NOISEMAKERが語る、コロナ禍で生まれた分断へのメッセージ、DIYでバンドを続ける意義
Rolling Stone Japan / 2021年9月16日 20時0分
NOISEMAKERが、この夏デジタルシングル「APEX」をリリースした。
前作のミニアルバム『H.U.E.』から約1年振りとなる今作は、コロナ禍で理不尽な荒波に苛まれている身近な居酒屋の店主、ライブハウス、医療従事者その他、どうしようない怒りや悲しみ、理不尽に膝をついてしまっている人たちが、もう一度立ち上がる気力が湧き上がる想いが込められた楽曲となっている。
そんなNOISEMAKERのAG(Vo)とHIDE(Gt)にサウンドアプローチや作詞。さらにはアートワークまでDIYで制作し続ける彼らだからこその話を訊いた。
―NOISEMAKERの過去曲をいろいろ聴いていて、ラウドなバンドが持っている普遍的な要素というよりは、現在進行形で変わっていく音楽だなと感じました。それを踏まえて聞かせていただきたいのですが、まず今回のシングル「APEX」ではサウンド面はどういうものにしたかったんですか?
HIDE:何曲か録る予定だったんですけど、その中で今アルバムを出すより、1曲1曲を大事にしたいなという気持ちがありました。12曲入りのアルバムが出ても、12曲目が好きで、サブスクリプションでその曲だけ登録していたりする場合もあるじゃないですか。CDにするときはシングル=もう1曲書かないといけない謎の空気感がありますよね。デジタルだと、無理してもう1曲書く必要もないし、書ければ書けばいいしと思って、今回は1曲に全部集中させたいので、「APEX」という曲になりました。
AG:サウンド面は?
HIDE:サウンド面は僕の中ではラウドというのはあまりなくて。昔に比べたら、どんどんチューニングが上がっているし、少し大きいビート感になっている。歌もポップス要素、メロディが重視になっていて、リズムもごちゃごちゃしない。楽器も全部必要最低限でやっています。聴いていったら、ここは歌が主人公、ここはギターが主人公、ここはリズムが主人公って、パズルにして一応作っていて、どんどんオールドなサウンドにしたいなと思ってるんです。プラス、エレクトロ要素もあって。音を意識して、昔のミュージシャンが培ってきたサウンドと、これから培っていくであろう未来のサウンドをエレクトロと融合させたら、今回こういう作品ができた感じですね。
ーHIDEさんはDTM的な作曲方法で言うと、You Tubeなどで公開されているようなヒップホップのトラックの作り方とか、今まで見たことのないような作り方を見たりして、新しい発見を自分の中に取り入れたりしますか?
HIDE:もちろんあります。僕とAGはいろいろなジャンルを聴くので、「こんなプラグイン出たよ」とか、たまに映像を一緒に観て「おもしろいね」って話したりします。
AG:ヒップホップがおもしろいなと思うのは、すごくお金がかかったスタジオじゃなくても、ベッドがある部屋で作っちゃうみたいなところです。即席じゃないけど、パソコンが1台あればいいみたいな。トラヴィス・スコットも、もはやスタジオに行くよりも、部屋で録った方がいいって言ってますしね。
HIDE:今回もギターは家で1人でパパっと30分ぐらいで録りました(笑)。
AG:ヴォーカルのメロディとリズムはヒップホップシーンからすごく影響を受けているんですよね。ラッパーがリアーナとか、女性シンガーとコラボしたときのサビにフックで来る、ロックシンガーがつけないようなメロディがすごく好きなんです。R&Bも好きで影響を受けているんですけど、それをバンドでやろうとすると、大抵バックはメタルコアやジェント、トラック中心のサウンドになってしまうアーティストが多い。それとは違ったもっと新しい音を2人で常に探してて、ブルースのルーツもあるから、ジミヘンみたいな音でやったら、まず聴いたことない新しい音楽になるんじゃないかなという話になって。
HIDE:ヒップホップやR&Bとか、そういうメロディ、譜割りを考えていくと、自ずと後ろのリズムも決まっていくんですよね。やっぱり意味があってそのリズムになっているし、そのメロディになっているので、単純になんでもかんでもくっつければいいというものでもない。2つ合わせておいしくなるものもあるし、合わせるとまずくなるものもある。そういうことを何回もやって最後に生き残った1曲が「APEX」です。
ーディテールにはこだわりましたか?
HIDE:そうですね。これを聴いて「ジャンルは何?」と訊かれたときに、「なんだろう?」ってなるのが1番いいなと思ったんです。
ーそういう意味では、NOISEMAKERらしさが濃縮されたものになったんですね。
HIDE:そうですね。今インターネットで何かを伝える時代になっているじゃないですか。俺らは自分たちでレコーディングしたり、いろいろできるので「APEX」の歌なしのトラック、各楽器なしのトラックをバッとネット上にあげて、「ちょっと弾いてみ? 歌ってみ?」とか、そういう遊び心があってもいいのかなと思います。試験的にこの前からやってみているのですが、NOISEMAKERの曲を弾いてくれたり、歌ってくれてる人も結構いるんです。
「頂点」が呼んでいる
ー歌詞に関してはコロナ禍の事情を反映させていると思うのですが、どういうところから着想を得たんですか?
AG:最初は曲ができて、1回適当に歌うところから始まりました。そのときに「APEX」って口ずさんでいたんです。内容的には曲を聴いていたら、立ち向かっている人が頭に浮かんできて。俺は昔、札幌の居酒屋で働いていたんですけど、店長と会ったときに店の状況を聞いていたんです。ライブハウスもそうだし、皆がやばいところまで来ている状況が分かって、それで歌詞を書き始めました。例えば、「両手を縛られたままどうやって引き金を引けっていうんだ」という歌詞は、戦場にいたとして、戦える武器を渡されたとしますよね。俺だったら音楽。居酒屋の人だったらお店やお酒、今のコロナ禍の状況を戦場としたら、銃を持っているんだけど、両手をぐるぐる巻きにされて、戦ってこいと言われている感じがしたんです。今回の曲を聴いて、お店やライブハウスをもう辞めようかな、閉めようかなと思っている人が聴いたときに、「もうちょっと頑張ってみよう」と思えるような曲を書きたいと思いました。「俺が見た頂点が呼んでる」と最初は言って、上を見ているんだけど、最後のサビではその頂点に立っている。頂点というのは人それぞれの夢だったり、些細な目標。今やっていることを続けることでもあるんです。
―コロナ禍でみんなが本当に大変な思いをしている状況が自然と言葉として湧き上がってきた感じですか?
AG:そうですね。自分たちや周りで関わる人たちもいろいろ被害を受けている中で、大変じゃない人はほぼいないんじゃないかなと思って。何を書こうと悩むのではなく、今自然に書けること。今社会では分断が起こってますけど、他人に指をさしている場合でもないし、怒りをぶつける相手を間違えない方がいいと思ったんですよね。生きている尺度は人それぞれ違うじゃないですか。その違いによって指をさしあって喧嘩している場合じゃない。そういうメッセージも込めています。
ーサウンドに触発されて出てきた言葉はありましたか?
AG:それもありますね。Aメロは悲鳴とか血を感じる。強いメッセージがAメロで見えるから、そういうものに自然と導かれているのかもしれないです。
ー作詞に関しては毎回そういう感じなんですか?
AG:最近はそうですね。内容を思いついて溜めて書いたとしても、できた曲に合わせたとき、ロックなのにやさしいことを書いていたら合わないなと思って書き換えることが多いです。自分の気持ちや言いたいことをふわっと持ちつつ、曲と合わせてカチッとはめるのが1番気持ちいいですね。
ー今回はアートワークも描き下ろされていますけど、作詞と繋がっているものはありますか?
AG:曲を聴きながら考えて、制作は3日かかりました。デザインは一発で見てかっこいいと思えるものが好きなんです。みんなが頂点に向かって、手を伸ばしているデザインがいいかなと思って。我先に相手を蹴落として取りに行ってるのか、みんなを守りながら取りに行ってるのかは見る人が決めればいい。あとは医療従事者が守っているのか、でも、我先に取りに行ってる人をまた蹴落としているのかは分からないですけど。5本の手があるのは五色人を表していて、下が花なのはそんな中でも平和であってほしいという願い。見る人がどう見るか決めてくれればいいかなと思います。
ーそういう意味ではちゃんと強力な1曲になって、世に出せましたよね。
AG:そうですね。
アートの意味
―DIYなスタイルでずっとやられてきていて、要は自分たちで作品の責任が持てるわけですよね。逆に言うと、だからこそもっとこうすれば自分たちにとってプラスになるなと考えることはありますか?
HIDE:俺らだけではできないことも絶対あるから、それはチームで動かないなと思っています。それ以上と言うと、時間とお金がほしいっすね。例えば、SNSの画像やポスターがあるじゃないですか。結構自分たちでパパっと作っちゃうんですけど、一般的な流れだとしたら、誰かが作ってメンバーが「もうちょっと色はこうしてほしい」というやり取りが何回かあると思うんです。でも、自分でやると、30分でパパっと終わるんですよね。もし要望があれば、「HIDEさん、もうちょっと宣伝のやつでかくしてください」って言われて、「分かりました」で完結できる。だから、今めっちゃいい環境なので、それ以上に何かを求めるとしたら、やっぱりお金と時間です。制作するにも、30分でできる場合もあるし、1週間かかる場合もある。現場作業で1週間働いたことあるけど、1日2万稼げるから1週間で14万円になりますよね。やっぱり「ちょっとこれTシャツに描いてよ」みたいな連絡が来るんです。「いや、無理」って思うんですけど。友だちだからタダでやってもらおうとしてるんですよね。こっちから言いたいのは「じゃあ、お前焼き肉屋やってるんだったら、タダで食わせろよって言ってるのと同じと思え」と。そういう人とはあまり付き合わないようにしてますね。
AG:アーティストの有名な言葉があるよね。絵を30分で描いたんだけど、値段がすごく高くて、「たった30分で描いた絵がなんでそんな高いんだよ」ってなったときに、「30分じゃない。何十年と30分だ」って言って。それがその人にとっての価値。だから、アートをもうちょっと大事にしてほしいなと思います。俺らは自分たちの頭の中で描いているものをやりたくて、でも環境がないから自分たちでやるしかなかった。そういう意味ではやっと時代がそうなってカチッとハマったのかなって、すごく思ってますね。今、俺はMV監督を1回やってみたいなと思ってます。
HIDE:絶対その映像には参加しないけどね(笑)。
AG:1回も自分が観たいMVになったことがないから、いくら言っても監督のこだわりと予算と時間がない感じになるんですよね。曲に対して考えてる絵があって、テーマも全部あるんだけど、カメラマンと照明はプロに任せて自分で1回やってみたいです。
ーFUTURE FOUNDATIONでも活動中ですが、どういうスタンスでやっていこうと思っていますか?
HIDE:いい意味で適当っすね。最初は結構力が入っていたんですよ。だから、ちょっと肩の力を抜かなきゃいけないなとは思ってますね。3バンドが出す音が重要であって、何ができるかが重要ではないという考えになったから、まるまる俺がギター弾いてないときもあります。DIYでレコーディングするってなっていたから、完全にエンジニアなんです。俺はRECボタンとエンターキーとスペースキーしかほとんど押してない(笑)。エンジニアさんが初日は来たけど遅すぎて、もうやらなくていい、こっちでやるわってなって。
ー自分でやった方が早い?
HIDE:早いですね。例えば「Aメロは4拍をこうしたい」と言ったら、「エンドってここのことですか?」、「ギターのここのフレーズですか?」みたいにエンジニアさんってなりがちなんですよね。それが音楽的な知識とエンジニアの知識が両方あると、全部頭に入ってるから、「じゃあ、ここから録るよ」って指示を出せる
AG:せっかちなんだよね(笑)。
HIDE:自分でした方が、パパパってできてくる。本番のレコーディングじゃないから、最後は綺麗に録ればいいだけの話で。でも、今コロナの時期になって、自分のバンドでやれることがどんどん中止になったりしているので、FUTURE FOUNDATIONみたいなプロジェクトがあると、お客さんもワクワクするのかなと思って、ありがたいです。
今まで通りの「ライブ」ができる日まで
ーNOISEMAKERは「APEX」を出して、FUTUTRE FOUNDATIONの活動もあり、DOTS COLLECTIVEでポップアップを回り、現在はNOISEMANIAを敢行中。次なる展望は何か考えているんですか?
HIDE:「APEX」が入ったEPを出せたらなと思ってます。チームと相談してなんですけど、何かに付属して曲も聴けたら1番いいのかなと思って。悔しいですけど、曲の価値がなくなってきちゃっているから、やっと出た3年越しの曲という感じではない。そういうところも上手くやっていければいいなと思います。
AG:僕も本当に今まで通りのライブを望んでいますね。今年はまだ無理なのかもしれないですけど、そんな中でもどうやって前に進んでいこうかと思ってます。コロナじゃなかったら、1年後はZeppツアーをやって、その次の年か2年後は武道館でやるというプランがあって、それが全部崩れたんです。じゃあ、一歩ずつでもどうやって大きくなって、せっかく作った音楽をどう広めるか。今年何ができるかなということをまだ考えてます。
ー最後に最近2人がよく聴いてる音楽があれば聞かせてください。
AG:いろいろ聴きすぎてこれというのがなくなってきましたね。でも、カニエ・ウェストはまた戻ってきたり、あとNFが好きです。
HIDE:俺はロイヤル・ブラッドを聴いてますね。今回のアルバム『Typhoons』がめっちゃよくて、やられたなと思ったな。邦楽も洋楽も聴きますよ。邦楽の話題になってる曲はどんな感じなのかなと思って聴くし、全部チェックするようにしてます。
Digital Single
「APEX」
NOISEMAKER
配信中
NOISEMANIA2021
9月20日 (月)
神戸・太陽と虎
17:30 open / 18:00 start
9月21日(火)
静岡・UMBER
17:30 open / 18:00 start
9月23日(木)
石川・金沢AZ
17:30 open / 18:00 start
9月25日(土)
新潟・GOLDEN PIGS RED STAGE
17:30 open / 18:00 start
9月26日(日)
長野・松本ALECX
17:30 open / 18:00 start
10月6日(水)愛知・名古屋DIAMOND HALL
17:00 open / 18:00 start
10月29日(金)北海道・札幌PENNY LANE24
17:00 open / 18:00 start
NOISEMANIA PREMIUM HALL TOUR
11月2日(火)東京・国際フォーラム ホールC
18:00 open / 19:00 start
11月23日(火・祝)大阪・森ノ宮ピロティホール
17:00 open / 18:00 start
https://noise-maker.net/
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