Elle Teresaが語る、地元・沼津でヒップホップを続ける理由
Rolling Stone Japan / 2021年7月13日 18時45分
フィメールラッパーのElle Teresaが、2021年7月7日にリリースした楽曲「Bby girlll」でエイベックスよりメジャーデビューを果たした。
【動画を見る】Elle Teresa「Bby girlll」ミュージックビデオ
Elle Teresaは2018年3月にデビューアルバム『KAWAII BUBBLY LOVELY』をリリース。収録曲「ZOMBITCH」では、アトランタ在住の新鋭フィメールMC、Bali Babyをフィーチャリングするなど、トラップシーンの最前線を捉えた内容でシーンに衝撃を与えた。2019年7月リリースの2ndアルバム『KAWAII BUBBLY LOVERY II』では前作のダーティなテンションに加え、レゲエやメロウな歌モノなど、より多彩な曲を展開。2021年に入り、新曲「Fuji」「Forever」を連続リリース。gummyboyやKOWICHIの曲にもフィーチャリングで参加している。さらに彼女は音楽だけでなく、カルチャー誌、女性ファッション誌にも数多く取り上げられ、ポップアイコンとしても注目を集めてきた。
今回は地元の静岡県沼津市に活動拠点を置いた理由や、ラッパーになったきっかけ、好きなことを継続する大切さについて、彼女が所属するWEST CARTER MUSICのオーナーYusuke Carterとレーベルメイトの1LI ILIを交えて語ってもらった。
ー東京から地元の静岡県沼津市に拠点を移し、ヒップホップをやろうと思ったきっかけはなんだったんでしょう?
Elle:出身は静岡県沼津なのですが、18〜22歳くらいまではずっと東京にいて、バイトをして過ごしていたんです。その時も、曲をちょいちょい作ってはいたんですけど、ここ半年くらいで沼津に戻って、レーベルのスタジオで本格的に始めました。そこで毎日曲を作ったり、みんなで遊んだりしていて、調子いいですね。沼津の方がのびのびできて、自分に合ってるなと思います。東京もいいけど、やっぱり地元がいいです。
ーElleさんが現れる前、沼津のヒップホップの盛り上がりはどうでしたか?
Yusuke Carter:もともと沼津ではウェッサイが結構強かったんです。僕は年齢がElleの一回り上なんですけど、始めはアングラというか、フリースタイル系の人たちとウェッサイの人たちがいっぱいいて。僕はメインストリームが好きだったので、そこにメインストリームを足していった感じです。Elleがやり始めて、またいい感じになってきてるかな。
Elle:実際、地元でそんなにプロップスがなくて。あまり応援してくれる人がいないから、これから頑張らなきゃという感じです。
Yusuke Carter:でも、応援してくれる人は増えてきたよね。
Elle:前に比べたらね。そもそも、日本語ラップはみんな好きだけど、ヒップホップ自体を好きな人が地元にあまりいないと思います。
ー僕は静岡市出身なんですけど、静岡は気候も最高で、海も山もあって、ご飯もおいしいですよね。
Elle:そうそう、温泉もあるし。とにかく最高。ちょっと前にレーベルのみんなでスタジオで遊んでいて、でかいスーパーに行って、帰りがけに「気候めっちゃよくない?」みたいな話になりました。生暖かい風が「グアムとかハワイみたいだね」って言っていて。
1LI ILI:俺の友だちは「LAみたい」って言ってました(笑)。
Elle:Elleはアトランタって言ってたよね(笑)。でも、地元の良さってもっと若かった時は分からなかったんです。歳を重ねて、どんどんいいなって思ってきましたね。
「とりあえず沼津でイキりたかった」
ーElleさんの世代だと、ヒップホップの他にEDMとか、アニソンやボカロ、バンド系やJ-POPなど、いろんな音楽を聴いて育ってきたと思うんですけど、そのなかでもヒップホップやR&Bにピンと来たきっかけは何かあるんですか?
Elle:K-POPとかアニソン、ボカロが好きだったこともあります。私が中3の時に妹が中1で、2人で学校にほとんど行かない時期があって、そのときにカラオケに行ってよく歌ってました。そこから「ヒップホップもやっぱりいいかも」って思い始めて。あとは実家がダンススタジオなんで、私も小さい頃からヒップホップダンスを習っていて、そのおかげで今があるなと思います。
ー小さい頃からダンスを習っていて、なおかつ実家がダンススタジオだったら、ダンサーになる選択肢もあったと思います。そうしなかったのは?
Elle:ダンスってちょーお金かかるので、ダンスを習う=ある程度余裕がある家庭が多い気がします。そもそも周りの子たちは親がサポートしてくれてて。でも、うちの親は別にサポートしてくれなかったから、「高校も別に辞めたいんだったら辞めていいけど、勝手にすれば」と言われました。お金も稼がなきゃいけないのでバイトをしたり。そのうちにやりたいことが見つかって、ラップを始めたという感じです。でも、周りの子たちはダンスの専門学校に行ったりしていて、うらやましかったですね。うちの親は中学から携帯代も払ってくれなかったので、急に見放すじゃんみたいな(笑)。だから、携帯も止まっちゃうから働くしかなくて。でも、遊びたいし、高校は行きたくないみたいな状態でした。
ーそれはご両親の教育方針だったんですか?
Elle:いや、真面目に学校に行っていれば、もっとサポートしてくれたかもしれないです。学校が嫌いだったから、あまり行ってなかったし、「どうせこいつやらないっしょ」と思われてた(笑)。でも、妹と弟はちゃんと大学を卒業しているんですよ。逆に私は見放されたというか、「全部自分でやれよ」と言われていたから、今があると思う。サポートされすぎていたら、もっと違う道に行っていたかもしれないです。
ーなぜそんなに学校が嫌だったんですか?
Elle:イキってたんじゃないですか(笑)。まず、朝起きるのが苦手だし、学校遠くて、徒歩で40分くらいかかってたし。
ークラブに遊びに行き始めたのは何歳ぐらいですか?
Elle:中2〜中3の頃かな。中1の時に中3の先輩と付き合ってて、別れたらめんどくさくなって、(学校に)行きたくなくなるじゃないですか。学校に行かなかった理由はそれです(笑)。
ー(笑)先輩と付き合うようになって、流れでクラブにも遊びに行くようになった?
Elle:それはまた違う話ですね。とりあえず遊ぶところがあまりなかったので、クラブに行ってた感じです。
ー沼津だと、沼津駅前のクラブですか?
Elle:駅前のクラブは今1個しかないよね。
Yusuke Carter:今はもう1個しかないです。
1LI ILI:昔はいっぱいあったんですか?
Elle:何個かあった。
ーElleさんの家から沼津駅前の繁華街まではどれぐらい時間がかかるんですか?
Elle:普通にちょー遠いっす。
Yusuke Carter:歩いたらけっこう遠い。でも、車だったら15分ぐらい。
Elle:車とかないからさ。
1LI ILI:原付?
Elle:原付も乗ってない。当時は何で行ってたんだろう…… タクシー(笑)? 中学校の頃とかちょー生意気だったので、とりあえず沼津でイキりたかった。
1LI ILI:まあ、中学生ってそうだよね。俺もイキりたかった。
Elle:ウチらイキってんじゃん(笑)。
「こんなにずっとラップを続けるとは思ってなかった」
ー学校にはほとんど行かず、沼津のクラブに遊びに行くようになって、ヒップホップを聴くようになったり、遊びに来る大人たちを見るようになったりして刺激になりましたか?
Elle:そうですね。楽しかったです。今だったら、未成年がクラブに入るのって無理じゃないですか。でも、その時はチェックもゆるくて入れたし、そういう体験ができてよかったなと思います。
ーそこでいろいろな人がDJしているのを聴いたりして、音楽をキャッチする感度が上がったりしました?
Elle:それはなかったです。Elleは昔から根拠のない自信がすごくあるから、その時も自分のことを過大評価していて最強だと思ってた。クラブに行って楽しかったけど、そこで何かを得たとかは特にないです。
Yusuke Carter:でも、クラブで俺と会ってなかったら、音楽やってなかったよね。
Elle:まあね。
ーYusuke CarterさんはElleさんのどういうところにピンと来たんですか?
Yusuke Carter:その時はファッションだったよね。クラブで見かけて、「あー若いのにおしゃれだな」と思いました。
Elle:「MV出てよ」って言ってきたよね。
Yusuke Carter:俺もラップをやっていたので、「MV出てよ」って声をかけたのがきっかけで、会って話すようになったんです。Elleも少しラップを歌っていたから、ビートジャックのやり方を教えたら1カ月で10曲ぐらい作ってきて、「こいつやべーな」と思いました。
Elle:その時、17歳だったんですけど、こんなにずっとラップを続けるとは思ってなくて。ちょー飽き性だし、何かを達成したことがないんです。学校もちゃんと卒業してないし、ちゃんと達成できたのは車の免許くらい。だから、音楽がめっちゃ好きなんだと思います。まだ人生長いけど、若いうちにそうやって思えるのがうれしい。
ーラップを自分でやるようになって、自分ならではのラップについて考えるようになりましたか?
Elle:具体的にこうしたら、もっと良くなるなと分かってきたのはここ1、2年の話ですね。それまではトンチンカンだったよね。
Yusuke Carter:トンチンカンではないよ。
Elle:自分で「これ大丈夫か? 誰が聴くんだろう?」と思いながら、ずっと練習してました。
1LI ILI:「これちょー変じゃない?」って最初、よく言ってたよね。
Elle:1LI ILIが15歳でElleが18歳の時だから5年前の話だよね。ちょうどElleがラップをやり始めて1年くらいの時に出会って。ずっと自分のラップを不安に思ってたけど、最近はこういう歌い方をしたらもっとしっくり来るとか、自分のことがよく分かってきた。
Yusuke Carter:俺は「KIRA KIRA」を出したぐらいからElleは変わったなって思った。「KIRA KIRA」は初めてその場でセッションをして、そのまま録ったんだよね。
Elle:そう、その場でラップを作って。
Yusuke Carter:それからけっこうスタジオに入って、すぐ録れるようになったよね。
Elle:それまではリリックを家で書いて、レコーディングの時に持っていってた。
Yusuke Carter:ラップの修行にも行ったもんね。
「数年かけて、コミュニティとして大きくしていきたい」
ー修行ですか?
Yusuke Carter:LA行って、ニューヨーク行って、アトランタ行って、ニューヨークも2回行ったんです。で、大阪にも行って。
Elle:ロスも2回行ったよね。ちょー大修行。最初はみんなついてきてくれてたけど、スタジオに行ったら海外の人たちだらけで。最後の方はElleと友だちと2人で。向こうからしたらいきなり日本人が2人来て、「じゃあお前やれよ」みたいなノリになって、こっちは「ひぃー!」みたいな(笑)。「いけるっしょ、うちらなら」というマインドで飛び込んだんですけど、全然余裕でした。ぶちかまして帰ってきた(笑)。
Yusuke Carter:普通だとスタジオに入ったらビートを作る人が来て、ラップを作り始める感じなので、いきなりできないと思うんですけど、Elleは普通にその場で録るんです。
Elle:ファイヤーみたいな(笑)。
Yusuke Carter:行く先々で仲よくなった人もいたじゃん。あまりビビらないで、できてたよね。
Elle:そうだね。Elleは海外の人とか、TRAVSという服のブランドをやっている先輩がいるんですけど、そういう人たちとも遊んでいて。
1LI ILI:全員そこで繋がったんですよね。
Elle:コロナの前はTRAVSに海外からラッパーがめっちゃ来てたんですよ。
1LI ILI:一緒にクラブとか行ったよね。
Elle:Elleは全然英語喋れないんです。でも、喋れないけどコミュニケーションは取れてたので、環境に恵まれてたと思います。
Yusuke Carter:そこで海外の人に対してビビる壁はなくなってたよね。
ーそんなElleさんのマインドに通じるというか、Elleさんの曲ってすごく開けてる感じがするんですよね。で、その根っこに静岡の沼津があるというところが同郷としてはうれしいです。「Fuji」という曲もよかったです!
Elle:うれしい。Elleも静岡の人に会うと、やっぱり上がります。
ーなかなか静岡の人っていないですよね。お笑い芸人だとハリウッド ザコシショウがいますが。
Elle:いますよ! DJ CHARIとか、広瀬すずとか。
Yusuke Carter:みちょぱもね。
Elle:でも、ラッパーはそんなにいないね。
1LI ILI:みんな東京に出ちゃってるから、分からない。
Elle:結局、田舎の人は東京に出たいんですよ。でも、Elleは沼津に戻ろうと思った。地元でやってることに意味があると思うし、カルチャーとして沼津で広まったら1番いいなと思います。だけど、Elleがやりたいことは今すぐにイベントをやって、有名な人を呼んで、人を集めるというその場限りのことじゃない。数年かけて、コミュニティとしてでかくなっていけたらいいですね。アトランタとか、シカゴもそうなんです。最初は何もない。でも、そこでカルチャーを作り続けてきた人たちがいるから今がある。
Yusuke Carter:今、沼津のクラブは1個しかないんですけど、毎月イベントをやり始めたんです。そこに来たらElleがいるみたいな。地元のアーティストがイベントにいるって、いいなと思って。
Elle:アトランタだったら、マジックシティというストリップクラブがあるんですけど、そこに行ったら、有名なアーティストとか普通にいるんです。
「メディアの露出がなくても続けることに本当に意味がある」
ー今回配信する「Bby girlll」はすごくキャッチーな曲ですよね。エイベックスからメジャーデビューとなる最初の楽曲ですが、Elleさん的にはどのような意図で制作したのでしょうか。
Elle:「Bby girlll」はニューヨークに行った時に1日目のセッションで作った曲なんです。Elleはトラップや、ヒップホップな曲もすごく好きだし、ポップも好きなんですよね。だから、この曲はそれが全部合わさった感じが全面に出てると思うし、シンプルで好きです。コロナ禍になってから、海外の人、周囲の人も曲を出しているけど、みんな内々な曲になっている気がするんです。難しいことをしようとしすぎて、いらないもの削ったシンプルにいい曲って意外とみんな出してこなかった。そう思っていた時にジャスティン・ビーバーのアルバム『Justice』が出て、シンプルで無駄がなくて、めっちゃいいなと思って。真っ直ぐなことをやろうとしても、なかなかできないんですよね。でも、Elleはできるから、「やっちゃおう~」って感じで「Bby girlll」は制作しました(笑)。ちょっとひねくれた人は「誰でも考えられるだろ、こんな曲」と思うかもしれないけど、絶対できない。シンプルな曲ほど、意外と難しいので。
ー制作やレコーディングの時に大変だったことは何かありますか?
Elle:最初のプリフックまではすぐに作れたんですけど、フックで音が開ける箇所のメロディがずっと思いつかなくて。レーベルのA&RのDが「uh baby girl」でいいじゃん」とアドバイスをしてくれました。その後はスラスラ曲ができた感じです。なので、Elleは1人でやっているわけではなくて、みんなで作っている感じですね。
ーリリックは夜眠れない時にいろいろ考えたりするという意味が込められているんですか?
Elle:そうですね。女の子に聴いてもらえたらうれしいな。
ー「Bby girlll」のリリックで「クソな大人」というフレーズがありますが、Elleさんは他の曲でも「大人」というワードがディスる対象として出てくることが多いですよね。大人に対する想いが何かあるんですか?
Elle:ラップを始めた時は生意気すぎて、大人にけっこう嫌われていたんです。Elleが勝手にそう思っていただけかもしれないけど。とにかく生意気だったから、あまり協力してくれる人がいなくて。でも、それをおもしろがってくれる人がたまに応援してくれたのはうれしかったです。
Yusuke Carter:Elleの言っている「クソな大人」はElleのことを気に入らない人に対してだよね。
Elle:そうそう。自分のことが大好きな人が大好きで、嫌いな人は大嫌いだから(笑)。別に大人全体に言っているわけじゃないです。
ーでも、そういう大人たちも、間違いない曲でエイベックスからメジャーもすれば、Elleさんに対する見方も変わるんじゃないですか?
Yusuke Carter:そうなったらいいね。
Elle:今は別にそんなやつのことはどうでもいい(笑)。Elleの世界にいない人だもん。Elleがめっちゃ生意気だった時は人の意見とか、人がどう関わってくれるかとか、人がElleのことを嫌う、嫌わないとか、そんなことばかり気にして生きていたんです。今は何も気にならない。悪口は聞こえないみたいな。だから今は逆に丸くなりましたね。イライラもしないし。また尖ろうかな(笑)。
ー女性の方は、そういう面にも共感してくれそうですよね。
Elle:Elleはストリートから出てきて、テレビも何も出ないで、ずっと認められないで今まで来て。メディアの露出がなくても続けることに本当に意味があるって、ここ1年ぐらいで思いました。今の若い世代の子たちって、1つのことをずっと続けるのって意外と難しいと思うんです。Elleも最初は歌うのが下手っぴで、「絶対にすぐやめるだろう」って自分でも思っていたんです。でも、ずっと続けていれば、こうやってエイベックスからメジャーデビューもさせていただける。だから、続けることに意味があると思います。それをみんなに伝えたいです。若いうちだけって思うかもしれないけど、そう見てなくて。「あのラッパーいたよね」みたいな過去として終わりたくないんです。地元の話もそうだけど、カルチャーとしてもっと広げていきたいから、一時的なものじゃなくて、これからもじわじわ頑張っていこうと思います。
Edited by Kohei Ebina(StoryWriter)
<INFORMATION>
「Bby girlll」
Elle Teresa
エイベックス
配信中
https://avex.lnk.to/BbygirlllPR
https://www.elleteresa.com/
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