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ルーシー・ダッカスが語る、「暗く悲しいシンガーソングライター」を卒業するまでの日々

Rolling Stone Japan / 2021年6月25日 12時0分

ルーシー・ダッカス(Photo by Ebru Yildiz)

ルーシー・ダッカスが通算3作目となるニューアルバム『Home Video』をリリース。フィービー・ブリジャーズジュリアン・ベイカーと結成した「ボーイジーニアス」でも知られる彼女が、最新作に影響を与えた愛すべき青春時代を振り返る。

13歳の夏、ルーシー・ダッカスは地元バージニア州で行われたバイブル・キャンプに参加した。今思い起こせば、礼拝時に節制を説く説教が「少しエロチックな賛美歌」に聴こえたという。そして5人の少年たちをコーラスに従え、アコースティックギターを抱えてスノウ・パトロールの「Chasing Cars」を歌った。既に彼女の才能の片鱗を見せていたのだ。それよりも重要な出来事は、彼女にとって初めてのボーイフレンドができたことだ。「彼はスレイヤーに夢中で、マリファナを吸うような子だった。私とデートしたいならマリファナは止めることね、と彼に言ったわ」と、26歳になったルーシーは自宅からのZoomインタビューで振り返る。彼女は今、フィラデルフィアで6人の友人たちとシェアハウスで生活している。「私は堅物の頑固者で、道徳観が高い13歳だった」

彼女の10代初めのロマンスストーリーは、3rdアルバム『Home Video』のハイライトとも言える「VBS」(ヴァケーション・バイブル・スクールの略)に描かれている。アルバムは、Matadorから6月25日にリリースされる。歌詞は柔らかくかつ繊細に描かれ、圧倒的にリアルさを感じる。”あなたの書く詩は最悪ね/笑いを堪えるのに必死だった。私があなたの希望の光だと言うけれど/結局全ては/前よりも真っ暗よ”と彼女は歌う。



ルーシーの過去の作品と比較しても、今回のニューアルバムの感情的なパンチ力は凄まじい。彼女の7歳〜17歳までの記憶に基づく繊細なストーリーを、壮大なインディーロックのアレンジに乗せた作品が、アルバムのほとんどを占める。「私は常に正直であるように心掛けてきた。でも曲の多くは、私の人生に起きたことを忠実に再現しているのよ」と彼女は言う。「登場人物の中には、今でも深く関わっている人もいれば、音信不通の人もいる。何人かは怒って電話を掛けてくるかもしれない。覚悟しておかなくちゃ」

「Christine」の中でルーシーは一人の親友に、自分にとって価値のないパートナーで妥協してはいけないと忠告している(”結婚には反対よ/祭壇に靴を投げつけて、絶交ね”)。ルーシーは、曲に登場する友人にデモテープを送ったという。「”あなた自身の人生なんだから、よく考えなさい”と伝えたかった。私の感じたままを表現したのよ」と彼女は言う。友人のパートナーも曲を聴き、「ルーシーはいい友だちさ」とコメントしている。

「Triple Dog Dare」では、別の旧友に対する沈んだ想いを歌っている。おそらく相手はもっと違う感情を持っていたかもしれない。「書くのが辛かった」と彼女は証言する。「とても奇妙で複雑な関係だったから。でも当時の私はまともだった。もしも自分に自信があったら、どうだったかな? どちらにしろ終わっていたのかな?」



「Thumbs」は、『Home Video』の中で最も心打たれる作品だろう。2018年のツアーで初めて曲を披露すると、ファンが「ルーシーは”Thumbs”をまだリリースしないのか?」という名前のTwitterプロフィールを立ち上げた。アカペラに近い静かなバラード曲で、ルーシーがまだ大学生だった2014年のある晩の出来事を歌っている。ルーシーは、友人と友人の駄目な父親と会うことになった。ルーシーは徐々に、自分の手で友人の悪い父親を殺してやりたいという感情に駆られる。”私が彼を殺してやる/もしもあなたが許してくれるなら”と彼女は歌う。

歌詞の最後は”あなたは決して父親の世話になんかなっていない/たとえ彼がそう言ったとしても”と締め括られる。「歌の中で彼女に語りかけているのは私自身。でも、自分自身に対する言葉でもある」と彼女は言う。

ボーイジーニアスでの活動から学んだこと

前回のソロアルバム『Historian』(2018年)のリリースから間もなくルーシーは、フィービー・ブリジャーズ、ジュリアン・ベイカーという気の合うシンガーソングライター仲間とボーイジーニアスを結成した。リリースした6曲入りのEPは広く話題を呼んだ。ボーイジーニアス名義で行った2018年11月のツアーは、ソングライターとしての自分の夢をさらに広げるきっかけになったと語る。また、「暗い女の子」という自らに貼られたネガティブなレッテルを剥がしていく機会でもあったという。「私たち3人は、世間から同じような見方をされていた。だから3人で力を合わせて抵抗するのは、本当に気分が良かった」と彼女は言う。「”暗いなんて言わせない。楽しんで、騒いで、怒りをぶつけましょう”という感じ。たくさんの感情が集約されたの」

わずか1カ月間のツアーだったが、ボーイジーニアスでの活動はルーシーにとって印象に残る出来事だった。「控えめに言っても、人生を変えるような経験だった」と彼女は振り返る。「曲作りの幅を広げ、自分自身の殻を破ってくれた。フィービーやジュリアンと一緒に笑ったりお喋りしたりしているうちに、自分の叶えたい夢が大きくなったのよ」

ボーイジーニアス後のソロツアー中に書き始めた楽曲のアイデアは、ルーシーの潜在意識の奥から湧き出したという。「さあ書こうと思って身構えると、曲は作れない」と彼女は言う。「無意識のうちに出てこなくてはいけない。自分はただのマネキンで、脳内に住む小さな作家が私の身体を表現の場としてフル活用し、クールな曲を作っている、と暗示をかけるの」


テレビ番組『レイト・ナイト・ウィズ・セス・マイヤーズ』に出演したボーイジーニアス。フィービー・ブリジャーズとジュリアン・ベイカーは『Home Video』収録の2曲でヴォーカルを担当している。(2018年撮影、Photo by Lloyd Bishop/NBCU Photo Bank/NBCUniversal/Getty Images)

コンサート会場の楽屋やツアー中など、世界中どこにいても言葉が浮かんできた。「バンドと一緒に滞在しているホテルの部屋を深夜に抜け出して、駐車場のバンの中で曲を仕上げることも多い」と彼女は付け加える。「まるで夢の中にいるかのよう。目は覚めているけれど、さっき見た夢を思い返している感じ」

2019年初夏までにルーシーは、『Home Video』に収録するほとんどの楽曲を書き上げていた。当時の彼女は、多くのコンサートを続けるうちに喉をつぶしていた。「医者には”1カ月間歌わずにおとなしくしていないと、手術が必要なレベルだ”と言われた」と彼女は振り返る。医者の言いつけを守りながらも、同じ年に行われたニューポート・フォーク・フェスティバルのスペシャルステージでドリー・パートンや他のアーティストと「9 to 5」を共演した後、ルーシーはナッシュビルへと向かい、8月にはニューアルバム用のほとんどの楽曲をレコーディングした。

長く彼女のバックを務めるバンドのメンバーと共に、過去のアルバムでも使った馴染みのスタジオに入り、1日2時間ずつのペースで喉を休めながらレコーディングを続けた。ルーシーは、自分がかつてないほどプロデューサーのようなスタンスでレコーディングに臨んでいることに気づいた。前作『Historian』やデビューアルバム『No Burden』(2016年)で彼女は、アコースティックギターの使用を極力避けてきた。自分が「気取ったシンガーソングライター」に分類されるのを嫌ったのだ。ところが今では周囲の見方を気にせず、ピアノまでフィーチャーするようになった。ピアノは、彼女が母親と一緒に弾いた思い出の楽器でもある。「アコースティックギターを持って歌うとすぐに、”アメリカーナのフォーク”だと決めつけられる。でも、私がプレイしているのはロックだから」とルーシーは言う。「それでも今回のアルバムはこれまで以上にノスタルジックで、優しい感じにしたかった。だからフォークギターやピアノの暖かみが必要だったの」



さらに『Home Video』には、より複雑な感情的共鳴を起こすためのアイディアが見られる。例えば「Partner in Crime」ではオートチューンを使い、彼女のリードヴォーカルにフィルターをかけて声を歪ませている。「ティーンエイジャーの頃は、年上の人たちに認められようと自分の歳をごまかしていた」と彼女は告白する。「理由の一つ目は、子どもに見られるのが恥ずかしかったから。二つ目は、歳をごまかすこと自体は恥ずべき行為だけれど、当時はよくあることだったから。三つ目は、周りの大人たちの方が、子どもである私以上にきまりが悪いだろうと思ったから。大人として扱って欲しいという衝動に駆られたのは、私のせいじゃないわ」

「Partner in Crime」のヴォーカルをデジタル処理しようというアイディアは、不完全なヴォーカル・テイクを補おうとしたのがきっかけだった。しかし彼女は最終的に、楽曲のテーマにも通ずるこのスタジオ・エフェクトを気に入った。「認められるために自分を偽るというテーマが、オートチューンに通じるものがある。そういう意味で、この曲をとても気に入っている」と彼女は付け加えた。

青春時代の思い出、これから先の未来

ルーシーの生活は、思春期とはまるで変わったようだ。「ミドルスクールまでは、早起きして仲良しグループでパネラ(※訳註:レストランチェーン)へ行き、授業の前に聖書を勉強するような子だった」と彼女は言う。「それが私の社会的、精神的、家族的な領域だった。私の生活の全ては、教会を中心に動いていた。」

「以前は”キリスト教不可知論者”に固執していたが、それもやめた」と言う彼女は、自身がどんな信仰も持たない人間だと認識してからも神について考えることが多く、自分は「文化的なキリスト教徒」だと思っている。「教会とは無縁の人たちと出会うと、とても親近感を覚える」とルーシーは言う。「そんな人たちとすぐに仲良くなれた時代が懐かしい。世界をより良くしたいと願う人たちとの出会いは楽しかった」

『Home Video』で語られるストーリーに共通しているのは、青春時代の思い出に対する優しい感情だ。ルーシー曰く、過去の自分から遠ざかれば遠ざかるほど、その感情は強くなっているという。「昔の自分から距離を置いた今だからこそ、曲のテーマとして取り上げることができるのだと思う」と彼女は言う。「過去の自分をできるだけ優しく見守ることが大切。なぜなら過去には、選択しなかった多くを残してきたから」

アルバムが完成に近づいた2019年の年末に、ルーシーはフィラデルフィアへ引っ越した。「私はリッチモンド以外に住んだことがなかった。だから、”もしもここに縛られて、新天地で生活を続けられなかったらどうしよう”などと考え出した。本当にできるかどうかは、やってみるしかなかった」と彼女は言う。ルーシーと彼女の同居人たちは皆揃って熱心な読書家で、Zoomの画面に映る彼女の背景は、まるで図書室のようだ。「詩集が一番上にあって、音楽関係が一番下。そして美術書や雑誌もある」と彼女は後ろを振り返って書棚を指差す。「上の方にはフィクションとノンフィクションが並んでいる。壁一面の本に囲まれた生活、という夢に近づいているわ」



2020年3月5日、ルーシーとバンドメンバーはライマン公会堂でのライヴの前に、『Home Video』の仕上げのためナッシュビルのスタジオに立ち寄った。「あちらこちらにキラキラした輝きがあり、そこにちっぽけなヴォーカルを乗せた感じ」と彼女は表現する。3月8日、バンドはフロリダ州オキーチョビーで開催されたミュージックフェスティバルに出演した。「行くべきじゃない、と止めようとした」と彼女は振り返る。「結局ステージに立ったけれど、会場の半分も埋まっていなかった。誰もが明らかに恐怖を感じていた。奇妙で暗い雰囲気だった」という。それから1週間も経たないうちに、新型コロナウイルスのパンデミックにより、米国内で全ての音楽ライブイベントが実質的に開催できなくなった。

2020年秋に予定されていた『Home Video』のリリースは、延期された。それから8カ月かけて、ルーシーはエンジニアのショーン・エヴァレット(ハイム、ザ・キラーズ、ウィーザーなど)とリモートでアルバムのミックス作業を続けた。リリース日は「かなり先に延ばされたけれど、私は腹を立てたりしなかった」と彼女は言う。「むしろ、ちゃんとした作品に仕上げる時間ができて嬉しかった」

インタビューを行った2021年春、ルーシーはワクチン接種を受けている最中で、元の生活に戻るのを心待ちにしていた。「出かけて行って、友だちや家族皆をハグしたい」とルーシーは言う。「私はクラブへ行ったりしない人間だけれど、今は熱気ムンムンでいかがわしいクラブへ行って踊りたい気分。ショッピングも嫌いだけれど、ショッピングモールへ行って試着したりスムージーを飲みたい」

2021年秋、ルーシーはついにステージへ戻って来る。全米各地を巡るツアーで彼女は初めて、『Home Video』からの楽曲をオーディエンスに披露するのだ。まずは9月に故郷のリッチモンドで、ボーイジーニアスのバンドメイトでもあるジュリアン・ベイカーと2日間の公演を行う。2021年の最も激しいカタルシス的なパフォーマンスになることは間違いない。もう彼女たちを「暗い」などとは呼べない。

「他にもいろいろな思いがある」とルーシーは言う。「例えば、『Thumbs』を聴くのが辛いと言う人もいると思う。でも曲に登場する友だちは私に、”この曲は、私が辛い時にあなたが側にいてくれたという事実を歌っている。だから、暗く悲しい歌でも何でもないわ”と言ってくれたの。」

少しの沈黙の後、ルーシーは口を開いた。「彼女にそう言われた時は、泣いてしまったわ。でも悲しいからではなく、感謝の涙よ」

From Rolling Stone US.





ルーシー・ダッカス
『Home Video』
発売中
日本盤CDには貴重な初期音源「No Scholar (2014)」をボーナストラックとして追加収録
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11810

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