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食品まつりが語るダンス・ミュージックとやすらぎ感、道の駅とアジフライへの愛情

Rolling Stone Japan / 2021年7月8日 18時0分

食品まつり a.k.a foodman

名古屋在住のプロデューサー、食品まつり a.k.a foodmanがニューアルバム『Yasuragi Land』をリリースする。型破りなエレクトロニック・ミュージックが海外でも絶賛されている彼の新境地とは? 過去にはサウナへの愛情を熱く語った食品まつりに制作背景を明かしてもらった。聞き手は本作の日本盤ライナーノーツを執筆したimdkm。


―『Yasuragi Land』はHyperdubからのリリースです。意外な気もしたんですが、同レーベルのジュークやフットワークのシーンとのつながりを考えるとぴったりとも言える。リリースに至る経緯はどんな感じだったんでしょう。

食品まつり:最初、アルバムをつくっている段階ではリリース先が決まっていない状況でして。ちょうど去年の7月くらいからアルバムの制作をはじめていて、2カ月半くらいでアルバムの7割くらいが完成していました。そこでパッと、Hyperdubに送ってみたらどうかな、と。(レーベル主宰の)Kode9とは3~4年前から交流があって、UKでライブやってたら見に来てくれたり、Hyperdub15周年イベントに誘ってくれたり。アルバムの話をしたら聞いてくれるかもしれない。それで、デモがある程度完成したところで彼に送って、「これはおもしろいじゃん」という話になってリリースが決まりました。

コンセプトは前からあったんですけど、実際の制作はほんとにもう、それこそ3カ月でだいたい完成しました。「Ari Ari」っていうキックの入っていないハウスみたいな曲は4年くらいにできていた曲で、Electribeっていうサンプラーに音だけ入っていて。今回はそれをライブ録音して編集しました。Cafe OTOっていうUKのベニューがやっているTakurokuというレーベルがあって、そこからリリースした「SHIKAKU NO SEKAI」って曲も、ミックスをやり直して収録しています。



―コンセプト自体は前からあたためていたというお話でしたが、いつごろからですか。

食品まつり:音のコンセプト自体は10年以上前からうっすら思っていました。2000年代頭に路上で弾き語りをしていた時期がありまして、友達と弾き語りの途中にセッションになることがあったんです。友達がギターをじゃかじゃか鳴らして、僕が太鼓をぱかぱか叩いて、みたいな。ぜんぜん上手くもないセッションなんですけど、トランス感を個人的に感じて。この感じを打ち込みに変換したら面白いんじゃないかなっていうアイデアがずっとあって。いつかそれをかたちにしたいなと考えていて。それで、今回のアルバムをつくるにあたって、ギターとパーカッションをメインに使ってつくろう、と思ったんです。

道の駅とかフードコート(といった「地方都市」のコンセプト)に関しては、コロナでなかなかライブをやったりライブハウスに行くことが減ってきて。自分が住んでるところは名古屋の外れで、名古屋と隣の市の境目くらいのところなんですけど。そこらへんがなにもない、ザ・地方都市って感じのところで。そこらへんで遊び場所っていうのが近所のイオンのフードコートとかスーパー銭湯とか道の駅に行くくらいしか遊ぶところがなくて。実際にそこで去年感じたこととか、楽しかった気持ちを音にしてみたいな、っていうのもあって。

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―本作ではギターがフィーチャーされていることもあってか、メロディックな感じが強いなと思いました。メロディに対するアプローチをどうとったのかお聞きしたいです。

食品まつり:曲をつくる最初の段階で、リズムと上音とメロディのなかで言うと、メロディと上音を最初に打ち込むことが多くて。それを最初につくってからパーカッションとかリズムを入れる、みたいなケースが多いですね。今回は『Yasuragi Land』というタイトルだけに、やすらぎ感が欲しいなと思って、やさしめのメロディにしようかなとなんとなく思っていました。いままでの作品よりは、ほんわかやさしい感じがあると自分でも思います。

―ギターのサウンドはソフト音源を主に使ってらっしゃるんですよね。「Minsyuku」って最後の曲が個人的にお気に入りで何度も聞いているんですが、あのギターはサンプルですか?

食品まつり:あれはサンプルを入れて切り刻んで、いろいろビートにあわせていった感じで。カッティングのサンプルをぱっと入れて、ホーンのサンプルも入れて鳴らしたり。パーカッションもサンプルを切り刻んで配置しています。

ラストの曲ということで、切ない気持ちになる曲にしたいなと思ったんです。フードコートなんかいろいろ行って、最後に民宿に泊まるみたいな、アルバムのなかに流れがあって。楽しいんだけどこの旅が終わってしまう、そんなイメージでつくりました。

―アルバム全体である種のストーリーがあるんですね。

食品まつり:なんとなく、ふんわりと。そのために、コミカルでやさしい感じの曲もありつつ、シリアスなものもあいだに入れていきました。

リズムの快楽と「小躍り感」

―リズムも、ポリリズム的な快感が色濃く登場しているのが面白くて。ループ感で押し切るよりは、パーカッションごとの絡み合いが練られている感じがしました。制作のプロセスはどんなものでしたか。緻密に作曲的にやっていったのか、もっとジャムっぽくつくっていったのか。

食品まつり:今回はAbleton Liveっていうソフトをメインで使っています。このソフトにはセッションビューとアレンジメントビューというのがあって、セッションビューだとループを並べて、ライブ感ある感じで演奏できるモードなんです。いったんそれぞれのパートごとにループをつくったあと、セッションビューでひたすら流して、そこから展開をつくっていきました。何度も流しながらリアルタイムで音を抜いたりするのを繰り返して、あとで聴き返してちょっと編集したり。

―「Hoshikuzu Tenboudai」でのポリリズムであったり、「Parking Area」という曲のテンポ感が変わるような展開は、つくっているうちに即興的に思いつくんですか。

食品まつり:完全に、つくってるうちに思いついてという感じで。全体像が最初からあるっていうわけじゃなくて、最初になんとなく音を入れてみて、どんどん音を足してつくっていって、ある程度ループっぽくなった時点で、頭の中で「これはこうしていこうかな」と考え始める。いきあたりばったりでどんどん進んでいくようにつくっています。


Photo by Chad Imes

―今回の作品は、既存のダンス・ミュージックのフォーマットにがっつりのっかってるようなものではないですよね。ハウシーな感じの裏打ちのハットが入ったりはするんですけど。一方でリズムにフォーカスがあたっていることで、身体にはたらきかけてくる感じがすごくある。このアルバムも「ダンスミュージック」と言えるのではないかと思いました。

食品まつり:ダンスミュージックとして聴くのもぜんぜんありだなと思います。以前のアルバム、特に2016年の『Ez Minzoku』はダンスっていう感じはしなかったんですけど、ライブを何度も何度もやっていくうちに、小躍りしたくなる感じになったのかなって。ダンスミュージックを特に意識はしているつもりはないんですけど。

―小躍り感。

食品まつり:小躍り感ですね。わざわざ体をゆらすというよりは小躍りする感じ。



―Mad Decentから出た「ODOODO」であるとか、『DOUKUTSU』というEPでは、がっつり4つ打ちをやっていますよね。

食品まつり:EPに関しては、あんまりアルバムでやんなかったことをやろうかなと思っていて。去年出した『DOUKUTSU』はほんとうにオーソドックスなハウスも入っていて。ライブでやってる曲を入れてるかもしれないですね。ライブでは4つ打ちもやったりするので。EPにはそういう曲も入れてみて、反応をみるというか。自分がつくってみたものにどういう反応があるのか見てみたい。

「道の駅」と「桟橋」コラボについて 

―コラボレーションについてもお伺いしたいと思います。Bo NingenのTaigen KawabeさんとはKisekiというユニットをやっていますし、これまでにも楽曲を制作されています。去年もKisekiでシングルをリリースされていますよね。やっぱりバイブスがあうのかなと思うんですが、どういう印象を持っていますか。

食品まつり:Taigenさんは、「Bo Ningenのベース/ヴォーカル」というのが本業としてあるんですけど、チャンネルが広い。なんでも受け入れてくれるし、「これをやろう」と言ったら「やりましょう!」っていう感じになってくれる。彼が「やりましょう」と言ったら自分もそういうモードになれる。今回の「道の駅をテーマにした歌を歌ってください」っていうのも、本当に二つ返事でやりますって言ってくれて。そういう、全然違うジャンルのものにも恐れず突き進んでいくところが面白いところだなと思っています。今回のトラックのデモ段階のものと「道の駅」というテーマを投げて。そしたら、彼が今回「道の駅」の歌で「人生の道」と「道の駅」をかけた歌詞で返ってきて。

―「やすらぎランド」で「道の駅」っていうと、それこそ地方都市のまったり感の象徴みたいなのに、シリアスなフレーズが飛び出してくる面白い曲になっていますね。

食品まつり:シリアスな感じもなんかわかるな、っていうか。去年は大変な状況があったり……今も大変な状況はずっと続いていますけど、一瞬ひととき道の駅とかで、家族連れとかいろんな人たちが、そのあいだ楽しくしている感じとか、大変なんだけどいまこの瞬間だけは楽しもうみたいな、そういうのもぐっとくるものがあるというか。道の駅って単純に落ち着くんですけど、一瞬泣きそうになるときもあるんです。「Michi no Eki」は、まさにその感情を歌にしてくれた。



―もう一曲、ヴォーカル曲としてCotto Centerさんとのコラボ曲があります。Cotto Centerさんとのコラボの経緯というのは?

食品まつり:彼女はもともと友人の友人みたいな感じで、Forestlimitっていう東京にあるクラブでスタッフをやっていたこともあるんですが、そこで出会って。そのあと音源を聞かせてもらったんですけど、それがすごくいいなと思って。声もいいしメロディセンスも自分がすごく好きな感じで。アルバムをつくっているなかで「女性のヴォーカルも入れたいな」っていうのがあって、そこでぱっとおもいうかんだのが彼女で。直接メールして「やってください」ってお願いした感じですね。

―アルバムのなかでも都会的なフィーリングが感じられる印象があって、楽曲全体も「記憶のなかの海の風景」みたいで面白いと思います。楽曲のコンセプトはどういう感じで伝えたんでしょうか。

食品まつり:歌詞は彼女が全部つくってくれて、自分はほんとうに桟橋っていうタイトルとトラックだけ送って。それを彼女に解釈してもらったという感じで。すこしほろっとくるような切ない、夕暮れ時みたいなイメージをつくりたい、っていう、そういう感じですね。

―「桟橋」というタイトルにこめたニュアンスっていうのは?

食品まつり:この曲は、歌詞の内容とは違っているんですけど、桟橋を越えるとその先に、それこそ道の駅があったりとか、そういうイメージというか。山の中の桟橋を超えた先にお店があるとか、そういうイメージです。

アジフライとイージーリスニング

―「Hoshikuzu Tenboudai」って曲も結構インパクトがあるタイトルだと思うんですけど、それが実在の道の駅というか、パーキングエリア的なところにある展望台だというお話をあるインタビューで読んで、かなり衝撃を受けました。展望台の名前がエモすぎると思って。

食品まつり:そうなんですよ。いいんですよね、名前が。道の駅からちょっと行ったところに山というかちょっとしたハイキングコースがあって、その先に「星屑展望台」っていうのがあって。そのときは昼間だったんで星はぜんぜん見えなかったんですけど、星屑展望台って名前はいいなと思っていろいろ想像して。

―他にも具体的な経験からくるタイトルがあるのかなと。一見すると、「道の駅」や「ギャラリーカフェ」、「フードコート」みたいに、地方都市だったらどこでもありそうなキーワードが並んでいますが、そこに食品さんなりの経験が埋め込まれているのかなって思うんです。タイトルに選ぶ言葉には、実体験が反映されたりしますか。

食品まつり:しますね。今回はほんとうに、行った場所っていう感じです。つくりだす前、去年の前半くらいによく行っていた場所。一番最初の緊急事態宣言になったあとはライブもあまりなくなって、家のまわりをうろうろしていたことも反映されています。フードコート行ったり、あとは……自分はアジフライが好きで。Twitterでもアジフライのことばっかりつぶやいちゃってるんですけど。アジフライに出会ったのも家から自転車で20分くらいのところにあるパーキングエリアで。パーキングエリアに(高速道路からではなく)裏から入れるところがあるんです。「裏からパーキングエリアに入れるんだ」っていうのに感動して、中に入って食べたアジフライもおいしかった。

なんとなく
なんとなく今日の為に
生きてきたかもしれないな pic.twitter.com/irLPgxDtZc — 食品まつりa.k.a foodman (@shokuhin_maturi) July 1, 2021
―食品さんの作品は、いわゆるダンスミュージックやエレクトロニックミュージックの持つ質感とは一線を画する部分があって。でもそこから受ける印象とか雰囲気には親しみやすさを覚えるんです。そういうところは、食品さんの経験と作品との結びつきからうまれているのかなと思います。

食品まつり:やっぱり、楽しいこと、自分がほんとうにいいなと思えることしか……誰でもそうなのかもしれないですけど、無理してなにか違うものになろうということができなくて。これがいいよな、って思ったことをそのままやるというか。実際にやるときには、そこに自分の解釈を加えていくんですけど。自分の欲求に忠実に行きたいというのはあるかもしれないです。

―最近、XLR8Rで公開されたミックスにかなり衝撃を受けて。植松伸夫やゆずが登場するのもおもしろいんですが、チルアウト喫茶店というアーティスト名の「アコースティック・ジャズ」という曲が入っていて。これはなんというか、BGM用のイージーリスニングということでいいんですかね?

食品まつり:完全にそうですね。完全にBGM用のやつで。去年、アジフライ感を自分なりに考えていて、「これってなんなのかな」って考えたら、旅番組とかで流れてそう、みたいな。(笑)「これからアジフライを紹介します!」っていうときに番組のバックで流れてそうなものがヤバいなと思って。一時期はそういうものばっかり聴いていて。今回はそういうテーマ(最近聴いていたもの)のミックスだったので、アジフライ感を入れてみた、っていう。自分のなかではアジフライ感をイメージして選んだんですよね。ああいう旅番組とかで流れている感じの世界観とか、どこどこの道の駅からご紹介します、みたいな情報番組のバックで流れているような謎のギターインストとか。ああいうものがアジフライとかいろんな経験と結びついて、それで選曲にあれが入ってるんです。

―いっしょに入っているゴンチチなんかもイージーリスニング的文脈でも聴けますよね。

食品まつり:そうですよね。(音楽として)おもしろい感じもありつつ、さらっと聴ける。去年はそういう音楽を聴き漁っていました。本当に、いっさいのポジティブとかネガティブとかいう感情を吹き飛ばして、ただほんわかさせられるみたいな。危ないなと思いつつも。あとボサノヴァもヤバいなって。ライトなボサノヴァが最近好きで。ただ「たんたんたたん……」ってのが流れているみたいな。そういうのも今回のアルバム制作に影響受けてます。ギターでああいう癒やし感もいれたいなと。



―最後に、ベタかつお答えしづらい質問かもしれないんですが、今回のアルバムで一番思い入れがあったり、象徴的だなと思える曲ってありますか。

食品まつり:一曲にしぼるのが難しいのですが、中でも「Michi no eki」は楽しさと切なさ、いろんな感情が混じっている感じで。アルバムのなかでは異質な感じではあるんですけど。ちょっとシリアスなところもあって。いろんな感情が入っている。

―なにか今後の目標や予定があれば。

食品まつり:tobira recordsっていう、hakobuneさんていうドローンミュージックをやってる方のレコード屋が兵庫県加西市にあって。同じビルにVoidっていうギャラリーがあるんです。そこで9月から個展をやる予定です。今回の『Yasuragi Land』をイメージした、僕の描いた絵手紙と写真を展示しようかなと。そこに架空の道の駅を実際につくろうかという計画もたてていて。それで完全に今回のアルバムを補完するものにしたい。加西市は兵庫のかなりの山奥のめちゃくちゃ田舎なところで、そこにギャラリーがぽつんとあって。今回のアルバムのイメージにぴったりな個展になるんじゃないかと思います。野菜を売ろうとかオリジナルせんべいをつくろうとか、いろいろアイデアがあるんです。



食品まつり a.k.a foodman
『Yasuragi Land』
CD:2021年7月9日リリース
LP:2021年8月20日リリース
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11814

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