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ラウ・アレハンドロがもたらす新たな多様性 ポスト・レゲトンへと突入するラテン音楽の今

Rolling Stone Japan / 2021年7月6日 19時30分

ラウ・アレハンドロ(Photo by 90th Shooter)

ラテンポップの新星、ラウ・アレハンドロの最新アルバム『VICE VERSA』が旋風を巻き起こしている。彼やカリ・ウチスによる最近のヒット曲は、メインストリームにおけるラテンポップのサウンドが、レゲトンの長い影から抜け出し、緩やかに変化しだしたことを示唆している。新展開を迎えたシーンの最前線を米ローリングストーン誌が考察。最近すっかりラウに夢中だという若林恵(黒鳥社)に記事を翻訳してもらった。

2021年3月、プエルトリコ出身の歌手ラウ・アレハンドロは「Todo De Ti」を初めてレーベルの担当者たちに聴かせた。レゲトンのビートは、2010年代にスペイン語ポップスを世界化するジェット燃料の役割を果たしたが、アレハンドロの新曲のドラムはフラットでスクエアだった。2拍目と4拍目にアクセントが置かれ、ダンスフロアにおける殺傷力をレゲトンに与えている潜り込むようなシンコペーションはどこにもなかった。さらに「Todo De Ti」は、地元のバーの「80sナイト」にでもうってつけな泡立つようなシンセの音色で幕を開ける。

アレハンドロをチャート上位へと押し上げた「Fantasias」「Reloj」のメロディックなレゲトンにも似ていない。この曲は「NUニューウェイブ」だった。「Todo De Ti」を初めて聴いたアレハンドロのチームメンバーが驚いたのも無理はない。所属レーベル「Sony Latin」のA&R/マーケティング部門シニア・マネージャーのジョン・エディ・ペレスは語る。「ラウは『こういう曲をつくってみたんだけど、まだ変えられるかもしれないし、うまくいかないことも考えて別の曲も用意してあるよ』といった感じでした。ですから『Todo De Ti』はアルバムに収録されない可能性すらあったのです。私たちは『サポートするよ』と答えたものの、別の曲を用意してもいました。こう言ってはなんですが、この曲がどう受け止められるのか、自信がもてなかったんです」

不安は完全なる杞憂に終わった。「Todo De Ti」は轟くような商業的成功を収め、Spotifyの6月のグローバルチャートでトップ5入りを果たし、米国でも大きな伸びを示した。「あらゆる期待をはるかに凌いで、瞬く間にグローバル化しました」。ペレスは嬉しそうに語る。



アレハンドロの最新アルバム『VICE VERSA』に収録されたこの変化球のパワーポップスを、ラテン音楽業界のアーティストやエグゼクティブは単なるヒット以上のものと捉えている。「時代ごとに新たなトレンドの基準をつくるアーティストが現れます」。ペレスは言う。「ラウがやったのは、まさにそれです」。

アレハンドロと長年の付き合いがあり、共作者として『VICE VERSA』で4曲に参加したアルヴァロ・ディアスは語る。「『Todo De Ti』は、英語圏においてはただのポップソングかもしれないけど、スペイン語圏ではそうじゃない。アレハンドロはこのジャンルで誰もやったことのないことをやり、誰も収めたことのないような成功を収めた」。これによって他のアーティストも「やりたいことが何でもできるようになったんだ」。



メインストリームのラテン音楽に長い影を落とすレゲトンの影響が緩み始めていたさなかに「Todo De Ti」は放たれた。カリ・ウチスの 「Telepatía」は、レゲトンというよりは涼やかな80sファンクだったにも関わらず、今週のラテンエアプレイチャートで1位を獲得した。「みんなラウとカリの成功を喜んでいます」。Interscope Records副社長のニール・セルーシは言う。「レゲトンじゃない曲を出しても何も起こらない、という状態から、少なくともヒットのチャンスはある、という状態になったのですから」。

レゲトンブームがもたらした画一化

2010年代前半に起きたレゲトン旋風は当初大歓迎された。「祝福と言ってもいいほどでした」とセルーシは言う。「なぜならレゲトンがラテン諸国の若者たちをひとつにしたからです」。結果、ヒットの規模はかつてないほどの大きさとなった。「休眠状態にあったアーティストたちも大々的にカムバックを果たしました。カルロス・ヴィヴェス、リッキー(・マーティン)、シャキーラ、マルーマ、そしてルイス・フォンシ。レゲトンがキャリアを再起動させたのです」。




それぞれのスタイルやサクセスストーリーを持つ幾多の地域に分かれていた市場は、突然レゲトンを玉座に抱くひとつの王国へと統合された。「あらゆる国のチャートが開放され、トップ10はレゲトンに占拠されました。そして、どの国でも同じ顔ぶれのアーティストが並ぶことになったのです」。セルーシは語る。

言うまでもなく、ポピュラー音楽のある様式が次第に画一化していくことを避けることはできない。ギターループが多用された最近のヒップホップ、ドレイクのモノマネに長年執着するR&Bシンガー、あるいは、猫も杓子もトラヴィス・バーカーをプロデューサーに迎えたがる若く挑発的ロックアーティストたちを思い起こしてみればいい。あるジャンルがポップミュージックのピラミッドの頂点に立つとき、他のジャンルのアーティストたちは両手を握りしめ、業界の熾烈な争いの中でチャンスが奪われていくのを不安とともに見守ることとなる。

とはいえ「ラテンミュージック」はジャンルではない。それは、アメリカの音楽業界が使う、呆れるほどにざっくりした概念であって、そこではバンダからトラップのいたる間の多種多様な音楽スタイルはすべて捨象される。ラテンミュージックをレゲトンと同義とすることは、その他の注目すべきパースペクティブやリズム、メロディを酸素不足に陥らせ、死にいたらしめる危機をもたらす。マネージャーのファン・パスは2018年にローリングストーン誌にこう語っている。「すべてがモノカルチャーになるとき、アーティストの創造性は危機に瀕する」。

何百万もの再生回数を誇るアーティストのなかには、1曲か2曲をレゲトンの覇権を無視することに費やすものもいる。オズナはベストアルバムで説得的なクンビア・フュージョンを披露し、J・バルヴィンはキューバ音楽をサンプリングする一方で、アフロビートにも挑んだ。「Toda」のリミックスや、パロマ・マミのブレイクをもたらしたシングルにはR&Bがゆらめき立っていた。バッド・バニーは、最初の2枚のアルバムでトラップからスラッシュ・ロックへとアグレッシブなジャンル・ピボットを披露した。こうした曲はときに単なる賑やかし以上の効果をもたらし、レゲトンの向こうに広がる世界に踏み出す意思を示すものとなった。



けれどもコマーシャルなヒットシングルとなると、そこにバラエティを見出すことは途端に困難になる(唯一の例外は、J・バルヴィンとニッキー・ジャムによる至高のヒット曲「X」で、これはスリナム生まれでオランダを拠点とするプロデューサーデュオ「Afro Bros」を共同プロデュースに迎えてアフロビートやハウス・ミュージックを取り入れた艶やかなフュージョンだった)。伝統的なフラメンコをエレクトロニック・ミュージックとR&Bのフレームに接続させ、独自のハイブリッドを生み出したロザリアのようやシンガーでさえ、商業的な成功を収めるためには「Con Altura」のようなド直球のレゲトンをつくらねばならなかった。



「今のラテン音楽は、みんな同じに聴こえる」。スペイン語ポップス史における最も有名なアーティストのひとり、エドゥアルド・"ビジタンテ"・カブラは、2018年にローリングストーン誌にそう語っている。「全部同じハーモニー、同じアレンジ、同じキーじゃないか」。

レゲトン作品で知られるプロデューサーたちも、ヒットを生むためには個性を犠牲にしなくてはならないことに気付いている。レゲトンのベテランプロデューサーで現在あらゆるジャンルで活躍する敏腕ビートメーカー、マルコ・"タイニー"・マシスは言う。「『すでにうまくいくことがわかっていることをやろう。尖ったことはやめておこう。どうせリスナーはわからないんだし』と、アーティストやレーベルの決定権者たちが恐れを示した瞬間、彼らが私たちプロデューサーに何を要求してくるかは、言われなくてもわかります」。

ラウ・アレハンドロがもたらす多様性

しかし、レゲトンの支配があまりに長く続いたことで、若いアーティストたちにとってのレゲトンは、親の世代の音楽とみなされるようになった。彼らの創造力は必然的に別のところに向かうことになる。「最近、私のスタジオに来て音楽を聴かせてくれる若者たちは、レゲトンと言うと、『ああ、父さんがウィシン&ヤンデルをよく聴いていたね』といった感じなんです」とセルーシは語る。「彼らは、もちろんレゲトンをリスペクトしていますが、『たしかにそれを聴いて育ったけど、やりたいことは別だから』と言います。ラウは、出会ったときからクリス・ブラウンやブルーノ・マーズになりたがっていました」


ラウ・アレハンドロ

アレハンドロは何年も前から『VICE VERSA』のような作品を作ることを計画していたと、長年の友人で新作のプロデューサーでもあるケイレブ・キャロウェイは言う。2020年の前作『Afrodisíaco』は「彼にとっての初めてのビッグプロジェクトだったから、あえて商業的なアプローチを取った」とキャロウェイは語る(『Afrodisíaco』の収録曲「Química」におけるレゲトンとハウスミュージックの融合は新作とのつながりを示唆するヒントとなっている)。「次のアルバムは、もっと実験的なものにしたかった」とキャロウェイは言う。『VICE VERSA』ではレゲトンやトラップに加え、パワーポップ、ニューウェーブ、ドラムンベース、ハウスミュージック、ブラジルのバイレ・ファンクなどが取り入れられた。

もっとやれという指令は、しばしばアレハンドロ自身から届いた。マルコ・"タイニー"・マシスは、メキシコのトゥルムで、オルタナティブ・バンド「Lara Project」を率いるプロデューサー、マヌエル・ララと共に作曲を行っていたときにアレハンドロからのメッセージを受け取ったと回想する。即座に3つのデモを作成し、そのうちのひとつが「Desenfocao」となった。この内省的なロックトラックを、アレハンドロは苦痛に満ちた物語の背景として使用した。歌い手は、忘れられない恋の思い出から逃れようと、果てしない夜遊びの奔流に身を投じる。彼はスペイン語で歌う。”ベッドは満杯だ/おれは空っぽだ”。



アレハンドロは「¿Cuando Fue? 」と 「Brazilera」でも同様の閃光を放つ。タイニーは数年前から「¿Cuándo Fue?」のビートに取り組み始めていたが、アレハンドロはこのトラックを、高速で激越なドラムンベースへと押し広げるべきだと考えた。出来上がったトラックは、轟音で飛び去った果てに甘いシロップのようなストリングスへと着地して幕を閉じる。



キャロウェイは『VICE VERSA』に収録されているいくつかの際立った曲が、「違ったことをやれる」ことをラテン業界の他のアーティストに向けて証明することを期待するが、一夜にしてメインストリームに大きな変化がもたらされることはないだろう。「いても立ってもいられない気持ちになります。変化が明日にでも起きれば多くのクールなアーティストに新たなチャンスがもたらされます」。セルーシは言う。「にも関わらず、変化は遅いのです」。

理由のひとつは、ある程度の商業的成功を収めてからでないと、実験するゆとりが与えられないことにある。現状においてそれは、まずレゲトンの曲から始めるしかないことを意味する。「ここまで来るのは大変だった」。キャロウェイは言う。「ほんとに何年もかかったよ」。加えて、比較的自由度の高いアーティストであっても「やってみてうまくいかないことも多い」のだとキャロウェイは語る。「あるいは、仮にうまくいったとしても、それが一風変わったものであれば、レーベルは『やっぱりリスクを取るのはやめておこう』となってしまう」。

いまのところこうした状況を変えようと望み、またそうすることを許されているプロデューサーや作曲家はほんのひと握りしかいない。アレハンドロは前作『Afrodisíaco』で、タイニー、ケイレブ・キャロウェイや、「Todo De Ti」を共同作曲・プロデュースしたMr. Nais Gaiを起用。タイニーとマヌエル・ララは、上述したカリ・ウチスの「Telepatía」にも参加している。

多くの障害にも関わらず、セルーシは変化を感じ始めてもいる。「トップ10のラインナップがどの国でも同じという状況から、ローカルなムーブメントへの回帰が起きています。今、アルゼンチンのトップ10はとてもユニークなものになっています。スペインやメキシコでも違ったものがちらほら出てきています」

「Todo De Ti」と「Telepatía」、そして1月にラテンラジオで1位を獲得した、カミロの眩しいクンビア「Vida de Rico」の成功は、間違いなく今後多くのアーティストが新たな領域へと踏み出すことを後押しするだろう。

「ラウにできるなら」と、ソロ作を準備中のアルヴァロ・ディアスは言う。「自分にだってできるはずだ」。

From Rolling Stone US.



ラウ・アレハンドロ
『VICE VERSA』
配信中
https://VA.lnk.to/rau_viceversa

【プロフィール】
■1994年生まれ、プエルトリコ出身、27歳、ラッパー、シンガー、ソングライター

■ギタリストの父親と、バッキング・ヴォーカリストの母親の影響で、エルヴィス・プレスリー、マイケル・ジャクソン、クリス・ブラウンなどの音楽に影響を受ける。また、アレハンドロと父親は長年マイアミやニューヨークに住んでおり、そこでR&Bやダンスホールといったジャンルからインスピレーションを受けていた。

■2014年にSoundCloudを通じて楽曲を発表し始め、2018年にはSony Music Latinが新たな音楽的才能の獲得を目指した音楽プロジェクト「Los Próximos」として選出される。このプロジェクトによって有名になり、その結果、オズナなどの著名アーティストが彼に注目し、コラボレーションに起用される。

■2017年、リード・アーティストとしての初のシングル「Toda」をリリース。2018年に同曲のリミックスがリリースされ、そのミュージック・ビデオはYouTubeで現在11億回以上の再生数を記録している。

■2019年にはニッキー・ジャムとのシングル「Que le dé」をリリース、さらに同年リリースしたファルーコとの楽曲「Fantasias」が全米ラテンチャートで12位にランクイン。チャートに20週留まり、これまでのアレハンドロの曲の中で最長期間となった。

■2020年11月13日、1stアルバム『Afrodisíaco』を発売

■2021年5月21日に配信となった最新シングル「Todo De Ti」(意味=あなたの全て)は、Spotifyグローバル・チャートで3週連続に渡って2位に留まり、ビルボードHOT100の45位にランクイン(2021年6月25日時点)。2021年5月末時点でTikTok史上3番目に再生された楽曲として、同プラットフォームで1億500万回以上の再生回数を記録。また、ミュージック・ビデオは、1週間で4,000万回動画再生され、YouTubeの世界トレンド・ミュージック・ビデオ3位にランクイン、現在までに1億8,000万回再生されている。

■2021年6月25日、「Todo De Ti」を収録した2ndアルバム『VICE VERSA|ヴァイス・ヴェルサ』(意味:逆でも同じ)を発売。

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