マネスキンが世界を席巻する理由とは? ロックンロールの救世主が語る野望と信念
Rolling Stone Japan / 2021年7月30日 18時15分
古くはアバ、セリーヌ・ディオンを生んだヨーロッパ最大の音楽の祭典「ユーロビジョン・ソング・コンテスト」で優勝を勝ち取ったマネスキン(Måneskin)。イタリアが生んだ平均年齢20歳のグループは、いまや2021年の顔となり、世界中で一大センセーションを巻き起こしている。彼らはどこからやってきて、そしてどこへ向かうのか。貴重なインタビューをお届けする。
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あなたが今年のユーロビジョン・ソング・コンテストを見た1億3800万人の視聴者の一人なら、マネスキンを見て椅子から落ちそうになったことだろう。とてつもなく高いブーツを履き、グラムロック的な不遜さをにじませて演奏した激烈なアンセム「Zitti e Buoni」は、このコンテストで1990年以来初の優勝をイタリアにもたらした上に、2006年の優勝者だったフィンランドのローディ以来久々にロックバンドが優勝を手にした。
彼らのこの夏の予定は驚くべき変化を遂げた。かつてのユーロビジョンからは世界的なスーパースターが生まれていたが、21世紀に入ってからスター発掘の実力に陰りが出ていた。しかし、今回の優勝者マネスキンからは紛れもないスターのオーラが溢れ出ており、事実、既にSpotifyのグローバルチャートの上位に彼らの楽曲3曲が食い込んでいる。「Zitti e Buoni」に続いてチャートインしたのが熱量の高いフォー・シーズンズのカバー曲「Beggin」で、今月初めにオリヴィア・ロドリゴの「Good 4 U」をトップから引きずり落とした。そして彼らの最新シングル曲「I Wanna Be Your Slave」はずっとトップ10に入ったままで、セクシーなミュージックビデオが公開されたこともあり、今後「Beggin」と同じ地位まで上昇する確率が非常に高い。さらにTikTokを開くと彼らの曲が聞こえたり、もっとマネスキンを聞きたいファンの投稿で溢れている状態だ。
ベーシストのヴィクトリア・デ・アンジェリスは「ほんと、奇妙よ」と言う。「メンバー全員TikTokに興味ないから、そういう投稿は見ることがないわけ。友だちから投稿ビデオを見せられるたびに、かなり不思議な感じがするけど、けっこうクールよね」と。
結成までのストーリー
マネスキンの誕生物語は、彼らのスタイルやサウンド同様にクラシックな趣に溢れている。メンバーは10代の頃にローマで知り合った。ヴィクトリアはヴォーカルのダミアーノ・デイヴィッド、ギタリストのトーマス・ラッジと一緒の高校に通っていた。この3人には絶対に叶えたい音楽の夢があり、子どもの頃からあらゆるスタイルのロックを聞いていた。ダミアーノの音楽テイストは、グループのフロントマンとしての強度やエネルギッシュなステージパフォーマンスによく現れている。彼のお気に入りはエアロスミス、R.E.M.、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ、サウンドガーデンだ。トーマスのテイストはヘヴィメタルやハードロック寄りで、レッド・ツェッペリンがお気に入り。一方、ヴィクトリアのお気に入りはデヴィッド・ボウイ、デペッシュ・モードだという。
若かりし頃の彼らはあまり上手くない若いミュージシャンたちと一緒にプレイしていたが、当時の彼らにはドラマーがいなかった。そこでFacebookで見つけたのがイーサン・トルキオで、彼に”オーディション”を受けさせた。「あれは完全にフェイクだった」とダミアーノが明かす。「俺たちはクールな振りをしたかっただけ。他にドラマーもいなかったしね。彼だけだったのさ。でもラッキーなことに彼はけっこう上手だった」
最も影響を受けた人としてスチュワート・コープランド(ポリスのドラマー)を挙げるイーサンは、バンド加入をとても嬉しがった。しかし、彼らはイタリアで若手バンドとして活動することの大変さをすぐに知ることとなる。「ライブができるシーンもライブを観てくれる観客もいない」とトーマスが言う。ローマにはパブやクラブが非常に少ないため、腕を磨く機会に恵まれない上に、ギグのブッキングが困難である。たとえ会場を見つけたとしても、必死に頼み込む必要があり、金銭的見返りもほとんどない。
「演奏できる機材を持っている人がいない。だから自分たちで全部持ち込まなきゃいけなくて。誰もお金を出してくれないしね。子どもの頃から演奏する機会がないと信じ込まされているから、若いってだけで本当に大変なの」と言って、ヴィクトリアが続ける。「イタリアでは有名なロックバンドが一人もいない。過去にはいたけど、イタリア出身の若手ロックバンドは皆無よ。本当に嘆かわしい」と。
彼らは想像力を駆使してやり方を考え、ストリートに出ることにした。ローマ市内のコッリ・ポルトゥエンシ地区と有名なコルソ通りでバスキングを始めた。「歩行者の耳目を集めるには相当練習しないといけないんだよ」とダミアーノ。
マネスキンが体現する「自由」
そして2018年、マネスキンはデビューアルバム『Il Ballo della Vita』(「人生のダンス」の意)をリリースした。これは架空のミューズ「マルレナ」からインスパイアされた疑似コンセプト作品で、スカの影響が色濃く反映されている。そして2021年にリリースされた2枚目が『Teatro Dira: Vol. 1』(「憤怒の劇場」の意)。この作品の方がバンドとしてのビジョンをはっきりと打ち出している感じがする。このアルバムの曲作りを始める前に、本物の音楽シーンで生きる生活を体験するために4人はロンドンに移り住んだ。「ロンドンでは毎晩多くのコンサートが開催されているし、たくさんのバンドのライブを見る機会に恵まれたわ。おかげでたくさんインスピレーションをもらったの」とヴィクトリアが述べる。
それに付け加えて、ダミアーノは彼らが必死に楽器の練習を行い、技術的な知識を増やすと「多くのチャンスが舞い込んできた」と説明する。そして『Teatro〜』のレコーディングでローマに戻り、演奏の純粋さを最大限に発揮するために、全曲スタジオでライブ録音した。彼らにとって、生のバンドサウンドこそ世界を魅了するサウンドなのだ。しかしラジオ局の反応は「現在のメインストリームの音じゃない」というものだった。
この生のバンドサウンドには重要なメッセージが込められている。マネスキンの音楽は、スタイルからも、歌詞からも「性の自由」がにじみ出ている。そして彼らは「I Wanna Be Your Slave」のミュージックビデオの奇抜さを誇らしく思っている。このMVにはマネスキンの精神と訴求力が存分に表れている。「あのビデオはセックスについてだし、性的な表現力についてよ。なりたい自分がどんなものでも自由になればいいし、そこに正解もないし、悪いこともない。それをあのビデオで見せたかったわけ」とヴィクトリア。
ファッションセンスやステージでの振る舞いを通してジェンダーや性規範を見事に蹴散らす彼らは、自分たちのファンからインスパイアされていると言う。マネスキンの音楽に救われて素の自分を受け入れたファンが多く、特に彼らの性的アイデンティティの容認に一役買っている。ダミアーノが説明する。「若い頃の俺たちは自分に自信がなかったし、自分が何者かも知らなかった。でも俺たち4人は一緒に成長する機会に恵まれ、互いをサポートしてきた。そんな体験をファンと共有したいし、みんなに自分らしさを保って欲しい。みんなに権利があるし、自分が共有したいものを共有できるし、誰にも批判されたり追い払われることなく、なりたい自分になる権利があるんだ」と。
この夏、マネスキンは各地のフェスティバルに参加することが決まり、そこでユーロビジョンでの優勝を祝う機会を得た。そして今年の年末までに3枚目のアルバムをリリースする予定で、これは去年から曲作りを始めた作品だ。そして、ツアー日程のブッキングも進んでいる。マネスキンの夢はアークティック・モンキーズ、ローリング・ストーンズ、フー・ファイターズなどのオープニングを務めること。ダミアーノはニヤニヤ笑いながら「もちろん、ヘッドライナーになりたいけどね」と言う。現在の彼らの勢いを鑑みると、彼らが思うよりも早い時期にその夢を叶うことになるだろう。
From Rolling Stone US.
マネスキン
『Teatro Dira: Vol. 1』
日本盤CD 10月13日リリース
再生・購入リンク:https://SonyMusicJapan.lnk.to/ManeskinTeatrodIraVol1
マネスキン 日本オフィシャルページ:
https://www.sonymusic.co.jp/artist/maneskin/
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