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Blue Lab Beats × Kan Sano対談 英日トラックメイカーが音楽観を深く語る

Rolling Stone Japan / 2021年7月9日 17時30分

Blue Lab BeatsとKan Sano

UK新世代アーティストが集結し、ブルーノートの楽曲を再構築した企画アルバム『Blue Note Re:imagined』(昨年リリース)から、シングル第5弾として、Blue Lab Beats「Montara」とKan Sano「Think Twice」の両A面7インチが発表された。

Blue Lab BeatsはプロデューサーのNK-OKとマルチ奏者のMr DMによるロンドンのデュオ。2021年にはブルーノートと契約し、初のEP『We Will Rise』をリリース。現在はニューアルバムの制作を進めているところだという。かたやKan Sanoは、デッカ・レコード初となる日本人アーティストとして『Blue Note Re:imagined』に参加。彼が手がけた「Think Twice」のカバーは世界中で大反響を巻き起こした。

7インチのリリースを記念して、この両者の対談が実現。お互いの音楽観やUK独自のサウンド、プロダクションと生演奏の融合について語り合った。聞き手はジャズ評論家の柳樂光隆。


Blue Lab Beats
UKソウル・グループ=D・インフルエンスの総帥、クワメの息子NK OK(写真右)とMr DM(写真左)によるデュオ。過去に発表したアルバム『Xover』と『Voyage』はいずれも高い評価を得ている。2021年にリリースしたEP『We Will Rise』は、人種差別や偏見に疲れた人々に癒しと希望を与えることを目的としたプロジェクト。ブーム・バップとジャズ・ファンクを融合させたサウンドには、ヒップホップの先駆者たちやアフリカン・ディアスポラの音楽から受けた幅広い影響が脈々と流れている。


―まずはお互いの印象から聞かせてもらえますか?

NK-OK:『Blue Note Reimagined』でのKanの曲はすごく好きだったな。

Mr DM:アレンジもすごく良かったよね。

Kan Sano:僕はもともとブルー・ラブ・ビーツ(以下、BLB)は好きだったし、『Blue Note Reimagined』に収録されてる曲もすごく好きでした。僕は毎月プレイリスト”Kan Sano Flava”を作って、リスナーのみんなとシェアしているんですけど、それは僕自身が聴きこむための曲を選んでいて、その中にBLBの曲も入れて聴いてますね。新作『We Will Rise』だとブラクストン・クックと一緒にやってるタイトル曲とかすごい好きで、プレイリストにも入れました。



BLBとKan Sano、『Blue Note Reimagined』提供曲

―BLBのどんなところが好きですか?

Kan:二人は歌ものとインストの曲を両方やっているけど、僕はインストが特に好きなんです。僕も両方作るんですけど、言葉や声の力を知れば知るほど歌の力のすごさを感じて、インストって難しいなって思っちゃう。だから、僕はインストを作るときに歌が入っている曲に負けたくないって意識しながら作ってるんですよね。BLBはインストにも強度があるっていうか、歌ものに負けないくらいキャッチ―さも感じる。そんなふうに感じられるのは珍しいですね。

NK-OK:僕らも若い頃にハンコックとかコルトレーンとか、ジャズを介してインストをたくさん聴いていたからね。

Mr DM:ジョージ・ベンソンもね。

NK-OK:もちろん! それにマイルスもだよね。レジェンドが作るアレンジにはどんな曲でも必ずキャッチ―なフックがある。彼らの曲はすごく自由なんだけど、その中にフックになるような部分を持っているんだよ。

Mr DM:メロディとかね。そういうものが音楽の強度に繋がるから。

NK-OK:僕らはレジェンドたちのそういったところから影響を受けている。だから、インストがいいって言ってもらえることはすごくうれしいことだよ。



Kan:僕もハービーやマイルスを聴いてきたけど、彼らは(音楽的に)いろんなことをやってきた人で、その中から何をキャッチするかってことなんでしょうね。BLBはメロディックな部分をキャッチしてるから、そういうセンスがあるんだろうなって思いました。ハービーはどのアルバムが好きですか?

Mr DM:『Sunlight』に『Thrust』、『Mr Hands』、それから『Head Hunters』かな。

Kan:すごくわかる。

NK-OK:ハービーの本も読んだよ。彼がなぜあんなにチャレンジしてきたのか書いてる本があって、あの本からはすごく刺激を受けた。

Kan:『ハービー・ハンコック自伝 新しいジャズの可能性を追う旅』ですよね、僕も読みました。

NK-OK:ハービーの「自由」に対する考え方を見ると、ひとつのカテゴリーに留まることがない姿勢の理由がわかる。だから僕らも歌ものとインストに関しても隔てなくやるし、スウィング的なジャズもやるし、ビートもやるし、僕ららしくどんどん変わっていく。それはハービーが言っていた「音楽は生きているものだ」って言葉と共鳴していると思うし、それが音楽の美しさの実践だと思っているんだよね。

UKとUSそれぞれのサウンド

Kan:僕はロンドンのビートメイカーで言うと、4ヒーローや2000Blackのディーゴの影響を受けているんです。彼のシンセのサウンドの使い方やコードのヴォイシング、コード進行の影響をBLBにも感じるんですけど、それに関してはどうですか?

NK-OK:4ヒーローはあまり知らないけど、2000Blackなら知ってる。僕らがシンセを使うときに主に影響を受けたのはJ・ディラのサウンドだね。彼の音楽におけるモーグのサウンドとか、メロディのフォームに関しては影響を受けたと思う。影響って話だとロバート・グラスパーもそう。あとは2000Blackのカイディ・テイタム。彼らの影響はかなり大きいと思う。エレクトロニックなサウンドの音色やテクスチャーの部分で影響を受けたと思う。



Kan:やっぱりそうなんだ。2000Blackはディーゴとカイディ・テイタムがやってるユニットで、その辺の影響は感じたんですよね。あと、BLBはビートのカラーが明るい気がするんです。UKのビートメイカーはJ・ディラとかアメリカの人たちよりも明るくてクリアなイメージがあって、マーク・ド・クライブロウとかもそうだけど、僕はそういう部分も好きなんです。例えば、マッドリブみたいな粗くてローファイなサウンドもいいなって思うんですけど、自分で作るってなると僕もクリアで明るいものを選ぶんですよね。BLBはそういうことをビートのカラーみたいなものは意識しているんですか?

NK-OK:僕らがUKとUSの違いで感じるのは、UKだとグライムみたいなエレクトロニックなサウンドがあったり、UK独自のジャングルみたいな音楽があったりして、そこにカリビアンの影響があるし、その中でも(カリブの)様々な島の影響があったりして、UKは身近にある音楽が多岐にわたっているのはあると思う。USだとそこはもう少しシンプルかもしれないね。そのシンプルさやある種の単純さが面白いものを生むんだけどね。そういう違いがサウンドやミックスの違いにも繋がっているんじゃないかな。

それとたぶん、USとUKだと使っている色のパレットが違うとも言える気がするんだよね。例えば、僕が影響を受けたUKのジャングルに関して言えば、アップビートでハイエナジーな音楽だから、音色には明るさがある。アメリカの場合はダークでマチュアなサウンドが多いと思うし、サンプリングしてるのもジャズのレコードだったりするし、その中のクレイジーなドラムを使ったりする。そこはダークなトーンで、gritty(ザラッとしててジャリジャリしてる)だったりするよね。

Kan:なるほど、アメリカはブルースなのかな。

NK-OK:ブルースから辿ればジャズやゴスペルに繋がるよね。そのことはスウィングを好んだり、ファンキーなドラムを好むところにも繋がってると思う。だから、サンプリングするって話になれば、キックドラムやスネアドラムの音色に関しても、そういう視点で選ぶだろうから、関係はあると思う。ダークでグリットなサウンドで物語を語るのがアメリカの音楽なのかなとも思うよ。



―BLBの音楽に関しては、どんなところにUKらしさがあると思いますか?

NK-OK:カルチャーのミックスされ方かな。カリビアンやアフリカンの祖先から脈々と受け継がれているものがあって、そこからくるブラックネスみたいなものを表現しているのが自分たちらしさだと思う。実は少し前にガーナに行ったんけど、そこでは音楽だけじゃなくて、精神的な部分でも学んだ部分が多かったんだよね。

Mr DM:帰ってきてからも僕らはリサーチを続けていて、ポリリズムやシンコペーションを学ぼうとしているところなんだ。ガーナは位置的には西アフリカなんだけど、北の地域になると北アフリカにも近い音楽的な要素を持っていたりもしてとてもディープなんだ。今、自分たちはその影響を取り入れながら曲作りの実験をしている。そういうことにも取り組みながら、自分たちのブラックネスみたいなものをセレブレーションしたい気持ちは常にある。

プロダクションと生演奏の融合について

―Kan SanoさんもBLBもビートメイカーであり、生演奏もやっている。その二つが融合しているのが特徴だと思います。その部分について話を聞かせてください。

NK-OK:僕らの場合は、僕がスタジオの中でサンプリングしてドラムビートを作って、その意図をまずデヴィッド(Mr DM)に伝える。

Mr DM:僕は彼が作ったビートに影響を受けた演奏をキーボードでやってみる。その後は同じことをベースでやる。コード、メロディ、ベースみたいな順番で作ることが多いね。最初にドラムのビートがあって、それを後から追っかけていくような感じで、アレンジを作っている。

Kan:二人は生楽器をどのくらい演奏するんですか?

Mr DM:僕はベースとギター、キーボードがメインだね。

NK-OK:デヴィッドはライブだとヴィブラフォンも演奏するんだよ。



Kan:僕がBLBをすごいなって思うのは、生楽器を弾いていてインプロをやっていて、結構たくさん演奏していてもダサくならないんですよね。テクニカルな演奏をどんどん入れていくとフュージョンっぽくなって、それだとかっこよくないなってずっと思ってて。でも生演奏は入れたいので、僕としてはそこが苦戦しているところなんですよね。カイディ・テイタムみたいな少し前の世代だと、インプロはできるんだけど、あまり弾かないように抑えてやってるんですよ。僕はそういうやり方から影響を受けたんですけど、BLBとか「We Will Rise」にゲストで参加しているブラクストン・クックを聴いていると、アドリブも入れているのにそれがかっこいいんですよね。

Mr DM:僕らはハービーやコルトレーン、マイルスのアレンジから影響を受けてきた。彼らの楽曲はフォルムの部分がしっかりしていて、強力なメロディがある。それがあればソロはどこへでも行ける気がするんだ。だから、僕らも作曲をする場合は音楽を支えてくれる曲のフォルムをしっかりさせるようにしてる。

NK-OK:僕はもともとドラムをやっていたから、ドラムをプログラムするときはドラマー的な発想で考えているところがある。ブラクストン・クックにしても演奏者のソロがテクニカルになることがあるんだけど、その場合はドラミングで応えるようにプログラミングすることで対応している。リズムが最適なテンプレートになるようにすれば、その上に乗るものは自由になれると思うんだよね。



―Kan Sanoさんは「意識的に弾かないようにしている」って話を以前からしてますよね。

Kan:ずっとそうしてきたんですけど、最近はインプロの度合いを少しずつ増やすように意識してます。サンダーキャットが出て来たくらいから状況が変わった感じがあるんですよね。フュージョン的なテクニカルな感じがかっこいいって価値観に変わってきたというか。僕はライブだとバリバリ弾くんですけど、音源ではそんなに弾いてこなかった。でも、それをちょっとずつ変えているところです。

NK-OK:それは自分たちも同じだね。レコードにする時にはフォームみたいなものが大切だから、リスナーにとって共感できるようなものにする。でも、ライブだともっと実験的なチャレンジもできるし、そうすることがいいかなって思ってるよ。音楽にはルールブックはないから何でもできる。そういうことを可能にしてくれるのがライブって場なのかなとも思う。ブラクストン・クックが演奏している「We Will Rise」だったら、ライブではもっとマッドなプレイをサックスでやることも可能だと思うし、一方で、レコーディングでは戻ってこれる場所を作っておくことも必要だと思うんだよね。曲を聴く人との間に接点を持たせるようにするってことはレコーディングではいつも意識してるから。

Kan:その辺の考え方は僕と同じだなと思うんだけど、BLBはそのバランス感がいいんですよ。こうやって話してて、僕もBLBみたいにもっとインプロを入れたいなと思いましたよ。あと、BLBの音楽を聴いてると、「もともとドラムを叩いていた」というのはわかりますね。

NK-OK:そうだよね。

Kan:その上で生のドラムでは叩けないような、サンプラーだからこそできるグルーヴ感がある。そこがかっこいいんですよね。

NK-OK:嬉しいな。そうだといいなと僕も思って作ってるんだ。

新しいアルバムに向けた挑戦

―プロダクションと生演奏の話をこのまま続けたいんですけど、BLBはトラックを作る際には、それなりのボリュームの生演奏を入れることを想定して、そのためのスペースを作るようにしているんですよね?

Mr DM:やっぱりスペースは重要だよね。残された余白のありかたによって何ができるかと何ができないかが決まってしまうからね。スペースは呼吸するための場所って感じでも必要だしね。例えば、強力なものが進んでいるところで二つだけビートが止まると、リスナーはそこで気持ちをリセットすることができる。その先に何があるんだろうって予想外の展開にも繋げることもできる。ずーっとコードだけ弾いてきたのが、あるときパッと消えると、そこでリスナーも「ハッ!」となりリセットできる。そういう使い方もある。

NK-OK:ブラクストンとの曲に関してだと、彼はアメリカで活動しているので、国境を超えて音源のやり取りをしなくてはならなかった。だから、かなりスペースを作って、彼が自由にサックスを演奏できるようにしておいたんだ。その上で少しフィルやグルーヴの変化を入れておくことで、彼の演奏のきっかけになるアイデアも用意したつもりだよ。

Kan:その「We Will Rise」って、ブラクストン・クックがサックスを入れた後にドラムをプログラミングし直したりしてます?

NK-OK:普段はソロを弾いてもらった後には自分で音を加えることが多いんだけど、あの曲に関しては不思議と最初の時点で自分の中にアイデアがあったし、最初の時点でエネルギーがあるものができたんだ。だから、今回は一箇所だけ変えたくらいで、ほぼそのままだね。それはすごく珍しい例で、この曲には勢いやモメンタムみたいなものがあったんだ。この曲でこのやり方がうまくいったこともあって、それ以降は自分がやりたいものをディテールに至るまで、最初にかなり入れてから送るようになったんだよね。

Kan:フィルとか、ビートの変化をソロを入れてもらう前の段階で、最初からやっちゃってるってことか。

NK-OK:そうだね。トラックを送った時点でフィルとかを入れていたから。ブラクストンはそこにワンテイクであの演奏を入れてくれたよ。

Kan:ちなみにBLBの二人はレコーディングでは同時に演奏したりもするんですか?

NK-OK:現在制作中のアルバムでは、ワンテイクで一緒に演奏している。でも、『We Will Rise 』までは僕が2小節か4小節のドラムループを作って、そこにデヴィッドが演奏を乗せる作り方だったね。これに関してはガーナに行ったからとか、なにかきっかけがあったわけではないかな(笑)。少し前から僕らが好きなコルトレーンのような人たちが、アメイジングな形でやってるようなワンテイクでのセッションにチャレンジしたいと思うようになったんだよね。

それにさっきKanが言っていたようなフュージョン的なものをもっとマッドな感じで出したいって思うようになったのもある。だから、ドラムマシーンに関してもワンテイクで演奏しているんだ。そのためにかなり練習もしたよ。ドラムマシーンをセッション的にワンテイクでやるっていうのもマッドな試みだと思うんだけど、そういうことも今はやってる。たぶん早くて年末、来年にはみんなに聴かせることができるんじゃないかな。僕らはガーナの体験があまりに大きくて、ガーナに行く前に予定していたものは全部チャラって感じの気分なんだ。もう一回やり直すくらいの感じで、どんどんチャレンジしている。だから早く作って出したい気分だよ。



Blue Lab Beats
『We Will Rise』
発売中
https://www.universal-music.co.jp/p/00602435761237/


Kan Sano
「Natsume」
配信中
https://kansano.lnk.to/Natsume

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