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FBIは「おとりチャットアプリ」をどのようにして裏社会に浸透させたのか?

Rolling Stone Japan / 2021年6月16日 16時21分

United States Department of Justice

ポケベルや、いわゆる飛ばし携帯電話(他人や架空の名義で契約された携帯電話)が組織犯罪に用いられるような時代は遥か昔となった。21世紀の今日、多くの反社会的犯罪組織は、犯罪行為に厳重に暗号化されたデバイスを使用するようになっている。

こういったデバイスは一般市場には出回らず、ブラックマーケットのみで取り扱われ、電話をかけることもネットサーフィンをすることもできないようになっている。このようなデバイスの唯一の役目は、裏社会の同業者たちに、法の目を掻い潜りながら暗号化されたメッセージを送受信することにあるのだ。

しかしFBIは、こうした犯罪者たちに悟られないまま、ここ数年間で何千もの暗号化デバイスを収集してのけた。暗号化されたメッセージを集め、解読することによって、何百万にも及ぶ違法行為に関するチャットを集める国際的な大規模おとり捜査が行われた。

米現地時間2021年6月8日、捜査当局はオペレーション・トロージャン・シールド(トロイの盾作戦)と名付けたこの捜査の実態を公開した。FBIが中心となり、オーストラリア連邦警察、ユーロポール(欧州刑事警察機構)と共同で、17カ国にわたってデバイスの監視を行うというものだ。2019年後半から、これらのデバイスのユーザーたちは、どうやってパイナップルにコカインを隠すかといったことから、輸送船から降ろされた輸出入禁制品を買い取るための料金に関する事柄まで、何もかもをFBIの監視に気づかないまま行なってきた。6月7日に作戦が終了するまでで、多い日では2日間で500人以上の逮捕につながる日もあったようだ。

では、どのように作戦は始まったのか? 作戦の起こりは2018年、それまで闇社会で使われていたファントム・セキュアというメッセージアプリを、FBIが摘発したところから始まる。カナダに拠点を置くある企業が、電話やメッセージ、GPSなどの基本機能を消去し、同様に細工されたデバイス以外とは連絡できない暗号化メッセージアプリをインストールしたデバイスを手に入れた。ファントム・セキュアが摘発された後、ユーザーたちは他のメッセージアプリへの移行を始めたが、このユーザーたちをあえて追わず、泳がせておくことで、移行における空白期間を埋める形で自らが開発したアプリを浸透させることができたのだ。

作戦の要となったのは、ファントム・セキュアを闇社会に広めた一人の情報提供者だった。FBIが公開した情報によると、この情報提供者は新型の暗号化デバイスの開発にも関わっていたようだ。彼は、AnomというデバイスをFBIに提供する一方で、闇社会にも普及させた。FBIはこの情報提供者に対価として、1300万ドルの報酬と生活費、移動費などの支払いに加え、刑期を短縮するチャンスを与えた。なおこの情報提供者についての詳細は明かされていない。

Anomというデバイスにはたった一つしかアプリがインストールされていない。"計算機"として偽装されている暗号化メッセンジャーだ。オーストラリア連邦警察と協力し、FBIとその情報提供者は、Anomを使用して送られたそれぞれの暗号化メッセージを、ユーザーに気づかれずに解読するマスターキーを製作した。ユーザーが送信したメッセージはまるでEメールのbccのように、第三国のサーバーに暗号化を解いた状態で同時に送信、さらにFBIによって暗号化され、捜査局に共有される。

Anomは非常によく機能したと言える。50個ほどのデバイスでのベータテストを経て実用化されたAnomは、100カ国、300以上の犯罪組織で12000機ほどが使用されたと記録されている。ニューヨーク・タイムズ誌によると、ユーザーたちはデバイスを信用するあまり、メッセージを専門用語などを用いアナログで暗号化せず、重要な情報をオープンに共有しあっていたようだ。ドラマ『ザ・ワイヤー』のマクノルティ刑事さながら、捜査官たちはリアルタイムでメッセージのやりとりを監視していた。最終的には2700万通ものメッセージを傍受したようだ。

検挙は作戦期間を通して行われ続け、現在までの合計では800件にまで及び、今後もさらに数は増えると予想される。直近では、カリフォルニア州南部にて違法な物品の密売を行なっていた17人の外国人が逮捕されている。これに関し捜査当局は、32トンの違法薬物、250挺の銃器、55台の高級車に加え、総額およそ4800万ドルの現金、仮想通貨を押収したと発表した。

なぜ現段階でおとり捜査を公表したのか? ニューヨーク・タイムズ誌によると、オーストラリア政府により、すでに動き出している極めて危険な計画を阻止するため、作戦を公表する必要があったと発表されたようだ。また、捜査局の通信傍受機器等も刷新のタイミングになり、現段階でもすでに充分な量の証拠を集めることができたのも理由の一つとされる。

From:How the FBI Tricked Criminals into Using its Messaging App

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