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DMXよ永遠に スウィズ・ビーツが語る『Exodus』制作舞台裏 

Rolling Stone Japan / 2021年6月8日 18時45分

スウィズとDMX 2016年ニューヨークにて(Photo by Johnny Nunez/WireImage)

今年の4月に急逝したラッパーのDMX。彼の盟友でありプロデューサーのスウィズ・ビーツは、DMXの遺作となったアルバム『Exodus』をたった一人で完成させなければならなかった。

【動画を見る】90年代後半から2000年代を彩ったDMXの代表曲

2020年3月、ニューヨークがロックダウンへ向かいつつあったころ、DMXはRV車に乗り込んで南を目指した。最初の4カ月はナッシュビル郊外の農場に滞在し、その後ロサンゼルスへ足を延ばした。音楽界に残した自らのレガシーを対決バトルVerzuzで称えるため、そしてのちに遺作となる『Exodus』を収録するために。

このアルバムはDMXとスウィズ・ビーツが長らく温めていたものだ。2人は20年にわたってヨンカーズ出身のラッパーの最高傑作をいくつか生み出してきたが、ロサンゼルスでともに過ごした時期は、1998年にリリースしたDMXの歴史的第2作『フレッシュ・オブ・マイ・フレッシュ、ブラッド・オブ・マイ・ブラッド』以来の一大共同プロジェクトだった、とスウィズ・ビーツは言う。スヌープ・ドッグのイングルウッド・スタジオで、『Verzuz』の際に世界中から寄せられたDMX愛にインスパイアされ、2人はラッパー最期の楽曲のレコーディングに取りかかった。

『Exodus』はこれまでのDMX作品の中でもとくにフィーチャリング満載なアルバムだ。「Money Money Money」のMoneybagg Yoのヴァースを除けば、ゲスト出演の大半は彼の生前に収録を終えていた。同世代のアーティスト――The Lox、ジェイ・Z、リル・ウェイン、スヌープ・ドッグ、ナズ――と向こうを張るDMX、Griselda Recordsのメンツをはじめ明らかに彼の影響を受けた最近のラッパーたちからもてはやされるDMX。おなじみのしゃがれ声は、ボノやアリシア・キーズやアッシャーの伸びやかな歌声とうまくバランスが取れている。おそらくもっとも重要なのは、アルバムタイトルの由来にもなった彼の息子の声だろう。アルバムの終盤で、息子は父親と一緒に歌い、はしゃぎ声をあげている。





ニューアルバムに活気づけられながらも、DMXは疲れていた。おそらくこのアルバムが最後になるだろう、とスウィズに語った。4月9日にDMXがこの世を去ると、スウィズの前にはアルバム完成という難問が残された。手を加え、編集し、順番を入れ替えて、亡きラッパーのレガシーを称える10曲のまとまったアルバムに仕上げるのだ。スウィズ本人もこのインタビューで語っているように、その行程は胸に重くのしかかるような作業だった。


プロジェクトのボスだということを自覚させた

ーあなたは2019年からDMXと新作を作るんだと言っていましたね。そこからどんな風にアイデアが膨らんでいったんですか?

この作品についてはずいぶん前から話が持ち上がっていたんだが、(2020年7月に)『Verzuz』をやった後、あいつの準備が整った。本人にも周りが愛情を示してくれるのがわかったし、ファンの方も準備OKだった。それで以前だったらウンと言わなかったようなことやフィーチャリングも受け入れてくれた。俺たちはただその前向きなエネルギーをキープして、あいつをスタジオに引き留めただけさ。

X(DMXの愛称)は疲れていた。アルバム制作中ずっと彼はエキサイトしていたが、「これが俺の最後のアルバムになると思う」と言っていた。俺は「まずはこれをやっつけて、その後で様子を見よう。決めるのは後にしよう、今は決めつけるのはよそう」と言った。この先やらないことを考えるんじゃなく、今に集中させたかったんだ。だが明らかに、俺たちには分からないことがあいつには分かっていたんだよ。

ーそれが理由で、一緒に曲作りをするモードに戻るのに苦労したんですね?

ああ、あいつは本当に疲れていた。あいつが英気を養うめにナッシュビルに行って、いくつか歌詞を書いていたのは知ってる。だがあいつのほうから電話してきて「そろそろやるか」と言った。Verzuzをやって、それで流れをつかんだ。あいつとの仕事のために、俺も他の仕事は全部ストップした。そしてスケジュールを組んだ。それがXとの仕事のやり方なんだ、スケジュールを組んであいつに全てを仕切らせるんだよ。

俺が心がけていたことがひとつある。いつもあいつを励まして、お前がプロジェクトのボスなんだと理解させたんだ。俺が出しゃばってお前は引っ込んでろ、っていうんじゃなくね。あいつがやりたくないことがあれば、「いいか、これはお前のプロジェクトなんだ、お前が乗り気じゃないならやめよう」と言った。俺があいつにとやかく指図したことは一度もない。むしろ、あいつが何をやりたいのか尋ねた。あいつはこれまでの人生、ずっと周りからあれしろこれしろと口出しされてきた。あいつにはそういうのは通用しない。だがあいつを巻き込めば、全く違うDMXが現れる。「こいつはお前のアルバムだ、お前のものだ、お前が作りたいものだ。みんな勝手なことを言ってるが、俺がここにいるのはお前が求めるものをやるためだ」。お前がボスで、これはお前の作品。そうやってあいつに力を与えるんだ。


スタジオで過ごした時間

ー彼は外部のコラボレーターを多用したがらないラッパーで有名でした。今回のプロジェクトのフィーチャリングに関してはどんな風に思っていたんでしょう?

あいつも喜んでたよ。アッシャーが加わったときはあいつもぶっ飛んでたね。俺のワイフ(アリシア・キーズ)がスタジオでピアノを弾くと、あいつはお気に入りの古い曲をリクエストしていた。1人のファンになって堪能していた。スヌープ・ドッグも様子を見に顔を出しては、俺たちにメシを作ってくれた。Griseldaのスタジオに行って、そこの連中とラップしたりもした。U2のボノはあいつにアートワークを描いたり、自分の声が伝説の声と一緒に並べられるなんてすごいことだ、と手紙を書いたりしてくれた。





ここまでくると、あいつはかなり気分が乗ってきた。俺もあいつのそういう姿を見てうれしかったよ。きっと次は2カ月間仕事に励んで体を鍛えるだろうってね――。薬を断ってからあいつはかなり体重が増えていた。「そろそろこの肉を落として、本腰を入れるか」と言ってた。それが奴のエネルギーなんだ。だからこんなことになったときは本当に不意打ちだった。あいつは集中してたからね。そんな気配は微塵もなかったんだ。

俺たちのもとを去る前にあいつがたどった道筋を見れば、あいつの形跡がちゃんと残っている。あいつはハッピーな状態だった。インタビューも買って出てくれた。「俺は仕事しに来たんだ、アルバムに取りかかったなら俺も下地作りをしなきゃな」ってね。あいつはそんなことを考えていたんだ。あいつが使命を果たそうとしてくれたことが、俺もうれしいよ。

ーXとジェイ・Zは長い付き合いですから、2人が一緒に曲をやったというのは大事件です。ジェイとの話し合いはどんなものだったんでしょうか?

いい話し合いだったよ。「俺は奴の敵じゃない、仲間だ。曲はプロジェクトにぴったりだ。1日考えさせてくれ、そしたら返事する」とね。3日後に返事をくれて、それで決まりだった。断りようがない話だったし、プロジェクトには絶対必要な曲だった。そうなるように俺たちが仕向けたからさ。

ー今振り返って、彼とスタジオで過ごした時期の中でとくに心に残っている出来事や会話はありますか?

全部だよ。一緒にスタジオで過ごすのが最後になると知ってたら、スタジオに戻ってもっといいのを録り直そう、と言えたのに。毎日が活気とエネルギーに満ちていて、退屈な瞬間などなかった。ブラザーとまた歴史を書き換えるんだと思うとうれしかった。あいつが笑って幸せそうなのを見てるだけでね。彼が乗り気じゃないとき、疲れていたり考え事をしていた時はただ「家に帰れ」と言った。プレッシャーはなし。仕事じゃないんだ、楽しんでやってるんだから、とね。


「あいつのレガシーのためにやり通さなくちゃならなかった」

ー4月にニューヨークのバークレイズ・センターで行われた追悼式で、あなたは遺書作成の重要性と、死後にしか姿を見せない人々について語っていました。ああいう発言をしようと思ったのはなぜですか?

あの日はステージ上の俺を通じて、Xが語っていたみたいだった。言葉通りの意味だよ、かなりダイレクトだったがね。裏ではいろんなことが起きていた。頼むからせめて1日ぐらい、あいつのことを考えてやれないか?という気分だった。自分のことしか考えない連中が大勢いたんだ。この男が棺で横たわってるときに、こいつらはバカげたことをやっている――そんなのおかしいだろ。だいたい今までこいつらはどこにいた? 上っ面の悲しみのせいで、お前ら気を付けろよ、と言ってやりたくなったんだ。こっちが弱ってるときを見はからって付け込んでくるような連中だからね。

ーDMXの死後、このアルバムを完成させる作業はどんな感じでしたか?

展覧会のキュレーターになったみたいだった。編集して、こっちをつまんで、こっちを付け足して、最後まで微調整する。少しプロジェクトから距離を置いて、別の人間にプレイリストの順番を考えてもらったりすることもあった。いったん手放して、その後また取りかかる、ということが必要だった。

ーそうしたプロセスは感情面でもかなり重荷だったでしょうね。

少なくとも今は、曲を聴いて泣き出すということはなくなった。こうして強がっているが、本当は打ちのめされ、ボロボロで、傷ついている。でもあいつやあいつの家族のために、そしてあいつのレガシーのためにやり通さなくちゃならなかった。



from Rolling Stone US

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