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1100万円で落札のチキンナゲット、「児童人身売買」陰謀論の引き金に

Rolling Stone Japan / 2021年8月13日 6時55分

チキンナゲット(Photo by Polizna/Ebay.com)

ここ数カ月もちきりだったBTSとマクドナルドのコラボレーション、そこから派生したレアな『Among Us』型ナゲット。そんな話題も極右グループが取り上げると大変なことになってしまう。

【画像を見る】10万ドル(約1100万円)で落札されたチキンナゲットとは?

去る5月、BTSはマクドナルドと業務提携を結び、MサイズのコカコーラとMサイズのフライドポテト、スイートチリとケイジャンの2種類のソースに10個入りチキンマックナゲット、という限定コラボメニューを販売した。限定メニューは瞬時に完売し、ソーシャルメディア上の起業家はグループの多大な人気にあやかって、限定メニューの一部アイテムをインターネット上で販売した。とくにその中でも、マルチプレイヤー型オンラインゲーム『Among Us』に登場する「クルー」に似た形のナゲットは、eBayでおよそ10万ドルで取引された。各種ニュースメディアは「ミーム経済のバカバカしさの一例」と言って、この話に群がった。

しかし、明らかにこの話を理解できない者が1人いた。QアノンやQアノンまがいの陰謀論を投稿することで知られるTikTokユーザーだ。彼女は7月、eBayでBTSチキンナゲットを販売する人々が悪質な意図を持っている、と非難する動画を投稿した。「人身売買らしきことが行われていると思う」と言って、そのユーザーは各種チキンナゲットの出品画像のスクリーンショットを投稿した。「これが拡散されて、話題になるのは無理もない。だってどこか変だもの」と彼女は結論づけた。「”レアもの”ナゲットが1万4000ドル? これは怪しいわ」

eBayに出品されているチキンナゲットは児童人身売買の隠れ蓑だ、という考えは、見るからにばかげている。だが、コメントを寄せている大勢が、本当だと信じ込んでいるようだ。「こうした懸念には根拠があると信じる人が大勢いるようです。実際おかしな形をした食物に法外な値段をつけるケースが多いにもかかわらず、金額が高すぎるからきっと子供が売買されているに違いない、と信じているらしいのです」と言うのは、作家で活動家のマヤ・モレナ氏。彼女も問題の動画についてツイートを投稿している(たしかに、つい最近も13歳の少女が「ぷっくり膨らんだ」ドリトスを見つけたと言ってTikTokに投稿、報奨金として1万5000ドルを受け取った)。

Chicken nuggets are human trafficking now

This got 26.8k likes pic.twitter.com/8sE4Sda7jK — maya morena (@themayamorena) July 29, 2021
16万9000件以上も閲覧され、2万6800のいいねを獲得したチキンナゲット人身売買説を唱える動画は、やがて性的人身売買のデマを暴く「@bloodbathbey0nd」ことジェシカ・ディーンさんと一騎打ちすることになった。ディーンさんいわく、彼女や他のTikTokユーザーはこの動画が誤情報を拡散しているとして通報したが、無駄骨に終わった。この手の動画がある一定の閲覧回数を超えると、プラットフォーム側はめったに削除しないという。「動画が1万いいねを超えていたら削除するよう働きかけますが、望みは薄いですね」と本人(ローリングストーン誌が問い合わせた後、TikTokは同社のコミュニティガイドラインに違反しているとして、問題の動画を削除した)。

ことの発端となったTikTok動画も含め、eBayに出品されたチキンナゲットの大半も削除された。『Among Us』ナゲットをオークションにかけたeBay出品者(現在の最高入札額は1000ドル)の「@topnotchlabels」がローリングストーン誌に語ったところでは、性的人身売買を主張するメッセージをいくつか受け取り、中には「疑惑や懸念」をeBayに通告すると言った者もいたそうだ。「たしかに興味深いデマですね」と「@topnotchlabels」は語る。「皆さんには、見聞きしたものすべてを信用しないでください、と言いたいです。とくにTikTokからの情報はね」

極右陰謀論を拡散することで有名な別のTikTokクリエイターは2万5000人ものフォロアー数を誇っているが、彼女もまたこうした説を唱える動画を投稿した。「皆さんが児童人身売買に気付くころには、もはや秘密裡の取引ではなくなっています」と、動画の最後で彼女はこう言い放った。この動画はTikTokから削除されたものの、彼女は別の動画を投稿し、スライスしたピザの形をしたポテトチップ(入札額2万ドル)やおしっこをする犬の形をしたチートス(入札額1万8000ドル)など、他のeBay出品に対しても同様の説を主張した。「今日、かつてないほど多くの人が奴隷になっています」と彼女は自信たっぷりに主張する。「まだ怒りに駆られませんか?」

「性的人身売買デマ」拡散の仕組み
   
さらに厄介なことに、チキンナゲットのTikTok動画が投稿されてからというもの、ナゲット拡散動画は性的人身売買の隠れ蓑だという主張は他のプラットフォームにも飛び火した。とりわけYouTubeでは、数々の極右陰謀論に染まった”ニュース”チャンネルに投稿された。「なぜチキンナゲットを何千ドルもの値段で売る人がいるのか。僕には児童売春にしか思えない」と、あるユーザーはeBayに投稿した。「こんなことを容認するなんて、eBayは恥を知れ」

ぱっと見たところ、eBayのチキンナゲット出品にまつわる噂は、昨年の夏(もっと大規模だったが)やはりTikTokに端を発したWayfair家具店の陰謀論に驚くほどよく似ている。Wayfairのwebサイトで業務用家具が法外な値段で販売されているのを見た一部ユーザーに端を発し、インテリア用品や家具を扱うこのサイトは児童人身売買の隠れ蓑だ、という根も葉もない陰謀論が広がったのだ。この説の支持者らは、家具に高値がついているのは密かに子供を運んでいるからだ、と信じこんでいた。

他のプラットフォームに瞬く間に広がったこともあり、Wayfair陰謀論は「信じられないほどの損害をもたらしました」と、TikTokに拡散する性的人身売買の陰謀論を専門に追いかけているディーンさんは言う。「Wayfair陰謀論の結果、さらに多くの陰謀論が生まれました。皆さん自分たちが暗号解読に関わっていると考えて熱狂し、いまではあちこちで、この手の価格不均衡探しが行われています」

Wayfair陰謀論の拡散を受け、ポーランドのドキュメンタリー映画はイスラム教が運営する小児性愛秘密結社をテーマにしているとか(デマであることが証明されている)、スーパーマーケットのTargetが人身売買の中核だという説など、児童売春にまつわるデマがいくつもTikTokに登場した。ディーンさんはeコマースサイトが陰謀論の標的にされている一例として、Amazonで数千ドルでまとめ売りされている子供用のパーティハットを例に挙げた。「高額の値がつけられているアイテムを見つけた人が、価格の理由を調べもしない」のが原因だ。

偽情報を拡散しやすいTikTok

以前ローリングストーン誌も報じたように、こうしたとんでもない売春取引デマはTikTokから発生する傾向にあるが、その理由は同プラットフォームのフォーマットにも一理ある。人目を惹くものの、誤った内容のコンテンツが驚くような速さで拡散しているのだ。「パニックを起こす動画は人々の関心を集めます」。偽情報を研究するアビー・リチャーズ氏は以前、ローリングストーン誌にこう語った。「誰かが『どうしよう、私の身にこんなことが起こった』と言っている動画を見ただけで、あっというまに拡散するんです」。TikTokのFor Youページでは、ユーザーの興味に合うようにアルゴリズムで操作されたコンテンツが発信され、拡散偽情報を正すコンテンツが浮上するチャンスはほとんどない。

TikTokが活動家向けのプラットフォームになりつつあることも、反人身売買のコンテンツがエンゲージメントを生みやすくなっている理由だ。「大勢のティーンエイジャーが、TikTokは社会変化を起こすプラットフォームだと本気で考えています。彼らはTikTokで抗議活動を起こし、ムーブメントを広げようとしています」とディーンさんも言う。彼女は保険計理コンサルティング会社の正社員として働いているが、前職は家庭内暴力のシェルターで人身売買の被害者を相手に仕事をしていた。今は前職での経験を誤情報対策に活かしている。「性的人身売買が問題なのはみな知っています。自分たちが(誤情報を)煽っていると子供たちが自覚しているかどうかは、今後議論するべき問題ですね。ですが、みな他の子と同じようにヒーローになりたいだけなんです」

悲しいかな、性的人身売買の現実をとりまく誤情報は、ソーシャルメディアでは益になるどころか害を及ぼすことが多い。人身売買の被害者の大半は、LGBTQや10代のホームレスなど疎外された若者だ。彼らは人身売買業者と顔見知りで、信頼を寄せている。見知らぬ闇の人物が大手eコマースサイト(やファーストフード)を隠れ蓑にして人身売買を行っている、という説はなんの助けにもならない。そうした説のせいで「人身売買の被害者は自分たちが話題にされていることに気づくこともできず、警察当局やサービスプロバイダーが自分たちの経験を暴行や搾取と認めてくれるだろうと感じることも難しくなります」と、反児童人身売買団体Freedom USAのエグゼクティブ・ディレクター、ジーン・ブラッジマン氏もかつてローリングストーン誌にこう語った。

プラットフォームの本質ゆえに、とくにTikTokはこうしたコンテンツの温床になっているようだ。「動画が拡散すればするほど、削除するのも一層難しくなります」とディーンさんも言う。

From Rolling Stone US.

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