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Park Hye Jinから辿る韓国シーン最前線 K-POP隆盛の裏で何が起こっている?

Rolling Stone Japan / 2021年10月8日 18時30分

Park Hye Jin(Photo by Dan Medhurst)

Park Hye Jin(パク・へジン、박혜진)のデビュー・アルバム『Before I Die』が話題となっている。韓国といえばK-POPだが、オルタナティブな音楽シーンも面白い。そのなかでも国際的な注目を集め、独自のポジションを築いてきた彼女の魅力とは? ソウルと東京を行き来するイベントオーガナイザーで、韓国インディーシーンに精通している内畑美里に解説してもらった。



韓国アンダーグラウンド・シーンの活況

世界中を虜にしているBTS。彼らは9月23日、国連総会で3度目のスピーチを行い、9月30日にはコールドプレイとのコラボ楽曲 「My Universe」を公開。コロナ禍においてもホットな話題を、常に我々リスナーに提供し続けてくれている。

2019年、BLACKPINKはアメリカのコーチェラ・フェスに、K-POPアーティストとして初出演を果たし、ラインナップ発表時は日本でも大きな話題となった。メンバーの LISAは9月13日にソロデビュー。「LALISA」のMVは公開初日、瞬く間に動画再生数1億回を突破。世界中から集まる期待と関心の高さが窺えた。ROSEも9月、アメリカ版VOGUE誌が主催するファッションの祭典 「メットガラ」に出席し、世界的トップスターとしての確かな存在感を示した。

アーティストとして、ファッションアイコンとして、社会への取り組みなども含め、多角的な魅力を持つK-POPアーティストの彼ら彼女たちは世界中から注目を集め続けている。世界が注目する韓国音楽シーン。イメージとしては先述したようなK-POPアーティスト、または韓国のメインストリームの一つの柱であるヒップホップ、R&Bなどが思い浮かぶ人が多いのではないだろうか。

では、アンダーグラウンドシーンはどうだろうか。韓国ソウルの繁華街、弘大(ホンデ)では90年代後半よりクラブ産業が一気に盛んとなり、今もその盛り上がりはエリアを拡大して健在。ここ数年は梨泰院(イテウォン)を中心にクラブシーンは成熟期を迎えていて、UKガラージや2ステップ、グライムなどとテクノやハウスをジャンルレスにミックスしたり、K-POP楽曲を取り入れてプレイするなど、DJスタイルは無限の広がりを見せている(コロナ禍の現在はクラブ営業をストップ、ストリーミングに移行している場所やポップアップなどで日中稼働している場所が多い)。

コロナ禍以前の2017年〜2019年辺りは韓国のトラックメイカー/DJの来日が活発で、双方のクラブシーンの交流が盛んだったのも記憶に新しい。ここ数年の来日公演やメディアの紹介を通じて、韓国のアーティストを知り始めた人も多いのではないだろうか。

2017年、渋谷WWW/WWW Xのニューイヤーパーティーで初来日を果たした、韓国のDJ/トラックメイカーYaeji(イェジ)。

韓国にルーツを持ち、現在はNY在住。2017年にリリースされた「Drink Im Sippin On」は、歌詞が韓国語と英語で構成されており、サビで繰り返し歌われる”그게 아니야”(クゲアニヤ/そうじゃない)のフラットな歌唱とダウンテンポなハウス・ミュージックでブレイク。その名は世界に広がり、ブレイク後の韓国凱旋ライブは入場規制がかかるほどの盛り上がりであった。同年のBoiler RoomでのDJセットではマイクを握り、自身のトラックを歌いながらヒップホップ、ブレイクビーツ、テクノなどバラエティに富んだミックスを披露。アーティストとして、DJとしてその類稀ないセンスを証明するものだった。



2018年に2度の来日をしている韓国のエレクトニック・アーティスト/シンガー、CIFIKA(シフィカ)。

エレクトロニック・サウンドをベースとし、今のソウルのアンダーグラウンド・シーンを象徴するような、エクスペリメンタルなエッセンスを散りばめた美しさ際立つモダンアートのような音楽を展開。彼女もまた、Yaejiと同じように韓国語と英語を歌詞に反映させている。韓国のラッパーCrushや、ロックバンドHyukoh(ヒョゴ)のオ・ヒョク、シンガーソングライターのシン・ヘギョンとコラボするなど、ジャンルを飛び越えた合作を積極的に行っているのも特徴的である。



他にも、「東洋の女性」としてのカウンター、誰もが否定できない一つのリプリゼンテーションを音楽で目指すLim Kim、伝統音楽の思想を現代音楽とリンクさせ、再構築した音楽を展開しているHAEPAARY、元々はレゲエ/ダブのバンドとして活動、現在は韓国・チェジュ島で生活しながら日常で感じる音をフィールド・レコーディング〜アンビエントに落とし込んだ作品を作っているBeck Junghyun、ニュージーランドと韓国にルーツを持ち、家庭環境や恋人の話、言語の壁から感じた孤独や疎外感を歌うFlash Flood Darlingsなど。彼ら彼女たちは共に様々な場所にルーツを持ち、何か一つのスタイルに収まるのではなく自分自身が生きた文化、言語、環境が音楽そのものとして存在しており、その凛とした独創性が魅力的だ。






Park Hye Jinという新しい才能

ネクストブレイクとして名高いPark Hye Jinも同様だ。実はまだまだ韓国国内では知名度の低い彼女だが、海外ではここ数年で大きな注目を集めている。

Park Hye Jinは1994年、韓国ソウル生まれ。2015年頃よりラッパーとして活動をスタート。2017年頃からプロダクションやサウンドメイキングを学び、2018年に梨泰院にあるクラブ「PISTIL」で1年半ほどレジデントDJを務め、DJとしてのキャリアもスタート。様々な経験のもと、現在のラッパー/シンガー/DJ/プロデューサーという肩書きになった。

そしてあるとき、「もうソウルで出来ることは全てやり尽くした」と悟ったPark Hye Jinは、単身メルボルンへ移住。ロンドンでの生活を経て、現在はLAを拠点に活動している。


左から『If U Want It』『How can I』ジャケット

オーストラリア・メルボルンの音楽レーベルclipp.artより発表したEP『If U Want It』(2018年)は海外メディアで高い評価を受け、12インチのヴァイナルは瞬く間に完売。そのフレッシュな音像は瞬く間にリスナーを虜にした。その2年後、2作目のEP『How can I』がイギリスの音楽レーベルNinja Tuneよりリリースされたことに驚いた人も少なくなかっただろう。彼女の作品はヨーロッパを中心に「ヒップな新人アーティスト」として浸透。クラブカルチャーの有力メディアであるMixmagは「2020年、最もブレイクしたアーティストの一人」と評し、Pitchfork、I-D、Hypebeastなど、インディーロック寄りのメディアやカルチャー誌でも先鋭的アーティストとしてピックアップされた。

そのように勢いが加速していくなか、満を持してリリースされたのがデビューアルバム『Before I Die』である。

Park Hye Jinの音楽的特徴、内省的な歌詞世界

彼女の音楽の特性は、インディーロックやヒップホップ、歌謡曲など様々な音楽を吸収した中で構築されるミニマルなエレクトロニック・ミュージックに加え、心地よくリズムとしてハマるシンプルな韓国語の、その内省的な歌詞にあるのではないだろうか。

1st EP収録のタイトル曲「If U Want It」では、立ち止まっている自分に、もう一人の自分が問いかけている様を綴っている。

난 아무것도 몰라(私は何も知らない)
내 메모장은 하나도 쓸모없어(私のメモ帳は一つも役に立たない)
내 생각과 내 말투를 그대로 곱씹어봐!(私の考えと話し方をしっかり考えろ!)
혜진아! 어서 여기 앉아 너, 뭘 하고있는거야(へジン!そこに座って。あんた、何をしてんの)
어서 책상 집어 치워 밖으로나가(とっとと机の荷物片して)
만세삼창이라도 한번 외쳐봐 그래!(万歳三唱の一つでも叫んでみたい)
지나가는 하나둘 다 나 쳐다보잖아(通りすがりの一人や二人、私のこと見るんじゃない)
이거야 이거야 이거야 이거야(これだ、これだ、これだ、これだ)



同EPの「I DONT CARE」は、自分を鼓舞するような歌詞になっている。

난 상관없어(私は気にしない)
너가 뭐라고 하던 난 그냥 할거야(あんたが何と言おうと、ただするだけ)
내가하고자 하는거 그냥 할거야(私がやろうと思ったこと、ただやるだけ)
내가 하고싶으니까 그냥 계속할거야(私がやりたいから、ただずっとやるだけ)
내삶속에서 무엇이든 바랄 수 있어(自分の人生のなかで、なんだって望める)
난 나를 믿어 난 나를 믿어(私は私を信じる)

나(私)に対してもう一人の自分を너(君)とし、너(君)を通して自分自身に言いたい事を書いていたというPark Hye Jin。歌詞の対象は常に自分に向かっており、生きていく中での孤独や葛藤、時には恋愛で蠢く心情などが書かれている。



ミニマルなビートに乗せて、言葉として伝えるというよりは心地よいリズムとして、シンプルで飾らない歌詞が書かれていた過去のEP2作品に対し、よりポップなサウンドを鳴らす今作『Before I Die』では、歌詞は確かな意志を持ち、自分自身に伝えたい、そして誰かにシェアしたいメッセージとして存在している。

故郷を離れての生活や、家族との別れ、セックス、音楽業界、そして子供の頃のノスタルジーなど、彼女が海外で体感し想い巡らせた言葉は、空気や体温、匂いを感じるリアルさがある。

이렇게 날 좋은 날엔 너와 함께 노랠 불러(こんなに気分がいい日には、君と一緒に歌を歌う)
이렇게 날 좋은 날에 너와 함께 춤을 춰(こんなに気分がいい日には、君と一緒にダンスをする)
Lets sing, lets dance(さあ歌おう、共に踊ろう)
(『Before I Die』収録曲「Lets Sing Lets Dance」より)



2019年時点で「ビートを先に作ってから歌詞を書くので、ビートが単調なものだとどうしても歌詞も引っ張られてシンプルになった。頭の中の考えをより自由に表現することが今後の課題です」と答えていた彼女。ドリーミーなR&B、ローファイ、ミニマル・ハウスなど、誇張し過ぎない多彩なサウンドと自叙伝的なリリックで構成された今作は、掲げてきた課題に向き合い、表現者として成長したことが見て取れるだろう。

韓国ミレニアル世代が歌う孤独と共感

こういった、日常のなかで感じる漠然とした不安や寂しさ、誰かに押し付けるわけではなく 「自分はこうなんだ」とスタンスを表明するリリックは、韓国ミレニアル世代のアーティストの特徴ではないかと思う。

例えばYaeji。先述した「Drink Im Sippin On」でフックとなっているリリック「그게 아니야(そうじゃない)」。ここには他の人が自分を誤解していても、私は私をわかっているから関係ないというメッセージが掲げられているという。



バンドではHyukohが2014年にリリースした「wi ing wi ing」が大ヒット。広く受け入れられたのは、人間関係、寂しさ、虚しさなどが綴られた歌詞に、どこかで自分を重ねてしまうような共感性の高さがあったからだ。

위잉위잉 하루살이도(wi ing wi ing カゲロウも)
처량한 나를 비웃듯이 멀리 날아가죠(わびしい僕を嘲笑うかのように遠くへ飛んでゆく)
비잉비잉 돌아가는(ぐるぐる回る)
세상도 나를 비웃듯이 계속 꿈틀대죠(世界も僕を嘲笑うかのように止まることなく蠢いている)



Park Hye Jinの歌詞も同様に、誰かに対して言葉にできなかった感情を共有しているような、代弁者であり身近な存在のようなリリックが、心地よく耳に入ってくる。

彼女がインタビューで語っていた「アジア、韓国から来た女性ではなく、私はただ私です。 Park Hye Jinなんです」という言葉。ミレニアル世代が発信する「孤独」や「寂しさ」「アイデンティティ」 は韓国国内だけでなく、世界中のユース世代が求めているものであり、Park Hye Jinはこれからカルチャー・アイコンとして、ますます飛躍していくのではないだろうか。

このあと12月には、振替公演となる初来日も控えている彼女。今年9月25日に配信されたBoiler Roomの動画では、『Before I Die』の楽曲を織り交ぜたライブパフォーマンスに加え、アシッドで骨太なテクノを展開。アルバムの作風とはまた違う、彼女のクラブへ求める音が詰まった最高のパフォーマンスであった。フレッシュで素晴らしい才能の、今後の活躍に期待したい。





Park Hye Jin
『Before I Die』
発売中
国内盤CD:ボーナストラック2曲収録、歌詞対訳・解説付き
詳細: https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11964
配信・購入: https://fanlink.to/parkhyejinbeforeidie


박혜진 Park Hye Jin -JAPAN TOUR-
2021年12月3日(金)東京・渋谷 Contact Tokyo
2021年12月4日(土)大阪・住之江 BLACK CHAMBER
詳細: https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11564

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