マニック・ストリート・プリーチャーズがUKロック復興に与えた影響、30年選手の新たな冒険
Rolling Stone Japan / 2021年9月10日 18時15分
マニック・ストリート・プリーチャーズが9月10日に、14作目となるアルバム『ジ・ウルトラ・ヴィヴィッド・ラメント』をリリースした。
前作『レジスタンス・イズ・フュータイル』から3年。その間に『ディス・イズ・マイ・トゥルース・テル・ミー・ユアーズ』の20周年記念盤と『ゴールド・アゲインスト・ザ・ソウル』のデラックス・エディション、さらにはフロントマンのジェームス・ディーン・ブラッドフィールドによるソロ・アルバム『Even in Exile』をリリースし、ツアーも精力的に行われた。衝撃のデビューから来年で30年。活動のペースも、ニッキー・ワイヤーがジャンプする高さも衰えていない。一度もメンバー・チェンジすることもなく(リッチー・エドワーズは今もメンバーである)、休むこともなく強靭かつ繊細なロックを奏で続けている。
代表曲の一つ「If You Tolerate This Your Children Will Be Next」(『ディス・イズ・マイ・トゥルース〜』収録)
そんな30年選手の背中を追いかけるような若いバンドたちが現在のUKシーンで頭角を現しつつあるのも、マニックスにとって頼もしいはずだ。日本では南ロンドンのロック・シーンに焦点が当てられ、なかなかほかの地域のバンドたちの活躍が伝わってこないが、今はむしろ英国北部に重心が移りつつあるのが現状だ。
その代表格がグラスゴーとエディンバラの中間地点にあるウイットバーン出身のザ・スナッツ。一躍英国を代表するアーティストとなったルイス・キャパルディとは同郷で幼馴染みの間柄で、ルイスのツアー・サポートも経験している。ザ・スナッツが今年4月にデビュー・アルバム『W.L.』をリリースした際、デミ・ロヴァートの『Dancing with the Devil... the Art of Starting Over』と英国チャートで激しい首位争いを演じたが、その際もルイスが「#SNUTSFORNUMBER1」というハッシュタグを使って、アルバムのダウンロードやストリーミング再生を呼びかけて、みごと1位に輝いた。いかにもスコティッシュらしい、いい人エピソードだが、『W.L.』には首位に輝くだけのポテンシャルも秘めていた。奇をてらわない、どんどん感情が高ぶっていくストレートなロック。地元をエモーショナルに歌い上げたGlasgowをはじめ、まさに英国伝統ともいうべきスタイルで、普段のわずらわしい生活のことを忘れて、ライヴで思いっきりシンガロングできるような普遍的なロックがブリテン島の北部から巻き返しを図ろうとしている。
エディンバラの3人組、ヴィスタズもそうしたUKロック・ルネサンスの一派と言っていい。彼らの胸がすくような晴れやかなサウンドが詰まった今年8月発表の2ndアルバム『What Were You Hoping to Find?』はバンドの自主レーベルながら全英チャートで39位と健闘。その新作を携えて9月から英国全土を巡るツアーを展開している。
また、マンチェスター近郊ウィガン出身のザ・ラザムスもアルバムリリース前だが期待を寄せられているバンドであり、メジャーのアイランドと契約。ザ・スミスにも通じるメランコリックなギター・サウンドが紡いでいく軽快なメロディーが魅力で、9月24日リリースの1stアルバム『How Beautiful Life Can Be』が届けられるのを楽しみにしている。
こうしたバンド復権の動きを押し上げたのが、ソロ・アーティストたちの活躍だった。今や英国で最もライヴ動員できるアーティストのひとりとなった、グラスゴー出身のゲリー・シナモンはその筆頭。残念ながらコロナ禍で中止となってしまったが、7万人規模の野外ライヴを十数分でソールド・アウトするほどの人気ぶりで、ロックダウン真っ只中の昨年4月に発表した2ndアルバム『The Bonny』は自主レーベルながら全英1位を記録。もはや定番の出囃子となったKC&ザ・サンシャイン・バンドの「ギヴ・イット・アップ」から、ライヴのエンディングまで観客は歌いっぱなしで、今年はヘッドライナーとして各地のフェスを大いに盛り上げた。
また、ニューカッスル近郊出身のサム・フェンダーも直情的なサウンドで確かな人気を得ており、全英1位となった2019年発表のデビュー・アルバム『ハイパーソニック・ミサイル』に続く、10月8日リリースの2作目『Seventeen Going Under』が待たれているところ。先行シングルの「Get You Down」はブルース・スプリングスティーン&Eストリート・バンドの故クラレンス・クレモンズばりのサックスが入ったエモーショナルなナンバーだ。
メロディアスな「14作目」の全容
このようにここ10年ほどは鳴りを潜めていたものの、近年復活の兆しを見せ始めている伝統的なUKロックだが、そのスタイルを堅持しながら、作品ごとに違った一面を打ち出していくのがマニックスだ。さらりと書いてしまったが、これはまったくもって容易なことではない。しかもだいたい3年おき、早いときには1年でアルバムが届けられる。約30年間にわたって音楽性がぶれることなく、冒険を続けながら納得させられるアルバムを作り続けているのは稀有なことであり、それはニュー・アルバム『ジ・ウルトラ・ヴィヴィッド・ラメント』でも不変だ。
新作のレコーディングは2020年から2021年にかけての冬に地元ウェールズにある世界的に有名なロックフィールドと、同じくウェールズ南部のバンドが所有するスタジオで行われた。プロデュースはマニックスと共にキャリアを積んできた、バンドのことを誰よりも知るデイヴ・エリンガ。ミキシングはブロッサムズやアーロ・パークス、フランク・オーシャンら今の音作りに熟知したジュリア・カミングが手がけている。
1曲目のタイトルは「スティル・スノーイング・イン・サッポロ」。曲のラストには日本人男性のダイアローグが挿入されている。また、前作『レジスタンス・イズ・フュータイル』(無益な抵抗という意味)のアートワークに、彼らは滅びゆく侍のカラーポートレートを用いた。そのように思い返せばマニックスにとってデビュー時から日本は特別な場所であり、ひとかたならぬ思いを抱き続けてきたことを再認識させる曲からアルバムは幕を開ける。
2曲目の「オーウェリアン」はリードトラックで、響きの良いピアノから始まる。メンバーは「アバ、ジ・アソシエイツのアラン・ランキンによる威厳のあるキーボード、トーク・トークの『イッツ・マイ・ライフ』にリンジー・バッキンガムのギター・ソロを入れたようなもの」とコメントしているが、確かにその一音一音に耳を傾けてみると彼らが言いたいことがわかる。何でも今回のアルバムではギターではなく、ピアノで曲を着想していった初めての作品になったそうだ。それだけにいつものエモーショナルなギターに取って代わって、ピアノがその役割を果たしているが、むしろギターよりも胸に迫るシーンが幾度も訪れる。そのピアノとウォール・オブ・サウンド的なアプローチな「クエスト・フォー・エンシエント・カラー」はまさにその好例と言っていいだろう。
また、前作では同郷のキャサリン・アン・デイヴィスのプロジェクトであるジ・アンコレスをフィーチャーしていたが、今作でもサンフラワー・ビーンのジュリア・カミングとデュエット。デビュー作でのトレイシー・ローズを筆頭に、女性ヴォーカルを迎えるのはマニックスのお家芸とも言うべき恒例となっており、「ザ・シークレット・ヒー・ハド・ミスト」でのジュリアの歌声も曲にごく自然に馴染んでいる。そしてフォーク調の「ブランク・ダイアリー・エントリー」ではマーク・ラネガンがゲスト・ヴォーカルとして参加。マニックスの楽曲であの渋い声を聴かせてくれることが感慨深い。
メロディアスなピアノが印象的なだけに、前作のようなほとばしる激情は控えめに感じるかもしれないが、やはり根っこの部分は同じ。彼らが感じたことを演奏に託して伝えてる。そんなシンプルな繰り返しを30年にわたって続けてきたウェールズの偉大なバンドの背中を、これからの若手バンドたちが追いかけていく。彼らがマニックスをどう見ているのか、いつの日か機会があれば聞いてみたい。『ジ・ウルトラ・ヴィヴィッド・ラメント』を聴いて、そんな衝動にもかられた。
マニック・ストリート・プリーチャーズ
『ジ・ウルトラ・ヴィヴィッド・ラメント』
発売中
CD
①完全生産限定盤 トール・サイズ・ハードカバー紙ジャケ、CD2枚組
日本盤のみボーナス・トラック2曲収録。
価格:5,280円(税込)
②通常盤
日本盤のみボーナス・トラック2曲収録
価格:2,640円(税込)
CD購入&再生リンク:
https://lnk.to/ManicsTheUltraVividLamentRJ
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