2018年、米TV番組「The Late Show with Stephen Colbert」で披露された「Everybodys Coming To My House」のパフォーマンス
現代社会の闇、政治と人種問題について
―映画でジャネール・モネイの「Hell You Talmbout」を演奏するとき、あなたとバンドが、不当に命を奪われたアフリカ系アメリカ人たちの名前を連呼しますよね。理解ある支持者(アライ)であることについて、あなたが学んだのはどういったことでしょうか?
バーン:僕ら自身、身中に毒を抱え込んでいるってことかな。僕らの全員だ。そして大事なのは、自分がその影響をこうむらずにはいられないと知ることだ。関係ないやつは誰一人としていやしない。だから、そいつをきっちり処理してやらないとならない。その毒を拒もうとしなくちゃならないんだ。そして、そいつを体から出してやらないとならないんだが、しかし、これがただ放り出すというわけにもいかない。ある意味では仕事だ。時にはものすごく時間がかかる。生涯かけて、ということだって有り得る。どうもそういう手順になっているんだなと、僕もようやくわかってきたよ。
「Hell You Talmbout」、ブロードウェイ公演での模様
―あなたは最近、80年代にトーキング・ヘッズの宣伝素材映像で、顔を黒や茶色に塗っていたことをあえて自ら知らしめて、そのことについて謝罪されましたね(※)。そういうきっかけをあなたにもたらした人々がいたと思うのですが、そうした彼らの存在から学んだことというのは?
※トーキング・ヘッズのコンサート映画『Stop Making Sense』(1984年)のプロモーション映像で、バーンが様々なキャラクターを演じるなかに、黒人に扮して顔を黒塗りする「ブラックフェイス」が含まれていた。バーンは2020年9月1日、自身のSNSでこれを謝罪。
バーン:僕自身はあのことはすっかり忘れていてね。まずはこう思った。「なんてこった、これは酷いな。時代のいかに変わったことか。そして、僕自身もどれほど変わったものか」けれど、すぐにこう考えた。「よし、ならこいつは自分で引っ張り出してやることにしよう。大袈裟にするつもりはないが、でも自分から口に出すことで、自分の問題として受け止めるんだ。そしてみんなにも、僕が成長し、変わったことがわかってもらえるはずだと願おう」
でもさっきも言ったが、こういうのはいわば進行中の手続きだ。それに、これも一緒に明言しておくけど、彼らは(謝罪を)ちゃんと受け容れてくれたよ。だから、まっとうなやり方ができているなと感じてもらえたんじゃないかな。自分から進んで表に出すことでね。
―劇中では、投票の重要さを訴えることにもかなりの時間が割かれています。選挙にあまり関心を持たない人々にどんなことを伝えたいですか?
バーン:それが僕らに与えられたチャンスであるということかな。選挙というのは、自分たちがどのような形で代表されることになるのか、この国がこの先どんなふうにやっていくのか、どこへ向かい、どんな決断が為されるかといった部分に自ら関わることのできる、実に大きな機会なんだよ。ステージでも言及しているが、大統領選の投票率というのは大体55%かそのくらいだよね。それほどいいわけでは全然ない(編注:本記事の取材後に行われた2020年アメリカ合衆国大統領選挙は、投票率66.7%を記録)。
僕はただこう思うんだ。そんなに大変なことじゃないんだよってね。なるほど投票弾圧なんてものにも苦しめられるし、”ゲリマンダー(選挙区操作)”も依然として存在している。郵便投票の問題も起きている。でもとにかくやってみて、解決へと導かなければならないんだ。僕の両親がこの国にやってきたのは大昔だったんだがね。でも僕はようやく、8年か10年か、大体そのくらい前になって市民権を獲得することができた(※)。その頃までには大体ほかのものは手に入っていた。税金だってまだ払わなくちゃいけないしね、だからそれ以外は手に入れられていたんだよ。でも当時は、自分も投票できるようになりたいものだと思っていたんだ。
※1952年生まれのバーンは、出生地であるスコットランドから両親と共にカナダに移ったあと、8〜9歳の時にアメリカに移住。2012年に米国市民権を取得している。
Illustration by Mark Summers for Rolling Stone
―あなたは数年前のローリングストーン誌による取材で、民主党がトランプ陣営を切り崩せなかった事実に失望を覚えると話していました。トランプのやった一切を目の当たりにして、なお彼を支持する人々がいる事実については、どう折り合いをつけているのでしょう。
バーン:きつい話だね。人々が政治に失望していることは僕もよくわかるよ。今までと同じだ。みんな自分たちは無視されていると考えている。それも理解できる。発言も許されてはいないし、今や彼らの仕事さえ遙か沖まで流されてしまった。海岸にいるエリートとかその手の輩たちからただ見下ろされるだけだ。
実力主義社会(メリトクラシー)という考え方には、こんな内容が含まれている。成功できない者には、たとえば怠惰だったり、まあその手の似たような、でも明らかな原因があるというんだ。自分の失態ゆえの当然の報いだろうということだが、これは決して真理ではない。でも、そういう感覚というのは明らかに形成されつつある。で、一旦そこに囚われてしまうと、次に人々は生け贄を探し始めてしまう。そしてこういうことを確かめたがる。「移民どもか? 中国人か? 俺たちと似ていないやつとはいったい誰だ?」こういうふうになるのも理解はできる。でも同意するということじゃない。何かを理解するということは、必ずしもそれに同意するということではないからね。でも、ある程度までは僕も理解はできる。そして、もっといいやり方があるはずだという気持ちになる。
ブライアン・イーノとの共同作業から学んだこと
―トーキング・ヘッズ時代の「I Zimbra」の歌詞には、ダダイスト詩人のフーゴ・バルのナンセンス詩からの借用が見つかります。意味を為そうとすることを止めるべき(stop making sense)と考えるようになったのは、いったいどんな経緯があったのでしょう?
バーン:そんなふうに考えたことはまったくないけれど。娘にはまだ幼い子供が一人いてね。僕としては彼に、頭でサラダの水切りを使うやり方を身をもって示してやれていることに誇りを持っているよ。
(上)1983年、TV番組でのパフォーマンス (下)ブロードウェイ公演での模様
―ダダイズムの詩の採用を提案し「I Zimbra」を書くよう導いたのはブライアン・イーノだったと聞いています。彼とは長年一緒に仕事をされてきていますが、一番参考になったのはどんな部分でしょう。
バーン:僕らが組む場合は毎回違ったやり方を試す傾向にある。トーキング・ヘッズ時代にも一緒にやっているが、それはそれとして、まず『My Life in the Bush of Ghosts』(1981年)で組んだ時には、なんというか、傘連判(ラウンドロビン)みたいな具合になった。どちらが先かわからないんだ。誰かが行動を起こす。するともう一方が、その相手の行為に対して反応して動く。そんな具合に行ったり来たりを繰り返しているうち、そういった物事に対してお互いが為した些細な反応を基盤とした、ある種の構造ができあがってくるんだ。
ほかの作品の場合には、むしろある種の分業みたいだったこともあるよ。たとえば『Everything That Happens Will Happen Today』(2008年)では、サウンドは全部彼が仕上げていた。ただ本人がそれをどうすればいいものか、まだまったくわからないままでいたものだから、そこで僕がこう言ったんだ。「僕はこの音については何も触らないことにする。でも言葉とメロディを書いてこの上に載っける。だけど自分で音を足したりは一切しない」そういった暗黙の合意ができたところで、こうも言った。「だから君の素材はいじらないよ。ただ上に載っからせてもらう」この方法が実に上手くいったんだよ。そんな具合に毎回毎回、共同作業の新しいやり方を見つけ出している。
映画『ライド、ライズ、ロウアー』(2011年日本公開)より、『Everything That Happens〜』収録曲「One Fine Day」。同曲は『アメリカン・ユートピア』でもプレイされている。
―今もなお、あなたを感動させるのはどんな音楽ですか?
バーン:僕は今、10月に発表するプレイリストの作業をしている。これは全部カバー曲になる予定だ。中には誰も予想もできないだろうような曲もあるよ。ドリー・パートンが「天国への階段」を歌っているんだぜ。リジーという名前の女性アーティストは、フリートウッド・マックの曲(「ドリームス」)を披露している。ファーザー・ジョン・ミスティはレナード・コーエン(「アンセム」)だ。本当に予測不可能なものが入っているよ。
こういうカバーが上手くいくと、曲を作ったアーティストたちが、その曲から聴き取れていなかった要素を顕わにしてくれる場合がある。そういうのは大抵が削ぎ落とすことによって生まれてくる。歌というものにはそれ自体のグルーヴがあるし、楽器の編成やアレンジ、そのほかのとにかく、曲と一緒に聴くことにこちらの方がすっかり慣れてしまっている要素というものが伴われている。それらを全部引き剥がしすことで、その曲が本当は何を歌っているのか、初めて気づくことがあるんだ。
―最近、お気に入りの本は?
バーン:マーリン・シェルドレイクの『Entangled Life』というのを読み始めたところだよ。菌類の話なんだ。菌類というのは本当にそこらじゅうにいるんだが、どうも相応しい敬意なり関心なりを払われてはいないみたいだね。地下には菌糸体によるネットワークのようなものまであって、それが樹々やほかの植物たちの命とも密接に関わっているらしいんだ。だから菌類どうしだけではなく、そこにはある種の相互作用みたいなものも起きていて、樹々たちはだから、この菌類ネットを通じてほかの樹ともコミュニケーションが取れているというんだ。彼らはほかにも化学物質を宙に放つことである種のコミュニケーションを成立させている訳だが、その他に、地下で行われる情報交換も存在しているというんだな。いや、この本は実際、次から次へと驚かせてくれるよ。
人間には「忘れてしまえる力」がある
―あなたのヒーローは誰ですか? それはなぜでしょう。
バーン:ブラジルのミュージシャンで、カエターノ・ヴェローゾという人物がいる。もうすっかり長い付き合いで、僕にとってメンターみたいな存在だ。彼が出たドキュメンタリー番組というのがあってね、基本的には彼が部屋に一人きりで、ブラジルの独裁政権下で起きた(1969年の)逮捕と投獄のことを語るという内容だ。そういった話題の中にも、彼自身が幾ばくかのユーモアを見出している点がとても興味深かった。そもそも彼に起こった出来事のうちのいくつかは非現実的ですらあるんだよ。ありがたいことに彼は拷問を受けたりまではしなかったんだが、番組中にはある種の笑顔を浮かべているとしか思えない場面もある。たぶんこんなふうに考えているんだろう。「こんな話はまったくバカげてる。非現実的だ。ただ愚かしい」って。でも、感動的で心に響くような話も出てくるよ。それから彼は、一握りのアーティストがそうであるように、常に自分のスタイルというものを刷新し、異なる種類の音楽を探究し、自分の音を生み出すのに違うやり方を試してみる人でもある。その姿勢が僕のインスピレーションになっているんだ。
―彼とは一度、「(Nothing But) Flowers」で共演していますよね。同曲には”昔は僕も怒れる若者だった”という歌詞が出てきます。過去の物事を振り払って前に進み続けることで、どんなことを学んできましたか?
バーン:それほど目も当てられないようなことをやってきたつもりはないが、でも確かに過去にやってしまったことで、今となっては恥じ入りたくなるようなものはたくさんある。最善の決断だったとは呼べないような事がね。自分で書いてきた曲の中にも明らかにほかの曲ほどよくないものというのはあるし、ステージやツアー、それ以外でも同様だ。「全部がちゃんとできてるわけじゃないな」って思うことはしばしばある。
だから僕は、自分の記憶力が不完全であること、そして、あらゆる人々の記憶力というのが、やはり同様に不完全であることを、神に感謝しなくちゃならないんだなと思うようになった。その不完全さが僕らを許し、自分たちのしたことを忘れさせてくれるのだから。それゆえ僕らはまた成長し、変化し、そうやって当時とは違う人間になることもできるわけだ。「忘れてしまえる力」があることを神に感謝しなくてはね。
©2020 PM AU FILM, LLC AND RIVER ROAD ENTERTAINMENT, LLC ALL RIGHTS RESERVED
―多くのファンがトーキング・ヘッズ時代のあなたを思い続けているようです。彼らが前へ進むためのアドバイスはありますか?
バーン:人生においては特別な時期というのが存在する。大概は10代の後半から20代の前半にかけての頃だ。それはわかっている。自分自身を創りあげていく時間だ。世界とどう関わるのか、他人とどう関わるのかといったことだね。そして、その時期には音楽というのがとても重要な役割を果たすものだ。ある人々にとってはそれがトーキング・ヘッズの音楽だったんだろう。ちょうどそういう自己形成期にぶつかったのだろうね。
人生のそういった時期に、そういう音楽を経験した人たちのことというのは、僕も理解できるつもりではいるんだ。嗜好が決定づけられるような経験であればこそ、代わりになるようなものは簡単に見つからない。だからそれは僕の問題ではないんだ。「自分はトーキング・ヘッズの時と同じくらい、今もいい曲を書くことができるのか」と自問しなくてはならないとか、そういうことでは決してない。それに、(書くことが)できるのはわかっているしね。当時と同じくらいにいい曲が書けていることは自分ではちゃんとわかっているんだ。しかし、ある種の音楽を人生の特定の時期に耳にしていた人たちには、それに勝るものは決して見つかりはしないんだよ。そっちについても納得してる。それはでも、僕の側の過失ではないし、曲作りの問題でもない。だから、それがつまり人生ってやつなのさ。
―では、最後の質問ではちょっと立場を引っ繰り返してみましょう。私自身はトーキング・ヘッズ時代の「Heaven」がずっと大好きなんですが、この中であなたは”天国にはバンドがいて、僕のフェイバリット・ソングを奏でてくれる/繰り返し、夜中ずっと聴かせてくれる”と歌っています。この”お気に入りの曲”というのは、あなたにとってはいったい何になるのですか。
バーン:ビートルズの「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」が大好きなんだ。誰でも知ってる曲だけどね、それこそ僕自身がその”特別な時期”に出会ったんだ。聴いた途端に打ちのめされたよ。どれだけ聴いても飽きるということはない。いや確かに、僕にもそういった部分があることは認めるよ。でも僕は立ち止まったりはしていない。だから、君がさっき言ったような「僕は1973年以降のどんな音楽も聴くつもりはないよ」みたいな感じにはなっていない。ちゃんと前に進んでいる。
―あなたは今でも、天国(heaven)というのは”何も起こらない場所”だと考えているのでしょうか?
バーン:それはそうだね。完璧さというものをきちんと概念化しようと思ったらいったいどうなると思う? ローブ姿の人々がハープを弾いているということには、たぶんならないだろうというのは言わせてもらって大丈夫だろう? そうではなく、それはある種の祝福された状態だ。祝福された状態というのがたとえどんな姿であったとしても、それは素敵なものだ。だから、大きな輪っかみたいなものなんだよ。ただ繰り返し繰り返し繰り返し、動き続ける。君自身の至福の時というのが、たとえば音楽のあるクラブやパーティーや、ほかの何でもいいんだけれど、それがそういう場面で起こるとすると、そのまま終わりなく続いていくんだ。それがだから、完璧さが顕現するということなんだよ。でもこういうふうに言葉にすると、わかってはいたけど、まるでバカみたいにしか聞こえないな。
―もし若い頃の自分に何かアドバイスできるとしたら、どんなことを伝えたいですか?
バーン:人生のことはあんまり心配しなくていい。おおよそはなんとかなる。
【関連記事】『ストップ・メイキング・センス』4Kレストア版の驚くべき舞台裏 伝説のライブ映画はいかにして蘇ったか?
From Rolling Stone US.
『アメリカン・ユートピア』
2024年1⽉26⽇(⾦)よりTOHOシネマズ新宿ほか東京・⼤阪・京都・札幌・福岡の5都市7館で1週間限定で再上映
監督:スパイク・リー
字幕監修:ピーター・バラカン
出演:デイヴィッド・バーン、ジャクリーン・アセヴェド、グスタヴォ・ディ・ダルヴァ、ダニエル・フリードマン、クリス・ギアーモ、ティム・カイパー、テンデイ・クーンバ、カール・マンスフィールド、マウロ・レフォスコ、ステファン・サン・フン、アンジー・スワン、ボビー・ウーテン・3世
配給:パルコ
©2020 PM AU FILM, LLC AND RIVER ROAD ENTERTAINMENT, LLC ALL RIGHTS RESERVED
公式サイト:https://americanutopia-jpn.com/
映画『ストップ・メイキング・センス 4Kレストア』
2024年2⽉2⽇(⾦)TOHO シネマズ⽇⽐⾕ 他全国ロードショー
監督:ジョナサン・デミ
出演:デイヴィッド・バーン、クリス・フランツ、ティナ・ウェイマス、ジェリー・ハリスン 他
配給:ギャガ
© 1984 TALKING HEADS FILMS
公式サイト:https://gaga.ne.jp/stopmakingsense/
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