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ドリル・ミュージックの牽引役が語る、18歳から25歳になって感じた「変化」とは?

Rolling Stone Japan / 2021年8月25日 17時45分

G・ハーボ(A Courtesy of UMusic)

リル・ウェインが『Tha Carter II』を2005年にリリースした時、G・ハーボ(G Herbo)ことハーバート・ライトはシカゴに住む10歳の少年だった。

【動画を見る】リル・ウェイン×リル・ベイビー対談「サウスがヒップホップを支配する」

ウェインはこのアルバムでラップ界の貪欲なアンチヒーローとしてトップに君臨し、新たな時代を切り開いた。それがシカゴの少年の琴線を鳴らした。「とにかく渇望を感じたよ」。アルバムを聴いた時のことを、ハーボはこう語る。「声に渇望がにじみ出ていて、その当時彼が音楽に込めた思いが反映されていた――自分も同じことをしたくなった」

そして現在、ライトはG・ハーボとして名を知られ、おそらく生まれ故郷シカゴの歴史でもっとも愛され、広くコピーされているサブジャンル、ドリル・ミュージックを牽引するラッパーの1人となった。重たく響く声が特徴的だが、ドリル・ミュージックの代表格として世に出た頃のライトはまだ10代だった。デビュー作は2014年のミックステープ『Welcome To Fazoland』。ドリルらしいゴシックなメロディとダンサブルなドラムに、自叙伝的で古典的ともいえる手法を組み合わせた作品だ。



ハーボには俗っぽい80年代の楽曲を禍々しいものへと変える魅力と厳粛さがある。彼のラップは肉厚で、容赦ない。作品をリリースするペースもまたしかり。『Fazoland』をリリースして以来、彼は7年間で9枚のスタジオ・アルバムと2枚のEPをリリースしている。「今この瞬間を生きる、という感じだったことは一度もない」と、飛ぶ鳥落とす勢いの音楽生活について本人はこう語る。「俺の視線はいつも、次のことに向いている」

ここ最近の2枚のアルバムは、いずれもリリース1週目でチャートのトップ10圏内にランクイン。7月にリリースされた最新作『25』は初登場5位だった。だがシカゴやラップ界では大勢の人々が、ハーボを一言で表現しろと言われたら「ハングリー」と口を揃えて言うだろう。ウェインと比べたらまだまだ足りない、と本人が言うのも頷ける。「『お前が一番だ、おそれいった』と言われる域にはまだ達していない」とハーボはローリングストーン誌に語った。「俺が常に目指していたのはそこなんだ」。いまや父親となり、生まれ故郷から2000マイル離れた街で暮らし、大人の世界へ足を踏み入れたハーボは、『25』の中でこれまでの半生を反芻している。レコーディング・プロセスの詳細、ロサンゼルスでの新生活、10代と今の自分がどれほど違っているかについて語ってもらった。


シカゴのスラム街を出てビバリーヒルズへ

ー今の生活の中で、18歳のハーボが見たら一番驚くことは何でしょう?

父親になったことだね。すべてが子供中心で、息子を膝の上に座らせてインタビューに応じなきゃいけないとかね。自分がこんな風になるなんて思いもしなかった――あるいはLAに住んでいることかな。昔はよく曲の中でLAについてラップしたもんだ。「ああそうさ、俺はビバリーヒルズの住人じゃない、贅沢三昧の生活とはまるで無縁」ってね。俺はスラム街にいたから、いくつものトラウマを抱えて、毎日暴力だのくだらないことと関わらなきゃならなかった。今はそういうことはない。ベル・エアに住んで、毎日ビバリーヒルズで暮らしてる。正直、今も慣れるのに苦労してるけどね。



ーベル・エアの住民とは交流していますか?

実は近所の人とはほとんど顔を合わせていないんだ。いつも明け方3~4時にスタジオから家に戻って、そのあとは野暮用を済ませたり、ミーティングに行ったり。いつも動き回っている。家に帰るのは身体を充電するときだけ。本当クレイジーな人生だよ、正直自分の時間もありゃしない。外に出て、近所の街角に立って、警察に絡まれるのにうんざりしたらスタジオに行く、という生活とは180度がらりと変わったみたいだ。

ーお子さんの話が出ましたが、おそらく自分が経験してきたような、子供には経験させたくないことからお子さんを守っていくことでしょう。逆に、自分とは違う環境で育っているお子さんに、自分の生い立ちから学んでほしい教訓はありますか?

世の中の厳しさだね。暴力やネガティブなことに関わらなくてよくなった分、息子たちには世の中の残酷さや暴力を教えてやらなきゃいけない。子供たちが直に経験する必要はないさ。ただ、自分の前に立ちはだかるものを子供たちが理解できるよう、教えてやらないといけない。それには自分で経験して学べと放り出すよりも、どう戦えばいいかを教えてやるべきだろうね。

ー駆け出しのころは明らかにドリルと密着していましたが、自分のスタイルを様々なタイプの作品に変換してきましたね。数あるビートの中で、今目指しているビートは何ですか?

とくに今はインストゥルメンタルにハマっている。たくさんの音が詰まっているようなビートが好きなんだ。とくにこれ、というビートを求めてスタジオに入ることはしない。決まったテーマを念頭にスタジオに入るわけじゃないんだ。たいていは作品から影響を受ける。作品からイメージがわいて、(最終的な)曲のテーマが決まるんだ。「この手のビートじゃなきゃ」とか「こういう曲を作らなきゃ」と言ってスタジオに入ったりはしないんだよ。ひたすら山のようにビートを聴くだけさ。歌詞からインスピレーションを得て、それがとっかかりになる。あとは自然に出てくるんだ。レコーディングのそういうところが好きなんだ。決して無理強いしない。ブースに入って、流れに任せる。


完璧主義者の悩み

ー作曲はいつもスタジオでしているんですか? それとも家? あるいはブースに入った時にひらめくんですか?

普段はスマホで曲を書く。たいていは家にいると頭に4~6小節が浮かんで、それを書き留める――ビートのない状態でね。リズムの大半はそういう風に浮かんでくる。それをスマホにメモして、スタジオに入ってビートを感じたら、ブースに直行して収録する。(その時点では)特定のテーマについて書こうと思わない限り、曲は書かない。スタジオにいるときでも曲を書くのは(せいぜい)15~20分ぐらいだ。曲作りに無駄に時間をかけたくないんだよ、いろんな考えがごっちゃになる気がするからね。曲の出だしのアイデアだけ――最初の8~12小節ぐらいかな――そこから後は自然に出来上がっていく。



ー自然に出てきたものに自分でも驚いたことはありますか?

もちろんさ――でもそういうことは、実際にレコーディングを終えてからだね。聴き直して、どこからこんなラップが出てきたんだ、と腰を抜かしたりする。頭から自然に出てきただけなんだけどさ。(曲をすべて)丁寧に書いていたころに戻りたいね。音楽活動を始めたころは、1曲まるまる仕上げてからスタジオに入ってレコーディングしていた。あの頃に戻りたいよ。レコーディングセッションに金がかかったから、そういうことはしなくなった。でも今は自分の家に設備があるから、ブレストして、(スタジオで)最初から曲を書くという贅沢も許される。昔に戻りたいね。いちから曲を書くようになったら、俺の音楽ももっと良くなると思う。

ーもっと良くなるとおっしゃいましたが――今のやり方では曲に欠点がたくさん残っている状態だと感じているんですか?

俺は完璧主義者だから、いつも細かいところを変えているんだ。曲を収録して、それが終わると、もう1度曲全体や特定の単語を聴き直す。細かいところが気になるんだ。theとかtheyとかitとかを違う風に表現したがったり、他の言葉に置き換えたがったり。次のフロウが良くなるんだったら、どんなに細かい点も変える。俺はディテールにものすごく注意を払うんだ。スタジオに戻って、リリースする前に特定の部分を修正したりすることもある。だがそれまでは何週間もデモを聴いて過ごす。そのあと、ここを変えてみようか、ということもあれば、次のレコーディングまで持ち越すこともある。16小節書いて、完璧なフックが見つかるまで放置することもある。レコーディングに関しては、俺にはいろんなテクニックやアイデアがあるんだ。


アルバムで伝えたいストーリーのために

ー修正する場合は該当箇所だけ差し替えますか? もしくヴァースを丸ごと録り直すんですか?

俺はテイクを丸ごと録り直す。そうすると流れが完璧になるだろ。たった1つの単語だけだとしても、テイクを丸ごと録り直す。センテンスごとやり直すほうが好きだ。

ーたくさんの作品をリリースしていますが、どれも非常に私小説的で、たくさんのトラウマ的な経験を扱っています。この2つが結合すると疲弊しませんか? それともスタジオに入ろうという気になるんですか?

俺には音楽のアイデアがたくさんある。自分が手掛けた音楽はどれも気に入っているよ。飽和状態にはなりたくないが、そうなったら自分の好きな音楽だけ作るだろうな。リリースはできないだろうが。それだけは絶対に避けたい。手持ちに数百曲があっても、1枚のアルバムには15曲しか収録できない。間隔をあけようとは努力してるよ――いっぺんにあまりにも多くの音楽をリリースしたくはないからね。それが俺の一番大きな問題だ。俺はいつもアルバムで決まったストーリーを語ろうとしている。だから伝えようとしているメッセージに合わない曲は、アルバムには入らない。でもいつか、そういう作品も特定の人々に届けたり、できる範囲で活用しようと思っている。



ーアルバムごとに決まったストーリーがある、という話ですが、新作はある意味、青春時代からの旅立ちというか、人生の節目にさしかかることがテーマです。10代のころ――つまり注目を集め始めたころ――こんな25歳になると想像していましたか?

面白い質問だね。25歳の自分がどんな人間になっているかなんて想像もできなかったよ。25歳の風貌すら見当もつかなかった。若いころは、25になったらいい暮らしをして、いい仕事をしている姿を想像していたが、正直具体的にどんな風かとか、どんな仕事かまでは考えていなかった。18の頃は25なんてずっと先の話に思えるが、実際はそうじゃない。実際こうして25になってみると、自分が18の時に何をしていたかもほとんど思い出せないね。



from Rolling Stone US

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