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ジャクソン・ブラウンが今こそ語る、アメリカ社会と環境問題への危機意識

Rolling Stone Japan / 2021年6月22日 18時30分

ジャクソン・ブラウン(Photo by Nels Israelson)

ジャクソン・ブラウンが表紙を飾った、ローリングストーン誌フランス版のカバーストーリーを完全翻訳。LAの偉大なシンガーソングライターが、7月23日発売のニュー・アルバム 『ダウンヒル・フロム・エヴリホェア』にまつわる様々なエピソードを明かしてくれた。

類い稀な声、素晴らしくピュアで、憂愁に満ち、聴く者に迫る……最初のフレーズで彼の曲とわかる独特の個性。ブルース・スプリングスティーンはブラウンの『レイト・フォー・ザ・スカイ』を文句なしの傑作と絶賛した。

ブラウンは70年代初頭から、彼と同世代の若者の心情を歌い、誰よりも感動を与えてきた。「テイク・イット・イージー」、「プリテンダー」、「孤独なランナー」、「ロード・アウト」、「バリケーズ・オブ・ヘヴン」など、数多くの楽曲が色あせることなく、世界中で多くのリスナーの心を揺さぶってきた。「ビフォー・ザ・デリュージ」、「ローレス・アヴェニュー」などは、ブラウンの社会的、エコロジー的、政治的活動への飽くなき参加の証である。早い時期から反核を唱え、M.U.S.E. (Musiciens United for Safe Energy=安全なエネルギーを求めるミュージシャン連合)、そして『No Nukes』のコンサートを通じて、アメリカが抱える闇を訴え続けてきた。彼は最新アルバム『ダウンヒル・フロム・エヴリホェア』でも、変わらぬメッセージを体現している。ブラウン自身がLAの自宅から、ニューアルバム誕生の経緯について詳しく語ってくれた。



環境活動家としてのスタンス

―コロナ禍の影響で、あなたの新しいアルバムもリリースが延期されました。でもここ数カ月の間に、いくつかの収録曲が公開されましたね。タイトル曲の「ダウンヒル・フロム・エヴリホェア」は、マイクロプラスチックによる海洋汚染の取り返しのつかない被害をテーマにしたドキュメンタリー映画『The Story Of Plastic』にも使われており、あなたもこの映画に出演しています。

ブラウン:この楽曲は、チャールズ・ムーア大佐の海洋学研究にインスピレーションを得たものだ。ムーア氏は北大西洋における、プラスチックごみのもたらす災禍について、初めに警鐘を鳴らした人物の一人。「海はあらゆるところから下り坂」(The ocean is downhill from everywhere)と彼は言っていた。

確かにプラスチックは素晴らしい発明だし、医学的な機器の開発にも大いに寄与した。 しかし、便利なものがもたらされると使い道を誤るという傾向も、産業や社会には存在する。今日において、水は誰でも好きな時に飲める便利なものになったけど、そこには「お金を払って水を手に入れる」というパラドックスもあるわけだよね。水は本来、誰もがただで手に入れられるものだったのに。

僕が今回の曲で訴えたかったのは、別に難しいことではないんだよ。ただ、酸素は海からやってくるということ。僕たちが普段吸っている空気は、海がもたらしてくれるものだ。プラスチックから逃れて自由になろうーーアメリカでは多くの人々が、この問題の大切さに気付き始めている。そしてプラスチックの生産量に制限を加えようとしている。その一方で、ある種のメーカーや人々は「いや大丈夫。リサイクルすればいいんだから」と呑気に構えているわけだけど、そんなに簡単な話じゃない。僕たちはぎりぎりの瀬戸際に生きていて、このプラスチック問題は地球温暖化とリンクしている。あと100年のうちに、人類が環境破壊を克服して生き延びられるかどうかがはっきりすると思うよ。



―多くのファンは、『レイト・フォー・ザ・スカイ』に収められた「ビフォー・ザ・デリュージ」(=洪水の前に)が、あなたがエコロジー問題に興味を持つようになった最初の頃に作られた曲だと思っています。”彼らのなかには怒っているものもいる/地球は悪用されてきた 美しさをパワーに変える術を身に付けた人々によって”1974年に書かれた歌詞ですが、実に慧眼でした。

ブラウン:確かにあの曲は、社会参加を表明した初期のものだ。『レイト・フォー・ザ・スカイ』は僕のなかにある問題意識を表明するきっかけを与えてくれた。「ビフォー・ザ・デリュージ」はとりわけ重要な曲だね。あの曲をリリースしたあたりから、僕はエコロジーや反原子力問題について支持を明らかにするようになったわけだから。


『No Nukes』出演時のジャクソン・ブラウン

―この曲の「プレ黙示録的」な側面は、グラハム・ナッシュなどとM.U.S.E.を立ち上げ、1979年にマディソン・スクエア・ガーデンでコンサートを行う原動力になったのではないでしょうか? あのときのコンサートは録音もされ、映画にもなりましたよね。CSN、ドゥービー・ブラザーズ、ジェームス・テイラー、トム・ペティ、そしてブルース・スプリングスティーンまで、当時の錚々たるミュージシャンが顔を揃えていて素晴らしかったです。あのコンサートで何かが変わったと思いますか?

ブラウン:さあ、どうだろうね。そういったコンサートが本当にターニングポイントになったのかはわからない(編注:コンサートの数カ月後、スリーマイル島原子力発電所で放射能漏れ事故が起きた)。映画『No Nukes』には原子力発電の危険性を訴えるシーンがあり、ミュージシャンたちはこの問題と立ち向かうべく団結していた。ただ、音楽には社会問題に関心を集めるための力もあるけど、そこまで考えを巡らせることなく、ただ音楽を楽しむこともできるわけだ。「人々に考えることを促す」という意味でいうと、『No Nukes』は不完全なモデルだった。でも、この問題にまつわる本物のドキュメンタリーを見てもらうきっかけは提供できたのかなとも思う。

ローレル・キャニオンの仲間と育んできたもの

―随分前から、あなたの楽曲はアメリカ社会への疑問がテーマになっているように思います。移民、暴力、人種差別ーーあなたの友人であるブルース・スプリングスティーンや、もしくはスタインベックが実践していたように、個人のストーリーから出発して、もっと大きなテーマを扱おうとしているように映ります。

ブラウン:その通りだと思うよ。今回のアルバムの中に「ザ・ドリーマー」という楽曲がある。これはユージン・ロドリゲスと作った曲。歌詞の内容は、子供の頃にアメリカに移住してきた女性が、この地で働き、家庭を築き、それなのにばかげた移民政策のせいで「国へ帰れ」と追い出されるというものだ。

アメリカは移民のおかげで発展してきた。彼らがなんとかして、よりよい生活を送ろうと努力をしてきた結果、この国は前進したんだ。移民の人々がもたらした財産から目を背けるのは間違っている。移民の気持ちが、僕にはとてもよくわかるんだ。なぜかというと、幼少期をLAの東部で過ごしたから。この地域にはメキシコからの移民が多く住んでいて、彼らを間近に見ながら育ってきたんだ。今もこの状況は変わっていない。移民問題を他人事として扱うのをやめることから、社会は変わっていくことができると信じている。


ジャクソン・ブラウンは70年代初頭から、彼の世代の複雑な心理を歌い上げてきた。

― あなたの楽曲には、ある種の憂愁、過ぎ去っていく時間、若いころの夢の行方などが盛り込まれているように感じます。「マイ・クリーヴランド・ハート」の歌詞に”ずっとまやかしの線の上を歩いてきた/ 実際の現実と/ 見かけの世界の間に引かれた”とありますが、これについてはいかがですか?

ブラウン:「マイ・クリーヴランド・ハート」はデビュー曲の「ドクター・マイ・アイズ」とそんなに変わらないんだ。デビュー曲が出たのは40年も前だけど、今も相変わらず人生について、若いころの無邪気さがもうない、といったことを歌っている。こういった気持ちは多くの人が抱くものだけど、でも実際には、人はそうは変わらないような気がするんだ。人生というものは真剣に向き合うだけでなく、ときに少し距離を取ったり、幻滅や悲しいことも受け入れるようにしなければ、とても耐え難いと思う。君がさっき指摘してくれたように、僕は個人的な物語から歌詞をスタートさせることが確かに多い。でも、個人的でないことを歌うときもある。他人の気持ちに寄り添い、彼らの人生を変えることもできると思っているよ。



―「ヒューマン・タッチ」は素晴らしいバラードで、とても勇気づけられる曲ですね。レスリー・メンデルソンという、若くてインパクトのある女性アーティストとデュエットされています。

ブラウン:レスリーと出会ったのは、映画監督のポール・ハギスが紹介してくれたのがきっかけだ。彼はちょうど『5B』という映画を撮っている最中だった。エイズが猛威を振るい始めた頃に、(サンフランシスコで)何百人もの死にゆく患者たちの面倒をみている看護師たちを描いたドキュメンタリー・フィルムだ。当時、レスリーとパートナーのスティーブ・マクイーワンは「ヒューマン・タッチ」の録音を進めていたところで、僕にも参加しないかと声をかけてくれた。これはマジカルな経験だったね。サビの仕上げを手伝い、歌詞を少し手直しさせてもらったけど、僕の感性を少し付け加えた程度で、レスリーとスティーヴが曲の大半を仕上げたんだ。この曲は心から尊敬する二人との、友情のはじまりとなった素敵な贈り物だよ。



―ローレル・キャニオンで一緒に活躍したミュージシャンとの関係は、現在も続いているのでしょうか?

ブラウン:彼らのことはいつも身近に感じている。僕の人生の一部だね。グラハム・ナッシュと僕は、今でもM.U.S.E.やその他のプロジェクトを通じて、アメリカの社会正義のために尽力している。彼とデヴィッド・クロスビーは、僕の最初のアルバムで歌ってくれた。二人の貢献ぶりは忘れられないね。ただ、みんな住んでいる地域が違うから、そう頻繁に会うことはない。グラハムは東海岸に住んでいて、パンデミックの前に、気候変動による難民やメキシコ国境で分離された家族のためのコンサートで一緒に演奏した。

これらの問題は、アメリカ政府の犯罪的ともいえる対応が原因となっている。僕たちのように、アメリカがもう少し良かった時代を経験している者たちにとって、今の時代は幻滅を覚えるものとしか言いようがない。でも、先述したようなコンサートがきっかけとなって、他のアーティストと交流が生まれて、レコーディングに招き合ったりもしている。これはかつて、(ローレル・キャニオンで)よく起きていた光景と似ているような気もするんだ。昔も今も変わらないことはある、ということかもしれないね。

【関連記事】ジャクソン・ブラウンが語る渾身の新曲、自身の後継者、ジェームス・テイラーとの共演



ジャクソン・ブラウン
『ダウンヒル・フロム・エヴリホェア』
2021年7月23日(金)発売
定価¥2,860(税抜価格¥2,600)

【完全生産限定盤】
3面紙ジャケット仕様(FSC認証紙使用)
高品質Blu-spec CD2仕様(日本盤のみ)
歌詞・対訳・解説付(日本盤のみ)
*対訳:中川五郎
*解説:五十嵐 正

ストリーミング(予約):
https://jacksonbrowne.lnk.to/DownhillFromEverywhereRS

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