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追悼チャーリー・ワッツ 誰が何をしようと動じない妥協なき音楽人生

Rolling Stone Japan / 2021年8月25日 21時30分

チャーリー・ワッツ(1978年)(Photo by Michael Putland/Getty Images)

ロック界最高のドラムの神様は、スポットライトを嫌った。淡々と自分の仕事をこなす彼は、長年に渡りステージ上から人々を圧倒し続けた。

チャーリー・ワッツのいない世界など想像できない。彼の繰り出すバックビートは、世界中のサウンドを変えた。ザ・ローリング・ストーンズの伝説的なドラマーは、60年近くに渡り、最高の仕事をなし遂げた。チャーリーの神秘的なオーラは、「Let It Bleed」のイントロで聴かせた5秒間のドラムに集約されていると思う。ストーンズの名曲のひとつだが、バンドをリードするのはチャーリーのドラムだ。ミックはチャーリーのリズムに歩調を合わせ、ギターはミックに付いていく。一方のチャーリーは、誰が何をしようと動じない人間だった。彼の妥協しない姿勢が、ストーンズを偉大なバンドにしたのだ。

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他のメンバーは、チャーリーの感情を動かすことなど不可能だとわかっていた。チャーリー自身も自分のプレイに一喜一憂したりすることがなかったのだから、他のメンバーはなおさらだ。キース(リチャーズ)は、1981年のローリングストーン誌のカバーストーリーで語っている。「俺はチャーリー・ワッツがいてくれることに、本当に感謝している。特に一緒にいる時はそう思うよ。彼はああいう人間だから、自分では意識していないけれどね」というキースの証言に、当時のインタビュアーは耳を疑った。しかしキースは、「チャーリーの謙虚さに対して、何かを押し付けることなどできない。全く裏表がないんだ。彼にとっては、自分のドラムがどう評価されているかなんてお構いなしさ」と断言した。

「Start Me Up」が今なおラジオから流れてくる理由のひとつは、チャーリーにある。曲がなかなかフェードアウトせず、ミック(ジャガー)がエンディングで「You made a dead man come!(お前は死人を”いかせた”)」などとひわいな言葉を吐いても誰も気に留めないのは、曲の最後までグルーヴを刻み続けるチャーリーのドラムに皆が耳を奪われているからだ。(ストーンズのいくつかの作品でチャーリーが死人をいかせている、と主張するファンすらいる。)

  
チャーリー・ワッツは、アルバム『Tattoo You』(1981年)がリリース40周年を迎えた日に、この世を去った。80年代の若者は、『Tattoo You』のチャーリーのドラムを聴いて育った。「Start Me Up」や「Hang Fire」のプロモーションビデオの中でドラムを叩くチャーリーは、目の前のロックスターたちがどんなに激しくポーズを取ろうが、無表情を貫いた。むしろ、ミックのダンスに困惑の表情すら浮かべている。チャーリーは、決して好き放題のロックスターなどではなかった。グリマー・ツインズ(ミックとキース)の後ろで、淡々と自分の仕事をこなしていたのだ。



チャーリーは、華やかな生活に興味を持たなかった。妻シャーリーとの結婚生活は、バンドで活動する一般的なアーティストの結婚生活よりもずっと長く続いた。ロックではなくジャズのファンを自認するチャーリーは、1978年のローリングストーン誌のインタビューで「ロックはダンス・ミュージックだ」と述べている。「音楽的に発展していない。進化というのは、マイルス・デイヴィスの演奏するモーダル・ジャズのようなものを指すのさ。ロックであんなことはできない。(ジョン)コルトレーンもそうだ。ロックでは表現できない」とチャーリーは語った。たかがロックンロール。しかし確かに彼は気に入っていた。「ヘビーなバックビート。それが全てだ。ビートルズや僕らがやってきたことさ。」

ローリング・ストーン誌にも在籍した偉大なるチェット・フリッポは、ストーンズが70年代に行った最高のツアーを同行取材し、著作『Its Only Rock & Roll』に記録した。彼は、ツアー中のチャーリーの素顔にも迫っている。やり放題の時代の真っ盛りだった1978年のツアー中に、印象的なシーンがあった。「筆者はワッツの家族と一緒にいた。シャーリーは生まれて初めて、カクテルのスクリュードライバーに口をつけていた。当時まだ10歳ぐらいの娘セラフィーナは、”ジョーズ2”のペーパーバックを読んでいる。”私はこんな本を読ませるのは反対よ”とシャーリーは言う。”でも何ごとも経験よ”。」

関連記事:キース・リチャーズが語る、禁酒生活とチャーリー・ワッツの引退

アルバム『Tattoo You』は、完全にチャーリーの作品だと言える。チャーリーのドラムがリードする曲であっても、彼は我が道を行くという感じだった。「Neighbours」が最もよい例だ。誰もがチャーリーのドラムに合わせてノリノリになる。そしてソニー・ロリンズがサックス・ソロで入ってくる場面では、珍しくチャーリーのドラムが弾んで聴こえる。


筆者がお気に入りのアルバムの1枚に、『Their Satanic Majesties Request』がある。バンドの中で、チャーリーだけがロックンロールをプレイしているからだ。ストーンズがサイケデリックなどに手を出している(アルバムジャケットでミックは魔法使いの帽子をかぶっている)間も、チャーリーは「Citadel」や「2000 Light Years From Home」で聴かれるように、ドラムでバンドを激励している。フラワーチャイルドと化したストーンズが薬で破滅しないように、しっかりと支えていたのはチャーリーなのだ。「Dandelion」のコーラスの裏で叱咤する彼のドラムを聴けば、チャーリーの存在感がよくわかる。

2019年のツアー中もいくつかのコンサートを取材した。チャーリーは最後まで絶対的なモンスターで、特にチャーリー抜きでは始まらない「Midnight Rambler」は秀逸だった。多くのストーンズの楽曲と同様、誰も同曲をカバーしないのは、チャーリーのドラムを誰も真似できないからだ。ミック・ジャガーとロン・ウッドがスタジアムを駆け回る。キース・リチャーズは、ドラムキットの前でリフを弾いている。彼らのしていることは理解しやすい。しかし、チャーリーの存在意義は何だろうか? 彼を駆り立てているものは何か? なぜ彼はそこでドラムを叩いているのか? 「Midnight Rambler」に答えがあった。バンドには”彼の”グルーヴが欠かせない。彼はなくてはならない存在なのだ。

ツアー中に毎晩、ステージの前面でストーンズの4人組だけがスポットライトを浴びる瞬間があった。チャーリーのドラムだけに皆が反応する。スタジアム全体が同じ感覚を共有した瞬間だ。他の3人のメンバーは、従うべき基準はチャーリーだということを心得ていた。

チャーリーがリードするアルバムという意味で、『Black and Blue』や『Emotional Rescue』などが頭に浮かぶ。しかしどのアルバムのコンセプトも同様で、チャーリーのドラムに合わせてストーンズがプレイしているのだ。チャーリーが究極のロックンロール・ドラムの神様たる所以がここにある。キース・ムーンやジョン・ボーナムがストリートファイターだとすれば、チャーリーは静かなるヒットマンだ。自分が撃たれるまで、彼の存在に気づくことがない。チャーリーはスポットライトを嫌った。毎日毎晩、何年間も、淡々と自分の仕事をこなしながら、ステージ上から人々を圧倒し続けた。

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「Connection」や「Sympathy for the Devil」、さらに「Let Me Go」、「Dirty Work」、「Rocks Off」、「Stray Cat Blues」など、チャーリーにまつわる話をし始めたら一晩では足りない。「Shake Your Hips」(アルバム『Exile on Main St.』に収録されたスリム・ハーポの楽曲)で、彼を送ろう。チャーリーは、バンドをタイトにまとめようとじっと耐えながら、55秒のところで”ポン!”と、ひとつ強く叩く。しかし彼はまた、いつもの淡々としたプレイに戻っていくのだ。

58年間に渡り、ローリング・ストーンズがこの世で唯一従ってきた人物がチャーリー・ワッツであったことを象徴する楽曲のひとつだろう。ドラマーとして、ストーンズを世界で最も偉大なロックンロール・バンドたらしめたチャーリー・ワッツよ、永遠に。

From Rolling Stone US.

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