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ボーイズ・ノイズ、テクノ・プロデューサーとして挑戦した新たな試み

Rolling Stone Japan / 2021年9月29日 20時0分

ボーイズ・ノイズ(Photo by Shane McCauley)

21世紀を代表するDJ/エレクトロニック・ミュージシャンの一人、ボーイズ・ノイズ。メインストリームとアンダーグラウンドを自由に行き来するベルリン出身の彼が、5枚目のオリジナル・アルバム『+/-』(読み:Polarity)をリリースした。その作品の魅力をThe Sign Magazineの小林祥晴が紐解く。

2021年の今、ゼロ年代半ばに隆盛を極めたエレクトロ出身のアーティストにどれだけのアクチュアリティがあるのだろうか? 現行のポップミュージックを貪欲に追いかけるリスナーの大半はそんな風に感じているに違いない(いや、若いリスナーにはエレクトロが何だかわからない人も少なくないだろう)。確かに当時のエレクトロブームに乗って頭角を現した有象無象は今や見る影もない。ジャスティスやデジタリズムといったトップクラスのアクトも精彩を失った。だが、ザ・ウィークエンド『マイ・ディアー・メランコリー、』に起用されたゲサフェルスタイン、フランク・オーシャン『ブロンド』でフックアップされたセバスチャンなど、数少ない例外もいる。そして、エレクトロのオリジネーターの一人であるボーイズ・ノイズことアレックス・リダも、現在のポップミュージックの潮流をしっかりとキャッチアップしつつ、同時に時代に流されない自身の表現を貫き続けているアーティストの筆頭格だ。

まずは簡単に振り返っておこう。ゼロ年代はインディロックとクラブミュージックのクロスオーバーが活気づいた時代でもあった。ジェームス・マーフィーとティム・ゴールドワーシー率いるニューヨークのDFA、エロル・アルカンが主催するロンドンのパーティ=トラッシュ、あるいはベルギーの2 Many DJs/ソウルワックスなどの活躍でバンド音楽とダンスフロアの垣根が取り払われ、ゼロ年代半ばにはロック的なダイナミズムを宿したダンス・ミュージックが躍進。やがてそのムーブメントではシンセベースにディストーションをかけた荒々しいサウンドがひとつのフォーミュラとなり、「エレクトロ」という呼称で世界に広まることとなった。そして、そのエレクトロサウンドのオリジネーターと呼ばれるのがフランスのジャスティスであり、このドイツ出身のボーイズ・ノイズだったのである。


Boys Noize - Volta 82(2005)




Boys Noize - Feel Good (TV = Off) [2006]




エレクトロの産業的発展形とも言えるEDMの躍進と前後して、エレクトロは勢いを失った。ボーイズ・ノイズも一時ほどの脚光を浴びなくなっていたが、実はここ数年のメインストリームにおける彼の急激な躍進ぶりは目覚ましいものがある。

その契機となったのは、やはり2019年にリリースされたエイサップ・ロッキー「Babushka Boi」だろう。この曲の共同ソングライター/プロデューサーとして抜擢されたボーイズ・ノイズは、そのダークで硬質なサウンドが現行のラップやポップミュージックとも相性がいいことを証明。この仕事でロッキーから気に入られたのか、彼からの紹介でフランク・オーシャン「DHL」の共同ソングライター/プロデューサーにも起用されている。


A$AP Rocky - Babushka Boi (2019)




Frank Ocean – DHL(2019)



他にもスクリレックスやタイ・ダラー・サイン、フランシス・アンド・ザ・ライツなどとのコラボ作があるが、現在までのボーイズ・ノイズ最大のヒットは、何と言ってもレディー・ガガとアリアナ・グランデによる大アンセム「Rain One Me」だ。この曲はメインプロデューサーのブラッドポップやバーンズによるフレンチハウス風のプロダクションが入る前に、ベースとなる曲をガガとボーイズ・ノイズが中心になって書いたのだという。


Lady Gaga, Ariana Grande - Rain On Me(2020)





ポップスターたちに発見された「ボーイズ・ノイズ」

2010年代以降の北米メインストリームにおいては、ジェイムス・ブレイクやカシミア・キャットやジャム・シティなど、アンダーグラウンドのクラブミュージックのプロデューサーが活躍する機会は少なくない。それは、彼らの作るサウンドが北米、あるいはマックス・マーティンに代表される北欧のポッププロデューサーたちとは明らかに違うタッチを持っていて、ポップソングにユニークなエッジを加えてくれるからだろう。ここ数年のボーイズ・ノイズの目覚ましい活躍は、彼の作風に何かしらの変化があったから始まったのではない。むしろ、世間の流行とは関係なく、常に高品質でオリジナルなトラックをプロデュースし続けてきた結果、「他とは違う何か」を常に探し求めている意識的なポップスターたちによって、遂にボーイズ・ノイズが発見されたと考えるのが正しいはずだ。

言ってみれば、今はボーイズ・ノイズ第二の全盛期。いや、成功の規模感からすれば、今こそが彼の最盛期だと言っていいのかもしれない。そして、そんな乗りに乗っているタイミングで送り出されるのが、約5年ぶりのニューアルバム『+/-』である。

このアルバムでもボーイズ・ノイズはいい意味で変わらない。激しく歪んだシンセサウンドと硬質で重たいドラムビート、そしてエレクトロ勢の中でも異彩を放っていたテクノのルーツを感じさせるサウンドメイキング。本作では初めてモジュラーシンセを大々的に導入し、よりサウンドの生々しさが増しているが、彼の持ち味であるダークでアグレッシヴ、かつピークタイム向けのアッパーなサウンドは不変だ。

具体的に見ていこう。ラッパーのリコ・ナスティを召喚した「Girl Crush」は、ボーイズ・ノイズ曰く「ヘヴィメタルのギターが入ったハードなトラップビート」。確かにBpm93から始まるところは現行のラップミュージックを意識しているのだろう(途中、Bpm155へと急展開する)。しかし、その騒々しくパンキッシュなサウンドはボーイズ・ノイズ以外の何者でもない。


Boys Noize - Girl Crush ft. Rico Nasty




シザー・シスターズのジェイク・シアーズが参加した「All I Want」は、bpm125のセクシーでエロティックなハウスチューン。盟友チリー・ゴンザレス、そしてソランジュやOPNからもラブコールを受けるケルシー・ルーを迎えた「Ride Or Die」はアルバムでも随一のメロウなポップソングだ。R&Bとハウスとドリームポップの間にあるどこか、そんな風に表現してもいい。


Boys Noize - "All I Want" feat. Jake Shears




Boys Noize & Kelsey Lu - "Ride Or Die" feat. Chilly Gonzales




そして、「Xpress Yourself」はダークなベースラインのアルペジオが特徴的な、Bpm130超えのEBM風のダンスチューン。ボン・イヴェールとザ・ナショナルのアーロン・デスナーガ主催するフェス、PEOPLEに参加したときに出会ったというコービンをフィーチャーした「IU」は、Bpm140に達するハードテクノである。「Nude」はトミー・キャッシュのメロウなヴォーカルで始まるが、途中からハードな4つ打ちのレイヴチューンへとギアチェンジ。この曲は「ソーシャルディスタンスの時代に屋外レイヴで裸で踊ること」への欲望が表現されているという。


Boys Noize - Xpress Yourself




Boys Noize - "IU" (feat. Corbin)




Boys Noize - "Nude" feat. Tommy Cash




『+/-』というアルバムタイトルには、「対極のものの間にあるテンションの探求」という意味が込められている。確かに本作はメロウさとアグレッシヴさ、しなやかさとハードさ、速さと遅さ(一曲の中で異なるBpm)という二元性のコントラストによって強いカタルシスを生み出している。

ただ、それでも一本筋の通ったボーイズ・ノイズらしさは誰もが強く感じ取るはずだ。つまり、どんなスタイルのサウンドに挑戦したとしても、その根底にはダークでアグレッシヴでパンキッシュなフィーリングが通底しているということ。そして、そのブレなさこそがボーイズ・ノイズが長年に渡ってアンダーグラウンドで信頼を獲得し続けている理由であり、ひいては現行の北米メインストリームから寵愛を受けることになった理由でもあるのだろう。


Photo by Shane McCauley

<INFORMATION>


『+/- (POLARITY)』
ボーイズ・ノイズ
発売中
 
01 「Close」
02 「Love & Validation」Boys Noize & Kelsey Lu
03 「Girl Crush feat. Rico Nasty」
04 「Greenpoint」
05 「Polarity feat. Ghost Culture」
06 「XYXY」
07 「Affection」Boys Noize & Abra
08 「All I Want feat. Jake Shears」
09 「Detune」
10 「IU feat. Corbin」
11 「Xpress Yourself」
12 「Sperm」
13 「Ride Or Die feat. Chilly Gonzales」Boys Noize & Kelsey Lu
14 「Nude feat. Tommy Cash」
15  「Act9 feat. Vinson」

配信リンク
https://Japan.lnk.to/bysnz_plrtyPu

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