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伊津創汰が語る、新しいシンガーソングライター像の探求

Rolling Stone Japan / 2021年9月1日 12時0分

伊津創汰

新潟県出身、20歳シンガーソングライター伊津創汰が、2021年9月1日に初のデジタルシングル「タイムカプセル」をリリースした。

Good Bye Aprilの倉品翔と新潟在住のキーボーディスト/シンガーソングライター原生真をアレンジャーに迎え、過去と現在を行き来する物語を叙情的なサウンドで彩っている。ファーストアルバム『DREAMERS』から約7カ月ぶりのリリースだが、歌詞も音楽性も着実に一歩前進、というかかなりイメージを変えていて新鮮だ。

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短期間でのこの変化はいかにして訪れ、それをどう曲に反映させていったのか。Rolling Stone Japanには2度目の登場となる伊津に話を聞いた。

─アルバム『DREAMERS』のイメージで聴くとけっこう違うので、いい意味でちょっと驚きました。

『DREAMERS』を出してからの半年ぐらいでけっこう変化があったんです。ライブが飛んじゃったり、コロナに感染したりして、膨大に時間ができてしまって。何もしてないとイヤなことばかり考えちゃうし、携帯でSNSとか見てると、嫌な事ばかり目に止まるじゃないじゃないですか。だから見ないために、いろいろな音楽を聴いて本を読む時間にしようと思って。3〜4月ごろですかね。それをきっかけにいろいろ変わりました。

─災い転じて福となすというか、インプットの機会になったんですね。

その期間に読んだ岡本太郎さんの『壁を破る言葉』がやばかったんです。強烈な言葉が並んでる本で、中でも《ひとが「あらいいわねえ」なんて言うのは、「どうでもいいわね」と言っているのと同じなんだよ》というのが衝撃的で、考え方がガラッと変わっちゃいました。今ってSNSで他人の評価が見えやすくなったじゃないですか。それを気にして、流行りの音楽を聴いて多くの人がいいと思うものをイメージして作っても、まがいものにしかならないんだなって自分の中で解釈したんです。



─音楽の聴き方にも影響はありましたか?

スティーヴィー・ワンダーとか、昔のソロミュージシャンの曲をよく聴くようになりました。あとはずっと好きだったマイケル・ジャクソンとか秦基博さんとかですけど、自分の考え方が変わったことで、売れてる音楽の不自然な部分にも気づけるようになったんですよね。今まではわかりやすい部分や気持ちいいメロディだけを聴いて解釈してましたけど、そうじゃない部分がもしかしたらその人のオリジナリティなんじゃないか、と気づいて、そこを重点的に聴くようになりました。

─マイケルとか秦さんは伊津さんにとって、迷ったりしたときに立ち返る場所みたいな音楽なんでしょうね。何度も聴き直して、新たに解釈していくという。

それが「面白い!」ってなったんです。少し前まで、オリジナリティって何なのかがよくわからなくなってたんですよ。僕自身「個性がない」とか言われまくって、「個性って何なんだ?」ってモヤモヤしていた時期でもありましたし。変な部分というか、不自然な組み合わせ方だったり、ワードセンスの独特さみたいなものに気づいて、「もしかしてこういうこと?」みたいな。まだ確信はないんですけど、考えるようになりました。

─曲作りやライブも変わってきましたか?

ここ1、2年、ルーパーを使ってひとりバンドみたいな方向にけっこう振り切ってやってたんです。めちゃめちゃ音を重ねて、マイクも2本立てて、みたいな。最近はそれはちょっと違うなと思って、それよりもコードで遊んでみたり、そこから出てくる新しいメロディを目指すようになりました。トラックでやるよりも、その場で生み出すリズムとかグルーヴとかメロディのほうが、自由で面白い音楽が作れるんじゃないかなと思って。最近はバンドに混じって弾き語りでやるのも楽しくて、ルーパーはちょっと控えてます。

─そうした変化を反映させた第1弾が「タイムカプセル」ですかね。

そうですね。今お話ししたようなことを意識するようになって、4〜5月ぐらいに作り始めた曲なので。今回はガットギターを使って作ったんですけど、ループミュージックを聴いていたら浮かばなかった発想ですね。イントロもクリックに合わせるんじゃなくて、自分の中のタイム感で弾いたりして。聴く音楽が変わってきたので、そのほうが面白いんじゃないかと思えたんです。



─僕が聴いて思い出したのは、フォークやニューミュージックと呼ばれていた1970年代の音楽でした。アコースティックな音で、きれいなメロディで叙情的な歌詞を歌う。そういうタイプの曲が、子どもどころか孫の世代の伊津さんから出てきたのが面白いなと。

ありがとうございます。自覚はないですけど(笑)。

─アレンジ的にはバンドサウンドですよね。だんだんと音数が増えていく。

Good Bye Aprilの倉品翔さんと、原生真さんという新潟のキーボーディストの方にアレンジをお願いして、お二方と相談しながら進めていました。僕がデモを作るときにリズムをとるために携帯のアプリで鳴らしたコンガみたいな音がそのまま入ってるんですよ。「ちょっとふざけました」って送ったら「採用しました!」って返ってきて(笑)。ノスタルジックなキーボードの音色の裏に、民謡っぽいリズムの音が鳴っているのが面白いかもと思ったんです。

─弾き語りだけで成立する曲だと思いますが、そうするときっともう少ししんみりしそうなので、ファニーな音を入れたことで印象がライトになりましたね。

倉品さんと原さんには意図があったかもしれないですね。僕としては、単純に今までやってなかった組み合わせとか面白いと思ったアイディアを提案して「違うな」って部分は引いて……みたいに、話し合いながらアレンジを組んでいくという作業を初めてやってみた、というところです。倉品さんには普通に先輩として「こんな曲作ってるんですけど」「だったらこういうキーボードの音色が合うんじゃない?」みたいに相談をしてたんです。その流れでアレンジをお願いしたんですけど、「ノスタルジックな音色で」という大まかなサウンドイメージは最初に話した段階でできてました。



─「ノスタルジック」というキーワードがありましたが、歌詞も過去と現在の対照を描いていますよね。それが曲調や歌い方、音色などと相まって、さっき言ったフォークっぽい印象を受けたんだと思います。最初からノスタルジックな曲を作ろうと?

それはありました。東京に出てきて3カ月目になるんですけど、新潟のよさを思い出してしまうことがどうしてもあるんですよね。そういうときに甦った断片的な記憶をものすごく愛しく感じる瞬間があって。そういうのが曲を作った動機だったと思います。

─3カ月だとまだ「東京に慣れた」とは言えない状態ですね。

全然です(笑)。生活してる場所以外はそんなに行ってないので、まだあんまり好きになれないですね。渋谷とかイヤですもん、人多くて。人が多いのイヤなやつが東京にいるのやばいですけど、「あぁ、人がいない田んぼ道ってあんなに幸せだったんだ」とか、ちょっと昔を思い出して感じたことも、曲を作るきっかけになりました。

─《頼んでた》《集まってた》《笑ってた》と過去形で記憶の中の光景を列挙して《タイムカプセルをここに置いてくよ》のサビで現在形に変わりますよね。時間の往来がドラマチックですてきな歌詞だと思いますが、実際に目にしたことも歌っているんですか?

自分の目で見たものと、想像したもの、感じたものが混ざっていますね。それを自分が歌うことに意味があるようにしたかったんです。



─セルフライナーノーツもいい文章だと思いました。

ありがとうございます。書き方がわからなくて、「何だ、セルフライナーノーツって?」って感じだったんです(笑)。小説が好きでよく読んでて、いつか自分も文章を書きたいなとは思っていたので、解説じゃなくて、この曲から新しい物語を作ってみようみたいな。なので、あまり曲と関係ないんです。

─はい、わかります。

曲の中に使った言葉を出してちょっとつなげつつ、別の物語を書いてみようと。自分の感じてきたもの、見たものを組み合わせて書きました。だからセルフライナーノーツも「タイムカプセル」も、あんまり共感とかは考えてないんですよね。自分の見てきた景色と思いを物語にしたので、こういうふうに聴いてほしい、みたいなこともあんまりなくて、聴いた人がそれぞれの思い出と紐づけて、その人のタイムカプセルを作ってくれたらいいなと思ってます。まぁ、書くときにそこまでは考えてませんけど(笑)。

─出来上がってみないと、どんな曲になるかわかりませんものね。大サビの《大好きだった 花のようなあの子は》のくだりはひときわ印象的です。

これには実際モデルというか、思い出した子がいます。たぶん書いていることも本当っちゃ本当だと思います。本当をちりばめると真実味が増すじゃないですか。意識的にそうしたかどうかは自分でもわからないんですけど、昔と今をつなぐ一節がほしかったんです。自分もこのくだりがいちばん気に入ってます。いちばん感情がこもるというか。

─聴いていてもここで一気に曲に色がついたような感覚がありました。昔と今が鮮やかにコントラストを描く瞬間ですよね。僕自身も含めて、多くの人が経験したり目にした光景だろうから感情移入もしやすいし、とても効果的なんじゃないでしょうか。

いやー、めっちゃうれしいです。まぁ、それをここに持ってきたのもなんとなくだったりするんですけど(笑)。夕方の空が好きで、空を見上げていたときに「この感じを、ひとがやらない描写で書きたい」と思って、たまたま紫陽花が咲いてる時期だったので、パッと浮かんだのが《紫陽花色の空》という言葉だったんです。自分だけの風景描写がそれでできてしまうな、みたいな。



─その後にもう一度サビがありますけど、その前とはまったく印象が違って聴こえるんですよね。

おぉ……今、意図的にやったことにしようかなと思ってます(笑)。

─どうぞどうぞ。「なつかしい」と言わずになつかしさを、「好き」と言わずに愛情を表現するのって、すごく大事なことですよね。『DREAMERS』にもそういう瞬間は多々あったと思いますが、さらに一歩前進した感があります。

自分が書いた曲ではありますけど、聴いた人の中で自由に解釈してもらいたいんです。なので今回は特に、あまり「こういう曲です」って言いたくないんです。こういう経緯があって、こういう気持ちで書きました、ってあんまり言うと、そういうふうに聴いちゃうじゃないですか。それもあってセルフライナーノーツは別の物語にしたんです。

─大切な曲になりそうですね。

「タイムカプセル」をこのタイミングでリリースするのって、節目じゃないですけど、自分的に区切りっぽくはあるかもしれないなと思ってます。アルバムを出して、その後の最初のシングルなので、最初にお話ししたような自分の考え方や音楽性の変化をしっかり見せたいというか。新たに駆け出していくスタート地点に「タイムカプセル」という曲がいてくれることが、自分の中でものすごく大事な気がしてるんです。



─具体的にどうなるかはまだご自分でもわからないかもしれませんが、新しい伊津創汰を見せていきたい、みたいな?

ここから新しいものを作っていきたい、という思いが本当に強いです。あまりひとがやってないようなことをやりたいと考えて動いてるので、いろいろ変わっていくこともあると思うんですけど、もし仮にいくところまでいっちゃって、わけがわからないことをやったとしても、ここに「タイムカプセル」がいてくれれば、いつでも戻ってこれるんじゃないかと思うんです。サビの意味合いも相まって、自分の中ではものすごく安心して歌える曲になりました。ライブでいちばん歌いたい曲になってますね、今のところ。

─最後に何か言っておきたいことがありましたらお願いします。

曲についてはめちゃめちゃ話しましたけど、先入観を持たずに聴いていただきたいというのと、10月3日に井上緑さんというシンガーソングライターの方と2マンライブをやるんです。これは自分の中ではすごく大事なイベントで、というのも僕が最初にデモCDを渡した人が井上さんなんです。弾き語りを始めて最初に「この人のところに行きたい」って思った人と、対バンしたこともなかったんですけど、ついに2マンライブまで来たか、ってものすごく燃えてます。


<リリース情報>



伊津創汰
「タイムカプセル」

発売日;2021年9月1日(水)
価格:250円
URL: https://linkcloud.mu/bac9ff06

<ライブ情報>

井上緑 × 伊津創汰 ツーマンライブ  「COME BACK TO LIVEHOUSE」

2021年10月3日 (日) 新宿marble 
時間: OPEN 11:30 / START 12:00
TICKET FREE (2drink 1200円)
チケット予約:https://passmarket.yahoo.co.jp/event/show/detail/02gpemv7ybt11.html

伊津創汰 公式Twitter:https://twitter.com/soutaka1113/

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