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拷問以上の地獄 米刑務所で大問題になった「恐怖の独房」

Rolling Stone Japan / 2021年7月1日 6時45分

1996年、米テキサス州ハンツビルにある老人受刑囚専用棟エステル棟にて。危険人物とみなされ、独房に収監された受刑囚(Photo by Ed Kashi/VII/Redux)

独房に入れられて数週間後、トゥンク・ウラズ受刑囚はすっかり平静を失っていた。叫び声を上げ、壁に頭を打ち付け始めた。震える手でシーツを結び、首をくくる輪を作ったが、天井にはどこにも引っ掛ける場所がなかった。

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「昼と夜が逆転し、しばらくすると昼も夜も関係なくなって、意識の中をさまよっていた」。囚人支援活動家のジャックことジャクリーン・ウィリアムズ氏に宛てた手紙で、ウラズはこう書いた。「俺はもうすぐ死ぬんだ、この檻に閉じ込められたまま死んでいくんだ、と思ったのを覚えている」

ウィリアムズ氏宛に手紙を書いたもう一人の受刑囚、ジョディ・ヒルはミシガン州矯正局から虐待とネグレクトを受けたと感じている。矯正局は男性受刑囚の施設に入れられたトランスジェンダーの女性に適切な保護をしなかった、と彼女は言う。「私の存在すら認めようとしない制度と私は戦っているの」と。彼女は2001年以来収監されているが、5年間独房に入れられたことがある。出てきたときには自分の歳もわからなくなっていた。


精神的異常をきたす囚人たち

「周りからは、扉の向こうで卑猥な叫び声が1日中あちこちから聞こえてきた」と、手紙の中でヒルはこう記している。「独房の中の机を一晩中叩いたり、空腹や鬱を訴えたり。時にはそのせいで、自分の排泄物で独房の壁に絵を描いたり何度も壁に頭を叩きつけたりする人もいる。外からの刺激がないために、理性が蝕まれていくのを必死で食い止めようとするのよ」

「これから俺が語ることは、本当はあまり人に言いたくない」と書いているのは、ミシガン州イオニア郡矯正施設のアンソニー・マクゴーワン受刑囚だ。「(隔離棟の)中にいた間、首を吊る寸前まで、俺は自分の排泄物で壁に文字を書いていた」

ウィリアムズ氏は受刑囚と直接交流する支援団体、AFSCミシガン刑事司法プログラムに5年間勤務している。彼女は手紙で数人の受刑囚と関係を築くうちに、一般囚人から隔絶された囚人の生活がどんなものか分かってきた。「隔離された人々(との会話)から、いくつものパターンがあることに気づきました――他にも気づいたことがあります。筆跡の変化や妄想の症状などです」と彼女は言う。「内部の状態について知れば知るほど、隔絶の実態がよく分かってきました。ほぼ合法的な拷問に近い、社会的つながりと感覚の剥奪です」。彼女はこれらの手紙をまとめ、最終的には独房についての生々しい証言をまとめたWEBサイト「Silenced: Voices from Solitary in Michigan(口を閉ざされた者たち:ミシガン州の独房の声)」を立ち上げた。本質的に、ほぼ秘密裏に行なわれがちな慣習を暴くのが目的だ。サイトには約100通の手紙が掲載され、幻覚から自殺願望まで、囚人たちが体験した恐怖体験の種類別に検索できるようになっている。

「彼らは、自分たちの声を聞いてほしいんです」とウィリアムズ氏。最初に囚人たちの話を集め出したころは、彼らが看守から罰せられるのではないかと心配だったそうだ。だが、受刑囚たちは気にしていないことが分かった。「みんなこう言うんです、『もうこれ以上悪いことなど起こりっこない、役に立つことのほうが報復の危険よりも大事だ』って」とウィリアムズ氏。「彼らにとって、これ以上事態は悪くなりようがなかったんです」



WEBサイトに手紙が掲載されたジャスティン・ギブソン、ジョナサン・ランカスター、ジョディ・ヒル(Courtesy of Silenced.in)

独房が心身に及ぼす影響は、2世紀前からはっきりしている。1892年、ペンシルベニア州のクエーカー教徒は初の独房専用刑務所を開設した。囚人に内省を促すことが期待されたが、それどころか精神を病んだり、自殺を図る囚人が多く出た。13年後、チャールズ・ディケンズは初めてアメリカを訪問。実際に刑務所を目の当たりにし、独房の実態に衝撃を受け、「生きたまま埋められたも同然だ」と表現した。

それから1世紀半、数々の国際協定が隔離は非人道的だと明文化している。2011年には拷問に関する国連特別報告者を務めるフアン・メンデス氏――彼自身も1970年代にアルゼンチンの軍独裁政権により投獄され、1年以上拷問を受けた――が、15日以上の隔離は拷問に該当すると宣言した。

「独房への収監は耐え難いものであることは知られている。隔離のような精神的ストレス要因は、まさしく身体的拷問と同じ臨床的苦悩を生みかねない」。これはジェフリー・L・メッツナーとジェイミー・フェルネリンが米国精神医学アカデミー・ジャーナルに発表した、懲罰的隔離措置への医師の関与に対する医学倫理についての論文の一節だ。


ミシガン州で1日20時間以上隔離された州立刑務所の囚人は3200人

Citizens for Prison Reformの報告書によれば、ミシガン州で1日20時間以上隔離された州立刑務所の囚人は3200人にのぼる。リチャード・ゴダールは47年間隔離されている。ジェイムズ・ミラーは約36年間、ダニエル・ヘンリーは12年間、他の囚人から隔離された。クラレンス・ヘンダロンは67歳の時に独房に入れられたが、以来重度の関節痛で車いす生活を送っている。伝え聞くところでは、数カ月も外に出してもらえていないらしい。「単なる拷問だ」と言うのはマリオ・リー受刑囚、通称アケシ。2005年から収監され、現在はイオニア矯正施設で服役中だ。

ミシガン州矯正局のクリス・ゴーツ広報担当者は、矯正局が定期的に囚人を何年も独房に収監していることを否定した(WEBサイトSilencedに掲載された個々の囚人の所在についてコメントを求めたところ、ミシガン州情報開示室に転送された。返答があり次第、追って報告する)。「今年2月の段階で、(管理隔離のもとにおかれていたのは)1名でした。3万2000人の中でたった1人ですよ」とゴーツ氏。だが、全米で展開するUnlock the Box運動の活動戦略担当者ジェシカ・サンドヴァル氏いわく、ミシガン州矯正局は様々な専門用語で隔離を分類して、実際の人数をごまかしていると言う。例えば精神疾患棟、観察棟、一時隔離棟、そして代替隔離、通称STARTプログラムだ。

最近STARTプログラムに移されたアケシは、分類は無意味だと言う。「このプログラムは一般囚人向けに分類されているが、実際は管理(隔離)だ。唯一の違いは、週に1回1時間のグループセラピーに参加しなくちゃいけないってだけさ」と彼は言う。「その一方で、独房との共通点は山のようにある。屋外でのレクリエーションは週5日、1時間だけ。あとはコンクリートの床と金網の檻に囲まれた独房にぶち込まれる」。彼の話では、宗教的集会も含む団体活動には一切参加が認められていない。「1日23時間、あるいは24時間、ずっと独房の中。どう考えても矯正局が言うような一般囚人プログラムじゃないし、ましてや隔離に代わる代替措置でもない」


最も重い罰は社会から完全に孤立させること

「社会が(つまり人間が)人間に対して与えられ得るもっとも重い罰は、俺たちを追放して生きたまま墓に入れること――さもなくば、社会から完全に孤立させて感覚を奪うこと」。 2020年、アケシはミシガン州イオニア郡のイオニア矯正施設からこのような手紙を書いた。「精神的にも身体的にも、終わりのない拷問だ」

「専門用語でシステムを外から見えにくくしているんです。こうした婉曲的な表現は、どれも実質的には独房です」とサンドヴァル氏。睡眠時間よりも長く囚人を強制隔離した場合、すべて独房と定義されるべきだ、と彼女は言う(この件に関してゴーツ氏は知らないとローリングストーン誌に答え、矯正局の情報開示室に問い合わせを転送した)。ミシガン州矯正局の統計では、管理隔離または長期隔離に置かれている囚人は835人、短期の罰として懲罰的隔離に置かれているのは130人。人種の内訳は明白、長期隔離に置かれた囚人の70%が黒人だ。

囚人たちの話は驚くほど一貫している。みな幻覚や妄想、自殺願望など、隔離が原因の重度の精神疾患を経験している。ある囚人は、狭い部屋で長いこと宙を見つめ続けたために視力を失ったと報告している。ウィリアムズ氏の話では、別の囚人は大声で電話していた。普通のトーンでの話し方を忘れてしまったのだ。

隔離されているものは「極悪中の極悪人」――他から引き離しておかなければ大惨事を引き起こすハンニバル・レクターではない、とウィリアムズ氏は指摘する。囚人たちは理由などお構いなく、時には理由すらなく独房にぶち込まれる。完全に看守の気まぐれだ、と彼女は主張する。「ある男性は、水の入ったグラスを落としたせいで隔離棟に送られました」(ミシガン州矯正局の広報担当者ゴーツ氏は、看守が正式な手続きや正当な理由なしで囚人を独房に入れることはない、と否定した)。

さらにウィリアムズ氏は、多くの施設が地方に置かれている点を指摘する。町の住人はほぼ白人だけ、場合によっては刑務所が主要産業だったりする。「黒人を完全に隔絶された場所へ連れて行くんです。黒人の囚人で生きながらえている町に」

「北に行けば行くほど……50年代60年代の南部のようになってくる」とは、アンドラウス・マクラウド受刑囚の手紙の一節。「ミシガン州矯正局のユニフォームを着たKKKだ」と、アンソニー・リチャードソン受刑囚も書いている。「誰も見ていないところで、奴らは憎悪行為を行っている」


Jody Hill/Silenced.in


3週間で体重が26%も減少した

2019年2月、不動産業者のダニエル・ダンさんは38歳の弟のジョナサン・ランカスター受刑囚と面会したが、弟は終始小声で話していた。「弟の声は以前と違っていました。明らかに精神疾患を患っていました」と、彼女はローリングストーン誌に語った。ランカスターは他の囚人と諍いを起こしたため独房に入れられ、徐々に妄想に陥っていった。「独房にガスが送り込まれているとか、食事に毒が入れられているとか言っていました。私は『大丈夫? ちょっとおかしな口ぶりだけど』と言いいました」 ランカスターは黙ったままだったという。「すると弟はまた小声で、『やつらに殺される』と言ったんです」

ランカスターの体重が落ち、常軌を逸した行動を続けても――姉いわく、彼は頭語失調症をはじめ様々な精神疾患を患っていた――刑務所職員はランカスターに適切な治療を受けさせなかった、と姉は主張している。彼は幻覚を見たり、胎児の姿勢でうずくまったりするようになり、水も食事も拒んだ。デトロイトフリープレス紙の報道によれば、彼は3週間で体重が26%(51ポンド)も減少した、と訴状には書かれている。

「職員ですら、弟が独房に入れられた理由が分かっていませんでした」とダンさん。彼女は弟に適切な治療を行うよう職員に懇願したが、「身体上は問題ない」と言われたという。2019年3月8日、彼はペッパースプレーをかけられて観察室に入れられたが、訴状によれば水は与えられなかった。3月11日、病院での診察が認められた。その日の朝、彼は拘束椅子に縛り付けられた状態で独房に置き去りにされた。12時50分、身動きしていないのがわかり、のちに死亡が宣告された(ランカスターの遺族は過失致死でミシガン州矯正局職員を訴えている。ゴーツ氏は係争中の件についてコメントを控えた)。

「弟はひどい拷問を受けていました」とダンさんは目に涙を浮かべながらこう言った。「彼らは弟を殴っていたんです。身体中に痣がありました。反応がないと、ペッパースプレーをかけられ、殴られました。彼らは文字通り、弟が虐げられ、死んでいくのを何もせず見ていたんです」。母親は精神病棟に入院した。「それどころか母も殺した。母親はとても苦しんでいます」

「残酷です、弟を排泄物の中で死なせ、こんな苦しみを味合わせるなんて」と、ダンさんは弟についてこう語った。


独房で過ごした12年間

独房で生き延びること自体も残酷なケースがある。ダニエル・ヘンリー受刑囚は独房で10年以上過ごした。本人いわく、二度と出てこれないと言われたそうだ。「イオニア矯正施設での独房生活は長い12年間だった。その間、人間の暗い一面をいやというほど思い知った。責任追及や監視がゆきとどかないと、人間はこれほど残酷になれるんだ」と、ウィリアムズ氏に宛てた手紙の中でヘンリー受刑囚はこう書いている。「自分のこともよく分かった。ここやここ以外で出会った大勢の人たちから、隣にいる人間の痛みや苦しみに同調することを学んだ」

「他の国々では、アメリカのように独房を採用していない。ましてや、市民をこんなに長期間収監したりしない。将来、刑事司法制度の外で暮らす希望は事実上奪われた」とヘンリー受刑囚は付け加えた。

彼を含む他の囚人は、約50年独房生活を送っているリチャード・ゴダール受刑囚を心配している。「あの男は、俺が今まであった中でもっとも親切で、優しくて、腰の低い人間だ。明らかに、彼がこれ以上自分自身やミシガン州矯正局に迷惑をかけることはない」とヘンリー受刑囚は言う。「どうやら奴らは、俺たちを狭い空間に何年も閉じ込めるだけじゃ飽き足らず、できるだけ苦しめたいようだ」

ウィリアムズ氏は刑務所内の状況に対する怒りを行動に変えてほしい、と考えている。WEBサイトには「Take Action(行動を起こそう)」というページがあり、彼らの体験談を広めたり、ミシガン州のグレッチェン・ウィットマー州知事をはじめとする政治家に働きかけたりするよう呼びかけている。

「民衆からの圧力で、ミシガン州矯正局も大問題が起きていること認め、改善に腰を上げるだろうと期待しています」と彼女はローリングストーン誌に語った。

彼女は議員たちに、行動を起こさなかったがゆえの惨状を実際に自分の目で見てほしい、と願っている。「議員の皆さんには7月か8月に刑務所を訪問していただきたいですね。室内の温度が37度を超える中、独房の中に入って扉を閉め、どのぐらい耐えられるか試してみてほしいです」

【関連記事】米国最大の女子刑務所、その実態をレポート

from Rolling Stone US

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