イージー・ライフが語るポップでゆるい音楽性、シュールな世界観の秘密
Rolling Stone Japan / 2021年7月16日 17時30分
全英2位を記録したイージー・ライフのデビューアルバム『Lifes A Beach』日本盤が7月16日にリリース。ポジティブな空気とメロウな脱力感で人気を集めるUK新世代バンドのフロントパーソン、マレー・マトレーヴァーズが語ったインタビューをお届けする。
英レスター出身の5人組、イージー・ライフはUKの新人登竜門として知られる「SOUND OF 2020」で2位に選出されると、ヒップホップやジャズ、アフロ・ビート、スロウ・グルーヴなど様々なジャンルが融合した独特な世界観を持つサウンドとメロウなヴォーカルが、たちまち世界中で人気を博すように。マレーが書く不眠症や金銭問題、捻じれた人間関係等を題材としたディープな歌詞も彼らの人気の理由の1つとなっている。2018年に発売されたシングル「nightmares」ミュージックビデオのYouTube再生回数は1000万回を突破している。
彼らは2018年に最初のミックステープ『Creature Habits』を発表。昨年1月リリースのEP「Junk Food」は全英7位を記録している。そして今年、ついにデビューアルバム『Lifes A Beach』を発表。「他の場所に行きたいと思う一方で、現在の自分を励まし、人生で得られる小さなことに喜びを見出すこと」がテーマとなっている今作は、どのように作られたのだろうか?
―まずはデビューアルバムにして全英アルバム・チャート初登場2位獲得、おめでとうございます!
マレー:ありがとう。嬉しいよ。それと、ある意味ほっとしている。ようやく出せたことで任務完了した、というか。デビューアルバムというのは、どういうわけかプレッシャーや周りからの期待がとにかく凄くて。この前にも3作のミックス・テープを出してるし、今後もたくさんアルバムを出すわけで。実際、今、既に2作目の制作に取り掛かっているんだけど、プレッシャーなんて全然ない。でもデビュー作となると、本当に大事で、まるで宣誓だ。それをやり終えて、次の作品に進めるのが嬉しい。もちろん、凄く誇りに思っているものができたと思っているし、超満足している。自分たちは本当にラッキーだ。
―アルバムの曲作りはいつ頃から? 以前シングル・リリースされた「nightmares」以外のナンバーはアルバムのために書いたもの? それとも?
マレー:誰が言ったのか忘れたけど、レーベルの人だったかな。その通りだと思ったのは、デビューアルバムというのはそれまでの人生全部を費やして作るけど、2作目以降は1年とかで作る。だからアルバムには昔に書いた曲も入っている。何年も前からあったものだ。例えば「compliments」は、コードとメロディーと歌詞が前から出来上がってて、ピアノで弾き語りができる状態だった。プロダクションやレコーディングに向けたアレンジがまだで、今回時間が充分にあったおかげで、「この曲をアルバムに入れたらいいかもしれないから、本来あるべき姿が何なのかを考えよう」と思って仕上げた。他の古い曲の例でいうと、「living strange」も3年前に兄と書いた古い曲だし、君の言う通り「nightmares」も3年くらい前に書いた曲だ。この3曲以外はだいたいここ18カ月以内に書いた。
―ということは、パンデミックと時期的にもろにバッティングしたのでは?
マレー:レコーディングとプロデュースをした時期はもろに被っているけど、アイディアは前からあったものもある。そもそもアイディアはいつどこで湧いてくるかわからないからね。例えば、ホームシックについて曲を書きたいというアイディアは以前からずっと温めていたけど、書いたのは最近だっていうこともある。でもほとんどの曲が比較的新しい。さっきも言ったように、出来上がると直ぐに出したくなっちゃうから。
『Lifes A Beach』(意味:人生はビーチだ)というタイトルは、「これから雨が降るかもしれないけど、イージー・ライフが太陽のような絶対的な存在になる」という想いが込められたもの。
―パンデミックは曲作り、アルバム作りにおいて物理的・精神的な影響を与えたと言えますか?
マレー:そうだね。というのも、パンデミックは音楽制作のあり方というのを世界規模で瞬時に変えてしまったわけだからね。その分、創作活動という点においては充実した時期になった。苦労した人も多いだろうけど、困難やある程度の制約が課せられることは、むしろ創造力を刺激する。そういう点ではよかった。
制約が課せられることがいいと言っておきながら、自分の場合、前からずっとラップトップを使って音楽を作ってきたし、自分一人で作ることも多かった。だから全く新しいやり方をゼロから学ばなきゃいけなかったわけでもなかったし、レコーディングにしても、スタジオに行かなきゃ何もできないわけではなかった。そもそもスタジオに行くのがあまり好きではなかったし。自分のベッドルームで作業するほうが元々好きだった。だから影響があったとしたら、いい口実ができたくらいだ。新しいマイクを買ったよ。マイクはたくさん持っているけど、凄くいいのを購入して、自分の部屋に置いて、アルバムのヴォーカル・パートは全て自分の部屋で録音した。それはよかった。こういう状況でもなければそうはなってなかったからね。おかげで、レコーディングの技術的な部分を自分でより掘り下げることができて楽しかった。
そういった実務的な面においてはよかったんだけど、何が辛かったかって、家から出られないという状況だ。それは誰もが理解・共感できることだと思う。バンドでアルバムを作ろうとしているのに、実際に集まって演奏できない、会うこともできなかったことで、普段よりも自分の直感に頼るしかなかった。基本は一人で曲を書くんだけど、普段なら、他のメンバーにメールやwhatsapp(メッセンジャー・アプリ)や電話をして、「こんなアイディアがあるんだけど、どう思う?」って聞くことができる。でも、今回は離れているし、集まる機会もないから、何週間も会話を交わさないこともあった。自分一人でどうにかしなきゃいけない場面が多かった。それはそれでいいんだけどね。でも、マイナス面もある。頭が変になりそうだったよ。
確実に言えることは、もし違う状況だったら、全く違うアルバムになっていたね。『Lifes A Beach』というタイトルにもしなかっただろうし、アルバムに入れる曲も違っていただろう。別にロックダウンについての曲ばかりだと言ってるわけじゃない。ロックダウンの経験は誰にとっても、大きな変化を強いられた。だから当然、作る音楽にも影響はあった。
「a message to myself」のテーマは、うつ病とセルフラブ。バンドはこの曲を、プロデューサーであるBEKON(ケンドリック・ラマ―『DAMN』など)と共に制作した。
―本作の曲作りで影響を受けたアーティストや作品があったら教えてください。
マレー:正直、影響を受けたアルバムや音楽がありすぎて……。一つの完成されたアルバムということで言うと、カニエ・ウェストの全ての作品に影響を受けている。作品としての完成度が高いアルバムばかりだ。例えば『ye』にしても短い作品だけど、今でもしょっちゅう聴く。4、5年前に出た作品で、友達がいる前でかけると「なんで今頃聴いてるの?」って言われるんだけど、「そうじゃなくて、少し前に出た作品だけど、今もハマってるからかけさせてよ」って言う。カニエ・ウェストは昔からずっとハマってる。人間的に好き嫌いが別れるアーティストだってのはわかってるけど、セレブとしてのカニエは全然興味がなくて、彼が作る音楽が好きなんだ。
と言いつつ、今回のアルバムが音楽的にカニエ・ウェストに影響を受けているかと聞かれたら違う。アルバムを作る時のアプローチや、作品の中での流れの作り方がうまい人だから、その辺を参考にさせてもらっている。他にも素晴らしいアルバムは本当にたくさんあって。またヒップホップになるけど、ケンドリック・ラマーの『To Pimp a Butterfly』もそう。僕たちのアルバムのサウンドは『To Pimp~』とは全然違うけど、あのアルバムは自分にとって史上最高のアルバムだと思ってる。何が凄いって、本当に前衛的で、アーティスティックで、実験的な作品なのに、ケンドリック・ラマーの人気もあって大ヒットした。自分の思った通りの作品を作ったという部分で、凄く尊敬している。ヒップホップというジャンルの頂点を極めて、次の『DAMN.』はポップ寄りではあったけど、いつだって期待を裏切ることなく素晴らしい。
イージー・ライフ結成の経緯、バンド名の由来
イージー・ライフは2017年に、地元レスター出身のパブで結成。現在はマレー、オリヴァー・キャシディ(Dr)、サム・ヒューイット(Ba、Sax)、ルイス・アレキサンダー・ベリー(Gt)、ジョーダン・バートルズ(Key)の5人で活動している。絶妙なバランス感覚に支えられたクインテットはどのように結成されたのか? バンド名の由来やヴィジュアル面のこだわりについても語った。
左からオリヴァー、マレー、ルイス、ジョーダン、サム
―改めてグループ結成の経緯を教えてください。トランペットやサックスを含む現在のバンドのフォーメーションは結成当時からのものですか?
マレー:サム(Ba、Sax)とは同じ学校に通っていて、昔からずっと同じバンドで演奏してきた。ジャズ・バンドだったり、学校の吹奏楽部とかでね。彼がサックスで、自分はトランペットを吹いていた。だから子供の頃から音楽で繋がっていて、卒業後もバンドを一緒にやっていた。オリヴァー(Dr)とルイス(Gt)も、お互い子供の頃から一緒にバンドをやっていた。で、当時の僕のルームメイトがルイスのことを知ってて、「ルイスというギターを弾くやつがいるから会うといい」といって紹介してくれたんだ。
で、ジョーダン(Key)は、実は僕たちの地元ではちょっとした有名人で、かつてBy The Riversというレゲエ・バンドのメンバーだった。スペシャルズやウェイラーズなんかともツアーをしたことがある、かなり活躍してたバンドで、地元のレスターではトップクラスの大御所だった。さらに彼は、イギリスではけっこう有名なHorse Meat Discoというディスコ・パーティーを地元で主催していて。元々はロンドンのゲイ・ナイトで始まったパーティーなんだけど、今や全国に広まってめちゃくちゃ盛り上がる。で、みんなで(レスターでのパーティーに)行った時に、かなり飲んで酔っ払ってたんだけど、僕とオリヴァーとでジョーダンのところに行って、「俺たちのバンドに入ってほしい」と伝えたら、「いいよ」って言ってくれたんだ。
By The Riversでドラムを叩くジョーダン
―そうなんですね。
マレー:もともとみんなで「もう一人メンバーが要るよね。キーボードが必要だ」とは話していたんだ。ジョーダンは当時ドラマーでキーボードなんて弾いてなかった。でも、クールでノリもいいし、ジョーダンが適任だっていう理由はいくらでもあった。それでまあ、酔った勢いで仲間に引き込んだんだ。
正直、当時は楽しけりゃいいと思ってやってたから、誰だろうとノリが合えばよかった。そこまで真剣に考えていなくて、好きな音楽を楽しくやれればそれでよかった。それが結成の経緯だ。それから2017年の夏には地元レスターで、ジョーダンの兄弟でサウンド・エンジニアのPerry Birtlesと、彼の親友のRaj、もう一人Leeとでスタジオを建てていたんで、僕らも手伝ってみんなで一緒にスタジオを作った。以来、そこを拠点に活動している。Perryは今も僕たちのサウンド・エンジニアで、彼と一緒にスタジオを建てた相棒のRajはツアー・マネージャーをやってくれていて、家族のような関係だ。特にポップ・ミュージックの世界では、気をつけないと天狗になってしまいやすいけど、彼らのおかげで、変に浮かれることなく、地に足をつけたまま活動できてる。かつて一緒に何千もの軽量コンクリートブロックを運び込んでスタジオを作った仲だからね。
―バンド名の由来を教えてください。
マレー:Easy Lifeというバンド名は、大した理由はなくて、誰もが気楽に生きたいけど、その術を知っている人は少ない。だからこそ、バンドをやる上で、核になるジレンマとしていいんじゃないかと思った。あとは言葉の響きも音楽と共通したものがある、というくらいかな。
「skeletons」のMVは、イージー・ライフが持つカラフルな世界観にシュールな要素を加えたもので、ワンテイクで撮影されている。
―ミュージック・ビデオやアーティスト写真、ジャケット写真やポスターなど、イージー・ライフのクリエイティブはどれもカラフルで可愛く、ユニークかつアーティスティックで視覚的にも楽しめます。クリエイティブについてのこだわりを教えてください。
マレー:ヴィジュアルも音楽と同じくらい重要だと思っている。自分たちでも凄くこだわっている部分で、手間暇掛けているから、そこに気づいてくれたのは嬉しいよ。昔からシュールレアリズムが好きで、現実ではあり得ない要素を取り入れるのが好き。これまで作ってきたビデオはどれも、シュールレアリズムに則っていて、どこか変だったりちょっとした違和感がある。現実には絶対に起こり得ないということを描いているんだ。
ビデオにしても、ちょっとぶっ飛んでいる。見ている人が「これは現実なのか、作られた世界なのか」って首を傾げたくなるようなものをいつも作りたい。実際に撮影している人たちにしても、素晴らしいアーティストとこれまで仕事ができて本当にラッキーだ。監督、カメラマン、クリエイティブ・ディレクターにしても、才能溢れる人たちと一緒に作ることができた。僕たちのヴィジョンを実際に形にしてくれる人たちだ。チームには素晴らしい仲間がいる。表現方法に関して言うと、いつだって鮮やかで、飽和した色使いが好きで、思い切り飽和させる。色彩豊かで思い切り明るいポップアートに影響されているんだ。
イージー・ライフと日本の関係
もともとは2020年のSUPERSONICに出演予定だったイージー・ライフ。グラストンベリーを筆頭に世界中の音楽フェスを沸かせてきた実力派バンドだけに、初来日公演の実現する日が今から待ち遠しい。そんな彼らの楽曲は、ある経緯から日本でも注目を集めることになった。さらに、マレーが「日本のファッションやデザインが好きで、世界で一番だと思う」と語っているように、イージー・ライフは日本贔屓なところもあるみたいだ。
―ところで、日本人ラッパーのOnly Uさんという方が「nightmares」をサンプリングして、独自のラップをつけた曲が日本ですごく流行っていて。。「Somebody To You」という曲で、ShazamやTikTokでもバズっているんですよ。
マレー:そんなことになっているなんて全然知らなかったよ! マジ? 信じられない。
マレー:(イントロを聴いて)何これ⁉︎ 歌詞は何を言ってるの?
―会えなくて寂しい的な、切ない気持ちを歌っています。
マレー:やばいね!日本語で聞くとまたいいね。気に入ったよ。最高だ。そんな状況になってるなんて知らなかったよ。TikTokとかあまり詳しくないんだけど、今見せてくれてる動画だけでも3000人が見てるわけだよね。すごいね! 日本で既にヒット曲があるってことだ。嬉しいよ。「いい感じにアレンジしてくれてありがとう」って彼にもメッセージするよ。
―昨年のSUPERSONICでの初来日は残念ながらキャンセルになってしまいましたが、この事態が落ち着いた暁にはぜひ日本に来てくださいね。ちなみに、「日本」と言われて思い浮かぶものがあれば教えてください。
マレー:実は、去年行く予定だった際、ライヴの後、3週間滞在を延期する予定だったんだ。日本中を旅して回ろうと思っていた。ずっと行きたいと思っていたんだ。イギリスからは遠いから、行くにはお金もかかるから、行ける時にできるだけ見たいと思って。当然、東京はファッションの中心で、誰もが信じられないくらいおしゃれな格好をしている。食べ物も、バンド全員がお寿司が大好きだから日本で食べられるのが楽しみでしょうがない。あと、日本の農業にも興味があるんだ。東京以外でも富士山や、その周りの森(樹海のこと?)の美しい場所に行ってみたい。やりたいことは山のようにある。父親がずっと昔に日本に行ったことがあって、農家なんだけど、日本のいくつかの農家を訪れたんだ。イギリスの自分たちの農地経営に役立てるヒントをもらいに視察に行ったんだ。
―そうなんですか?
そうそう。1カ月滞在して、日本の農業の仕組みについて学んだんだ。日本の農業の傾向として、農地は小さくても多くの人に農産物を届けることができる。Community supported agricultureというのがあって、それぞれの畑で取れた農産物をみんなで分ける、という。イギリスでは見ないやり方で、父親が日本でたくさん目にしたと言っていたから、日本の農業も見てみたい。全部がそうだとは思わないけど、農地の使い方が進んでて、それを見てみたい。それ以外では……もう全てが魅力的で。ネオンの明かりや、ファッション。食べ物も。全部。正直、マジで日本に行きたくてしょうがないよ(笑)。
―日本のファンにメッセージをお願いします。
日本にファンがいるってことが信じられない。それだけで嬉しいよ。応援してくれてありがとう。日本に行くのを本当に、本当に楽しみにしている。なんとかして行こうとしている。みんなに会えるのを心待ちにしているし、行った暁には日本を満喫したいと思っている。だから、「ここは行ったほうがいい」というおすすめの場所とかあったら、ぜひ教えて欲しいな!
イージー・ライフ
『Lifes A Beach』
日本盤:2021年7月16日リリース
歌詞・対訳・解説付
試聴・予約:https://umj.lnk.to/easylife_lifesabeach_AL
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