ガービッジのシャーリー・マンソンが語る男性優位社会との闘い、パティ・スミスからの学び
Rolling Stone Japan / 2021年7月15日 18時20分
5年ぶりのニューアルバム『No Gods No Masters』を発表したガービッジのシャーリー・マンソンにインタビュー。「私は間違いもするし、周りを怒らせる。馬鹿なことも口走る。でも、最善を尽くそうと努力している」と語る彼女。男性優位社会との闘い、人種間の平等、今を生きること……これまで培った人生哲学を明かしてくれた。
1995年、ガービッジのセルフタイトルのデビューアルバムが一夜にして大ヒットするとほぼ同時に、ヴォーカルのシャーリー・マンソンは音楽業界が男社会であることを痛感した。彼女はバンドの中心的存在だったが――「Only Happy When It Rains」ではダークなエレクトロ・ロックで鬱への理解を熱唱し、「Queer」では社会になじめないことを誇らし気に歌っていた――ニルヴァーナの『Nevermind』をプロデュースしたブッチ・ヴィグをはじめ、男所帯のバンドで女性がフロントを張っていることに変わりはなかった。彼女はほどなく、グループでの自分の役割が軽んじられているように感じた。ともに仕事をするバンドメンバーからではなく、周りの連中から。
「音楽誌ではいろんなことを書かれたわ。それで気づいたの。自分がいかに軽んじられているか。男じゃなくて女だからという理由で、まるで相手にされないこともあったわ」と彼女は当時を振り返る。「弁護士から蔑ろにされたり、マネージャー陣から無視されたり。数え上げればきりがない。くだらないし、つまらないことよ。今更うだうだ言っても仕方がないけど、確かにあれではっきり悟ったわ」
そうした悟りに背中を押され、彼女は平等を訴えるようになり、たちまちフェミニストのアイコンとなった。そして自分の発言力を利用して、人権やメンタルヘルス、AIDS危機に世間の目を向けさせた。その間、彼女はガービッジで両性具有や生殖の権利をテーマにしたインクルーシブなヒット曲を書いた(「Sex Is Not the Enemy」)。秀逸なニューアルバム『No Gods No Masters』では、人種間の不平等、気候変動、男性優位社会、そして自尊心といった問題を扱っている。だが重たいテーマにもかかわらず、彼女はどの曲にも彼女らしい陽気さでアプローチしている。
「作品自体はシリアスだとは思わない」 5月初旬、54歳のシンガーは電話インタビューでこう語った。「憤怒に満ちた作品だとは思う。でも、怒りの中にもユーモアは盛り込めるでしょ。胸に秘めた優しさとか、思いやりとか、愛情とか。ただ、ふだん食卓で友達や家族と日常的に話していること以外のことを言ったら、うそになるような気がしたの。アーティストとして歳を重ねると、『どこまで本当の自分でいられるか?』というのが問題になる。本当の自分でいられるからこそ、最高に自分だけの物語が語れるわけだから。いろんなアイデアやら意見やらメロディやらであふれかえる業界では、本当の自分以外になってる場合じゃないわ。それじゃ長続きしないもの」
本物志向と自分に正直であること。こうした資質が現在のシャーリーを形づくった。そうした特性はローリングストーン誌のインタビューでも、哲学、人生教訓、衣食住といった質問に対する答えの道しるべとなったようだ。
パティ・スミスから学んだこと
ーあなたにとって、人生を生きる上で一番大事なルールは何ですか?
シャーリー:54歳になったけど、今の音楽の世界ではもう年寄りね。ここまでくると、楽しめないなら完全に興味ない、という感じよ。相手から不当な扱いを受けたら、立ち去るしかない。人生はクソ短いんだし、私の場合はもう3/4を過ぎた。だからひたすらいい人生、楽しい人生を過ごしたいわ。
ーあなたにとってのヒーローは誰ですか? その理由は?
シャーリー:ありとあらゆる意味で、私にとっての一番のヒーローはパティ・スミス。何より、彼女はあれほど華麗に、あれほど巧みに、しかもぶれることなく本物志向でクリエイティブな人生を送ってきた女性だもの。女性もアーティストも、今の音楽業界のルールに迎合しなくていいんだと彼女は証明してくれた。
女性にとって、70代でも現役で活躍している女性のお手本がいるっていうのはすごく貴重。私にとってもすごくワクワクするし、やる気になるし、希望が持てる。社会に存在する年齢差別や性差別、女性蔑視に直面すると、私はいつも心の中でパティを思い描くようにしている。そうすることで、本来の自分に立ち戻れるのよ。「OK、自分のルールに従おう。自分の人生は自分で作る。私が人生の設計者。きっとこの先もアーティストとして生きていける」ってね。私にとってはそれが人生。それが充実した人生なの。
ーあなたご自身も周りのお手本となる存在です。そうした責任にどう対処しているんですか?
シャーリー:正直、なんと言ったらいいかわからないわ。私は長いこと音楽をやってきたから、なんとなくなりゆきで、みんな触発されているんだと思う。どんなアーティストであれ、長くやってきたアーティストを見ると、みんなすごいって思うんでしょうね。「もう無理、と思ったら自分も立ち上がれる、ゼロからもう一度やり直せる」っていうメッセージだから。長く続けていることで、他の人たちの背中を押し、自分には無理だと思っていたようなやり方で、自分らしさを発揮させることができるのよ。
私もまっとうな人間になろうと努力しているわ。間違いもするし、周りを怒らせたりもする。馬鹿なことも口走る。何でも知ってるわけじゃないし、いろんな意味で世間知らず。でも、最善を尽くそうと努力している。それが自分にできるすべてだと思う。
周りからどう見られるか、というのは完全に私の力が及ばないこと。私のことをクソ野郎って思う人は必ず出てくる。人前に出る以上、それは仕方がないこと。とにかく嫌いだ、という人は出てくるから、あまり気にしないようにしてる。そういうのにとらわれないようにしているの。「何よ、うるさいわね。全員の心をつかむなんてできないわ」って境地にまで達したのね。
人種間の平等について思うこと
ー以前、「レガシー」という概念は男性的で、自分は信じない、とおっしゃっていましたね。今でも同じ気持ちですか?
シャーリー:ええ。今でも本気でそう信じてる。自分のレガシーや自分がいかに重要かを並べ立てる男性アーティストを大勢知ってる。本人にとってそれが重要なら別に構わないけど、私としては「だから何?」って感じ。この先くたばって死んだら、自分が後世に残したレガシーとやらを知るすべはないもの。私はいまを楽しみたい。今を楽しく生きたいの。いい食事をして、最高のセックスをしたい。自分が死んだ後のことなんて、私にとっては完全に無意味だわ。時間を賢く使いたいの。正直、私が気にしているのはそれだけよ。
ーレガシーが本来男性的だというのはどういうところですか?
シャーリー:素人の分析で申し訳ないんだけど、女性に子宮があって子供が生めることと関係していると思う。それってすごく奥深いことよね。男性に与えられなかった数少ない贈り物のひとつは、自分の体、自分の血、身体の熱や栄養から何かを生み出す能力よ。死後のレガシーについてうだうだ言う女性をほとんど見かけないのは、たぶんそれもあるんじゃない。女性にとって、それは子供を作ることなのよ。
ガービッジ(Photo by Maria Jose Govea)
ーあなたはスコットランド人ですが、最近自分はスコットランド人っぽいなあ、と思うのはどこですか?
シャーリー:度胸があるところ。それがキャリアでもすごく役に立ったわ。スコットランド人の特性だと思う。スコットランドの人たちはタフで、ユーモアのセンスも抜群なの。ユーモアと度胸。道路にまいた砂のように、「ユーモアで鍛えられた」と言うべきかしらね。
ー先ほど「度胸」とおっしゃったとき、古くは「Stupid Girl」や「Only Happy When It Rains」など、あなたの曲には克服や前進を歌ったものが多いような気がしました。どれも不屈の忍耐を歌っていますよね。
シャーリー:(一呼吸おいて)そんなことを言われるなんて不思議、「あら、その通りかもしれない」って感じだもの。確かにそうね、私にとって一番大きなテーマは「どうすれば克服できるか? どうしたら私たちは乗り越えられるか?」 物事はしばらく上手くいく。でも永遠には続かない。どんな人生でも、そういった困難が顔をのぞかせる。障壁を乗り越えて自分が望む人生を送るためには、私たちはみな自分を設定しなおさなくちゃいけないの。だからあなたに言われて、自分のテーマを発見できたのでちょっとびっくりしたわ。本当、感激だわ。私にもテーマがあるじゃない。最高ね。
ー「Waiting for God」は最新アルバムの中でも一番好きな曲です。人種間の平等についての取り上げ方がいいですね。社会全体として、白人層の無関心(white indifference)とどうやって戦っていけばいいでしょう?
シャーリー:それがまさに今、私たちが抱えてる問題よ。「白人層の無関心」って言葉は興味深いわね。私がとくに驚いたことのひとつが、世界各地で白人が躊躇したり無関心を装ってることだから。TVで目にする光景を見ながら、声を上げる道義心がないのよ。私たちがやれる一番大事なことは、まずは絨毯を引きはがして床のごみを見ること。そのあと絨毯の下の掃除に取り掛かるの。
黒人に対する警察の横暴をいくらか減らすことができたら、出だしとしては上出来でしょうね。本当に社会が平等になって、途上国の人々が西洋社会の富の分け前にあずかれるようになるには、まだ何十年もかかると思う。でもやってみなくちゃ。それほど力や富のない国に手を差し伸べるのよ。すべての人たちの状況改善に取り掛かれば、世界もきっとよくなる。そうすれば誰も失うものがなく、みんなが分け前にあずかれるわ。
でも、仮に私が具体的な改善策の答えを知っていたら、音楽業界じゃなくて政治の世界にいたでしょうね。私はただ、自分が何を正しいと思うかわかっているから、自分の発言力を活かして、友達や周りの人々が関心を向けてくれるよう努力してるの。黒人の企業をサポートしたり、黒人の意見や人材を後押ししたりね。
性差別や女性蔑視との闘い
ー好きな本は何ですか?
シャーリー:たくさんあるわ。真っ先に浮かぶのは、フィリップ・ロスの『アメリカン・バーニング』。コーマック・マッカーシーの『すべての美しい馬』も好きだった。マイケル・オンダーチェの『ビリー・ザ・キッド全仕事』とかね。『くまのプーさん』も好きだし、『嵐が丘』も好き。心に残っている古典作品はたくさんあるわ。
最近読んだ本で一番のお気に入りは、(ロシアのバレエダンサー、ルドルフ・)ヌレエフをテーマにしたコラム・マッキャンの『Dancer』。すっかり魅了されたわ。読んでいてすごく楽しかったし、彼は本当に才能ある作家よ。去年も、パレスチナとイスラエルの板挟みを描いた『Apeirogon』という本を出したんだけど、彼は複雑な問題をいとも明確に、思いやりと優しさを交えて描くの。『Apeirogon』が去年話題にならなかったなんて信じられないわ。他の本の沼に埋もれちゃったみたいね。それともちろん、COVID-19が世界にもたらした惨状のせいね。
ー若い時の自分にアドバイスするとしたら?
シャーリー:「自分の場所を確保しなさい」。私が子供のころ、女の子はできるだけ出しゃばらないように、と言われた。「足を開いちゃだめ。大声を出しちゃだめ。笑って。可愛らしく。魅力的に。愛想よく」とね。私は子供のころから、本能的に歯向かったわ。反抗的な子供だったから、隅っこに追いやられて黙ってるなんてことはしなかった。一度もね。でも今になって振り返れば、やっぱり私にもある程度従順していた部分があったと思う。そういう自分が嫌だっていうわけじゃなくて、昔にもどって若い時に自分にこう言ってやりたいの。「自分の場所を確保しなさい。自分の居場所がないなら、テーブルに椅子を引っ張って行って無理やり座るのよ」って。
私が今まで戦わなくちゃならなかった性差別や女性蔑視は、今も存在している。「ああ悲しい!」なんて叫んだりしないわ。もちろん私は仕事で成功してきたおかげで、道を阻まれるようなこともなかったからね。でも、他の女性には同情するわ。私と違って気が強いわけでもなく、教育環境も違って、私みたいにはっきりものが言えない女性たち。でもみんなにそうなってほしいの。媚びを売るのをやめて、「気に入ってくれる人もいればそうじゃない人もいる、それでいいんだ」ってことを受け入れてほしい。自分を理解してくれない人がいても構わないだって。
ージェンダーの話題でいえば、新作に収録された「Godhead」にすごく励まされました。あの曲では「もし私にディックがあったら」世間から違った扱いをしてもらえたんじゃないか、と自問していますよね。
シャーリー:あの曲は自信作なの。話題はすごくシリアスだけど、面白いでしょ。家父長制がどれだけ周りにあふれているかってことがテーマなの。若い時は仕事に忙しすぎて、家父長制が存在することにも気づかなかった。大人になってからよ、昔を振り返って「ああ、そういえばA&Rの担当者から面と向かって、私の写真をオカズにしている、って言われたな。あれってサイアク」ってね。でもその時は、みんな笑い飛ばしてやりすごすの。
私も当時はそのことに気づかなかった。この曲では、家父長制があらゆるものに紛れ込んでることを歌っているの。とりわけ組織化された宗教にね。「Godhead」、つまり神は男性で、私たちは何の迷いも持たず神のもとに仕える。それっておかしくない? それもひとえに男が社会で高い地位を占めているから。男にはサオとタマがあるから。えてして私より肝っ玉はちっちゃいのにね(笑)。
ばからしくなるわ、男権社会を守るために男性が他の男性をかばうのを見てると。男の仲間意識についてすすんで声を上げたり、身近な男性の行動を疑問視するような男性はほとんどいない。結局男性は、男が他人に暴力をふるうというきわめてショッキングで恐ろしい、気の滅入るような情けない行為を直視したがらないの。
ー1996年、バンド仲間のブッチ・ヴィグがあなたについてこういっていました。「強烈さを表現するのに叫ぶシンガーは大勢いるが、彼女はまるで正反対だ。度肝を抜かれたよ」 こうしたやり方はどこから生まれたんですか?
シャーリー:わからないわ。私はいさかいには慣れっこだから、相手から物静かに話しかけられるとものすごく恐ろしく感じるってことがわかったの。私はいさかいとともに生きてきた。おかしな話だけど、そのほうが私もワクワクするのよ。相手から怒鳴られても怖くないし、逆に怒鳴り返してやりたくなる。うちの家族がそうだったの。いつもお互いに怒鳴りあっていた。だから癇癪を起すのは怖くない。私にしてみれば、相手がものすごく落ち着いているときのほうが、怒りを抑えて本当に真剣なんだってことがわかる。そういうときが一番怖いのよ。
ー最後は、浅はかな質問です。
シャーリー:おバカで上っ面な話は大好きよ。
ーこれまで自分に買った、最高のご褒美はなんですか?
シャーリー:バンドが絶頂期だったころ、買い物を代行してくれる人を雇って、買ったものを全部大きな箱に入れてホテルまで送ってもらってたの。その中からほしいものを選んで、あとは全部送り返すわけ。ある日すごく素敵なイタリア製のレザーブーツが届いた。似たようなブーツを「Stupid Girl」のミュージックビデオでも履いてて、「あらいいわね、私っぽいわ。これは買いだね、素敵」って思ったの。ツアーから戻って初めて、5000ドルもする代物だって知ったの。笑ってごまかすこともできなかったわ。自分でも馬鹿じゃないかと思った。そのブーツは今も持ってるわ。もう二度と見なくてすむように処分したいんだけど、今もブーツはあそこで毎日、私の欲深さを警告しているの。
From Rolling Stone US.
ガービッジ
『No Gods No Masters』
発売中
https://garbage.lnk.to/NoGodsNoMasters
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