Panorama Panama Townが語る、音数に頼らないシンプルな楽曲への探究心
Rolling Stone Japan / 2021年7月26日 18時0分
Panorama Panama Townの新曲「Strange Days」が、2021年7月17日よりFODで配信されるドラマ『ギヴン』の主題歌に決定。7月16日から楽曲の配信がスタートした。
「Strange Days」はドラマ『ギヴン』のためにPanorama Panama Townが書き下ろした楽曲。前作EP『Rolling』に続き、プロデューサーに石毛輝(the telephones, Yap!!!)を迎えた。ドラマ『ギヴン』は4人のロックバンドのメンバーたちを中心に、彼らの恋愛や成長していく姿を繊細に描いた作品で、主人公たちがドラマ内で演奏する曲もPanorama Panama Townが担当。メンバーのカメオ出演も決定しており、Panorama Panama Townとしても「Strange Days」は新境地を拓いた楽曲となった。
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今回は楽曲「Strange Days」への想いはもちろん、最近の制作方法、バンドとしてどのような音を鳴らしていきたいかまで語ってもらった。
ーPanorama Panama Townとして最近の調子はいかがでしょうか?
岩渕想太(以下、岩渕):バンドとしてはすごくいい状態ですね。次の音源を作ろうということで、ひたすら制作をやっているところなんです。自分たちが次に見せたいモードが固まりつつあります。
タノアキヒコ(以下、タノ):楽曲制作は大詰めなんですけど、欲を言えば、もうちょっとライブをしたいですね。今は月に1、2本ぐらいなので。いろいろできあがっている音源もそうだけど、ライブでも外に向けて発信していきたいなと思っています。
ーライブができないフラストレーションや、エネルギーは溜まっていますか?
タノ:制作でずっと中にこもっているし、メンバーと一緒にいる時間が長くて、いろいろなものが共有されてきているんです。今後もいいものができそうな予感がします。
浪越康平(以下、浪越):岩渕の家でいつも曲を作っているんですけど、最近はそれぞれが聴いている音楽を部屋で流して、「この曲のここ、かっこいいよね」とか、最近観た映画の話もしたりして、好きなものを共有する時間が増えました。でも、タノも言っていましたが、もっとライブしたいなという気持ちはありますね。
ーメンバー同士で集まる機会はコロナ前より増えましたか?
岩渕:増えました。まず、メンバー各々でデモを作ることはあったんですけど、一堂に会してPCのデスクトップ上で音源を作ることは、コロナ前はあまりやっていなかったんです。去年はコロナ禍でなかなかスタジオにも入れない中、オンラインでデータのやり取りをして作ることもやっていました。その延長で、今は自分の家に集まって、デスクトップで作っていくことが多いですね。自分がデモを作っていて、一定のところまで作ったらメンバーを呼んで、みんなで制作を動かしています。細かい音の配置や音色、ミックスまでやりたいことが増えてきたので、みんなで考えながら制作を進めています。
ー今回の新曲「Strange Days」はどのような流れでできた曲なんですか?
岩渕:今回はドラマ『ギヴン』の話が先にあったので、主題歌を作るところで何曲か作っていて、その中の1曲ですね。
ー「Strange Days」はこれまでのPanorama Panama Town感もありつつ、日陰から陽向を見ているような新しい一面を感じました。今作のデモは岩渕さんが作られたんですか?
岩渕:そうですね。大元は僕が作りました。おっしゃってくださったみたいに暗い中にある光を表現したかったんです。今、メンバーが好んで聴いているものがサウスロンドンで鳴っているものをはじめとしたイギリスのバンドで。自分たちが好きなバンドはみんな一筋縄ではいかない、明るくても、どこか日陰を持っていて、自分の性格に合うんです。そういうところも意識しながら、制作していました。
ー波越さんはデモをもらった時、どう思いましたか?
岩渕:まず、波越がデモを渡す前日に俺の家で制作していたんです。
浪越:複数のデモを聴かせてもらった時に、ピンと来るものがその中になくて。「もっとこうしたらおもしろいんじゃないか」みたいな話をしていました。具体的なバンド名なんですけど、僕はザ・ストロークスが好きなんです。「ザ・ストロークスがニルヴァーナ的なことをするイメージかつ、サウスロンドンで今鳴っているおもしろいバンドサウンド」みたいな話を岩渕としていたら、次の日には2人で話していた通りの音像のデモができあがっていました。それで、すぐに「ああ、いいな」と思ったような気がします。
岩渕:曲をフィードバックから始めるアイディアも、波越が考えました。曲のどの位置でギターが鳴っているのがいいか、音色はどうすればいいかというのは、そこから詰めました。
ータノさんはデモを最初に聴いた時、どう思いましたか?
タノ:他に数曲、主題歌候補があったんですけど、「Strange Days」になったらいいなと、初めて聴いた時から思っていたんです。そしたら、ドラマサイドの人が「Strange Days」を選んでくださったので、本当によかったなと思います。ちょうど次のアルバム制作をする時に、まだそんなに曲が揃っていなかったので、この1曲である程度の方向性も決まりました。曲調は爽やかで開けてはいるんだけど、自分たちが好きな開き方ができていたので、納得しています。ベースも大枠は岩渕が作ってくれていたので、僕は音選びや細かいフレーズを決めたんです。ベースについてはタイトに演奏を継続し続けることを意識したのですが、ベースラインをあまりいなたくしないようにしました。
ードラマの脚本を読まれた上で、どのように楽曲制作を進めていったんでしょう。
岩渕:ドラマの中にギターをやっていたけど音楽を諦めてしまって、クラスでも退屈そうなキャラクターがいるんです。その子と自分を重ね合わせて、歌詞を書きたいなと思いました。僕も高校生の時に好きなバンドのことを話せる友だちが、周りにあまりいなかった。1人、2人ぐらいはいたんですけど、好きなバンドの話ができた瞬間って、こんなところにそんな人がいるなんてって、めちゃめちゃテンション上がるんですよね。大学1年の時、波越とタノと軽音楽部で出会ってPanorama Panama Townを組んだんですけど、そのことも思い出して。人生の中で好きなものを思い切り話せる人、分かち合える人と出会えることって限られてくると思うんです。そういう出会いによって支えられていることがいっぱいあって、その感覚を歌詞に落とし込みたいなと思いました。
ー自分と気の合う仲間に出会えてうれしかった経験が、自然と思い出されるような歌詞でもあるなと思いました。
岩渕:バンドを組んでから今までのことを考えていくと、高校の時に音楽を話せる友だちがいなかったら、大学でPanorama Panama Townのメンバーに出会ってなかったらとか考えると、偶然と必然で今があるなと思っていて。高校の時に音楽の話ができる友だちが1人もいなかったら、クラスで流行っているものばかりを好きになって終わっていたかもしれない。そういう時にみんなが話しているものに対して、ピンと来ないなと思いながら、自分の好きなものを「これどう?」って共有できる友だちがいたから今があると思っています。自分が歌詞にしたかったのはそういう部分です。
ータノさんと浪越さんも同じような経験はありますか?
タノ:高校の時はギターをやっていたんですけど、そんなにバッチリ趣味が合う友だちは少なかったんです。コピーバンドをしていたんですけど、大学に入ったらオリジナル曲をやってみたいなと思って初めて組んだのがPanorama Panama Townなんです。バンド自体にすごく救われているなと思います。
浪越:僕はもともと、元ドラムと岩渕、タノがいて、その3人に誘ってもらう形でバンドに入ったんです。その時の出会いがなかったら、今バンドをやっていないんだなとあらためて思うと、結構すごいことだなと思います。そこで僕以外の3人でやるって選択していたり、他のギターを入れてやる選択をしていたら、僕はこの場にいない。他のメンバーもどうなっているか分からない。歌詞通りの偶然の出会いが人生を大きく変えるんだなって、あらためて思いました。「Strange Days」も同じような境遇の人に届いたらいいなって思ってます。
岩渕:大学の時は音楽堂というスタジオがあって、そこに集まって、ずっと曲を作っていました。作っている場所の空気みたいなものも、曲と関係あるかもしれないです。僕はめちゃめちゃ明るい人間ではないので、高校生活や青春を描こうとする時、どこかクラスの中で噛み合わないところがあったことを思い出したり。そういう感じは「Strange Days」にも出ているのかなと思っています。バンドを始めた時にめっちゃ明るくないといけないんじゃないのかなとか、もっと考えずに感覚的に動けた方がいいんじゃないかとか、いろいろなことを考えていた時もあったんですけど、今は自分が生きてきた人生から出る音楽をやりたいなと思っていて。やっぱり、考えすぎるところもあって、生きづらいこともいろいろある。どんな人とでも分け隔てなく腹割って話せるような人間でもない。でも、ちゃんと好きなものを分かち合える人とはずっと一緒にいたい。半径何cmかの世界をすごく大事にしたいと思うようになりました。曲作りにおいても、バンドにおいても、同じ感覚があります。それを曲にも出していきたい。
ー曲中で同じコード進行を繰り返していく中で、最後にサビで突き抜けていくメロディは従来のPanorama Panama Town感があると思いました。
岩渕:曲制作の過程で波越とニルヴァーナというワードが上がりました。同じコード進行でループしてテンションが上がっていく感覚が今までもPanorama Panama Townはのキーワードとしてあって。Blurの「Song 2」とか、ループする進行の中でテンションが上がり下がりする曲がすごく好きだし、自分たちに合っているんです。ニルヴァーナのような音像で「Song 2」のようなことができないかなと思いました。
ーザ・ストロークスやニルヴァーナ、Blur辺りの洋楽から受けている影響は、皆さん共通しているものなんですか?
岩渕:そうですね。そこらへんのイギリスのバンドは3人ともよく聴くラインです。最近好きなものはメンバー内ですぐに共有して、「この曲のここがいい」という話をよくするんですけど、なぜその曲がいいかしっかり共有できている感じがします。
ーそういった細かい共有は自発的にメンバーそれぞれから出てくるんですか?
岩渕:メンバーそれぞれからプレイリストで共有してもらったりしています。この間、波越と同じ部屋で曲を作っている時に「この曲みたいなアレンジをしたい」と、その場でお互いに共有したんですけど、2人とも偶然同じ曲だったんです(笑)。すごくおもしろい瞬間でした。
ー「Strange Days」のMVはどのように制作されたんでしょう。
岩渕:学校のロッカーがあるところで演奏シーンを撮影したんですけど、童心に戻りました。カメラが回ってない時に体育館でみんなでバスケをやったりして(笑)。撮影場所が学校ってだけでめっちゃテンション上がりましたね。監督の2025さんは今のイギリスのロックシーンが大好きで、僕たちと好きなものが似ているし、提示してくださるイメージが自分的にピンと来ました。「SO YOUNG」のMVも作ってくれた人なんですけど、「Strange Days」にも作風が合うんじゃないかと思って、オファーしたんです。僕たちと好きなものが近いので、同じ空気感を感じることがあります。実際に「Strange Days」を聴いてもらって、2025さんから出てきた「こういう感じで録りたい」という参考がよかったので、そのまま任せようとメンバー間で納得しました。
ー現在アルバムも制作中と伺ったのですが、今回の「Strange Days」はアルバムに向けた1つの指針になりましたか?
岩渕:「Strange Days」のように、音数が少ないシンプルな曲をどうミックスするか? ということは、次のアルバムでもいろいろ試していこうと思うんです。普通にバンドをやってもおもしろくないから、「今バンドで何を鳴らしたらおもしろいか」をあらためて考えたいと思います。「Strange Days」が1番ポップで聴きやすい曲になりそうな気がしますが、アルバム自体は攻めたものになる感じがしますね。
浪越:「Strange Days」で1番こだわったのが、バンドサウンドだけど新しいものに聴こえるところなんですけど、次のアルバムでも1番大事にしています。「Strange Days」は1つのコード進行でずっと循環していって、その中でテンションの上がり下がりがある。ここ数年の洋楽ヒットチャート、エド・シーラン以降の雰囲気みたいな感じで。そこを受けて、自分たちは今日本で流行っている、コード進行が複雑で和音がすごいサウンドとの違いを出したいんです。1つのコード進行だけで曲を制作するのって、サウンドも含めて新しくないとおもしろくないし、逆にずっと同じことをやってもおもしろくないので、センスがいることだと思うんですけど。そこでいかにかっこいいものが作れるか挑戦したいです。だから、ほとんどの曲はサビでコード進行が変わらない。その中で、ただパワフルに演奏をするのではなくて、全体的におもしろいサウンドを目指したいです。Panorama Panama Townが今やって新しくておもしろいと思えるものを作ろうとはしていて、それが1番やりたいことですね。日本ではあまりないバンドを目指したいとは思っているんですけど、それがどこまでできるか。あまり新しすぎても、誰も聴けたものじゃないので。
岩渕:誰も聴けたものじゃない(笑)。
浪越:バスドラの方がシンバルより音が高かったら、誰も聴けたものじゃない(笑)。
岩渕:「シンプル」が今回のアルバムのキーワードかもしれないですね。コード進行がずっと同じ曲もあるけど、音数をできるだけ減らしていって、その中で何がおもしろいか追求していくような。音を足していくおもしろさはいろいろあると思うんですけど、限られた音数の中で、その音をどうアレンジしていくか、その音を何で鳴らすかみたいなことを考えたいです。今、アルバムの候補になっている曲も、ここにいるメンバー3人の音をどう組み合せるかというところで考えているんです。ギター、ベース、ドラムで作るというのも、もちろんだけど、その中でも弾きすぎないシンプルさはキーワードとしてあります。
ータノさんはアルバムの制作に関していかがでしたか?
タノ:岩渕と浪越も言っていたように、今日本でやって新しくておもしろいことをまず考えています。所謂、Aメロ、Bメロ、サビという構成の曲も、コード進行をループさせて、耐えて耐えて、最後に解放するという作り方。今までは曲の熱を高く上げることだけを重視した作り方が多かったんです。解放する部分以外のテンションをいかに下げるか。上がった時の幅が大きくなる感覚で今はやっています。ベースの弾き方はシンプルなものになって、ひたすらタイトに耐え続けるラインが多いですね。ちょうどアルバム全体の曲のデモも揃ってきたので、今はベースの音をどういうふうに置けばいいか毎日試しています。今はちょっと悩んでいるんですけど、もう少しで自分なりのベースラインが見えてきそうです。なので、ベースのサウンド面を見ると、あまりニッチなものにはならない気がします。
ーある意味で今までのファンの意表をついているところもありますか?
タノ:そうですね。「意表をついてやるぞ」という感じで作ってないですけど、そう思うかもしれない(笑)。
浪越:今までもニッチな曲から入ってくれたお客さんがいるんですけど、ライブでニッチな曲をどんどんやっていると、そっちの方がかっこいいみたいな思想になっていくお客さんが多いんです。それがすごくおもしろくて。今、僕たちの音楽を聴いてくれている人は、SNSを見ていると、「もっと尖ったものをやれよ」とか、そういう感想を持っているお客さんが多くておもしろい。
岩渕:Panorama Panama Townには普通のことをやってほしくないと思っているお客さんが多い気がしていて。そういう人たちが今の自分たちのモードにシンパシーを覚えてくれてることも多いです。
タノ:ここ1年ぐらいライブでも今までやっていた曲を、かなり攻めたアレンジでやっているんです。ライブに来てくれた人にも、今の自分らはこういう音でやりたいという掲示にもなっています。
ーある意味、新しくバンドをブランディングする時期なんですね。
岩渕:メンバーの脱退や僕の声帯ポリープだったり、バンドとしていろいろなことがあったので、その中でやりたいことをやった4曲をEP『Rolling』にしたんですけど。次もこれから自分たちがやっていきたいものをちゃんと掲示できるようなアルバムにしたいなと思っています。
<リリース情報>
Panorama Panama Town
配信シングル『Strange Days』
現在配信中
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