松本隆トリビュートアルバムを亀田誠治とともに振り返る
Rolling Stone Japan / 2021年7月28日 16時59分
日本の音楽の礎となったアーティストに毎月1組ずつスポットを当て、本人や当時の関係者から深く掘り下げた話を引き出していく。2021年7月は松本隆トリビュートアルバム特集。第1週は、7月14日リリースの松本隆トリビュートアルバム『風街に連れてって!』の収録曲前半をプロデューサーの亀田誠治とともに振り返る。
田家秀樹(以下、田家)こんばんは。FM COCOLO「J-POP LEGEND FORUM」案内人、田家秀樹です。今流れているのは、「夏色のおもいで」。懐かしいでしょう? 1973年に発売されたチューリップのシングルですが、歌っている方はお分かりでしょうか? いきものがかりの吉岡聖恵さんです。7月14日発売になります、松本隆作詞活動50周年トリビュートアルバム『風街に連れてって!』 からお聞きいただいております。
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今月2021年7月の特集は「松本隆トリビュートアルバム」。これまでに書いた曲は約2100曲。No.1ヒットは50曲以上。トップ10入りシングルは150曲以上。総売上枚数は約5000万枚と、日本を代表する作詞家・松本隆さん。去年から今年にかけてが作詞家生活50周年ということで、7月14日にトリビュートアルバム『風街に連れてって!』が発売になります。トリビュートアルバムと銘打たれたアルバムは数ありますが、トリビュートアルバムとはなんなのか? という問いの答えのような傑作が誕生しました。今月は4週間に渡って、このアルバムをご紹介。そして、改めて作詞家・松本隆さんの功績について辿っていこうという1ヶ月です。
今週と来週のゲストは、『風街に連れてって!』のプロデューサー・アレンジャーの亀田誠治さん。1964年生まれで、松本さんとは15歳違いますね。先月10年ぶりの新作アルバム『音楽』を発売した東京事変のベーシストです。亀田さんがどんなアーティストを手掛けられて来たのか? あいうえお順で言うと、吉岡聖恵さんのいきものがかりをはじめ、エレファントカシマシ、GLAY、椎名林檎さん、JUJUさん、スピッツ、back number、秦基博さん、平井堅さん、MISIAさんなど、到底ご紹介しきれないアーティストを手掛けている、今一番忙しく、一番輝いているプロデューサー。現在進行形の生きるレジェンドプロデューサーであります。今週と来週は、アルバムの全曲解説を亀田さんにお願いしましょう。亀田音楽専門学校の校長先生の特別講義として、心して拝聴しようという二週間です。こんばんは。
亀田誠治(以下、亀田):こんばんは。よろしくお願いします。ありがとうございます。
田家:先月は東京事変で色々ご出演されていましたが、こうしてご自身のプロデュースした作品を語るときは、東京事変のメンバーとして動いているときとは違うものがありますか?
亀田:そうですね。全く違っていて、東京事変で動くときは僕もメンバーの一員ですし、今日は松本隆先生のトリビュートの話を田家さんとお話させていただけるということで張り切って参りました。
田家:最初に話が来たときはどう思われたんですか?
亀田:「やった!」とガッツポーズな感じで。2004年に『風街クロニクル』という松本先生の集大成のアルバムが出たときに、ライナーノーツを書かせていただいたんですよ。そういうご縁もあったりして、僕も松本先生とお仕事をする機会ができたり、そして僕がいま50代半ばに入ってきて、今一度松本先生のJ-POPの名曲を集めて、J-POP大全じゃないですけれど、皆さんに届けられるタイミングが来たんだなと思って。全力でこの企画に関わらせていただこうと思いました。
田家:亀田さんのインタビューは、今回『風街に連れてって!』の初回限定版付属の100ページを超えるブックレットにも掲載されていました。その中で、話をもらったときに設計図が浮かんだ、とありました。それはどういう設計図だったんですか?
亀田:それは今お話したことにもつながるんですけど、J-POP大全として松本先生が作られてきた作品、これはJ-POPのマイルストーンだということを伝えていくには、様々な世代のアーティストに松本先生の歌を歌ってもらい、様々な世代の人にこの作品を聴いてもらうという絵が浮かんだんです。そのときに、自分が今までスタジオやライブ、番組で出会ったアーティストや関係者の顔が浮かんできて。この曲はあの人に頼もうとか、大体の収録曲のイメージみたいなものは思いついてしまった、思い浮かべていたという感じです。
田家:それでは、『風街に連れてって!』から改めて一曲。吉岡聖恵さんで「夏色のおもいで」。
田家:吉岡さんの「夏色のおもいで」を聞かせていただいて、いきものがかりの時とは違うみずみずしさで、とても新鮮な感じがありました。
亀田:この曲、僕はすぐに聖恵さんに歌ってもらいたい、もしくはいきものがかりとして参加してもらいたいと思ったんです。松本先生の歌詞には「風」とか「きみ」という言葉がよく出ていて、これっていきものがかりが今までに歌ってきた景色にすごくオーバーラップするなと思って。松本先生は1970年代にチューリップというバンドにこの歌詞を書かれていたんだけども、これはもしかしたら平成のいきものがかりも、松本先生と相談したわけではないけれどきっと、同じことが音楽のDNAとして受け継がれていったんじゃないかなと思って、聖恵さんに歌ってもらったんです。
田家:原曲のバンドらしさも微笑ましいですね。アルバムもこれで始めようと?
亀田:まず声から始まるというのが新鮮なんじゃないかなと思ったのと、松本先生としてもフレッシュな作品だったということで。この曲は今に置き換えても、今のいきものがかりが歌っていてもおかしくないナンバーだと思いましたし、そういう色々なものがシンクロしていて、この曲をトップバッターに選び、曲を歌うのは吉岡聖恵さんだとすぐに思いついた感じでした。
田家:今流れているのは、アルバムの二曲目「君は天然色」です。大滝詠一さんの1981年『A LONG VACATION』の一曲目。これは亀田さんがやりたいと?
亀田:「君は天然色」をこのアルバムに収録することが決まったのは本当にアルバム制作の最終工程で。僕から、これやっぱり大滝詠一さんの曲が入ってないのはおかしいよと。それまでトリビュートアルバムに挿入されているのは、とにかくJ-POPを代表する曲で。「スタッフの皆さん、すみません。大滝詠一の『君は天然色』一択でオファー、アーティストを探しましょう」と。
田家:その時に歌い手のイメージもあったんですか?
亀田:あったんですよ。様々なアーティストがこの曲をカバーされている中で、今回のアルバムで「君は天然色」を歌うのは、やっぱり今一番新しい感性を持っているアーティストのほうが、自分たちの子供や孫世代に、より伝わっていくんじゃないかと思って。若い世代の持っているエネルギーとか発信していく場所を見据えて作りたいということで、川崎鷹也さんが思い浮かびました。去年から気になっていたんです。
田家:去年の夏に「魔法の絨毯」をリリースされてがSNSで話題になっていましたよね。
亀田:そう、「魔法の絨毯」がYouTubeでばーっと再生回数が伸びていました。僕の中でYouTubeやSNSから発信されていくミュージシャンがたくさんいる中で、川崎鷹也さんは歌声一発でいけるなって思っていて。これはぜひ声をかけたいと思ったけど川崎さんへのつてがなかったので、ホームページのコンタクトというフォームからオファーをさせていただきました。そうしたら快諾でした。
田家:僕も本人にインタビューしたんですけど、マネージャーの人が「亀田さんからこんなのが来た!」って舞い上がってその日は大変だったらしいですよ。
亀田:ははは(笑)。この曲を残していくためにも、僕は川崎さんを選んでよかったなって再確認しましたね。
田家:改めて曲を聴く前に、一番気を使われた点を訊いてみたいのですが。
亀田:大滝さんがこだわっていたウォール・オブ・サウンド、フィル・スペクターの影響をどこまで受け継ぐかというのがすごく重要だなと思うんです。大滝さんの作品に関しては、音楽ファンが細かくて、ほんっとうに手厳しいんですよ(笑)。これはハードル高いカバーだぞ、と思いながら、自分の中で何を大事にしないといけないかと考えた時に、この曲の中で語られたドラマだと思ったんです。
田家:それは曲の後にまた伺いましょうか。
亀田:はい。とにかく歌詞と川崎さんの歌に注目してお聴きください。
田家:トリビュートというのはこういうことだ、というのを聞かせていただいた感じがしますね。誰もが聴いておや? と思ったのはイントロでしょうね。
亀田:原曲のエンディングをイントロに持ってきて。これは、音楽は循環してバトンを渡されていっているよということを伝えたかったんです。大滝さんや松本さんたちがスタジオで本当に楽しそうに曲を作っている、僕の推測の絵が見えるんです。だからきっと、先輩たちが楽しんでやったであろう部分はちゃんとリスペクトして曲の中に取り入れようというのと、ジャッジャ、ツッジャジャみたいな大事な曲の仕掛けは原曲通りに残していて。やっぱりこの曲自体が、大滝さんが吸収した様々な洋楽やそこへのオマージュが入っている。その心を込めて作ったオマージュに対しても僕は敬意を払いたいというのもありました。その中で、原曲のアレンジを最大限に生かしつつ、じゃあそれを川崎鷹也くんが歌う場合にはどういうサウンドにするかということを、ちょっとずつ工夫していったというか、自分なりに検証していった部分があります。
でも、一番は歌の聴こえ方ですね。大滝さんの歌う物語性、ロマンティクな感じや広がりというのを、川崎鷹也さんのようなこれからさらに羽ばたいていく人にどうステージを用意していくかを考えて。大滝さんは原曲だと、ダブルと言って、同じ歌を二回歌ってそこの滲みや広がりが大滝さんの優しさやしなやかさを生むんです。川崎くんの方から「亀田さん、これダブルにしなくていいですかね?」と言われたんですけど、「君の歌はダブルにしないでシングルで大丈夫だから。その方が松本さんの歌詞も伝わるし、川崎くんが表現したいニュアンスも伝わっていくよ」という風に話したのも覚えています。
田家:見えてくる景色が違いますもんね。天然色がセピアになった感じがあります。
亀田:ありがとうございます。
田家:すごいでしょう? この曲の並び。三曲目は「SWEET MEMORIES」。1983年、作曲が大村雅朗さんです。ブックレットのインタビューの中で、「自分史的にこの曲は最重要曲だ」と仰っていましたね。
亀田:この曲は松田聖子さん、松本さん、そして欠かせない大村雅朗さんというアレンジャーがいらして。僕がアレンジというものに目覚めたのは大村雅朗さんがきっかけだったんです。大村雅朗さんが大澤誉志幸さんの「そして僕は途方に暮れる」という曲のアレンジをされていて、ある時街で聴いた時に、J-POPの中で聴いたことのないサウンドでなんてかっこいいんだろう! どうやったらこういうサウンドが生まれるんだろう! と思ってアレンジに興味を持ったんです。そこから大村さんは、松田聖子さん、渡辺美里さん、大江千里さんもそうですし、様々なヒット曲を生み出して。本当に悔しいんですけど、僕が一人前になる前に大村さんが亡くなってしまって、僕のリスペクトの気持ちを伝えたかったです。今回、松本先生の作品の中で、大村雅朗さんと一緒に作っている曲を絶対に入れたいということが僕の設計図の中にあって。ここの「SWEET MEMORIES」は躊躇なく選ばれたというところです。
田家:歌っているのはYOASOBIのボーカル・ikuraさんとしても活動するシンガーソングライター・幾田りらさんですとしても活動されていますが、この人を選んだというのが今回のアルバムのポイントの一つでしょうね。
亀田:今回のトリビュートアルバムは、僕の全亀田が投入されているんです(笑)。YOASOBIのikuraさんとAyaseさんとは昨年とあるトークショーで出会ったんです。その時に、この子たちは単純に再生回数やヒットしているということだけでなく、ちゃんとJ-POPや音楽のことを真剣に考えていて。YOASOBIというグループって、小説とのコラボだったり、企画の部分が取り上げられることが多いですが、実際の二人は全然違いました。ご本人たちの音楽へのピュアな姿勢があって、この子たちといつか一緒に音楽を作りたいなと思っていました。今回「SWEET MEMORIES」をカバーするにあたって、幾田さんが英語圏の帰国子女だということも話していたので、この曲は英語のバースもあるし、幾田さんが歌ったら最高になるだろうなと。あとは聖子さんの歌う粘り、色合いの強さとは違った透明な「SWEET MEMORIES」を幾田さんが歌うことによってお届けできるんじゃないかなと思いました。
田家:幾田さんの英語パートを心してお聴きください。「SWEET MEMORIES」。
田家:幾田りらさんは松田聖子さんのことをどう思っていたんでしょうね?
亀田:お母さんがこの曲を聞いていたということは仰っていましたね。
田家:りらさんの声の儚さが聖子さんと違う感じがしたんですよね。
亀田:そうですね、本当に儚さとかしなやかさみたいなものがあって。聖子さんの歌には聖子さんの歌の素晴らしい魅力があるんですけど、そこの影響をボーカルとして全く受けていない。大抵、聖子さんのカバーというのは、どこか聖子さん節に引っ張られて聖子さんぽくなっていくんですけど、幾田さんが新世代だなと思ったのは、自分の歌で素直に歌われたというのが僕としてはすごく嬉しかったですね。サウンド面でも、僕のサウンドは生のピアノと僕の弾いているウッドベースとジャズドラム、ストリングスしか入っていないんですけど、オリジナルはドラムマシーンやシンセサイザーが雰囲気を作っている。この時代性の違い、ボーカリストの見え方、立っているステージを違う場所、未来に伝えていくというか。たぶん今回僕が使っている生のドラム、生のピアノ、ウッドベース、ストリングスセクションって50年後も残っている楽器だと思うんですよ。そして幾田りらさんの歌声は、YOASOBIのikuraさんとして、日本で今一番聞かれている歌声だと思うんですよ。この歌声を届けたかったという、僕なりの様々な世代に音楽を届けていきたいという思いも込めています。
田家:ドラムが河村"カースケ"智康さん、ピアノが皆川真人さん、ストリングスが今野均さんストリングス、そしてベースが亀田誠治さん。お聞きいただいたのは、幾田りらさんの「SWEET MEMORIES」でした。
田家:流れているのは宮本浩次さんで「SEPTEMBER」。1979年の竹内まりやさんの曲で作曲は林哲司さん。
亀田:この当時の才女が歌うJ-POPみたいな(笑)。
田家:才女ね(笑)。この女性の歌を男性が歌うという組み合わせも選曲した時には頭にあったんですか?
亀田:これは宮本くんが去年から様々なカバーに取り組まれていて、僕もその活動をよく知っていたんです。バックステージで話したりもしていて、その中で松本先生の作品がすごく好きだと言っていて。「SEPTEMBER」を選んだのは宮本くんで、持ち歌というか彼のレパートリーの中にあったんです。
田家:ユーミンの「翳りゆく部屋」もカバーされていましたもんね。
亀田:そういう宮本くんなりの持ち歌というのがあって、じゃあ松本隆トリビュートでも是非歌ってくれないか、という流れですね。
田家:他の人だとこういう風には絶対ならない曲ですよね。
亀田:このアルバムの制作は、コロナ禍ということもあり打合せはリモートで進めていたんですけど、その中で宮本くんがPCの画面越しに「セプテンバァ〜ア♪」とワンフレーズ歌ってくれたんだけど、それがまりやさんの歌い回しを完璧に覚えていて、これはいけるなと思って。サウンドは一回僕に任せてくれと言いました。僕の中ではこの曲というか、アジアや欧米でジャパニーズ・シティポップとして今受け入れられているまりやさんの持っている、シティポップの本質をその時代にまで遡って提案できたらいいなと思っていて。今回は宮本くんの歌を聴かせたいから、今までのバンドサウンドを一回取っ払って。「カバーアルバムだもん、一緒にできるチャンスだよ」という僕の口説きも入れての流れです。この曲は、(山下)達郎さんだったらこの曲はこうしたんじゃないかという僕なりの遊び心も入れて。なので、80年代へのオマージュたっぷりのギターのカッティングで始まっているんです。この時代を作ってきた松本さんの周りの様々なアーティストの思いや魂、音楽性が溶け合っていく作品にしたいと思っていて、その代表格がこの「SEPTEMBER」ですね。
田家:それではトリビュートアルバム『風街に連れてって!』から4曲目、「SEPTEMBER」。
田家:ギターは西川進さん、ベースは亀田誠治さん、ピアノは皆川真人さん、トランペット西村浩二さん、サックス山本拓夫さん、トロンボーン村田陽一さん、ドラムは打ち込み、マニピュレーターに豊田泰孝さん。このメンバーは気心の知れた仲間が集まった?
亀田:はい、徹底的にこだわって。松本さんのサウンドは、はっぴいえんどに始まり、ティン・パン・アレー、特に僕は松田聖子さんのアルバムを夢中で聞いてきました。その中の林立夫さん、松原正樹さん、高水健司さんだったり、トップセッションミュージシャンたちが奏でるサウンドというものを、僕が今の時代に責任を持って全頭指揮を執って関わらないといけないなと思っていて。今の時代のティン・パン・アレーを作るつもりでメンバーを集めました。メンバーもファーストコールのミュージシャンとしかやらなかったです。スケジュールが合わないなら待とうよって言って。そうやって作っていきました。
田家:椎名林檎さんのバンドでお付き合いされていたり、Bank Bandで一緒だったりした方達でしたよね。
亀田:本当に気心の知れたメンバーで。あとブラスセクションはスタジオで録っているんですけど、今回はコロナ禍が大きな障害になっていて。なかなか人を集めてレコーディングすることができないというのがあって、データ交換でダビングした楽器もいくつかあったりします。
田家:そういうのを乗り越えて完成したアルバムなんですね。
田家:続いてアルバムより5曲目です。1984年の薬師丸ひろ子さんのヒット曲「Woman ”Wの悲劇”より」。作詞は呉田軽穂さん、ユーミンですね。
亀田:ユーミンと松本隆さんの組み合わせには様々なヒット曲があります。その中で、今回のアルバムの中にはどの曲が入るだろうと思っていて、池田エライザさんとも相談しました。彼女の方からこの曲の主人公なら、私は演じて歌うことができそうだとお話があって。僕が一方的にプレゼンテーションするだけでなく、一緒に作っていく。やっぱり歌い手の思いが入らないと届く歌にならないので、何かを押し付けたり、違うものを演じさせて着せ替え人形みたいにしてはいけないなと思って。丁寧にお話しさせていただいて、エライザさんが選んだのがこの曲でした。
田家:演じられそうだ、と仰っていたんですね。1996年生まれの女優・モデルで、最近は映画監督もされている方ですね。亀田さんは7,8年前から彼女のことをご存知だった?
亀田:僕が音楽監督をやった映画のとあるオーディションに彼女が来ていまして。まだ高校の制服を着ていて、ギターを持ってきて弾き語りしてくれて。そこからの活躍は皆さんご存知の通りで、頑張っているなと思っていたときにご縁があって、この曲でご一緒できたというところですね。
田家:7,8年前に知り合ったときは、彼女はどんな風になると思いましたか?
亀田:やっぱり10代半ばで自分の意思を持って、自分はこうなるんだということをイメージして動かれている方だなと思いました。芯が強いと思いました。あと喋っている声から説得力があるというか。「おはようございます」の一言にも景色がある感じで、いい歌を歌うだろうなと思ってはいたんです。そうしたら、ここで案の定本当に素晴らしい歌を歌ってくれて。予想をさらに超える出来栄えになりましたね。
田家:これも薬師丸ひろ子さんとは違う世界観が繰り広げられるということで。アルバムより5曲目「Woman ”Wの悲劇”より」。
田家:ピアノは皆川真人さん、ベースが亀田誠治さん。マニピュレーターに豊田泰孝さん。レコーディングには松本さんも立ち会われていたと。
亀田:そうなんですよ、歌入れに立ち会われて。
田家:全曲立ち会われたわけではないんですか?
亀田:この曲だけですね。松本隆さんは、本当に最高の作詞家であると同時に最高のプロデューサーでもあって。ここがいい、今がいいっていうのが分かるんですよね。歌入れしている時にも、後ろから「亀ちゃん、これがいいよ」って。なので、亀田誠治プロデュースといいながらも、この曲のレコーディングの時は松本先生のマリオネットだったという(笑)。でもその一言が的確なんですよね。「ここがいい、今がいい」って仰られたときに、僕も感覚的に判断していくというところでは近いところがあるんですけど、やはり松本先生のスタジオに入る時に、例えば聖子さんとかご自身でプロデュースされるときはこうやられているんだな、と垣間見えましたね。
田家:さて、アルバム6曲目。1979年の桑名正博さんのヒット曲「セクシャルバイオレット No.1」、松本さんの初のシングルチャート1位。作曲は筒美京平さん。歌っているのは、Bzであります。演奏もBzです。これはよく入ったなあと思ったりもしました。
亀田:絶対に京平先生の曲は入れようという話になっていたんですけど、「セクシャルバイオレットNo.1」って意外とカバーされていない感じがしたんですよ。これやってみたいと思って。なので曲ありきですよ。「セクシャルバイオレットNo.1」をやるならどの人がいいかね? と話している時に、僕の中で一択でした。すぐBzのお2人が浮かんだ。これもリモートでスタッフさんとミーティングしていたんですけど、僕が「Bzさんどうですか?」って言ったらリモート画面の向こうが凍り付いて(笑)。引き受けてくれないでしょう、っていうオーラがバンバン画面越しに伝わってきて。「いやいや、僕とBzさんが積み重ねてきてる関係がございまして」と。ここ最近のBzさんのアルバムやシングルでベース弾かせていただいたりとか。
田家:2019年のアルバム『NEW LOVE』にも参加されていますね。
亀田:あと2010年代の半ばにも、自分のラジオ番組でも松本さんと稲葉さんがそれぞれ一週間ずつ出てくれたりとか。その中で「セクシャルバイオレットNo.1」は絶対Bzだ! と思って、僕からBzさんにお手紙を書いたんですよ。そしたら、二日後にマネージャーさんから電話があって「めちゃくちゃ前向きですよ」と。「いま松本も稲葉も一緒にいるので、よかったら電話替わりませんか?」みたいになって、その場でキーとか方向性みたいな話もしちゃって。
田家:そこのストーリーは曲の後に聞きましょうか。それではアルバム6曲目「セクシャルバイオレットNo.1」。
田家:電話に出た二人はどんな話をされたんですか?
亀田:松本孝弘さんが「亀田さん、僕、今回の話奇跡だと思うんだ。なぜかというと、僕は桑名正博さんのバンドでこの曲のギターずっと弾いてたんだ。もう一回それが弾けるなんて、亀田さんに本当に感謝するよ」と。
田家:すごい話ですね。
亀田:松本さんのBz結成以前のプロとしてのファーストキャリアの頃に、桑名さんのバックバンドに所属していらっしゃって。ツアーでこのギターを弾いていたと。「今でもすぐ弾けるよ」って。その話を聞いたときは鳥肌が立ちましたね。稲葉さんも電話代わって「この曲僕好きでさあ。シャウトしまくっちゃってもいい?」なんてワクワクしながら言っていて。
田家:うわあ……。
亀田:それで稲葉さんがキー決めの自分のプリプロのデータを送ってくれて、そこからとんとん拍子でレコーディングが進んでいって。楽しかったですね。
田家:ドラムの玉田豊夢さんが加わっているわけですけども、玉田さんはBzのアルバムにも参加されているんでしょう?
亀田:僕と一緒に演奏に参加する時に、Bzさんに「若手の良いドラマーいないかな? その方と亀田さんのリズム隊でやってみたい」ということで僕が推薦して。「亀田と玉田のリズム隊で行きますので、ご安心してお待ちください。固めますから」と言って始まった感じでしたね。
田家:松本隆作詞活動50周年トリビュートアルバム『風街に連れてって!』6曲目、Bzで「セクシャルバイオレットNo.1」でした。
田家:FM COCOLO「J-POP LEGEND FORUM」、7月14日に発売になります、松本隆作詞活動50周年トリビュートアルバム『風街に連れてって!』を1ヶ月間にわたってご紹介します。今週と来週はアルバムのプロデューサーの亀田誠治さん。今流れているのは、この番組の後テーマ、竹内まりやさんの「静かな伝説(レジェンド)」です。前半6曲目まで紹介しましたが、曲順はいろいろ考えられたわけでしょう?
亀田:もちろんです。まあ、最高ですね(笑)。
田家:来週は後半をお聞きいただこうと思うんですけど、さっき松本さんのプロデューサーの役割というものを感じたと仰っていましたけど、改めて作詞家・松本隆のここは知ってほしいという部分はたくさんあると思うのですが。
亀田:やはり揺るぎない言葉のセンスと、その言葉のセンスに裏打ちさせている包容力ですね。ちょっとやそっとのことが変わっても大丈夫だよ、と、松本先生とスタジオで仕事していると僕は思いますね。あとはやっぱり、とにかく言葉が美しくてどんなジャンルでも対応していく。松本先生が歌詞を書くと、演歌とJ-POP、歌謡曲とロックみたいなものも融合できちゃう。やっぱりはっぴいえんど由来のものもあるんでしょうけど、松本先生のボーダーレスに超えていく包容力だと思うんですよね。そこにただただ敬服します。
田家:それでいて、プロデューサーとしてサウンドのこと、作曲のこと、スタジオの空気みたいなことも全部頭の中に入って仕事をしている。
亀田:本当に素晴らしいですね。スタジオの僕はいつもわちゃわちゃおしゃべり好きですし、松本先生みたいな品格が出せるか分からないですけど、でも大好きな先輩と一緒にこの時代を歩ませていただいていることが僕は嬉しくて仕方ないです。
田家:亀田さんはご自身で歌詞も曲も書いていらっしゃる方とも仕事をしていますけど、そういう人たちとの違いみたいなものもあるんですか?
亀田:一番大きな違いは、全責任が言葉になる。歌詞として伝わっていく、歌い回しで装飾していくことができないので、原点のコアにある部分がすごく重要で、その大切さを分かっていらっしゃる方です。
田家:全てが言葉である。来週もよろしくお願いいたします。
亀田:よろしくお願いいたします。
スタジオの様子(左から亀田誠治、田家秀樹)
<INFORMATION>
田家秀樹
1946年、千葉県船橋市生まれ。中央大法学部政治学科卒。1969年、タウン誌のはしりとなった「新宿プレイマップ」創刊編集者を皮切りに、「セイ!ヤング」などの放送作家、若者雑誌編集長を経て音楽評論家、ノンフィクション作家、放送作家、音楽番組パーソリナリテイとして活躍中。
https://takehideki.jimdo.com
https://takehideki.exblog.jp
「J-POP LEGEND FORUM」
月 21:00-22:00
音楽評論家・田家秀樹が日本の音楽の礎となったアーティストに毎月1組ずつスポットを当て、本人や当時の関係者から深く掘り下げた話を引き出す1時間。
https://cocolo.jp/service/homepage/index/1210
<リリース情報>
松本隆作詞活動50周年トリビュートアルバム
『風街に連れてって!』
発売日:2021年7月14日(水)
初回限定生産盤(CD+LP+豪華特典本):10000円(税抜)
通常盤(CDのみ):3000円(税抜)
全曲配信予定
=収録曲=
1.「夏色のおもいで」吉岡聖恵
(作曲:財津和夫 オリジナルアーティスト:チューリップ 1973年リリース)
2.「君は天然色」川崎鷹也
(作曲:大瀧詠一 オリジナルアーティスト:大滝詠一 1981年リリース)
3. 「SWEET MEMORIES」幾田りら
(作曲:大村雅朗 オリジナルアーティスト:松田聖子 1983年リリース)
4.「SEPTEMBER」宮本浩次
(作曲:林 哲司 オリジナルアーティスト:竹内まりや 1979年リリース)
5. 「Woman”Wの悲劇”より」池田エライザ
(作曲:呉田軽穂 オリジナルアーティスト:薬師丸ひろ子 1984年リリース)
6. 「セクシャルバイオレットNo.1」Bz
(作曲:筒美京平 オリジナルアーティスト:桑名正博 1979年リリース)
7. 「スローなブギにしてくれ(I want you)」GLIM SPANKY
(作曲:南 佳孝 オリジナルアーティスト:南 佳孝 1981年リリース)
8. 「キャンディ」三浦大知
(作曲:原田真二 オリジナルアーティスト:原田真二 1977年リリース)
9. 「風の谷のナウシカ」Daoko
(作曲:細野晴臣 オリジナルアーティスト:安田成美 1984年リリース)
10. 「ルビーの指環」横山剣(クレイジーケンバンド)
(作曲:寺尾 聰 オリジナルアーティスト:寺尾 聰 1981年リリース)
11. 「風をあつめて」 MAYU・manaka・アサヒ(Little Glee Monster)
(作曲:細野晴臣 オリジナルアーティスト:はっぴいえんど 1971年リリース)
ALL SONGS 作詞:松本 隆 プロデュース:亀田誠治
トリビュートアルバム特設サイト:https://columbia.jp/matsumototakashi/
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