サイバーセキュリティの開発者から国際指名手配犯になった奇人、ジョン・マカフィーの生涯
Rolling Stone Japan / 2021年6月30日 9時15分
ジョン・マカフィーは天才だった。それと同時に、犯罪者で、ガンマニア、殺人の容疑者でもあり、妄想の中にいるヒットマンからの狙撃から身を守るために窓際にベッドのマットレスを立てかけ、その汚れた手で朝のテキーラ・サンライズを飲むのが好きな男でもあった。大統領選に立候補しようとしたこともある。そして2021年6月23日、人生を終えた。
マカフィー氏はバルセロナの拘置所で自殺しているのが見つかった。当時75歳だった。スペインの裁判所により、疑わしい仮想通貨ベンチャーに金を集める詐欺を働いたとして、アメリカへの強制送還が決められたすぐ直後のことだった。彼の死は驚きだったが、多くのアメリカ人にパラノイア(偏執病)を身近に感じさせた男として、その不名誉な最後は予想通りだったとも言える。
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2015年にメンズ・ジャーナル誌に掲載した記事の執筆のため、テネシー州レキシントンにあったマカフィー氏の自宅に取材した際、私はその片鱗を感じた。彼は手足を泥まみれにして、自分がメキシカン・マフィアのシナロア・カルテルに追われているという証拠を探し出そうとしていた。彼がついに見つけたと言わんばかりに掘り出したワイヤーは、ガス管の接続部だった。辺りに捨てられていたクリームチーズのパッケージを指差し、「これはカルテルのスパイの特徴だ。あいつらはクリームチーズしか食べないんだ。多分タンパク質を補給してるんだろう」と、言い放った。
この危機的状況を目の当たりにして、「戦うか逃げるか」反応どころか「逃げるしかない」反応が私の中に発された。だが、なんとかしてその場に留まることを選択した。
マカフィー氏が70歳を迎える頃までの経歴は次のようなものだった。プログラマーとしてロッキードやNASAで働いたのち、80年代になり、まだハッカーという言葉すら存在しなかったような時代にサイバーセキュリティ会社を立ち上げ、「コンピュータウイルス」の定義が生まれるより前にアンチウイルスプログラムを作り上げた。
こうして巨万の富を築いた彼だが、同時に凄まじいレベルでのパラノイアの症状を見せるようにもなっていた。そしてそのパラノイア症状がついに彼の人格を圧倒し始めた。マカフィー氏は、コンピュータウイルス対策の移動ユニットとしてキャンピングカーを購入し、セキュリティ上の危機にある企業の駐車場にまるで救急車のように駆けつけていた。また、彼はミケランジェロ・ウイルスや2000年問題に関して終末の日理論を主張していたが、そのいずれも実際には大きな問題にはならなかった。
21世紀になり、マカフィー氏の様子がおかしくなり始めた。自社の持株を売却し、数年後にはYouTubeにマカフィー社製のアンチウイルスプログラムをどのようにアンインストールするか自ら語った映像を投稿し話題になった。ハワイのモロカイ島に家を買い、彼が自分の財産を分譲マンションに費やしたという噂を否定した人物を、勝手に違法薬物の密売人だと決めつけ、その自宅を特定するために新聞に広告を出した。次はニューメキシコへ引っ越し、峡谷を飛ぶことのできる軽量な航空機を発明した。このベンチャーは、彼の甥っ子と他の乗客が事故死したことによって幕を閉じた。マカフィー氏は520万ドルの支払命令を無視していたようだが、彼はこれをカルテルの仕業だと主張していた。
彼のカルテルへの執着とも呼ぶべき性質は、もはや彼を構成する要素の核になっており、4日間を共に過ごした後でもそれを理解するのは難しかった。マカフィー本人によると、数年前にベリーズに引っ越してからは、若い女を侍らせながらカルテルの活動を政府に報告していたとのことだった。実際のところ、彼は問題を抱えた若い女性に囲まれながら、隠れて過ごしていたようだ。その後、彼の隣人が、彼との口論の後死んでいるのが発見された。
ベリーズ政府はこの殺人事件についてマカフィー氏に事情を伺おうとしたが、彼は対応せず、ヴァイス誌の仲間とグアテマラへ移動したが、仲間が暗号化されていない位置情報をSNS上に投稿してしまったことにより発見された。最終的にグアテマラの拘置所でいくらか過ごすことになったが、ベリーズに戻ることはなかった。
マカフィー氏は何か悪意に満ちたような様子を見せる男だった。私が彼と面会した時、彼はフューチャー・テンスという新しい会社で、携帯電話が持ち主に対するスパイツールとなるのを防ぐためのプログラムを作る仕事をしていたようだ。今から6年前の話だが、このことはマカフィー氏をより出鱈目なものにしていた。どうしたら自分の携帯電話が自分に牙をむくのだろう。ラスベガスで行われたコンピュータ・セキュリティのオタクたちが集まる会議でマカフィー氏はデモンストレーションを行なっていた。
彼はまず、観客の誰かの電話番号になりすます方法を説明した。そして約20分の間、不正なプログラムがフラッシュライトのアプリの皮を被り、カメラアプリを起動させる様子を見せた。ステージ上でマカフィー氏のアシスタントがアプリをダウンロードすると、マカフィー氏はすぐにそのアシスタントの写真データを受け取っていた。マカフィー氏はGooglePlay上に無料でそのアプリをアップロードしてみせ、フラッシュライトと偽装されたそのアプリがダウンロードされればすぐさまその携帯電話の写真データにアクセスできるということを勝ち誇るかのように説明し、「私たちの携帯電話は今や地球上で一番素晴らしいスパイツールになってしまった」とドラマチックに語った。
その数日後テネシーに戻ったマカフィー氏は、私がアポイントを取った時間に三時間遅れて姿を見せた。彼は、窮屈そうなローブだけを身に纏い、私がこれまで見た中で最も真っ赤に充血した目をしていた。彼は一晩中四人の男たちと戦っていたと言った。その日はすでに少し落ち着いた様子で、渋々ながらも中に入れてくれた。家中の扉という扉が施錠され、スナイパーからの狙撃を防ぐために、あらゆる窓がベッドのマットレスで塞がれていた。私をリビングに置いてシャワーを浴びに行ったが、机には大量のピストルと自動小銃、その弾薬が、ディナーパーティーの机に置かれる食器のように整然と並べられていた。
マカフィーが戻ってくると、妻を呼び出し、どこかに隠したウォッカを見つけてテキーラ・サンライズを作るように言った。私は、彼のアメリカ空軍兵士だった父親は彼の人生についてどう考えているだろうかと尋ねた。マカフィー氏は「誇りに思ってるんじゃないかな。でも父はアルコール中毒で口汚い男だったから、もっと早く自殺したほうが良かったと思う」とフラフラしながら言った。続けて私は、「あなたのパラノイアが酷すぎて、アメリカ中がもっとパラノイアになるべきだと思っているんじゃないか?」と尋ねた。マカフィーは「たぶん合っているよ。でも君も私のこれまでの人生を過ごしていれば間違いなくパラノイアになってる。アメリカ中が催眠状態になっているんだ。現実を無視することでパラノイアから逃避しようとしてるんだよ。私のパラノイアは強烈だけど、現実も同じようなものだ」と言った。
翌日私はテネシーを後にし、マカフィー氏は預言者ではなく、ただのパラノイドだと確信を持ちながら当時の記事を書いた。最後にマカフィー氏から連絡があったのはそれから6ヶ月後のことだった。食料品を買いに行く最中、突然知らない番号から電話が来た。それがマカフィー氏だった。彼は「大統領選に立候補しようと思っているんだが、CIAと関係がない良い記者を知らないか?」と言っていた。後でかけ直すと言い、結局それ以降連絡はしなかった。
これらの出来事は今から5年前の話になる。マカフィー氏はリバタリアン党から二度大統領選の候補者として出馬し、二度とも敗北した。その後は仮想通貨をこの世で盗むことのできない唯一の金だとして推奨し始めた。そして個人の仮想通貨ベンチャーを支援し、ついにはアメリカの検察に風説の流布を計画したとして起訴された。彼は小さな船でアメリカから逃亡し、イデオロギー上の理由で今後はアメリカに税を納めないと宣言した。最終的にはスペイン当局に確保され、先日生涯を終えるまでスペインの拘置所で過ごしていたが、アメリカへ戻れば、刑務所暮らしは避けられず、帰国しようという意思は一切見せなかったようだ。
彼の死後すぐに、自身のInstagramのアカウント上にQアノン(アメリカの極右の陰謀論)を称える意味か、アルファベットのQの文字が投稿されたが、Instagram側にすぐさま削除されたようだ。アメリカについてはどうだろう? 自分の携帯電話やラップトップが持ち主に反抗するとしたら、その人生がめちゃくちゃになるのは間違いない。マカフィー氏の予想の多くは正しかったことが分かってきた。今やアメリカは、なんの根拠にも依らず、共和党員たちが前回の大統領選は不正だと主張するような国になっている。マカフィー氏のパラノイドの国アメリカというヴィジョンは現実になった。
マカフィー氏は予言者だったのか、ただの扇動者だったのか、私にはわからない。
From:John McAfee and the Birth of Modern American Paranoia
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