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KIRINJIが語るAwichや石若駿との共演、『鳩の撃退法』、過去曲の新しい解釈

Rolling Stone Japan / 2021年8月4日 18時0分

堀込高樹(Photo by Kana Tarumi)

KIRINJIの新曲「爆ぜる心臓 feat. Awich」は、堀込高樹が劇伴音楽を担当した映画『鳩の撃退法』(8月27日公開)の主題歌であり、これまでのイメージを覆す一曲となった。この爆発的なサウンドはどのように生まれたのか。同曲と4月に配信リリースされた「再会」、「恋の気配」リメイクの3曲入りEPや、映画のサウンドトラック、8月13日・14日に開催されるライブの展望について尋ねた。

【画像を見る】KIRINJI アーティスト写真ほか(全5点)

ー「爆ぜる心臓」びっくりしました。「再会」のあとだけになおさら。

堀込:実は昨年の夏から『鳩の撃退法』の劇伴音楽と並行しつつ取り掛かっていて、10月にはこの曲も完成していました。

ー「再会」よりも先に仕上がっていたんですね。それにしても驚きのサウンドです。

堀込:KIRINJIとしては、「再会」もそうだったように、『cherish』でやったダンサブルなポップスを今のところ続けていくつもりです。その一方で、今回は映画の主題歌、言ってみればコマーシャルソングですし、映画は派手なシーンもある作品なので、主題歌もインパクトのある曲にすべきだろうと思いました。



ーKIRINJIに「今回の主題歌はロックで!」とは普通オーダーしないと思うので、どんな経緯があったのか気になってましたが、そういうことでしたか。

堀込:あとはもう一つ、劇中で「爆ぜる心臓」の前にある曲が流れるのですが、それが16ビートの強力な曲で。そのあとに最近のKIRINJIみたいな曲が流れても合わないし、静かなバラードも映画の内容とそぐわない。そんなふうに考えていくうちに、音圧でねじ伏せる方向にしようと。さまざまな条件を踏まえた結果、こういうサウンドに行き着きました。

ー資料に「ハードなロック調」とありましたが、普通のロックともかけ離れたサウンドですよね。

堀込:ギターをギンギン鳴らしたりロック的なテイストを入れつつ、今のレンジ感をもたせることは意識しました。ロック系の人がヒップホップとかダンスミュージックに寄っていった時の感じ。例えばポスト・マローンも、ウワモノはロックだけど低域がすごく出ていますよね。

ー近年のKIRINJIはいつもベースに驚かされますが、「爆ぜる心臓」の低音もすごいですね。

堀込:この曲はシンセベースが中心で、千ヶ崎(学)くんにもシンベの音になぞるように(生ベースを)弾いてもらいました。自分としてはシンベが目立っている気がして、「今回のミックス、千ヶ崎くんの音が小さいけどごめんね」と話したら「いやいや、結構感じられますよ」と言ってもらえたので安心しました(笑)。

石若駿とAwichについて

ーあとはやっぱりドラムが印象的です。過去の曲でいえば「the echo」を思い浮かべたりもしましたが。

堀込:元々のイメージはレッド・ツェッペリンですね。「ロックン・ロール」のイントロのリズムをつまんでループさせて、そのリズム・パターンを中心に作っていきました。だからベースのリフもウネウネ動いていて、変拍子のように聞こえる箇所もあるけど、アクセントが少し変わったところにあるだけで、基本的には8分音符で動いているんですよ(「the echo」は7拍子)。




ー今回参加した石若駿さんにも話を聞いてきたんですが、「完成度の高いデモのドラムが先にあって、それを人力で再現するようなやり方でした」と彼も話していました。

堀込:その通りです。

ー「最初のフィルインもデモ通りに叩いてますが、途中で入るフィルは僕の体が自然に叩いたものです」とも言ってましたね。

堀込:そう。石若くんは(デモよりも)テクニカルに叩けてしまうので、前半は少し抑えてもらって、後半のフリーキーなくだりは全開で叩いてもらいました。いわゆるロック一辺倒だと重い曲になりかねないので、もっと現代的でジャズ寄りのアプローチもできて、なおかつロックも知ってる人に頼みたくて。そこで石若くんにお声がけしました。

ー録音現場に立ち会ってみて、彼の演奏はいかがでしたか?

堀込:最初に(劇中で使われる)別の挿入歌から録り始めたのですが、そこでのオーセンティックな演奏もすごく良かったです。正確無比というよりは人間的な揺らぎがあるんだけど、ズレてるとかもたついてるというのではなく、ハットからスネア、キックまで全てが気持ちよく鳴っていて。ただ彼が演奏しているだけで出音がいい。上手い人ってそうですよね。「爆ぜる心臓」も叩くのは大変かなと思っていましたが、難なく演奏してくれました。



ー石若さんのことはいつ頃から認識していたんですか?

堀込:最初に音源を聴いたのはCRCK/LCKSですが、「ジャズ系の上手い人がいる」という話は、それより前から聞いていたような気がします。それからオリジナルも出していると知って、聴いてみたらジャズだけでなく、クラシカルでフォーキーな曲も魅力的でした。

ー『SONGBOOK』シリーズもいいですよね。

堀込:ドラムも上手いし曲も書けるんだ、すごいなって。そんなふうにチェックしていたら、くるりのサポートもやっている、こんなところにもいる……という感じで。最近はとにかく引っ張りだこですよね。


Photo by Kana Tarumi

ーそして、もう一つ衝撃的なコラボがAwichさん。

堀込:まず、誰かフィーチャリングを入れてほしいというリクエストが先にあったので、レーベルに何人か候補を挙げてもらいました。トラックはその時点で完成していて、曲調を考えても(シンガーより)ラッパーがいいのかなと思っていました。それでスタッフが挙げてくれた候補を全員チェックしてみたところ、Awichがよさそうだなと。ちょっと怖そうというか、僕としては足を踏み入れにくいシーンにいる方ですけど、勇気をもってお願いしてみました。

ーラッパーとの共演がお馴染みになってきた感もありますが。

堀込:たしかに(笑)。その辺の度胸はついてきたかもしれないです。



ーラップが凄まじいのはもちろんとして、映画のテーマやストーリーを的確に汲みつつ表現していることに驚かされました。

堀込:人によっては何かリクエストされることを不自由に感じて、歌詞が書けなくなることもあると思います。でも、Awichは「どんなテーマでも大丈夫です」という感じ。彼女の作品も「愛」という大きなテーマもあれば、昭和っぽい雰囲気だったり、鎮座(DOPENESS)くんを迎えた曲ではフィルムノワールな世界観もあったりして。いろんな物語が作れる方なのでしょうね。

それで打ち合わせをしたとき、映画は山盛りのトリックを謎解きしていく作品だから、主題歌では登場人物やストーリーの背景に踏み込んだ内容にしようと思いました。「本物と偽物、そこに差はあるのか」みたいなテーマが作品の裏側にあると僕は思っていたので、Awichとも話し合いながら歌詞に反映してもらいました。

劇伴と「開けてなかった引き出し」

ーそんなふうに映画と寄り添いつつ、”バレる嘘と爆ぜる心臓/バラした奴はバラすシナリオ”と高樹さんが歌う「爆ぜる心臓」のサビは、実にKIRINJI的だなと思ったりもしたんですよね。

堀込:自分としては「KIRINJIっぽくしよう」ということは考えませんでした。映画のエンドロールで「なんでこんな曲が最後に流れるの?」と思われるのは、お客さんにも作品にも不幸なことなので、バシッとハマるものにしようということだけを考えながら作りました。

ー逆に言えば、「KIRINJIらしさ」はそんなに求められなかった?

堀込:でも、監督のタカハタ秀太さんはKIRINJIの最近の活動までチェックしてくれていて。僕はプロの劇伴作家じゃないので、いわゆる劇伴っぽいものは作れないし、そういうのは最初から求められてなかったと思います。監督はセンチメンタルな場面で湿っぽい曲が流れるとか、そういうのは好きではないみたいで。「ベタベタに合っているわけではないけど、演出としては成り立っている」みたいな感じを求めていたのかな。それに気づいてからは楽しく作れました。



ー『共演NG』の劇伴では、『cherish』を踏まえてエレクトロっぽい音を求められたそうですが、今回は高樹さんもコメントしていたように「自分の中の開けてなかった引き出し」をいくつも解禁しているように映りました。

堀込:オープニングの曲は「千年紀末に降る雪は」のイントロっぽいですよね。スローで重いベースのリフがあって、自分で言うのもアレですけど(笑)かっこいいのができたなと。なかなか自分から「久し振りに『千年紀末』みたいな曲を作ろう」とは思わないですよね。それはちょっとかっこ悪いですから。でも、人から頼まれたら作れるんだなって思いました(笑)。

ーすごいことをサラリと仰いましたね(笑)。もしオファーが届けば「Drifter」みたいな曲を作る可能性もある?

堀込:誰かが頼んでくれたら作りますよ。



ー劇伴に話を戻すと、高樹さんが言うところの「フェイクのタンゴ」もよかったです。

堀込:劇中のバーで流れてる曲も、監督のなかにイメージがあったみたいで。ジャンゴ・ラインハルト、ジプシージャズとか。ただ、そういう音楽はその道の人でないとなかなか雰囲気が出ないし、タンゴのほうが渋くてかっこいいんじゃないかと思って、「アストル・ピアソラみたいなのはどうですか?」と提案しました。そこからタンゴをよくわかってない人間がタンゴっぽい曲を書いたわけですが、それを(バンドネオン奏者の)北村聡さんに演奏してもらうのは少し恥ずかしかったですね(笑)。

ー「ジャジーなバラード」もありましたが、高樹さんは過去のコンピレーションや最近のプレイリストなどで、ジャズも好んで選曲してきましたよね。例えばチャーリー・ヘイデンとか。

堀込:好きですね。そんなに詳しくはないけど、音楽をやっていくうえで必要なくらいには聴いています。

ーそういう意味で今回の劇伴は、これまで積極的にアウトプットしてこなかったけど、実は愛聴してきた音楽のエッセンスを世に出す機会にもなったんじゃないですか?

堀込:終盤のバーで流れるジャズにしても、歌モノでやると白々しくなるので、劇伴だから書けたというのはあります。なかなかこういう機会でもないと、ああいった曲は書かないので。あの「bar Olivia」という曲は特に気に入っていて。こういう曲だけで1枚のアルバムを作れたらいいな、とも思います。

ー物凄く聴きたいです。

堀込:でも、そんなのできるかな。1曲7分、全6曲とかだったら作れるかもしれない(笑)。


Photo by Kana Tarumi

ーちなみに、劇伴ではどういったものがお好きですか?

堀込:いろいろ聴いてきたようで、実は偏っている気がします。例えばヘンリー・マンシーニの音楽を、僕は劇伴というよりポップスとして聴いてきました。そう思い返すと、劇伴を劇伴として聴いてこなかったのかもしれない。単純に音楽として好きなんですよね。

渡邊琢磨さんはかっこいいなと思いました。『美しい星』はストリングスの曲もありつつ、エレクトロニクスもたくさん使っていて、すごく印象に残っています。もちろん、ハンス・ジマーも好きです。



ーだいぶ話が前後しましたが、『鳩の撃退法』はご覧になっていかがでしたか?

堀込:面白かったです。ストーリーもかなり凝っていますが、「みんなわかるかなー?」くらいのバランスが一番見応えがありますよね。

ー「最近の日本映画は説明過多」といわれるなかで、かなり硬派なサスペンス/ミステリーだと思いました。

堀込:見る人によって解釈も違うだろうし、実は台本にあった説明っぽいというかセンチメンタルになる部分がバッサリ切られている。思い切ったことやっているなと思います。

過去曲の新しい解釈

ー今回のEPでは、もともとコトリンゴさんが歌っていた「恋の気配」を、高樹さんのヴォーカルで再録音しています。これはどういった動機で?

堀込:以前から気に入っていた曲で、これからもライブなどで演奏できたらと思っていました。もう一度録り直すことで、それを基準に「今後のライブではこういう感じでやりますよ」と伝わりやすくなるし、ファンにも喜んでもらえるかなと。そんなふうに考えたのがきっかけです。



ーレコーディングしたのは「再会」と同時期ですか?

堀込:そうです。今後もシングルのカップリングとして、弓木(英梨乃)さんが歌っていた曲や、兄弟キリンジ時代の曲を自分で歌い直したり、折を見てやって行こうかなと考えています。

ー「再会」でもうっすら思ったんですけど、高樹さんの宅録アレンジを聴くと、個人的には妙にプリファブ・スプラウトを感じてしまうんですよね。高音のコーラスとか。

堀込:そこは意識してなかったですね。コーラスの処理に関しては小森さん(エンジニアの小森雅仁)がいろいろ考えてやってくれました。僕としては図らずもテーム・インパラのような、ダンサブルでボトムがしっかりあるけど、ウワモノはサイケ感をもつポップスに近づいた気がしています。最近、自分で聴くのもそういう曲が多くて。「恋の気配」のアウトロみたいな感じが今の気分ですね。ベックがポール・マッカートニーの曲をリミックスしていましたが、あの曲もサイケ感があるじゃないですか。



ーベックの最新アルバム『Hyperspace』もそうでしたね。

堀込:「進水式」みたいな曲も、ああいうサイケっぽいアプローチで作り直したら今聴ける感じになりそうな気がします。「進水式」の曲調そのものはオーセンティックというか、(兄弟時代からの)パブリックイメージを体現するような曲だと思いますが、音像が変わることで印象も違ってくるはずで。

そういう意味でも、「再会」には改めて手応えを感じています。ミックスの面白さに気づく人もいれば、「昔のキリンジみたい!」と楽しんでくれる人もいて。これはいい傾向だなと思いました(笑)。

ー8月にはZepp Hanedaでライブが控えています。新体制になってから初のステージ、どういった感じになりそうでしょうか。

堀込:ベースの千ヶ崎くんとマニピュレーションとパーカッションの矢野博康さん、あとはサックス&フルートのMELRAWくんにも引き続き参加してもらいつつ、それ以外のメンバーは初めての方ばかりです。ドラムが伊吹文裕くん、キーボードが宮川純くん、そしてギターがKASHIFくん。彼はカルチャーがあるというか、アイデアも豊富だし文脈を読む力がすごい。そういう人を加えたほうが意外性のあるライブになりそうだと思って。


MELRAW、伊吹文裕、宮川純が参加したkiki vivi lilyのセッション映像

ー「爆ぜる心臓」がライブでどうなるのか気がかりでしたが、伊吹さんがドラマーだったら心配無用ですね。

堀込:伊吹くん、宮川くん、MELRAWくんとジャズ系の人たちが参加してくれるので、ジャズ寄りのハーモニーを使った曲もいくつか盛り込もうかなと。あとはAwichのゲスト出演も決まっていて、「爆ぜる心臓」1曲だけに参加してもらうのももったいないので、彼女の曲もなにかできればと思ってます。

ー楽しみです。前回のインタビューで「年内にアルバムを出すのが目標」と話していましたが、制作のほうは順調ですか?

堀込:セミの幼虫は土の中で7年を過ごすと言いますよね。今は……5年目くらいかな(笑)。


【関連記事】KIRINJI・堀込高樹が語る、新体制への移行と「再会」に隠された物語



KIRINJI
「爆ぜる心臓 feat. Awich」
初回限定盤(写真:CD+DVD)1,980円(税込)
通常盤(CD)1,320円(税込)
発売中
視聴・購入:https://jazz.lnk.to/KIRINJI_Hazeru


堀込高樹(KIRINJI)
『鳩の撃退法(オリジナル・サウンドトラック)』
2021年8月27日リリース

EPリリース記念ライブ「KIRINJI SPECIAL LIVE 2021 ~SAIKAI~」
2021年8月13日(金)@Zepp Haneda(東京)
2021年8月14日(土)1部/2部@Zepp Haneda(東京)

KIRINJIオフィシャルサイト:https://www.kirinji-official.com/

映画『鳩の撃退法』
2021年8月27日(金)公開
出演:藤原竜也、土屋太鳳、風間俊介、西野七瀬、豊川悦司
原作:佐藤正午『鳩の撃退法』(小学館刊)
監督:タカハタ秀太 脚本:藤井清美、タカハタ秀太
音楽:堀込高樹(KIRINJI)
主題歌:「爆ぜる心臓 feat. Awich」KIRINJI(ユニバーサル ミュージック)
製作幹事:松竹、電通 配給:松竹
©2021「鳩の撃退法」製作委員会 ©佐藤正午/小学館
公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/hatogeki-eiga

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