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tricotが語る、両極の持ち味活かした「暴露」「いない」の制作舞台裏

Rolling Stone Japan / 2021年6月2日 19時0分

tricot

昨年10月にメジャー2ndアルバム『10』をリリースした4人組ロックバンドtricotが、今年に入って新曲を2曲完成させた。

5月にデジタル配信した「暴露」は、ローファイに加工されたジャケットとタイトルの「物々しさ」とは裏腹の、爽やかなポップチューン。続く新曲「いない」はテレビ東京のドラマ『春の呪い』の主題歌として書き下ろされたもので、こちらは一転して変態的なアレンジと、アグレッシヴなバンド・アンサンブルを全面的にフィーチャーした「tricotらしさ」全開の楽曲に仕上がっている。2021年に入り、自分たちの両極の魅力を提示した彼女たちは今、どんな景色を見ているのだろうか。「暴露」と「いない」の制作エピソードにスポットを当てつつ、4人の「現在地」を探ってみた。

─先月配信した「暴露」から続けての新曲リリースとなりますが、まず「暴露」はどのような経緯で制作されたのでしょうか。

中嶋イッキュウ(Vo, Gt):私たちは今年2月に『サイレントショー秘蜜』という有観客無配信ライブを、東京と大阪で開催したんです。ドレスコードあり、拍手禁止、ライブで起こったことは全て秘密、お客さんも私たちも無言で参加するという実験的な試みで、会場では私が作ったティザームービーを無音で流してたんですね。で、2月27日のEX THEATER ROPPONGIでは、そのムービーの中で東京・USEN STUDIO COASTでの振替公演についての告知をしたんですけど、4月16日の大阪なんばHatchで告知することが何もなくて。

「それでも何か発表したい」と私が言いはじめ(笑)、だったら5月に出す新曲を、先にタイトルを決めてしまってそのタイミングで告知するのはどうか? という話になったんです。その時はまだ曲も出来てなかったんですけど、「『秘蜜』で新曲を告知するんだから『暴露』やな、じゃあタイトルも『暴露』でええやん」ってなって(笑)。





─タイトルにはそんな由来があったんですね(笑)。

イッキュウ:そこからデモを3曲作って、どれが採用されるか分からないまま、全て「暴露」をテーマに歌詞を書いていきました。その中で生き残った「暴露」が、今回リリースされるヴァージョンです。


中嶋イッキュウ

─なるほど。物々しいタイトルにしては意外と清々しい歌詞だなと思ったのですが、どんな気持ちを込めましたか?

イッキュウ:「誰かの秘密を暴露する」とかそういう意味ではなくて。「自分自身を全て暴露、曝け出したとしても恥ずかしくない状態で立っていたい」という意味なんですよ。「暴露」という言葉の強い響きや、怖いジャケット写真とは裏腹の、どちらかというと清々しい気持ちを歌っています。そのとき候補に上がっていた3曲とも、そういう気持ちで書いていましたね。


「モノ」が欲しいわけではなくなってきている

─歌詞の中では、”自分に褒美をやろうにも 欲しいものなど何もない”というフレーズがすごく刺さりました。

イッキュウ:あははは。この歳になってくると、だんだんそうなってきますよね。「今日も1日頑張ったなあ」と思って自分で自分に褒美をあげたくても、特になんもないなあって。しかも毎回そうなってくる。自分が「頑張ったなあ」と思うことって、結局はモノづくりに関することがほとんどなんですけど、作ったものが認められたり、友人に「この曲、いいね!」と言ってもらえたりすることが何よりのご褒美で、何か「モノ」が欲しいわけではなくなってきている自分を嬉しく感じているというか。

─ああ、なるほど。物欲がなくなってきている自分を虚しく感じている歌ではないのですね(笑)。

イッキュウ:ああ、それとは違いますね(笑)。

─他のメンバーの皆さんは、この曲に対してどんなアプローチをしましたか?

キダ モティフォ( Gt, Cho):私は去年、コロナ禍のステイホームで自分の中のモチベーションが下がってしまったのもあり、ちょっと自分のギターサウンドに飽きていたんです。自分の中の「マンネリ」を打破したいというか、「ヘンな音を出したい」「ギターに聴こえないような音にしよう」と思って、新しく購入したマルチエフェクターなどで途中のギターフレーズの音作りを試していました。

ヒロミ・ヒロヒロ(Ba, Cho):曲調的には結構爽やかな感じだけど、今言ったみたいにキダさんのギターが結構面白い音を使っていたり、メロディもアップダウン激しめな感じだったので、ベースは割とシンプルな感じで低音を支えることに徹しましたね。

吉田雄介(Dr):ドラムはあえて「型に嵌める」というか、「自分がこう叩きたい」というよりは、みんなの「好き」を詰め込んだドラムパターンにしようと思いました。「みんな、こういうドラムが好きだよね?」っていう……それは嫌らしい意味じゃなくて、なんていうか、フレーズそのものをややこしくするはもういいかなと。それよりは、「普通のことしてんやねんけど、よくよく聴いてみると不思議な感じやなあ」みたいなところを狙いたかったんですよ。そうやって叩いた方が自分としても、tricotとしても面白くなりそうな気がするので、今後1年くらいはその方向性でドラムはいこうかなと思っています。

─そして今回リリースされる新曲「いない」は、テレビ東京のドラマ『春の呪い』の主題歌として書き下ろされたものです。ドラマの世界観を、楽曲にどう落とし込んでいきましたか?

イッキュウ:作品自体が結構衝撃的な展開と聞いていたので、それに合うような曲というか。そこは楽曲を作る時から意識していました。ただ、ドラマの原作を読むと「呪い」といってもそんなにおどろおどろしいイメージとは少し違うのかなと感じたので、そこまで歌詞も怖くないよう気をつけましたね。いわゆるホラーやオカルトの「呪い」ではなくて、あくまでも自分自身が囚われている「何か」を「呪い」として描き、それがパーンと解けて次に進んでいけるような、そんな曲になったらいいなと思って書いていきました。



─なるほど。曲自体は「暴露」に比べて変態度が高い仕上がりですよね、「これぞtricot!」という感じがします。

イッキュウ:ドラマ自体の迫力を、曲で後押しできたらいいなと思いました。しかも、よく聴くと「いい曲」なんですよ(笑)。ドラマに関わっている人、元々のファンの方たち、両方に喜んでもらえるような曲にしたいとは思っていましたね。

─ギターもこの曲は暴れまくっていますよね。イントロもアンプのノイズから始まるし。

キダ:そうですね。『春の呪い』というタイトルを聞いて、その内容も把握した上で、歌詞とは逆に「おどろおどろしさ」と「不穏な感じ」をギターで出したいなと思いました。サウンド的にはガツーンとした「衝撃」を表現したかったので、ハムピックアップのギターを使って今まで演奏した中で一番ゴリゴリに歪ませて弾きました。おかげで自分のギターの音を見直すきっかけになったというか。むしろ今まではクリーンな方だったんやな、もっと歪ませてもいいんや! とか思ったりして。


キダ モティフォ

イッキュウ:あのイントロのギター、先輩めちゃくちゃいろんなパターンを録りましたよね。6、7パターンくらい? 「まだ他にパターンあります?」「今のいいね!」なんて言いながらワイワイやって、オーディションを勝ち抜いたのが本番で使われました。

─サビのメロディもトリッキーですよね。しかもそこから始まるという。

イッキュウ:その辺は意識しました。サビでパーンと解き放たれるというか。他のところはすごく難しいメロディなんですけど、サビだけでも歌いたくなるような気持ちになってもらえたらなと。

─リズム隊は、この曲はどんなアプローチをしていますか?

ヒロミ:「おどろおどろしさ」を出したいと思いつつ、ただ重くて暗い感じで終わるのではなく絶妙なところへ行けたらいいなと思いながらフレーズを考えましたね。ドラマの衝撃的な展開は意識したところでもあるので、サビは突き抜けているぶんCメロでは遊んでいるというか。でもちょっと不穏な空気感は残したいというのもあって、そこはかなり試行錯誤しました。最初デモに入っていたフレーズとは全然違う、ちょっと攻めたアプローチをしています。


ヒロミ・ヒロヒロ

吉田:ドラムに関しては、「みんなの『好き』を詰め込みました」第二弾です(笑)。普段、やらないことを沢山やっていたりするんですけど、ドラマーが聞いたら「ああ、好きだよねこういうの」って、ちょっと笑われるくらいベタなことをやっていますね(笑)。


吉田雄介

─吉田さんは今、そういうモードなのですね。

吉田:今まではそういうベタなことはなるべくやらないようにしてきたんですよ。「みんなが好きじゃないことをあえてやろう」と思っていたのですが、それもちょっと飽きてきて。「みんなが好き」というと語弊があるんですけど、どうせそれをなぞったとて僕が叩けば「普通」にならないのは分かっているし、絶対にどこかヘンな感じになるのがtricotなので(笑)。そういう意味では「勝負する場所」が徐々に変わってきているのかもしれないです。


バンドをやることはある種の「呪い」

─ベタなことをやっても滲み出てくるヘンなところこそ、tricotのオリジナリティなのかもしれないですね。さっきイッキュウさんは、自分自身が囚われている「何か」を「呪い」として描いたとおっしゃっていましたが、そういう意味で皆さんが「これは呪いだな」と思うことってありますか?

イッキュウ:バンドをやっているって「呪い」みたいなものですよね。いや、みんなのことを「呪い」だとは思ってないですよ?(笑)でも、本来いつ辞めてもいいものだし、メンバーそれぞれの人生がある中で、それでもこうやって一緒にやってる感じとか、絶妙な距離感も含めて不思議なものやなと思う。例えばバンドで稼働していない時、今日みたいにみんなとこうやって会わない時でも、私はずっと自分のこと「tricotやな」と思っている。それってある種の「呪い」なのかなと思います。

─なるほど、決してネガティブな意味ではなく。

イッキュウ:はい。ずっと背負っているというか、ある意味では「囚われている」ということでもありますよね。「嬉しい呪いやな」と思います。もちろん、音楽を作っていて迷う時もあるし「今後の活動をどうしていこう?」とか、バンドそのものが悩みに変わるタイミングもありますけど、それでも「じゃあ辞める」とはならへん感じとか、続ける前提で全て考えているところとか、すごく面白いなあと思う。あと、私は水がめっちゃ嫌いなんですけど……。

─え、水がですか?

イッキュウ:そうなんです。味がないから(笑)。人間にとって、生きていく上で一番大切なものをこんなに嫌いなのって「呪われているのかな?」と思いますね。あるいは選ばれし人なのかもしれない。

─あははは。

イッキュウ:あと、昔お母さんに「あんた、顔がでかい」って言われてから、ずっと顔がでかいと思って生きているからこれも「呪い」かもしれない。

ヒロミ:それは間違いなく「レイコの呪い」だね。

キダ:これは「呪い」というか職業病みたいなものですけど、何をやっていても「ああ曲作らなあかん」と思わされるというか。外で友達と遊んでいても、ご飯を食べに行った時も、家でゆっくりする時間でも、「こんなことしてる場合じゃない」って常に思ってしまうんですよ(笑)。「休んではいけない」みたいな。これってある種「呪い」みたいなものだなと。

イッキュウ:めちゃめちゃかわいそう……(笑)。

ヒロミ:キダさんが言ってるのは私も分かる気がしますね。こういう職業なので、会社員みたいに「これをしなさい」と言われるわけじゃなくて、全て自分次第じゃないですか。ゲームとかめっちゃするんですけど、「昼にゲームはあかんやろ」とか……。

イッキュウ:なにそのお酒みたいな考え方。

ヒロミ:(笑)フリーだからこそ無限になんでもできるだけに、自分を律しているのはある意味「呪い」かもしれない。でも、「あれもダメ、これもダメ」と思って勝手にストレスになっていることがあるから、そういう時は一旦呪いから解放されて、スーパーに買い物へ行くついでにちょっと散歩しようとか心掛けています。

─吉田さんは何かありますか?

吉田:僕、朝起きたら必ず頭が重いんですけど、これは呪いですかね。 

イッキュウ:それは、他のメンバーからの念ですよ。

─あははは。

吉田:あと、今の話の流れで言うと、家にいるときに一つのことに集中できず全て同時にやっちゃうんですよね。ゲームをやりながら映画を観て、クリックを流しながらドラムの練習をしている時とかもあるんですよ。そうじゃないと逆に楽しめなくなっていて。

イッキュウ:きも!

吉田:それをしばらく続けてると、めっちゃ楽しくなって夜更かししちゃうんですよね。

イッキュウ:だから朝、頭が重いんですよ。理由わかったじゃないですか。

一同:(笑)



<INFORMATION>


「いない」
2021.6.02 デジタルリリース
テレビ東京サタドラ「春の呪い」主題歌
https://tricot.lnk.to/inai

■tricotワンマンライブ『暴露』
<振替公演>2021年6月5日(土) 神奈川・川崎CLUB CITTA
【1部】開場 14:00 / 開演 15:00 【2部】開場 17:30 / 開演 18:30
詳細: https://tricot-official.jp/news/detail.php?id=1091590

【tricotオフィシャルサイト】
https://tricot-official.jp/

【tricotオフィシャルTwitter】
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