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『サマー・オブ・ソウル』映画評 「黒いウッドストック」の全貌に迫った傑作ライブ映画

Rolling Stone Japan / 2021年8月26日 17時45分

スライ・ストーン (C)2021 20th Century Studios. All rights reserved.

クエストラヴが監督を務めた映画『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』。1969年開催の「ハーレム・カルチャラル・フェスティバル」における伝説的ライブ映像の数々を収録した本作は、まぎれもない音楽ドキュメンタリーの傑作だ。米ローリングストーン誌の作品レビューをお届けする。

【画像を見る】B.B.キング、ニーナ・シモン…『サマー・オブ・ソウル』出演陣と場面写真

1969年夏、ある日曜の朝にハーレムのマウント・モリス公園に行くと大勢の人で賑わっていた。フード販売の出店、公園内を駆け回る子供たち、バーベキューを楽しむ家族、日光浴をしている若者たちなど、そこは笑顔と喜びを感じさせる音に満ちていた。今から数十年前の当時を知る人間によると、そこでは「Afro Sheenとチキンの入り混じった匂い」が漂っていたという。芝生の上に設置されたステージの様子を見ようと、木に登る人も少なくなかった。同地域での野外イベント企画担当として、数年前からニューヨーク市のParks Departmentに勤めていた実力者のトニー・ローレンスは、ステージ上で次の出演者を紹介している。毎年恒例となっていた無料コンサート「ハーレム・カルチャラル・フェスティバル」の司会を務めていた彼は、3度目の開催を迎えていたその日、いつもの快活な声を響かせていた。

次に登場するのはコメディアン(マムズ・メイブリー、ウィリー・タイラー&レスター)、ゴスペルのグループ(プロフェッサー・ハーマン&ザ・ヴォイス・オブ・フェイス)、はたまたB.B.キングやフィフス・ディメンション、マハリア・ジャクソン、モンゴ・サンタマリア、スティーヴィー・ワンダー、スライ・アンド・ザ・ファミリー・ストーンのような著名アーティスト。そういった一流アクトを招いていた同フェスティバルは、アップタウン周辺に住む人々にとって重要なエンターテインメントであり、エンパワーメントの源となっていた。「辺り一帯が黒人で埋め尽くされていた」と語ったある参加者の声には驚きとプライド、そして強いコミュニティ意識が感じ取れる。



アミール・”クエストラヴ”・トンプソンが監督を務めた『サマー・オブ・ソウル』は、豪華ラインナップが集結した伝説のイベントの全貌を明らかにしてみせる。「黒いウッドストック」というニックネームを考えたのは、同イベントを映像として記録する役目を務めたハル・トゥルチンだ。撮影班は出演者がステージに上がるたびにカメラを回し(大掛かりな照明を用意できなかったため、カメラは太陽と向き合う位置に設置しなくてはならなかったという)、歌ったり踊ったりと、思い思いに楽しむオーディエンスの様子を捉えていた。同年の夏、そこから約100マイル離れたニューヨーク州北部の農場で開催された、愛と平和を掲げた3日間の音楽の祭典を描いたドキュメンタリー映画はヒットを記録していた。トゥルチンは自身のプロジェクトを同フェスティバルと並べて語ることで売り込もうとしたが、誰も興味を示さなかった。「ウッドストック」の前に冠された形容詞の部分が、マーケティングにおいてネックになると見なされたからだ。

そういった経緯で、マウント・モリス公園で行われた圧倒的なライブパフォーマンスの数々を収録したテープは、そのクオリティに驚いたザ・ルーツのドラマーであるクエストラヴによって発掘されるまで、トゥルチンの自宅で50年近くに渡って眠っていた。このプロジェクトがどこかのソウルミュージック研究家によって先導されていたとしても、『サマー・オブ・ソウル』は一級品のコンサートムービーとして認知されていただろう。本作には、当時キャリアのピークにあった複数のアーティストやその他による、ポジティブなエネルギーに満ちたライブ映像が多数収録されている。当時19歳だったスティーヴィー・ワンダーはキーボードの前で飛び跳ねたかと思いきや、圧巻のドラムソロを披露する。ニーナ・シモンは「Backlash Blues」をボクシングの試合に例え、テンプテーションズを脱退したばかりだったデヴィッド・ラフィンは、語尾を20秒間持続させた直後にソウル魂前回のシャウトを炸裂させる。当時キャリアの絶頂期にあったスライと複数の人種で構成されたバンドは、ファンクという言葉が動詞でもあることを思い出させてくれる。グラディス・ナイトとその機敏な動きは、ザ・ピップスの振り付けを一新した。マハリア・ジャクソンとメイヴィス・ステイプルズは、現場を教会へと変貌させていた。

BLM以降に捉え直す、1969年のブラック・パワー

黒人の権利に対する意識が向上し、多くのリーダーたちの命が失われた激動の60年代の終わりに、彼らの音楽はリアルに響いた。モータウン、ブルース、R&B、アフロ・ラテン、賛美歌など、当時のブラックミュージックは愛と癒し、精神性、欲求、活気、そして怒りに満ちていた。その魅力を知り尽くしたクエストラヴは、強欲さと差別によって黙殺されてきたこれらの映像を蘇らせ、後世に伝えようとした。一流のミュージシャンでありながら、最近ではドキュメンタリー制作の分野でも才能を発揮している彼は当初、8週間に渡って行われた同イベントのハイライトを集めた、いわばグレイテスト・ヒッツ的な映像作品を作るつもりだったと話している。


ニーナ・シモン (C)2021 20th Century Studios. All rights reserved.

本作がより野心的な内容となったのは、2020年の夏にクエストラヴが世間と同じようにフラストレーションを抱えていたことと無関係ではないはずだ。『サマー・オブ・ソウル』ではハーレム・カルチャラル・フェスティバルの盛り上がりのピークを示すストーリーだけでなく、欠かすことのできない時代背景も描かれている。また本作は、ブラック・パワーとブラック・ビューティーの時代だった60年代末に、彼らの住む町が誇った文化の豊かさを体現している。その一方で、今作では暴力や不安、暴動、不安定な情勢、コミュニティを蝕んでいたドラッグの蔓延、そして非暴力を訴える反対運動の参加者と、自己防衛のためならどんな手段も厭わない人々の分断も描かれている。「白人中心のアメリカの醜悪さ」と「ネオ・スーパー・ブラックネス」の対比は、作品の全編にわたって見られる。また同イベントの別の参加者の言葉を借りるならば、「そのコンサートは、アスファルトを突き破って咲いたバラのようだった」。当時の人々が置かれていた状況を考慮すれば、大勢の人間がひとつになるその光景はより感動的で、喜びに満ちているように感じられる。彼ら彼女らは単なる市民ではなく、多くの試練をくぐり抜けて生き残った人々なのだ。本作は当時の人々のサウンドトラックであると同時に、彼らがようやく勝ち取ったものを祝福してみせる。

本作では当時の人々と、現代に生きるアフリカン・アメリカンが直面している問題の直接的な対比は見られない。クエストラヴが今作でファーガソンやBLMに言及しなかったのは、そうしなくても人々が接点に気づくことを確信していたからだろう(唯一のリファレンスは『あるいは、革命がテレビ放映されなかった時』という副題だ)。『サマー・オブ・ソウル』は出演者たちだけでなく、等しく重要なオーディエンスへのトリビュートであり、そのコンセプトが本作を単なるコンサートフィルムではなく、優れたドキュメンタリー作品として成立させている。当時のパフォーマンス映像を観たある参加者は、それが自分の妄想だったのではないかと考えたこともあったと語った。「俺の頭がおかしいわけじゃないってやっと分かった」。彼だけでなく、複数の世代に受け継がれてきたその記憶を、クエストラヴは今作で補完してみせた。それは真に賞賛されるべき行為であり、その結果として生み出された本作はまぎれもない傑作だ。

From Rolling Stone US.



「サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)」
原題:Summer of Soul (…Or, When The Revolution Could Not Be Televised)
監督:アミール・”クエストラブ”・トンプソン
出演:スティーヴィー・ワンダー/B.B.キング/フィフス・ディメンション/ステイプル・シンガーズ/マヘリア・ジャクソン/ハービー・マン/デイヴィッド・ラフィン/グラディス・ナイト&ザ・ピップス/スライ&ザ・ファミリー・ストーン/モンゴ・サンタマリア/ソニー・シャーロック/アビー・リンカーン/マックス・ローチ/ヒュー・マセケラ/ニーナ・シモン/ほか
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン(2021年 アメリカ 118分)
2021年8月27日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開!
(C)2021 20th Century Studios. All rights reserved.
公式サイト:https://searchlightpictures.jp/



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