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松本隆の作品に通底しているもの、トリビュートアルバムを本人と振り返る

Rolling Stone Japan / 2021年8月14日 8時18分

本隆トリビュートアルバム『風街に連れてって!』

日本の音楽の礎となったアーティストに毎月1組ずつスポットを当て、本人や当時の関係者から深く掘り下げた話を引き出していく。2021年7月は松本隆トリビュートアルバム特集。第4週は、7月14日リリースの松本隆トリビュートアルバム『風街に連れてって!』の収録曲後半を松本隆本人とともに振り返る。

田家秀樹(以下、田家)こんばんは。FM COCOLO「J-POP LEGEND FORUM」案内人、田家秀樹です。今流れているのは、GLIM SPANKYの「スローなブギにしてくれ (I want you) 」。1981年に発売された南佳孝のシングル。7月14日発売された、松本隆作詞活動50周年トリビュートアルバム『風街に連れてって!』からお聞きいただいております。



関連記事:松本隆と振り返る、トリビュートアルバム『風街に連れてって!』

今月2021年7月の特集は「松本隆トリビュートアルバム」。去年から今年にかけてが作詞家生活50周年ということで、7月14日にトリビュートアルバム『風街に連れてって!』が発売されました。トリビュートアルバムとはなんなのか? という問いの答えのような傑作が誕生しました。今月は4週間に渡って、このアルバムをご紹介。そして、改めて作詞家・松本隆さんの功績について辿る1ヶ月です。

田家:先週と今週は原曲について話をしてみようと思います。アルバムの曲を聴いてから原曲についての話をお聞きしようという趣向です。この曲は元々こうだったんですよという特集です。というわけで、今週のゲストは先週に引き続き松本隆さんご本人です。よろしくお願いいたします。

松本隆(以下、松本):松本です。

田家:先週の続きですが、50周年トリビュートアルバムということです。この50周年という時間についてはどう思いますか?

松本:半世紀ですからね。よくもったと思います(笑)。ここまで頑張ったとも思うし。

田家:この「スローなブギにしてくれ (I want you) 」は1981年に南佳孝さんがオリジナルを歌われたわけですが、今回はGLIM SPANKYが歌いました。彼らについてはどう思われましたか?

松本:興味があってライブに行ったんですよ。僕はほとんど人のライブなんて行かないものですから、よっぽど興味があったのかなと。

田家:それはどういう理由で?

松本:女の子がパンチのある歌を歌って、男の子はリードギターで。なんか面白いと思ってさ。僕はちょっとサイケな感じが好きだから。

田家:GLIM SPANKYは、松尾レミさんが1991年生まれ。亀本寛貴さんは1990年生まれ。2014年デビュー。亀田さんは「はいからはくち」を一緒に演奏したことがあると仰っていました。

松本:まじで? はっぴいえんども好きらしいよね。

田家:「はいからはくち」をやりたいというのは、松尾レミさんが言ったらしいんですよ。

松本:あらそう。僕はライブの時に楽屋にお邪魔したんですけど、「松本さん、好きです」って言われて。好かれてたみたいで嬉しかったよ(笑)。

田家:そういう時間を経て彼らが歌ったのが「スローなブギにしてくれ (I want you) 」。原曲をお聞きください。1981年、南佳孝さんの曲です。



田家:先週はこのアルバムの一曲目に「夏色のおもいで」の話の時に、作詞家になるからどうか悩んだ時期があったという話がありました。はっぴいえんどが解散した時は、松本さんはプロデューサーという方向もあるんだと考えた、と。

松本:1年間に4枚のアルバムをプロデュースして、それも歴史的な名盤だったけれどね。

田家:それで生活できないから作詞家になったという。

松本:はっきり言えば、作詞家になって成功すれば生活できるから。そっちの方が手っ取り早いと思ったかな。あとは自分なら、うまくいったら体制内改革みたいに全部ひっくり返せるんじゃないかと思ってたね、実際はそんなに甘くなかったけど(笑)。ある部分はひっくり返せたけど、すぐに塗り込められたというか。

田家:南佳孝さんは、松本さんがプロデュース・作詞のアルバム「摩天楼のヒロイン」を歌われて、はっぴいえんどの解散コンサートの時にデビューしました。でも、結果はあまり芳しくなく、1978年に再会して1981年の「スローなブギにしてくれ (I want you) 」に至った。角川映画の主題歌でした。

松本:これは伝聞なんだけど、僕のマネージャーが僕のところを辞めた後、春樹さんの映画の音楽部門のチーフになって。それで彼が映画を仕込む立場になって、僕に詞を書いてって頼まれたのがこの仕事で。原作も好きだったし、第三京浜をバイクで飛ばすっていうのは自分もやってたしさ。なんか親近感があってね。あの時、佳孝は「モンローウォーク」でスポットライトを浴びてたんだけど、その次の勝負曲がこれだった。だから、これはもういけるなと思ってさ。できるだけシンプルでアツい歌作りたいなって思った。大人の感じでハードボイルドにしてという。今思うと、完璧にやりたいことができたような気がするの。そういうのを歌えそうな人って佳孝しかいないんだよね。大滝さんも細野さんも茂もハードボイルドじゃないし。そういう意味で、佳孝にしかできないことって僕の中であってね。都会的でシティポップの元祖でもあるというのと、もう一つはハードボイルドで男の生き様を具現化してくれる。それが南佳孝。

田家:『摩天楼のヒロイン』はそういうアルバムでした。



田家:今お聞きいただいているのは、アルバム8曲目「キャンディ」。1977年の原田真二さんの曲です。そして今歌っているのは三浦大知さん。1987年生まれ。この曲はびっくりしましたね、改めていい曲だと思いました。

松本:原田真二には、僕もすごく熱意を持って作ったので全部いい曲でいい詞なんですけど、これは特別よくできてると思います。

田家:メロディとか言葉がオリジナルとは違う浮き上がり方をしていて。

松本:彼は踊りも上手いらしいけど、僕は残念なことに踊りを見れてないんだよね。でも、本当にあの人は歌がうまいね。

田家:亀田さんがそれを見抜いていたという話もしていました。

松本:亀田くんは本当すごい。

田家:歌のうまさを際立たせたかったと。この曲を歌いたいというのは、三浦大知さんからの希望だったそうです。

松本:カラオケで得意だったってね(笑)。あの子も頭が良さそうだよね、この前NHKでちょっと話したけど。

田家:そういう話をする時って、相手が緊張していたり身構えてたりするのもお分かりになるでしょう?

松本:僕は20歳くらいの時から相手の緊張をどうやって解くか慣れてる(笑)。だってはっぴいえんどって、相手の人皆緊張するんだよ。インタビューしに来ても、ボールペン持った手が3cmくらい震えてるの。字が書けないじゃんって(笑)。それくらいはっぴいえんどは相手を緊張させる何かがあるらしくて、だから馬鹿なこと言ったり色々して相手の緊張を解くんだよね。だから慣れてるんだよね。

田家:三浦さんもそう思われたかもしれません。それでは原曲をお聞きいただきましょう。アルバム8曲目「キャンディ」。原曲は1977年の原田真二さんの曲です。



田家:「キャンディ」は、少女漫画の『キャンディ♡キャンディ』がモチーフだったと。

松本:最初は「ウェンディ」っていう詞を書いていたの。でもそうしたら、「ウェンディ」はハワイのロックバンドのアルバムの収録曲タイトルらしくて。そんなの誰も知らないからいいじゃんって言ったんだけど、ダメだっていうんだよね。ディレクターが好きなバンドだったらしくて。それで他のタイトルにしてくれって言われてさ。ディレクターの池田さんと原田真二と二人が、僕が空港で外国に飛び立とうとしてるのを追いかけてきて「タイトルどうにかしてくれ」って(笑)。それで売店に行って、あるだけの少女漫画買ってきてって言って、それを10冊くらい広げて、その中の『キャンディ♡キャンディ』を見て「キャンディ」にしようって思って。「ウェンディ」と語感も似てるじゃん。

田家:なるほどね。『キャンディ♡キャンディ』の漫画があったから生まれた歌詞ではないと声を大にして言っておかないといけない。

松本:いや別に大丈夫だよ(笑)。

田家:アルバム8曲目は「ウェンディ」転じて「キャンディ」。原田真二さんでお送りしました。



田家:今お聞きいただいているのは、アルバム9曲目「風の谷のナウシカ」。歌っているのはDaokoさんです。1997年生まれ。オリジナルは1984年で安田成美さんが歌われました。Daokoさんにはどんなことを思われますか?

松本:彼女もすごい歌がうまいよね。アレンジもポップで新しい感じもするし素晴らしいね。今回のアルバムは全曲素晴らしくて(笑)。

田家:亀田さんは細野さんが曲を書いて、松本さんが詞を書いたコンビの色々な曲がある中での最高傑作がこれではないかと仰っていました。

松本:そうかもね。難しい曲だよね。安田成美さんがかわいそうだよね、こんな難しい曲をデビュー曲で作られても困るよね。

田家:彼女は「風の谷のナウシカ」のイメージガールオーディションで選ばれて、歌の実績があって起用されたわけではないんですよね。

松本:いきなり歌えって言われて、本人が一番戸惑ったんじゃない? 45周年の時にステージに出てきてくれて僕は本当に嬉しかった。

田家:この「風の谷のナウシカ」の作品については当時どんなことを思われました?

松本:今と似てるよね。人間が勝手なことをしすぎて地球全体が滅びようとしている。ナウシカは一生懸命頑張る。そういうことだよね。

田家:風の谷という場所があって、風が通っていくということが人間を守る自然現象なんだと。風が村を守るっていうのが、改めてコロナ禍で違う意味を持つようになった。

松本:放射能とかコロナとか色々な人類の敵があって、それで儲ける人たちもいて。これからはそういう闘いになるよね、政治だけじゃない。生きる権利を賭けて闘う時代になると思う。

田家:そういうことも思いながら、改めてこの曲をお聞きいただけたらと思います。安田成美さんで「風の谷のナウシカ」。



田家:難しい曲だねえと仰いましたが、細野さんの曲に松本さんの詞がついた時のそれぞれの融合、新しいものを生み出すのはどこに原因があるんでしょうね。

松本:最初に僕が細野さんに電話して、原宿で会いましょうかと。

田家:最初は松本さんが細野さんにベースを弾いてくれませんか? と言ったんですもんね。

松本:そこからはじまったんだよね。彼はずっと後悔してるけど(笑)。あの時松本に引っかからなければって。

田家:細野さんの曲と松本さんの詞は、他の曲とは違うオーラみたいなものがありますね。

松本:いつも特Aクラスだよね。

田家:でも最初はイモ欽トリオだったわけでしょう? 「ハイスクールララバイ」で。

松本:あぁ、あの時は、僕が作詞家になってある種成功して。YMOで細野さんらも成功した時だったからね、それでまた付き合えるかなあって思ったわけで。そろそろやってくれそうってフォー・ライフの後藤さんに言ったら、後藤さんが頼んでくれて、やるって言ってるって。ほんとかなあ? と思いながらやったら、いきなりミリオン売れちゃったんだよね。だから、松本・細野は強いよね。

田家:そこから始まって、この1984年に「風の谷のナウシカ」が発表された。3年しか経ってないんだというのが二人の関係の濃密さを物語っていないだろうかと。アルバム9曲目の「風の谷のナウシカ」、原曲の安田成美さんでお聞きいただきました。



田家:今お聞きいただいてますのは、アルバム10曲目「ルビーの指環」。歌っているのは横山剣さん。オリジナルは1981年の寺尾聰さんでした。

松本:この曲はね、異常に売れすぎた(笑)。ずっとベスト10で1位でさ。

田家:オリコンで10週、ザ・ベストテンで12週ですね。

松本:12週って3ヶ月じゃん。3ヶ月間1位から降りないってすごいよね、ありえないよね。

田家:横山剣さんは、クミコさんの2017年のアルバム『デラシネ déraciné』の中の「フローズン・ダイキリ」という楽曲で、作曲で参加されています。横山さんは1960年生まれで細野さんフリークでした。

松本:YMOが好きだったの?

田家:YMOの前。細野さんのアルバム『泰安洋行』が出た時の横浜中華街キャンペーンを見に行っている少年だったと言ってましたよ。

松本:まじで(笑)。あれには筒美京平も行ってたんだって。でも僕は誘わないで、橋本淳を誘って行ったって(笑)。

田家:GS時代の盟友作詞家ですね。

松本:僕を誘っていくと、僕と細野さんが仲良いの知ってるからまた嫉妬しちゃうのかもしれないけど。

田家:細野さんに気を遣ったのもあるかもしれないですね。

松本:細野さんには気を遣ってないと思うんだよね、まだ面識ないもんね。一度も話してないんじゃないかな? 一回(吉田)拓郎と京平さんが接近遭遇したことがあって。それは周りの心臓が10分くらい止まりそうになってたって(笑)。

田家:水と油(笑)。亀田さんは、大人のダンディズムを歌うのはこの人しかいないと横山剣さん一択でお願いしたと。寺尾さんは世代が近いんですよね。寺尾さんは1947年生まれ、松本さんは1949年生まれ。ともに30代になったばかりが当時だった。松本さんははっぴいえんどをやろうと思った、と仰ってました。

松本:僕の中学の時に「勝ち抜きエレキ合戦」っていう30分くらいのテレビ番組があって、毎週見てて。ちょうどビートルズがデビューした頃で、寺尾さんのバンド・サベージは、シャドウズのコピーバンドだったのね。僕はその後高校時代にはシャドウズのコピーバンドやってたりもして、追っかけてるわけ。それはサベージに影響されてというわけじゃなくて、リードギターがそれしか弾けなかったというだけの理由なんだけどさ。細野さんはシャドウズやりたくないから、もっと新しい音楽やろうって言ってね。それで、サンフランシスコのサイケデリックな音楽をやりたがってたの。そんな僕の高校時代の思い出があるので、寺尾聰って言われると心騒ぐものがあるよね。

田家:なるほど。松本さんがドラムコンテストで優勝されたというのは、シャドウズのコピーバンドだったんですか。

松本:そうそう、高校2年の時だと思うんだけど、全国1位をとったんだ。「ヤング720」っていう若者向けモーニングショーみたいな番組があって、司会をやっていた北山修さんの前でドラムソロやったことがあるんだよね。で、そういうのも全部探してみるんだけど、全然情報出てこないね(笑)。

田家:そんなこともありながら、寺尾聰さんの原曲をお聞きください。「ルビーの指環」。



田家:ランキング1位だったという期間が長かったという話もありましたけど、ヒットという感覚はキャリアを重ねる中で変わってくる部分はありました? ヒットの必要性とかヒットすることの持つ意味とか。

松本:シングルのヒットとアルバムのヒットはちょっと違うんだよね。僕はアルバムが好きだから、アルバムを一生懸命やってたんだけど、だから京平さんと僕もヒット曲の定義がちょっと違う。京平さんはシングルだけ。僕はシングルだけというのは一見派手なんだけど、効率悪いなと思って。だってこの前『A LONG VACATION』の40周年の時に、スタッフにどれくらい累積で売れたって訊いたら、300万枚って言ってて。300万枚売れたら、300万のヒットが10曲なわけだよね。一枚のアルバムで300万10曲なんて売れた人っていないんだからさ(笑)。そっちの方が僕はいいと思うんだけど。逆にサブスクだとまたシングルになるけどね。

田家:亀田さんは「この曲の思い出は街鳴りの思い出に尽きる」と。

松本:街鳴りってなに?

田家:街の中で鳴っているということですね。パチンコ屋とかデパートとか。

松本:それで思い出すのは、1980年代に松田聖子のアルバムをやっていた時に、全部仕上げて、録音したテープをカッティングに送って作業が終わるじゃない。もう松田聖子の名前も顔もないところに行きたいと思って、白馬のスキー場に行ったのね。車で着いたのが夜中でさ、疲れてるからすぐ寝るよね。そうしたら朝の7時くらいから、窓の外に置かれてる拡声器から松田聖子の歌がエンドレスで流れてきて(笑)。結構でかい音だし寝てるどころじゃなかったことがあるよ。

田家:逃げようがない(笑)。この「ルビーの指環」からも逃げようがなかったんではないでしょうか。お聞きいただいたのは、寺尾聰さんの「ルビーの指環」でした。



田家:アルバム『風街に連れてって!』の11曲目「風をあつめて」。1971年のはっぴいえんどの『風街ろまん』の3曲目です。アルバム『風街に連れてって!』のタイトルは、松本さんがお付けになったんですよね。

松本:そうです。前作の、ビクターでのトリビュートが『風街であひませう』だったんだけど、会いましょうだとお互いによく知っているところで待ち合わせる感じがある。今回は世代が違うから。女の子がまだ知らないところに、男の子が連れていくというのがいいかなと思って。連れてって! という女の子の熱意がいいなと思ってね。知らないところに行きたいみたいな女の子の気持ちがいいなって思って。

田家:なるほど。

松本:ジャケットの話もしていい? 山本有彩さんの絵を最初にインターネットで見て、この人の絵好きだなと思って。たまたまその時銀座で個展をやってるということで、そこに行ったの。一枚25万円〜50万円で全部売約済みだった。一枚だけ、横長のおっきい絵があってそれは100万円だと。高いなと思ったんだけど、これも縁だからと思って買っちゃったのね。今は自宅にその絵を飾ってあるんだけど、そのあとマネージャーがジャケットに起用したい画家いますか? って訊くから3人くらい挙げた人の中にも山本さんもいて。コロムビアもデザイナーもこの人がいいってことで、二枚の絵を描いてもらって。それがアルバムのCDのジャケットとアナログのジャケットで、それはボックスに入ってるわけで。ボックスは水色で、宝石屋さんからお中元が来ましたみたいな重たいものなんだけど(笑)。

田家:100ページのブックレットも付いてますからね。こんなブックレットのついたアルバムがあっただろうかと(笑)。

松本:全てが本気だよね。本気で愛が詰まってる。

田家:『風街に連れてって!』は女の子の言葉だと仰いましたが、この曲を歌っているのはLittle Glee MonsterのMAYUさん・manakaさん・アサヒさんで、manakaさんは細野さんフリークだそうです。

松本:細野さん、若い女の子にモテるね(笑)。

田家:では続いて、はっぴいえんどの原曲「風をあつめて」をお聞きください。



田家:何回かドラムの話も出ましたが、はじめてはっぴいえんどを聞いたときの衝撃は、言葉もそうですけどドラムだったんですよ。こんなにドスン、バタンと重いドラムを聞いたことがないというのが印象でした。

松本:当時はザ・バンドのリヴォン・ヘルムに憧れていて、彼は手数が少なくて重いんだよ。彼は歌いながら叩くから手数も少なくて、簡単なことをやっていて。なるほど、歌ってる間に手数入れてるんだなと思って。僕の場合も自分で詞を書いてるし、大滝さんが歌ってても細野さんが歌ってても気分的には自分が歌ってるような感じで。ちょっとエモーショナルになるのね。それがちょっと他人のドラムと違うところかな。細野さんには歌うベースって言われてたけど、僕は歌うドラムかもしれないね(笑)。そういう意味でも良いリズム隊だったんじゃない?

田家:はっぴいえんどは色々な研究がされていますけど、ドラムを聴くということで改めてアルバムを聴き直してみることをお勧めしたいと思います。お聞きいただいたのは、はっぴいえんどで「風をあつめて」でした。



田家:再び「夏色のおもいで」の原曲をお聞きいただいております。このトリビュートアルバム『風街に連れてって!』は最後の11曲目が「風に集めて」、1曲目が「夏色のおもいで」で、バンドの金字塔で終わって、作詞家としての最初のヒットに戻っていくという流れなのかなと思います。しかも風つながりですよね。

松本:最後の曲で風をあつめて、その風に乗って君をさらいに行く無限ループに入りますね。

田家:「風をあつめて」が収録されている『風街ろまん』は1971年11月20日発売でした。

松本:真夏に録音してて、冬に出たって感じですね。

田家:まさに50周年です。曲も残っていますし、本人もお元気です(笑)。さっきお話に出たブックレットには、松本さんがお書きになった詞2100曲の全曲リストが載っていました。あれをご覧になってどう思いますか?

松本:見てないんですよ。クラクラするから(笑)。

田家:覚えてない曲も当然おありなんでしょうけど(笑)。この50年を言葉に例えるとしたら、栄光の軌跡、葛藤の証、苦闘の歴史とか、色々ありそうですが。

松本:なんにもないですよ、大変だったなとは思うけど(笑)。

田家:シンガー・ソングライターが書く言葉って、作り手がどこかでずっとついてまわるような気がするんです。でも作詞家、松本さんがお書きになったのは、本人を離れて歌い手のものになって、しかも歌い手も超えているんじゃないかと。

松本:そこからだんだん戻ってきてますね。歌い手に100あげたんですけど、7割くらいは帰ってくるようなブーメラン現象がありますね。

田家:全部僕の言葉なんだと思われますか。

松本:30周年で『風街図鑑』を作った時に、はっぴいえんども松田聖子も同じだと言ったら、やはりスタッフはそう思わないわけ。じゃあバラバラにして並べてみようということであの曲順になったんだけど。『風街図鑑』の後はどの曲も全部通底しているんだとみんなが納得したみたいで。それは実際に証明しないと皆わかってくれないみたい。

田家:それではアルバム1曲目をお聞きください。吉岡聖恵さんで「夏色のおもいで」。



田家:歌い継がれるということについて、改めてどう思われますか?

松本:今回のアルバムは歌い継ぐというのがメインテーマですよね。それを噛み砕いて言うと、僕らが活躍した1970年代、1980年代に生まれてなかった人たちが歌っているわけです。その人たちのファンも皆生まれていなかった。自分達世代に評価されるのって当たり前じゃない? そうじゃなくて、当時生まれてない世代に評価されて初めて本物になれると。そういう意味で初めて僕は本物になれたんじゃないかなと思う。

田家:なるほど。50周年をドラマーとして迎えようとしていらっしゃるそうですが。

松本:まさか(笑)。スタッフはなんかやってほしいみたいですけど、僕は72歳になって不安な要素を持ちたくないと思ってます。まだコロナも頑張って暴れてますからね。そういうライブ自体もあるかどうか分からないし。僕なんかの50周年なんてアバウトだからね。元々僕と細野さんはエイプリル・フールで同じ年にデビューしたわけで、同じ年に50年迎えるわけじゃない。細野さんの50周年の時は、僕は全部譲ったの。僕のスケジュールを全部引っ込めて、先に細野さんにやってもらって。僕は翌年やろうかなと思ったら、コロナとかオリンピックで。もう53周年くらいになってるんじゃない(笑)。55周年まで後2年しかない、毎年周年やろうかな。

田家:ドラマー・松本隆が見れるかどうかも一つの楽しみですね。2週間ありがとうございました。




田家:FM COCOLO「J-POP LEGEND FORUM」。7月14日に発売になりました、松本隆作詞活動50周年トリビュートアルバム『風街に連れてって!』を1ヶ月間にわたってご紹介しました。先週と今週のゲストは、松本隆さんご本人でした。今流れているのは、この番組の後テーマ、竹内まりやさんの「静かな伝説(レジェンド)」です。

松本さんがお書きになった詞が約2100曲。ご本人も全曲リストはクラクラするから見てないとは仰っていましたが、そうなんだろうなと思いました。その中で、このアルバムに収められてるのは11曲。わずか11曲という言い方もできるんですが、この11曲のどれをとっても松本隆なんですね。松本隆さんという作詞家が、色々な角度から味わうことが出来る。結果的にそう曲が選ばれているということでもあるんだろうし、実はどの曲をとっても作詞・松本隆の曲なんだ、と思うんです。ご本人も仰っていましたが、通底している。聞き手の中ではあの曲とこの曲は別物と思っている曲が実は同じ流れの中にある。シングルのB面の曲でも、アルバムの曲でもクオリティが変わらない。テーマやイメージ、歌おうとしていることがつながっている。どの曲をとってもちゃんと分かるから11曲でも松本隆という全体像が感じられる。改めて、二度と出てこない作詞家だと思います。

実は私事なんですが、この50周年に先駆けて松本さんの中に通底しているものを追ってみたいなと思って始めた連載がありました。スタジオジブリの月刊誌「熱風」という雑誌の中で「風街とデラシネ : 作詞家・松本隆の50年」という連載なんですが、10月にそれが書籍になります。それに連動したアルバムも出る予定なんですが、この話は10月にまた続きをやりたいなと思います。亀田さんの話、松本さんの話。とてもためになりました。そういう番組でした。


<INFORMATION>

田家秀樹
1946年、千葉県船橋市生まれ。中央大法学部政治学科卒。1969年、タウン誌のはしりとなった「新宿プレイマップ」創刊編集者を皮切りに、「セイ!ヤング」などの放送作家、若者雑誌編集長を経て音楽評論家、ノンフィクション作家、放送作家、音楽番組パーソリナリテイとして活躍中。
https://takehideki.jimdo.com
https://takehideki.exblog.jp

「J-POP LEGEND FORUM」
月 21:00-22:00
音楽評論家・田家秀樹が日本の音楽の礎となったアーティストに毎月1組ずつスポットを当て、本人や当時の関係者から深く掘り下げた話を引き出す1時間。
https://cocolo.jp/service/homepage/index/1210

<リリース情報> 



松本隆作詞活動50周年トリビュートアルバム
『風街に連れてって!』

発売日:2021年7月14日(水)
初回限定生産盤(CD+LP+豪華特典本):10000円(税抜)
通常盤(CDのみ):3000円(税抜)
全曲配信予定

=収録曲=
1.「夏色のおもいで」吉岡聖恵
(作曲:財津和夫 オリジナルアーティスト:チューリップ 1973年リリース)
2.「君は天然色」川崎鷹也
(作曲:大瀧詠一 オリジナルアーティスト:大滝詠一 1981年リリース)
3. 「SWEET MEMORIES」幾田りら
(作曲:大村雅朗 オリジナルアーティスト:松田聖子 1983年リリース)
4.「SEPTEMBER」宮本浩次
(作曲:林 哲司 オリジナルアーティスト:竹内まりや 1979年リリース)
5. 「Woman”Wの悲劇”より」池田エライザ
(作曲:呉田軽穂 オリジナルアーティスト:薬師丸ひろ子 1984年リリース)
6. 「セクシャルバイオレットNo.1」Bz
(作曲:筒美京平 オリジナルアーティスト:桑名正博 1979年リリース)
7. 「スローなブギにしてくれ(I want you)」GLIM SPANKY
(作曲:南 佳孝 オリジナルアーティスト:南 佳孝 1981年リリース)
8. 「キャンディ」三浦大知
(作曲:原田真二 オリジナルアーティスト:原田真二 1977年リリース)
9. 「風の谷のナウシカ」Daoko
(作曲:細野晴臣 オリジナルアーティスト:安田成美 1984年リリース)
10. 「ルビーの指環」横山剣(クレイジーケンバンド)
(作曲:寺尾 聰 オリジナルアーティスト:寺尾 聰 1981年リリース)
11. 「風をあつめて」 MAYU・manaka・アサヒ(Little Glee Monster)
(作曲:細野晴臣 オリジナルアーティスト:はっぴいえんど 1971年リリース)
ALL SONGS 作詞:松本 隆 プロデュース:亀田誠治

トリビュートアルバム特設サイト:https://columbia.jp/matsumototakashi/

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