クイーンからザ・クラッシュまで、ディズニー映画『クルエラ』を彩る音楽を徹底解説
Rolling Stone Japan / 2021年6月23日 8時30分
エマ・ストーン主演のディズニー映画『クルエラ』(公開中)では、物語の舞台である、パンクムーブメント吹き荒れる70年代のロンドンで人気を博した楽曲がふんだんに用いられている。ロック/パンクのファンも必見の本作を、サントラ収録曲から掘り下げてみよう。
『ラースと、その彼女』、『ミリオンダラー・アーム』、『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』など、個性的な映画ばかりを撮り続けてきたクレイグ・ギレスピー監督が、エマ・ストーンとタッグを組んだ新作『クルエラ』。『101匹わんちゃん』シリーズの”悪役”であるクルエラが実写映画でどのように描かれるのか、大いに注目されていた。
いざ蓋を開けてみると、舞台のロンドンはそのままに、1952年生まれという大胆な新設定が主人公に与えられている。”謎のデザイナー、クルエラ”がファッション界に登場するのはパンク・ロック・ブーム真っ只中の1977年で、彼女が25歳の時。なので、サウンドトラックも彼女が少女だった頃に耳にしたであろう60年代のヒット曲から、パンク登場前夜の70年代前半を思い出させる曲、そしてパンク世代のアンセムまで、時代性を感じさせる名曲が並ぶ。
日本版パンフレットで紹介されているアンドリュー・ガン(プロデューサー)のコメントが、何よりわかりやすく本作における音楽の位置付けを教えてくれる。「この映画に登場する音楽は、もはやそれ自体が登場人物のような存在だ。クレイグはこの映画に素晴らしいロックンロールを流しながらも、その歌詞と映画のセリフが喧嘩しないように組み込むすべを心得ている」。本編を見ればわかる通り、音楽は単なるBGMではなく各シーンを補足する役目を果たしており、映像と曲は不可分な関係にある。選曲及び音楽の使い方の”妙”は、各曲の歌詞や背景をよく知っている人ほど強く実感できるはずだ。
ここからは、サウンドトラック盤の収録曲を順に見ていこう。
アルバムの冒頭を飾るのは、フローレンス・アンド・ザ・マシーンによるエンドソング「Call me Cruella」。本作のスコアも手掛けた、『ムーンライト』『ビール・ストリートの恋人たち』などの音楽で知られるニコラス・ブリテルとのコラボから生まれた曲だ。普段のフローレンス・アンド・ザ・マシーンとはややタッチが異なり、ブリテルのスコアとトーンを合わせてきた印象。感情を抑えるように切々と表現するフローレンス・ウェルチの歌唱も出色だ。
スーパートランプの「Bloody Well Right」は、ポップ色を増す以前、UKプログレッシブ・ロックの注目株として見られていた初期の小ヒット。彼らの出世作である3作目『Crime Of The Century』(1974年)からシングル・カットされた「Dreamer」のB面曲だったが、ラジオで火がついて全米35位まで上昇した。ロジャー・ホジソンが歌うキャッチーな曲ではなく、リック・デイヴィスの泥臭いヴォーカルをフィーチャーした曲、というチョイスがシブい。
ビー・ジーズの「Whisper Whisper」も意外な選曲で、ディスコ路線に移行する遥か以前のアルバム・トラック。1969年に発表した2枚組大作『Odessa』に収録されていた。サイケ・ポップの空気を引きずった浮遊感溢れる曲調が、場面にうまくフィットしている。
ドアーズ『Waiting For The Sun』(1968年)のB面ラストに置かれていた「Five To One」は、ロック古典を知らない世代には”ジェイ・Zの「Takeover」でカニエ・ウェストがサンプリングした曲”と説明した方が早いかも。ヘヴィなリフとジム・モリソンの咆哮はスクリーンでも一際映える。
ニーナ・シモンが歌う「Feeling Good」は、デヴィッド・ボウイにも影響を与えたアンソニー・ニューリーとレスリー・ブリカッセが共作したもので、ミュージカル『ドーランの叫び、観客の匂い』(1964年)が初出。数多くのアーティストにカバーされてスタンダード化したが、中でもこのニーナ・シモンによるジャジーなバージョン(1965年のアルバム『I Put A Spell On You』に収録)が人気だ。ロック・ファンにはミューズのカバーが最もよく知られているだろう。
ソウル、R&B、そしてクイーン
『クルエラ』ではソウル、R&Bもよく流れる。粘っこいファンクと官能的なジャケで一世を風靡したオハイオ・プレイヤーズのヒット曲からは「Fire」(1974年)を選曲。彼らにとって初の全米トップ10入りシングルとなったこの曲は見事No.1を獲得、同題のアルバムも全米1位に輝いた。70年代半ばのダンス・フロアの熱狂が目に浮かぶ超名曲だ。
ティナ・ターナーが熱唱する「Whole Lotta Love」(胸いっぱいの愛を)は、物語の大きな転換点で流れる曲。言わずと知れたレッド・ツェッペリンのカバーだが、ティナがソウルを多めに注入、じっくり攻め上げるタイプのファンキー・チューンに変貌した。ソロ名義では2枚目のアルバム、『Acid Queen』(1975年)に収められている。
ELOことエレクトリック・ライト・オーケストラの「Livin Thing」(オーロラの救世主)は、6枚目のアルバム『A New World Record』(1976年)からシングル・カットされ、全英4位/全米13位まで上昇。ソウル/ディスコの弦アレンジを取り込み始めた時期の人気曲だ。ELOの楽曲は映画で効果的に使用される機会が多く、『ヴァージン・スーサイズ』で流れる「Strange Magic」や、『アメリカン・ハッスル』で流れる「10538 Overture」は特に印象的。実は後者でサウンドトラックの監修を務めたのが、本作の音楽スーパーバイザ―であるスーザン・ジェイコブスだった(詳しくは後述)。
音と映像がリンクした印象的なシーンが続く本作でも、クイーン「Stone Cold Crazy」(1974年のアルバム『Sheer Heart Attack』に収録)の場面は強烈。クイーンの楽曲を使用した映画は山ほどあるが、ここで『ウェインズ・ワールド』の「Bohemian Rhapsody」に匹敵する名場面が生まれたのではないだろうか。曲の構成やリズムを徹底的に研究し尽くしたからこそできる芸当だと思う。
物語を彩るパンクアンセム
そしていよいよ物語はパンク/ニュー・ウェイブの時代に突入。ブロンディ「One Way Or Another」(どうせ恋だから)は3作目『Parallel Lines』(1978年)からシングル・カットされ、全米24位とスマッシュ・ヒットを記録した。ストレートなロックンロールのようでいて不穏さをはらんだ曲調が、クルエラの屈折したキャラクターとマッチしている。
もうひと組のパンク世代は、ザ・クラッシュ「Should I Stay Or Should I Go」。『Combat Rock』(1982年)に収められていた、ミック・ジョーンズのラフな歌唱が印象に残る、ロカビリーの香りもまぶされた曲だ。最初にリリースされた際は全英17位/全米45位が最高だったが、解散後の1991年にベスト盤『The Singles』が発売される際、CMタイアップ付きで再度シングル・カットして全英No.1を獲得。近年もNetflixのドラマ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』で使用され、根強い人気を感じさせた。
ジョージア・ギブスがコール・ポーターのスタンダードを歌った「I Love Paris」(1953年)や、コメディアンのケン・ドッドが歌ってヒットさせたシャンソンのカバー「Love Is Like A Violin」(私の心はバイオリン:1960年、全英8位)は、狂言回し的に挟まれる感じ。この辺も劇中での使われ方に注目して欲しい。
クルエラの一味に加わったアーティが劇中で歌う「I Wanna Be Your Dog」は、アーティを演じたジョン・マックレア自身の歌唱。ノイジーなギター、ピアノの入れ方など、ストゥージズの原曲を忠実になぞった演奏で、歌い方もイギー・ポップにかなり寄せていて面白い。この選曲は、もちろん”犬”に縁があるクルエラだからこその遊びだろう。
そして2曲目のティナ・ターナー登場。アイク&ティナ・ターナーによるビートルズのカバー、「Come Together」は1969年にシングルとして発売され米R&Bチャート21位に食い込んだ小ヒット。ティナによって誇張された匂い立つようなワイルドさが、映像の世界としっかり合致している。
なお、サウンドトラックの日本盤ラストには、クルエラの日本版声優を務めた柴咲コウが歌う日本語詞バージョンの「Call Me Cruella」を収録。フローレンスの雰囲気を尊重しながら、クルエラ自身が歌っている感覚で聴けるのが面白い。
映像と音楽が抜群の相乗効果を生んでいる『クルエラ』。このサウンドトラックを成立させた陰の功労者にも少し触れておきたい。前述した通り、本作の音楽スーパーバイザーとしてクレジットされているスーザン・ジェイコブスは、映画音楽ファンなら記憶しておいた方がいい重要人物だ。
10代の頃から音楽好きで、敬愛するNRBQを通して音楽の知識を深めたというスーザンは、やがて音楽業界入り。裏方としてアイランド・レコードのクリス・ブラックウェルや、ハル・ウィルナーのもとで働いた。映画音楽の仕事は、スパイク・リー監督の映画『シーズ・ガッタ・ハヴ・イット』(1986年)から携わっていたそうだから、かなりのベテラン。ハルと共に関わったアルバムの中に、プロジェクト進行を務めたディズニー映画音楽のトリビュート盤『Stay Awake』(1988年)があるのも、ディズニーとの縁を感じさせる。
そうした経験を活かして、スーザンはサウンドトラックに使用する音楽の監修という重要な役割を担っていく。ロバート・アルトマン監督『ショート・カッツ』を始め、『バスキア』、『54』、『ルル・オン・ザ・ブリッジ』、『リトル・ミス・サンシャイン』等々……彼女が関わった映画のタイトルを列記するだけで、音楽好きの映画ファンは思わず身を乗り出すだろう。
ジャンルを問わず幅広い音楽の知識を持つスーザンは、クレイグ・ギレスピー監督と相性が良かったようで、『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』と『クルエラ』に続けて起用された。その『アイ,トーニャ~』でトーニャ・ハーディングを演じたマーゴット・ロビーがプロデューサーとして関わった映画、『プロミシング・ヤング・ウーマン』(キャリー・マリガン主演、日本は7月公開予定)の音楽監修もスーザンが務めている。こちらのサウンドトラックも新旧取り混ぜた個性的な内容なので、あわせてチェックしてみて欲しい。
『クルエラ オリジナル・サウンドトラック』(日本版)
デジタルアルバム:好評配信中
CD:6月23日(水)リリース
視聴・購入リンク:https://umj.lnk.to/Cruella
ディズニー映画最新作『クルエラ』
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※プレミア アクセスは追加支払いが必要です。
(C)2021 Disney Enterprises, Inc.All Rights Reserved.
公式サイト:https://www.disney.co.jp/movie/cruella.html
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