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ソウルとディスコの未来を先取りするUK本格派、ジャングルの卓越した音楽センスを考察

Rolling Stone Japan / 2021年8月12日 18時0分

ジャングル(Photo by Filmawi)

UKのソウル・ユニット、ジャングルが通算3作目の最新アルバム『Loving In Stereo』をリリース。10億に迫る総ストリーム数を記録し、数々の大物アーティストを魅了してきた2人の歩みと最新モードを、音楽ジャーナリストの高橋芳朗に解説してもらった。

2014年のデビューアルバム『Jungle』、続く2018年リリースの『For Ever』、そして今回の新作『Loving in Stereo』。ジャケットの中央にバンド名を据えた一貫したアートワークから、静かな威厳と共に浮かび上がる自らの音楽に対する揺るぎない自信と美意識。ロンドン西部のジェパーズブッシュで育った幼馴染のふたり、ジョシュ・ロイド・ワトソンとトム・マクファーランドが結成したジャングルは、最初から見事なまでに完成されていた。

そもそも、デビューしていきなりノエル・ギャラガーとジャスティン・ティンバーレイクから賞賛を受ける、という異例の事態がジャングルの無敵ぶりを雄弁に物語っている。彼らが登場した2013年はジェシー・ウェア、アルーナジョージといったポストダブステップ時代の新しいR&Bアクトが台頭してきたタイミングだったが、ジャングルはそんなダンスミュージックの趨勢を踏まえつつ、ザ・ウィークエンド『Kiss Land』やライ『Woman』に代表されるアメリカのアンビエントソウル/インディーR&Bの隆盛をも視野に入れている節があった。

こうしたジャングルの持ち味は最初のシングル、2013年初夏に公開した「Platoon」ですでに全面に打ち出されている。ファルセットを多重録音したジョシュとトムによるボーカルはソウルミュージックの伝統にのっとりながらもアンビエントソウル的な幽玄さも交え、その淡い輪郭の歌に灯るほのかなぬくもりと抑制の効いたクールなファンクサウンドとの融合は他にはない唯一無二の魅力を有していた。彼らのセンスの良さはオーティス・レディング「Ive Been Loving You Too Long」を曲のモチーフにしながらジェイムス・ブレイクのボーカルマナーをさらりと取り入れたカップリングのミッドテンポ「Drops」からもうかがえるが、この2曲はまさに2013年当時のダンスミュージックやR&Bのモードをまるごと昇華してしまったような大胆不敵さを漂わせている。




そしてなんといっても決定的だったのが2014年7月のデビューアルバム『Jungle』、特にベッドルームミュージックの色合いを濃くしていた前年からのシングル「Platoon」~「The Heat」を経てより強靭な肉体性を手に入れた「Busy Earnin」「Time」「Crumbler」といったダンスナンバーだ。『Children of the World』~『Spirits Having Flown』期のビー・ジーズをファンクにビルドアップしたようなサウンドは、シック/ナイル・ロジャース、ジョルジオ・モロダー、マイケル・ジャクソンなどのオマージュが多くを占めていたディスコ再燃の動きのなかで明らかに異彩を放っていたが、その鮮やかな換骨奪胎ぶりはこのリバイバルから生まれた最大の収穫のひとつといえる圧倒的な完成度を誇っていた(今年になってフー・ファイターズがディー・ジーズを名乗ってビー・ジーズのカバーアルバム『Hail Satin』を発表しているが、そのダイナミックなアレンジをジャングルのアプローチと聴き比べてみるのも一興だろう)。




先ほど触れたジャスティン・ティンバーレイクがジャングルを絶賛した背景としては、彼が2013年の連作『The 20/20 Experience 1 & 2』で描いた次代のソウルミュージック像と共鳴する要素をアルバム『Jungle』に見出したからではないかとにらんでいるのだが(改めて「Suit & Tie」「Strawberry Bubblegum」「Let the Groove Get in」などを聴いてみてほしい)、そんなジャングルのモダンなディスコ/ファンクがさらなる洗練を獲得したのがロサンゼルスに拠点を移して制作に臨んだ2018年の『For Ever』だ。Billboardのダンス/エレクトロニックチャートに初めてランクインしたまばゆい開放感にあふれる「Heavy, California」と「Happy Man」はその象徴的な楽曲だが、むしろ注目したいのは「Beat 54 (All Good Now)」と「Casio」の2曲。ニューヨークの伝説のディスコ『Studio 54』のトリビュートである前者は翌2019年にデュア・リパが「Dont Start Now」で提示する世界観の先取りといえるだろうし(彼女が2020年11月に開催したライブストリームコンサートのタイトルは「Studio 2054」だ)、後者はダフト・パンク「Fragments of Time」からサンダーキャット「Show You The Way」へと続くAOR/ヨットロック再評価の動きに呼応する重要作としてもっと騒がれてもいいだろう。

『Loving in Stereo』の新規軸

そして、『For Ever』から3年を経てのニューアルバム『Loving in Stereo』。BBC Radio 1で「Hottest Record in the World」に選出されたエレガントディスコ「Keep Moving」で従来からのファンの期待に正面から応える一方、クラシックなブレイクビーツがもたらす興奮を改めて世に問うような「Talk About It」、ムラ・マサの傑作『R.Y.C.』とも共振するニューウェーブ調パンクロック「Truth」など、音楽的レンジもぐっと広げてきた理想的なサードステップだが、なかでも目をひくのがやはり新機軸となる初の本格的なヒップホップチューン、J・コール率いるドリームヴィルの主力ラッパーBasをフィーチャーした「Romeo」だ(リー・ウィリアムズ&ザ・シンバルズのスウィートソウル「I Love You More」をサンプリングしている)。

アメリカのブラックミュージックに強い憧憬を抱くジョシュとトムは『For Ever』制作時にロサンゼルスに移住するも現地生活の理想と現実のギャップに屈してあえなくロンドンに戻ることになるが、一旦は断念したもののやっぱり彼らはアメリカでのサクセスの夢が捨てきれないのではないかーー「Romeo」でのBasのキャスティングからは、そんなふたりの複雑な胸中が垣間見える。

本国イギリスにおいてデビュー以来安定したセールスを記録しているジャングルはアメリカではまだめぼしい結果を残すには至っていないものの、こうして振り返ってきたようにチャートを賑わしているアーティストとも常に近い感覚を持ち合わせてきた彼らはちょっとしたきっかけさえあればアメリカでのブレイクも手の届く位置につけているといっていい。「Keep Moving」がBillboardのダンス/エレクトロニックチャートで過去最高の29位を記録し、ここにきてディプロ「Dont Be Afraid」やブリタニー・ハワード「History Repeats (Jungle Remix)」といった注目度の高い仕事が立て続けに舞い込んできている状況を考えても、ジャングルには十分チャンスがあるように思えるのだが。2ndアルバム『Overgrown』を足掛かりにして、ビヨンセ、フランク・オーシャン、トラヴィス・スコット、ジェイ・Z、ケンドリック・ラマーらとのコラボを実現させたジェイムズ・ブレイクのような展開を期待したい。








ジャングル
『Loving In Stereo』
発売中
※日本盤は歌詞対訳・解説、ボーナストラック2曲を追加収録
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11769

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