オリジナルソング制作のスタートアップSongfinch、ザ・ウィークエンド等から資金調達
Rolling Stone Japan / 2021年7月20日 16時30分
マネージャーのワシム・“サル”・スレイビーやアトランティック・レコードのCEOクレイグ・コールマンと共に、オリジナルソング制作サービスのSongfinchへ出資したザ・ウィークエンド(Photo by Scott Roth/Invision/AP)
オリジナルソング制作サービスのスタートアップであるSongfinch(ソングフィンチ)は最新の投資ラウンドで、ザ・ウィークエンドとマネージャーのワシム・”サル”・スレイビー、そしてアトランティック・レコードのCEOクレイグ・コールマンからの支援を獲得した。
音楽クリエイタービジネスへの投資が活況を呈している。ユーザーのリクエストに応じてオリジナルソングを制作・提供するスタートアップのSongfinchは、音楽業界に流れる大きな資金を確保した。同社が実施した200万ドル(約220億円)規模の投資ラウンドで、シンガーのザ・ウィークエンドとマネージャーのワシム・”サル”・スレイビー、そしてアトランティック・レコードの会長兼CEOを務めるクレイグ・コールマンが投資家のリストに名を連ねたことが、ローリングストーン誌の取材で明らかになった。Songfinchの投資ラウンドには、スクール・オブ・ロックのCEOロブ・プライス、音楽機器のオンラインショップReverb.comの創業者デヴィッド・カルトらも新たに参加している。
Songfinchは、ジョン・ウィリアムソン、ロブ・リンキスト、スコット・キトゥン、ジョシュ・キャプランによって創業された。キャプランは、スレイビーと共にドージャ・キャットの共同マネージャーを務めている人物だ。同社は、エージェントして管理するアーティストやソングライターのネットワークを利用して、ユーザーからのリスエストに応じたオリジナルソングを制作・提供している。オリジナルソングを作って誰かに贈りたいと考えるユーザーがSongfinchのウェブサイトにアクセスし、好みのジャンル、ムードやシチュエーションのほか、例えば曲を受け取る人が好きなもの、内輪だけに伝わるジョーク、思い出の出来事など、曲作りのインスピレーションとなるいくつかのキーワードを入力する。スパイク・ジョーンズ監督のSFロマンス映画『Her(2013年、邦題:her/世界でひとつの彼女)』に登場するラブレター代筆サービスとは、少し違う。
価格は1曲あたり200ドル(有料アドオンを除く)で、その内100ドルが作曲したアーティストへ支払われる。曲の著作権はアーティストが保持し、購入したユーザーには、友人と曲を共有できる永久使用権が与えられる。「ザ・ロックから友人にバースデーメッセージが贈られたら、サプライズ性や面白さという点で喜ぶ人もいるだろう。しかし我々の提供するサービスはさらに踏み込んで、贈る側と贈られる側の両方に楽しんでもらえる」と、ウィリアムソンはローリングストーン誌に語った。「Songfinchは、単にオリジナルソングを作るだけのサービスだとは考えていない。仮にそうであれば、ただ曲を聞き流されて終わってしまうだろう。我々が目指すのは、友人や家族と一緒に人生の思い出を新たな方法で振り返れるようなサービスだ。」
Songfinchは共通の知人を通じて、アトランティック・レコードCEOのクレイグ・コールマンにコンタクトした。サービスを紹介するとコールマンは興味を示し、1曲オーダーした。これをきっかけに投資につながった、とウィリアムソンは言う。
「Songfinchを通じて、オリジナルの音楽ギフトが贈った相手に感動を与えられることを知った」とコールマンは声明の中で述べている。「Songfinchのクリエイティビティとインパクトは本当に卓越しており、投資にためらいはなかった。」
2019年に15万ドル(約1650万円)だったSongfinchの収益は、2020年には145万ドル(約1億6000万円)に上昇した、とウィリアムソンは言う。2021年は最初の2四半期だけで既に225万ドル(約2億4800万円)を超えており、年間では500万ドル(約5億5000万円)を超えるペースだ。2020年にSongfinchがアーティストに支払った金額は150万ドル(約1億6000万円)以上で、急成長を続ける同社の財務状況はコロナ禍の経済に貢献している、とウィリアムソンは話す。さらに、顧客のリクエストに応じたオリジナルコンテンツを提供するというコンセプトをSongfinchが世に広めたことで、Cameoをはじめとする類似サービスの成長も促したという。
ストリーミングサービスはヒット作の権利を握る業界の一部のみを潤し、アーティストの大きな収入源であるツアーはパンデミックによって縮小を余儀なくされた。新たな収益モデルを求める音楽製作者やコンテンツクリエイターにとって、ファン参加型のサービスや付随するコンテンツビジネスは、ますます重要になってきている。セレブからオリジナルのグリーティングメッセージを受け取れるCameoは2020年にブレイクし、クリエイターへの支払いは7500万ドル(約82億6000万円)に上った。また、ブランドとの契約に誘われるアーティストも多い。さらに、ガイ・オセアリーが支援するTikTokのコラボレーション・マーケットプレイスPearpopは、2021年4月に1600万ドル(約17億6000万円)規模の投資ラウンドを成功させた。Pearpopは、コンテンツクリエイターがTikTok上のやり取りを売買できるオンラインマーケットだ。
「音楽業界のマーケットプレイス・モデルは全てトップダウンで構成されていて、5%のクリエイターがストリーミング収益全体の半分以上を独占している。ビッグネームでなければ、ストリーミングで稼ぐのは難しい」とウィリアムソンは指摘する。「Songfinchのユーザーは、人気のアーティスト目当てでサイトにアクセスするのではない。アーティストが制作するコンテンツが目的なのだ。細かいリスエストに応えられる優れたソングライターであれば、たとえSNSのフォロワー数が少なくても、Songfinchで大成功する可能性がある。この手のアーティストがSpotifyで100ドルを稼ごうと思ったら、2万3000の再生回数が必要になる。一方でSongfinchであれば、1曲で済む。UberやLyftのようなプラットフォームをアーティストに提供し、彼らがスタジオで好きな制作作業に没頭できるような環境を整えたいと考えている。」
Songfinchには数人の有名ヒットメーカーも参加しているが、オリジナルソングを提供するビジネスに必要なのはそれだけではない。SongloriousやDownwriteなど、類似のサービスを提供する企業もある。Soungfinch幹部によると、間もなく同サイトは全面リニューアルし、マーケットプレイス化をさらに推進する予定だという。楽曲制作アーティストのプロフィールを表記し、ユーザーが一方的にリクエストを入力するだけでなく、制作するアーティストを選択できるようなツールも提供する。
拡大と急成長を続けるオリジナルコンテンツ制作のマーケットでは、ユーザーの友人や家族にセレブからのオリジナルメッセージが届く類似サービスを提供する、Cameoやその他のスタートアップが鎬を削っている。ウィリアムソンは、セレブからのグリーティングメッセージという斬新さにひかれるユーザーの傾向を把握し、オリジナルソング制作のビジネスモデルには持続性がないことも認識している。さらに彼の言うようにSongfinchは斬新さよりも、楽曲を通じて深い感動を与えることを重視してきた。業界の有力者らによる支援が加わったことにより、ウィリアムソンの目指す新たなコンセプトや技術の実現に拍車がかかるだろう。ただし、一流パフォーマーがユーザーのリクエストに応えてオリジナルソングを作ってくれるのは、まだ少し先のことだろう。
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