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「闘うクビドル」伊藤麻希がプロレスデビュー4年目で見た輝く「世界」

Rolling Stone Japan / 2021年6月4日 19時0分

伊藤麻希(©AEW)

いまや国内よりも海外での人気が高まっている、日本の女子プロレス。ASUKA、紫雷イオ、SARRAY(Sareee)、志田光、里歩など、数多くの選手が海外で活躍する中、急激に知名度を高めているのが、先日AEWに電撃参戦を果たした”The Cutest In The World”伊藤麻希である。

「CyberFight Festival 2021」で、プロレスデビューしたSKE48荒井優希との対戦が予定されている彼女もまた、アイドルからプロレスラーへの転身を果たした一人だ。すでに世界へのパスポートを手にした伊藤麻希が歩んだ道程を紹介しよう。

「誰とも目が合わなかった」アイドル時代の辛酸を経て

彼女が人生初の声援を浴びた場所は、両国国技館だった。プロレス団体DDTのビッグマッチに、”公認凶器”として参加したのである。2013年8月のことだ。

「アップアップガールズ(仮)」や「しず風&絆~KIZUNA~」、新田恵利といったアイドルたちが任意の武器を手に取り、応援する選手と共に闘う”アイドルランバージャック”なる、DDTらしいユニークな試合形式。福岡を拠点とする「LinQ」の一員としてこの試合に参加した伊藤麻希は、終始DDT代表の高木三四郎を狙い続け、強烈な頭突きを連発する。



他のアイドルたちの存在はもちろん、勝敗をも無視するかのように場内を駆け巡る彼女の姿に、観客は熱狂した。この大会で、もっとも印象に残るシーンだったと言っても異論は少ないだろう。

筆者のようにアイドル事情に疎いプロレスファンなら、誰もが思ったはずだ。この人こそ、「LinQ」の中心メンバーに違いないと。

しかし、それは事実とはまったくかけ離れた誤解だった。

伊藤:本当に人気がなかったんですよ。ライブ中も、観客とまったく目が合わない。つまり、誰も伊藤のことなんて見てないんです。もちろん、コールなんて受けたこともない。だから、両国国技館で浴びた何千人もの「伊藤」コールは本当に嬉しかった。自分のことを観てくれる人がいることを感じた、初めての経験だったから。

「LinQ」での不人気ぶりを見かねた事務所の社長が、大会への参加を勧めてくれたのだという。もちろん、それまでプロレスにはまったく興味がなかった。

伊藤:だから、あの試合のことは正直ほとんど覚えてなくて。気づいたら頭突きしてたって感じ。とにかく、高木三四郎にだけは負けちゃいけないっていう気持ちで闘ってたことだけは確かだけど。

そんな彼女が、正式なプロレスデビューを果たすのは2016年12月のこと。両国国技館での体験から、約3年のブランクがあった。



伊藤:(プロデビューしなかったのは)単純に勇気がなかったってのが本音だけど、このまま福岡でアイドルやってても、誰も活かしてくれないって想いが、年々高まっていたのもありますね。バラエティー番組なんかにも少しだけ出始めてはいたんだけど、全然面白いことが言えないんですよ。プロレスでもやってみれば、(アイドルとしての)引き出しが増えるんじゃないか? と思ってたのが、正直なところです。


「闘うクビドル」が迎えた2年目の転機。そして世界へ

もちろんプロレスファンの多くが、彼女の転身を歓迎した。「LinQ」を正式に脱退した直後の2017年8月26日には、シングル初勝利を記録。以降、自虐的に「闘うクビドル」を名乗り、現在も主戦場となっている東京女子プロレスの中心メンバーとして活躍しながら、並行してタレント活動も続けた。



大きな転機が訪れたのは、2019年。1月4日に行われた山下実優が保持する王座に挑むタイトルマッチがきっかけだったという。

伊藤:それまでは、リングに上がれば、みんなが伊藤のことを応援してくれたんですよ。(現在はWWEを主戦場とする)里村芽衣子みたいなレジェンドと闘ったときもそうだったし、男子団体のリングで、男子を相手に試合をしたときもそうだった。でも、1月4日のタイトルマッチで山下と闘ったときは、そうじゃなかった。ファンが伊藤についてこないのがわかるんですよね。

プロデビューから2年目で迎えた壁。それは伊藤麻希が、プロレスラーとして真っ当な評価をされるようになった証拠でもあった。



伊藤:勝てなかったっていう以前に、プロレスラーとして期待に応える試合ができなかったんだなって。それで、あらためて「自分は何がしたいんやろ?」って悩んでしまって。

結論を出したのは、同年4月のNY遠征。タイトルマッチと同じ山下とのシングル戦を観た海外ファンの声援が、目の前の壁を崩してくれた。

伊藤:向こうのお客さんたちの反応を見て「伊藤、世界でいけるんじゃね?」って単純に思っちゃった。だったら、本気でプロレスやらないとダメだなって。体力づくりも含め、ぜんぶ基礎からやり直すことにしたんです。他の人の試合をちゃんと見るようになったのも、その頃からかな。



それまで並行して続けていたタレント活動も、これを機に整理することを決めたという。

伊藤:それまでは、ぶっちゃけプロレスなんて簡単だって思ってたんですよ。リングに上がるだけで応援してもらえてたから。でも、あらためて基本動作からやり直してみたら、なんて難しいんだろうって。それで夢中になってプロレスの練習をしているうちに、芸能には興味がなくなってきたんですね。女優とかタレントとか、そういう夢は全部捨ててもいいやって。何故なら、プロレスしかやりたくなくなったから。

持前の破天荒なキャラクターと闘魂に、実力がともなうようになれば、当然、これまでとは違った人気も出てくる。その先に待っていたのが、世界有数のプロレス団体「AEW」からの参戦オファーだ。


©AEW

2021年2月、AEW世界女子王座の次期挑戦者を決めるトーナメント(日本サイド)にエントリーした伊藤麻希は、水波綾と1回戦で当たり敗戦するものの、強豪を相手に硬軟織り交ぜながら一歩も引かない試合を展開。その結果、特別枠としてアメリカでの大会に招聘され、世界のプロレスファンに、強いインパクトを与えた。海外でも注目が高まる日本の女子プロレスだが、その中でも「Maki Itoh」の知名度は、彼女の得意技である「Kokeshi(倒れこみ式ヘッドバット)」の画像とともに、SNSで見かけない日がないほど高いものになっている。


©AEW

伊藤:AEWが旗揚げしたとき、同じ東京女子プロレスの坂崎ユカが呼ばれたんですよ。それが羨ましくって。その日からずっと、AEW参戦を見据えて練習を続けていました。だから呼ばれて当然とは思ってたけど、やっぱりオファーがあったときは、むっちゃ嬉しかったですね。コロナ禍での配信試合だったので生声はなかったけど、海外のファンから得た数万単位の応援は2013年の両国国技館と同じくらい、自分の人生を変えたと思います。


SKE48荒井優希と重ね合わせた「昔の自分」との闘い

そして2021年6月6日。彼女は、さいたまスーパーアリーナのリングに立つ。3対3の6人タッグと呼ばれる試合形式だが、対戦相手の中にいるのは、5月4日に東京女子プロレスで本格プロデビューを果たした、SKE48の荒井優希だ。伊藤麻希は、このときにも荒井の対戦相手を務めている。

もちろんデビュー戦は、荒井の完敗。リング上に倒れる荒井に向かい、彼女はマイクを通して、こんなメッセージを投げかけた。

《お前は弱い。でも、今観てくれているお客さんの中には、弱くても闘う姿に勇気をもらいたい奴がいっぱいいると思う。お前はSKE48の荒井優希じゃねぇ。プロレスラーの荒井優希だ。だからプロレスラーなら、アイドルと同じように、夢を与え続けろ。今日の試合で満足するなよ。負けたら絶対、次は勝て。何年かかってもいいから、伊藤麻希を潰しに来い》

伊藤:(荒井のデビュー戦の相手を務めて)昔の自分を見ているようだったんですよ。アイドルを続けるために、プロレスをやってみることで引き出しを増やしたいんだなって。でも伊藤の場合は、そうやって2年で行き詰まったから。ある意味、そんな過去の自分に向かって出した言葉なのかもしれない。


©AEW

6月6日の対戦カードについては「会社が決めたことで、自分から望んだ試合ではない」と断りを入れつつも、やはり荒井優希という存在については、無視できないものがあるようだ。



伊藤:(デビュー戦の荒井優希は)全然強くはなかったけど、伊藤に向かって見せた「こんな奴に負けるわけがねぇ」っていう目つきだけは凄かったから。あれから1カ月の間、伊藤に食いつくために、あいつが何をしてきたのかを見せてほしいとは思いますね。ただし、この試合については、荒井優希を主役にしちゃダメなんですよ。あいつに話題を持ってかれたら、東京女子プロレスの負けってことになるから。その点では、一緒に闘う上福ゆきや小橋マリカはもちろん、(荒井のパートナーになる)瑞希や乃蒼ヒカリも”勝ち”にいかないと。もちろん伊藤は、この試合に限らず、大会全体でいちばん目立つから。そのつもりで臨んでほしいです。

プロデビューから4年が経ち、世界中から「プロレスラー」として評価される存在となった彼女。しかし、今もなお伊藤麻希は、リングの上で歌い、踊ることを止めない。その理由についても語ってくれた。


©AEW

伊藤:アイドルだった過去を抹殺しようとは思わないし、むしろ無駄にしたくないんですよ。だって、アイドルだった経験は、どれだけ辛かったとしても、他人と比べてプラスでしかないから。そもそも、他人と違うことをしないと気が済まない性格なんですよね。「LinQ」にいたときは、アイドルっぽいことがしたくなくってクビになったみたいなところもあって。今、リングの上で歌ったり踊ったりしてるのも、他人がしてないことだからなのかも。AEWで歌ったり踊ったりする選手が出てきたら、スパッと止めちゃうんでしょうね。

念願のAEW参戦を果たした現在、次なる野望は「フィギュア化されること」だという彼女。”世界でいちばん可愛い”伊藤麻希が見据えているのは、常に「実現可能」な未来なのかもしれない。

試合写真提供=DDTプロレスリング、AEW

<大会情報>
CyberFight Festival 2021
2021年6月6日(日)
埼玉・さいたまスーパーアリーナ
開場12:00 開始14:00
特別リングサイドひな壇: 15,000円
スタンドS: 12,000円
スタンドA: 8,000円
スタンドB: 5,000円
★WRESTLE UNIVERSE独占生中継(有料)もあり

【伊藤麻希選手参戦カード】
東京女子プロレス提供試合6人タッグマッチ
乃蒼ヒカリ・瑞希・荒井優希 vs 伊藤麻希・上福ゆき・小橋マリカ

【その他主要カード】
○DDTvs金剛全面対抗14人タッグマッチ
高木三四郎&彰人&樋口和貞&坂口征夫&吉村直巳&納谷幸男&岡谷英樹 vs 拳王&中嶋勝彦&マサ北宮&征矢学&覇王&仁王&タダスケ
○DDTvsNOAH対抗戦
竹下幸之介&上野勇希 vs 清宮海斗&稲村愛輝
○トリプルメインイベントⅠ~プリンセス・オブ・プリンセス選手権試合
<王者>山下実優 vs 坂崎ユカ<挑戦者>
※第9代王者は初防衛戦。
○トリプルメインイベントⅡ~KO-D無差別級選手権試合
<王者>秋山準 vs HARASHIMA<挑戦者>
※第76代王者3度目の防衛戦。
○トリプルメインイベントⅢ~GHCヘビー級選手権試合
<王者>武藤敬司 vs 丸藤正道<挑戦者>
※第34代王者3度目の防衛戦。

【大会公式サイト】
https://www.wrestle-universe.com/cff2021/
【WRESTLE UNIVERSE】
https://www.ddtpro.com/universe

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