米高校の武装職員が18歳女性に発砲、脳死状態に
Rolling Stone Japan / 2021年10月7日 17時45分
2021年10月1日、米カリフォルニア州ロングビーチにて。記者会見を終え、モナ・ロドリゲスさんの兄オスカルさんに肩を抱かれる母親のマヌエラ・サアグンさん。(Photo by Carolyn Cole/Los Angeles Times Los Angeles Times/Getty Images)
米カリフォルニア州ロングビーチのミリカン・ハイスクールの前で走り去る車に向かって発砲し、18歳のモナ・ロドリゲスさんを脳死にいたらしめた高校の安全管理者に対して、現地時間5日朝、モナさんの家族は記者会見を開き、刑事起訴を求めた。モナさんはミリカン・ハイスクールの生徒ではなく、生後5カ月の息子がいる。
【動画を見る】発砲の瞬間
9月27日、ロングビーチ空港からほど遠くない全校生徒3500人の高校付近の駐車場で事件は起こった。高校の安全管理者で51歳のエディ・F・ゴンザレス氏(ロングビーチ学区が確認済み)は現地で交通整理に当たっていた。ロングビーチ警察の話によると、ゴンザレス氏は午後3時を回ったころ、モナさんと身元不明の15歳女子が通りでもめているのを見たという。
ケンカが起きた後、モナさんは恋人が運転するグレーの車の助手席に飛び乗った。携帯電話の動画にはその後の惨劇が収められている。安全管理者が近づくと、車は急発進してその場を立ち去ろうとした。車は右に大きくハンドルを切り、安全管理者に寄せた。安全管理者は後ずさり、銃を抜いて立ち去る車に二度発砲した。動画には、銃声後の同乗者の叫び声も収められている。
ロングビーチ警察はモナさんが「上半身」を打たれたと話しているが、彼女の家族は頭部を撃たれたと言っている。校内安全管理者のゴンザレス氏は、ロングビーチ警察と地区検事局の捜査が終わるまで管理休職に置かれている。
ローリングストーン誌の取材でロドリゲス家の代理人をつとめるルイス・カスティーヨ弁護士は「発砲はまったくもって正当化できません。残忍極まりない。あれは犯罪です」と語り、安全管理者についてこう付け加えた。「彼は完全に大きな間違いを犯しました。彼女の脳を損傷したのみならず、一家全員を破滅させたのです」。6カ月の赤ん坊の母親だったロドリゲスさんは、臓器移植のため1週間人工蘇生器につながれていた。
5日夜、モナさんの家族は臓器移植が完了したとの声明を発表した。
「本日モナことマヌエラ・ロドリゲスは、心臓、肝臓、肺、2つの腎臓を提供し、5人の方々の命を救いました。ロングビーチ記念病院のモナがいた病棟の医師や看護師の皆さんは、モナが手術室に運ばれていく間、廊下に整列して英雄としてお見送りくださいました。その間、彼女が好きだったSkeezyの”Letter to my son”が流れ、手術中もずっと流れていました……モナの心臓は本日午後5時14分に心拍を停止しました。モナ、どうぞ安らかに――家族はずっと、あなたに代わって正義のために戦います!!」
安全管理者向けの武器使用規程
カスティーヨ弁護士は「この安全管理者を第2級殺人、または武器による過失致死および過失傷害で起訴すべきです」と語り、さらにこう付け加えた。「彼はモナさんからも、車からも、差し迫った危険は受けていませんでした。モナさんは助手席に座っていたのです。運転すらしていませんでした。銃も持っていませんでした。車内の誰も一切銃は所持していませんでした」。発砲は「適切な警察の手順を踏まなかった重大な過失」が原因だとカスティーヨ弁護士は強調。またそれとは別にカリフォルニア州司法長官に書簡を送り、州当局に「正当化できない武器の使用」に対する刑事訴追を求めた。
最近の求人広告によると、ロングビーチ総合学区が「明るく、生産的で、安全な校内環境を形成・推進する」校内安全管理者を募集している。また管理者には「諍いに介入し……事態の鎮静化を図ること」が求められる、とも書かれている。学区では年間100万ドル近い予算をかけて、10人の安全管理者をフルタイムで雇用している。学区の広報担当官を務めるクリス・エフティシオ氏はローリングストーン誌の取材に対し、校内安全管理者は「犯罪の捜査や逮捕は行いません。それは警察の仕事です」と語ったが、安全管理者が「法当局の捜査を受けている人物を拘束することはあります」と付け加えた。
安全管理者は学区の武器使用規程(後述に引用)の遵守が義務付けられている、とエフティシオ氏は何度も念を押した。この規程に基づけば、発砲したゴンザレス氏の判断には重大な疑問が沸いてくる。規程では、管理者が火器を使用できるのは「自己防衛」または「他者の安全を守って死や重傷を防ぐため」と定められている(広報担当官によれば、校内安全管理者は「万が一の校内乱射事件に対応するよう訓練を受けている」とのことだ)。
規程には、銃を使用するべきではない状況をはっきりと列挙している。
・管理者は、逃走する人物に向かって発砲してはならない
・管理者は、走り去る車両に向かって発砲してはならない
・管理者は、最終的な防衛手段として火器使用が正当であることが明らかな状況でない限り、車内に発砲してはならない
今回の発砲事件は治安専門家からも厳しい批判を受けている。ゴンザレス氏と接触を試みたが、失敗に終わった。学区は同氏の連絡先を提供しなかった。主に学校関係者の代表を務めるカリフォルニア州教員組合にコメント取材を要請するメッセージを残したが、返答はなかった。
武装職員の存在意義
エフティシオ氏の話では、ゴンザレス氏は1月に採用された。校内安全管理者は必ず火器研修も含む664時間の保安管理者標準研修(POST)講習を修了しなくてはならない。またゴンザレス氏は、ロングビーチ警察で最新の必須火器講習を受けていたと広報担当官は付け加えた。
6日夜、ロングビーチ教育委員会は全会一致でゴンザレス氏の解雇を決定。解雇決定の発表にあたり、ジル・ベイカー教育長はゴンザレス氏が「学区の規程に違反し、我々の期待に添わなかった」と述べ、さらにこう付け加えた。「この人物の解雇という決定は当然かつ正当化されるものであり、単刀直入に言えば正しいことだと我々は考えています」。正式な捜査が現在進行中であることをふまえ、教育委員会はゴンザレス氏が学区の武器使用規程に「違反」したとみなした。
公立学校における武装職員の存在は、長いこと争点になっていた。事実ロングビーチ総合学区は文字通り、校内の安全と風土対策として警察に依存しすぎる危険性の典型だった。非営利団体Children Defense Fundカリフォルニア支部と公益法律事務所Public Counselによる2016年の報告書は、学区が「防犯主体の校内文化戦略対策費の200倍以上も、警察に」予算を割いているとたしなめ、「圧倒的に黒人やラテン系の学生が校内で警察から接触を受けている」と強調した。モナさんの発砲事件に関する学区側の発表も、さながら警察のPRのようだ。ベイカー教育長は保護者に宛てた手紙の中で「ロングビーチ総合学区の校内安全管理者が勤務中に武器を使用した」と述べているし、報道声明の中でも「発砲に関わった警官」という警察にありがちな婉曲表現を多用している。
モナさんの遺族が求めているのは個人に対する責任追及だ。先の記者会見で兄のオスカル・ロドリゲスさんは、妹に対する正義を訴えた。「妹がこんな仕打ちを受けるべきではなかった。誰だってこんな仕打ちを受けるべきではありません」と言って、発砲した管理者についてこう語った。「僕が望むのは、相手に正義を味わわせてやることです」
【画像を見る】ニューヨーク市警「殺人課」に密着(写真ギャラリー)
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