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『ストップ・メイキング・センス』製作秘話 トーキング・ヘッズ傑作ライブ映画を振り返る

Rolling Stone Japan / 2021年6月1日 18時15分

『ストップ・メイキング・センス』ポスター (C)1984 TALKING HEADS FILMS. ALL RIGHTS

ついに公開が始まった映画『アメリカン・ユートピア』に合わせて、トーキング・ヘッズの伝説的ライブ映画『ストップ・メイキング・センス』が6月11日〜17日にかけて渋谷シネクイントで上映される(『アメリカン・ユートピア』と共に爆音上映も決定、詳細は後述)。「ロック映画の最高傑作」はどのように作られたのか。初公開から数十年の時を経て、ドラマーのクリス・フランツが製作秘話を明かす。(※US版記事初出:2014年8月)

【画像を見る】もはや伝説、デイヴィッド・バーン「ぶかぶかのスーツ」

公開当時を振り返って「ごまかしは一切要らなかった」と語るのは、トーキング・ヘッズの元ドラマー、クリス・フランツ。1984年に公開されたトーキング・ヘッズのコンサート映画『ストップ・メイキング・センス』は一大旋風を巻き起こした。「ありきたりな表現も要らなかった。ギターソロを弾くギタリストの運指のクローズアップも要らなかった。出ているミュージシャンをもう少し深く知ってもらうためにね」と言う。

トーキング・ヘッズがハリウッドにあるパンテージ・シアターでの3公演を撮影したのが1983年12月だった。このとき、彼らは『Speaking in Tongues』ツアーの最中で、通常のラインナップにパーカッション、キーボード、ギターが加わっていた。バンドがこの映画に求めていたものは、当時MTVで放送されていた映像とは対極にあるものだった。この作品を監督したのは、映画『羊たちの沈黙』でオスカーを手にする前のジョナサン・デミ。映像ではミュージシャンたちの顔のクローズアップが延々と続き、観客の映像はほとんどなく、振り付けを引き立たせるためにドラマチックな照明を使用している。そしてこの映画は、トーキング・ヘッズのメンバーであるデイヴィッド・バーン、ジェリー・ハリスン、ティナ・ウェイマス、そしてフランツの4人によってほぼ自費で製作された。そして『ストップ・メイキング・センス』が公開されると、彼らの粘り強さが実を結び、大ヒットをもたらしたのだった。当時の映画館では、この作品の上映中に観客が通路に立ち、みんな文字通り踊っていたものだ。

ローリングストーン誌はトーキング・ヘッズのドラマーに、30年を経た現在におけるこの作品の意義を聞いてみた。ちなみに彼は、妻のティナ・ウェイマスとトム・トム・クラブとして今でも音楽活動を続けている。



―『ストップ・メイキング・センス』を前回見たときの感想は?

クリス:みんなが言うトーキング・ヘッズの長所があるだろ? それがあの映画によって全部本当だと証明されている(笑)。あれに出演した全員が本当に最高の仕事をしたのはものすごい幸運さ。俺だったら1000ドル払っても観たいライブだもの。

―あの映画のアイデアはどんなふうに出てきたのですか?

クリス:もともと、あのツアーの記録を残したいと全員が思っていたんだ。リハーサルを1カ月ほどやって曲を覚えて、いざ旅に出るぞというときにジョナサン・デミが当時の恋人サンディ・マクロードと一緒にライブを観に来た。そしてジョナサンが「このツアーの映画を作りたい」と言ったから、俺たちは「渡りに船だな」と思った。あのときのジョナサン・デミはまだ新人監督で、俺たちは彼が撮った映画『メルビンとハワード』が大好きだったのさ。ジョナサンは俺らよりも少し上で、当時は話題にも上っていなかったし、事実上ほぼ無名だったよ。

―ジョンは場面をどのように構成しようとしたのですか?

クリス:あの頃、彼はゴールディ・ホーン主演の映画『スイング・シフト』の製作中だった。この作品の最初のカットを見たあと、ゴールディは自分が演じたすべてのシーンを撮影し直したいと言い出したんだ。だから、バンドを追いかけて、誰が何を演奏しているのか、どのカメラがどのタイミングで誰を撮影するのかをメモるのはサンディ・マクロードの役目になった。ジョナサンがゴールディの撮り直しに付き合っている間、サンディは1カ月間丸々俺たちを追いかけたね。

自腹で製作された『ストップ・メイキング・センス』

―当時、ワーナー・ブラザースからの援助はあったのですか?

クリス:これまで誰も言わなかった事実があって、特にデイヴィッド・バーンは絶対に明かさなかったんだけど、実はあの映画の製作費はバンド持ちだった。ワーナー・ブラザースは俺たちにローンを組ませてくれたけど、バンドの印税と相殺する形だったから、俺たち4人が全額を払う羽目になったのさ。当時はまだ印税の額も高くなかったから、メンバー各人がそれまで貯めてきた貯蓄を注ぎ込んだ。でも、今となってはそうして良かったと思う。だって注ぎ込んだ金は回収できたし、映画も最高の作品になったから。

それに、一般の劇場公開ではなくて、国内の小規模のカレッジ・シアターやアート・ハウスで上映することを決めたのもバンドだった。あれほどヒットした大きな理由がそれ。アート・シアターではロングラン上映ができたから、観客が途切れることがなかったんだよ。


(C)1984 TALKING HEADS FILMS.  ALL RIGHTS RESERVED

―バンドのメンバーが一人ずつ登場するアイデアはいつ始まったのですか?

クリス:あれはツアー前に決めていた。俺たちの人生で実際に起きたことを少しアレンジしただけの話だよ。あれでデイヴィッドが伝えたかったのは、デイヴィッド・バーンがトーキング・ヘッズを始めて、ティナが加入して、次にクリスが入って、次にジェリーが入って、次にスティーヴ・スケールズが入って……という順番だってことなんだけど、現実はちょっと違う。ティナ、デイヴィッド、俺がバンドを始めようと考えてニューヨークに移ったというのが本当の話だ。俺がデイヴィッドを説得して、ティナに加入を打診した。そしてジェリー・ハリスンにも入ってくれるように頼んだ。それとはちょっと違う順番になってはいるけど、映画の語り口としては非常に良い出来だ。

―デイヴィッドがドラムループに合わせてギターを弾くイントロ部分の「Psycho Killer」について覚えていることは何かありますか?

クリス:デイヴィッドはあれを自分で作ったんだよ。俺は一切関わっていない。彼は誰にも何も言わなかったし、「俺一人でやる」って感じだった。かなり上手く行ったよね。

振り付けとスーツはどうやって決めた?

―あなたがステージに登場したあと、1分間ほどヘッドホンで何かを聞いていますが、ジョナサンからの指示でもあったのですか?

クリス:いや、なかったよ。ヘッドホンでテンポを聞いていた。それというのも、俺たちは3日間撮影し続けていたから、どの曲も同じテンポで始まるように気をつけていたんだ。そこで、俺は最初にクリック・トラックを聞く方法を考案したというわけ。ライブで演奏するときって、特にパンクやニューウェイブの場合、若干テンポが早くなることが多々ある。観客は酔っ払ってライブらしいパフォーマンスを要求するからね。でも、あの3日間はライブらしさを控えめにしなくちゃいけなかった。

―この映画に各メンバーの最高の表情がクローズアップで切り取られていますが、あなた自身のお気に入りはどれですか?

クリス:映画の中でティナはずっと天使のような最高の表情をしているし、バーニー・ウォーレルが意味もなく変な目つきで誰かを見ている(笑)。バーニーは本当に見ていて面白い。デイヴィッドは最初から最後まで見事だ。

―「Life During Wartime」を演奏中に突然デイヴィッドがドラム・ライザーに乗ったときには驚きましたか?

クリス:彼が落ちなかったことに感心してる。デイヴィッドはひっきりなしに動き回っていたから。彼は卓越したパフォーマーだよ……っていうか、少なくとも当時はそうだった。



―バンドの振り付けはどうやって決めたのですか?

クリス:みんな自分勝手にやっていたよ。バックコーラスも最高で、エドナ(・ホルト)もリン(・マブリー)もとにかく素晴らしかった。彼女たちはあのステージ衣装があまり気に入っていなくてね。二人とも見目麗しい黒人女性だから素敵なドレスを着たがった。でもデイヴィッドがヨガウェアみたいな衣装を着せてしまったのさ。とは言え、彼女たちも徐々にそれに慣れて、すっかり着こなしていたと思うよ。

―あの衣装にした理由はあるのですか?

クリス:デイヴィッドが言うには「一人が目立つことのないように全員がニュートラルな色の衣装を着て欲しい」ということだった。そのクセ、デイヴィッドはこれ以上ないってくらい白くて大きいスーツを着て登場したんだからね(笑)。


Photo by John Atashian/Getty Images

―それはサプライズとして?

クリス:みんな知っていたけど、それがどんなスーツかは出来上がるまで分からなかった。立派なスーツだったし、最高に面白かった(笑)。

―あのスーツにした理由は何ですか?

クリス:あのツアーの直前に日本に行ったんだけど、デイヴィッドはいつも、あのスーツは日本の能の装束がもとになっていると言っていた。つまり、能の主役の装束は大きくて四角いから、その装束のスーツ版がデイヴィッドのあのスーツってこと。

観客の姿がほとんど映らない理由

―ジョナサン・デミからの演出は多かったですか?

クリス:いいや、彼は俺たちの演奏をきっちりフィルムに収めただけ。唯一の演出はプロデューサーのゲイリー・ゴーツマンから出されたよ。ゲイリーは「カメラをみるな。あと、お願いだから鼻はほじらないでくれ」と言った。俺たちへの演出はその程度だったね(笑)。

―観客が映っているシーンが最初と最後しかない理由は?

クリス:あの映画は会場でライブを観ている観客の目線で編集していて、会場のベストシートで観ている気分になってもらおうと思ったわけだ。だから、会場で一番の席から観客が見えたらおかしいよね。俺たち自身がコンサートに行ったときに「こんなふうに観たい」という映し方だったよ。

―公開されたとき、観客が上映館の通路で踊っていたという話を聞いて驚きましたか?

クリス:実はその光景を自分でも見ていて、そのときは「うわー、これってクールじゃないか」って思ったよ。そんな光景は一度も見たことがなかったし、あれ以降も一度もない(笑)。まあ、『ロッキー・ホラー・ショー』で踊る人はいるけど、あれは観客参加型の映画だから『ストップ・メイキング・センス』とは違うジャンルだろう。


(C)1984 TALKING HEADS FILMS.  ALL RIGHTS RESERVED

―あのツアーでトム・トム・クラブのコーナーはレギュラーだったのですか?

クリス:うん、「Genius of Love」があの頃大ヒットしていたから。トム・トム・クラブが演奏している間にデイヴィッドは例の大きなスーツに着替えていたんだ。

―あそこであなたはマイクを使いますよね?

クリス:うん。ただね、もう少し控えめな掛け声の方がよかったと思う。とは言え、俺もかなり興奮していたから、どうしようもないよね。

その後のメンバーとの人間関係

―トーキング・ヘッズのサイトで、メンバー4人のサイン入り『ストップ・メイキング・センス』ブルーレイDVDをプレゼントするようですが(※2014年当時)、今ではみんな良好な関係になっているのですか?

クリス:ティナと俺は良好なんてもんじゃない関係だ(笑)。ジェリーとはとても良好な関係だな。デイヴィッドとは……そうだな、「メールの関係」と言うのが正解だろう。彼と最後に会ったのは何年も前のことだし、それは俺がそうしたいのではなくて、彼が望んでいることだから。会うよりもメールがいいみたいだし、俺としてもそれで問題ない(笑)。今ではバンドとして一緒に活動していないけど、それでも時々話し合わないといけない事柄が出てくる。サイトの運営の方からブルーレイDVDが送られてきて、それにサインして返送したよ。

―あなたとティナの次の音楽活動の予定は何ですか?

クリス:トム・トム・クラブの新しいアルバム用に録音したベーシック・トラックが6〜7曲あるし、新たに「クリス&ティナ」というプロジェクトを始める話し合いもしている。ジャーマン・スタイルの音楽で、ロックンロールやファンクの対極にある完全にエレクトロニックな音楽だから、ドイツ風と言える。大体クラフトワークがインスピレーションだしね。今二人が考えているのがそれなんだ。



―1976年の未発表インスト曲「Theme」がオンラインに流出しました。あの曲について覚えていることは何かありますか?

クリス:あれはそれなりにクールな曲だ。ビーチ・ボーイズにインスパイアされた曲で、トーキング・ヘッズ結成から半年くらい演奏していたけど、ちゃんとしたレコーディング・スタジオでは録音する機会に恵まれなかった。でもスタジオ録音盤は一つあって、それはThe Shirtsの友人が持っていた小さな地下スタジオで録音したものだった。当時の俺たちはレコーディングをしたことがなかったから、その友人のスタジオで練習していたんだ。ロワー・イースト・サイドからブルックリンに移動して、The Shirtsの好意に甘えて彼らの小さな地下スタジオを使わせてもらっていたよ。あの曲以外にも数曲レコーディングしたけど、最近、あの当時のテープ音源をデジタルに変換したところ、これが驚くほど良い出来でね。

―その楽曲はリリースするのですか?

クリス:きっといつかは出すだろうけど今のところ計画はない。でも実現する可能性はあるよ。こういう未発表音源の場合、リリースしないものは俺たちがいいと思わないことが多いんだ。でも、40年後に聞いてみて「おいおい、そんなに悪くないどころか、かなりいいぞ!」ってなりそうな音源だからね。

【関連記事】デイヴィッド・バーンが語る『アメリカン・ユートピア』、トーキング・ヘッズと人生哲学


From Rolling Stone US.


『アメリカン・ユートピア』
全国公開中
監督:スパイク・リー
製作:デヴィッド・バーン、スパイク・リー
配給:パルコ
2020年/アメリカ/英語/カラー/ビスタ/5.1ch/107分
(c)2020 PM AU FILM, LLC AND RIVER ROAD ENTERTAINMENT, LLC ALL RIGHTS RESERVED
公式サイト:americanutopia-jpn.com

『ストップ・メイキング・センス』
渋谷シネクイントにて、6月11日(金)〜6月17日(木)1週間期間限定上映
監督:ジョナサン・デミ
音楽・出演:トーキング・ヘッズ
配給:boid
提供:キングレコード
1984年/88分/アメリカ
(c)1984 TALKING HEADS FILMS. ALL RIGHTS RESERVED

■爆音上映スケジュール

『アメリカン・ユートピア』
6月5日(土)19:05
6月19日(土)※上映時間は後日発表
6月26日(土)※上映時間は後日発表
※前売り券・特別鑑賞券・招待券各種使用不可。
※爆音上映回の来場者に非売品ポストカードプレゼント(なくなり次第終了)。

『ストップ・メイキング・センス』
6月12日(土)
シネクイント公式サイト:https://www.cinequinto.com/
※上映日程は今後の感染拡大状況に伴い変更の可能性あり。

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