ロン・ウッドが語るストーンズからの学び、人生の秘訣、がんの恐怖に打ち勝った理由
Rolling Stone Japan / 2021年10月13日 18時40分
現在はローリング・ストーンズの一員としてツアーを回っているロン・ウッド。ジミー・リードに捧げた最新ソロ・アルバムも発表したばかりの彼が、人生の秘訣と演奏する喜び、ストーンズやフェイセズから学んだことを大いに語る。
新型コロナによるロックダウン中の忙しさについて質問すると、ロン・ウッドは予期せぬ活動中止をそれほど気にしていないようなトーンだ。「1マイル離れたイギリスの田舎で過ごした。そこには自宅スタジオもあるよ。森の中を散策したり、アート作品の制作にかなり時間を費やしたね。この時間を一番有意義な方法で過ごしたよ」と、ローリング・ストーンズのギタリストであり、画家でもあるロンは答えた。
この活動停止中に小細胞がんとの闘いに勝つための時間もあったとは言え、74歳のロンは絵の制作と、いつくかの音源でのギター演奏の時間も作った。一つはストーンズのリイシュー版『Tattoo You』で、もう一つはリリース日未定のフェイセズの新作。「ロックダウン中に1カ月かそこらの間、完璧に記憶の彼方に行ってしまっていた曲や、後回しになっていた曲をもう一度プレイするってのは冒険みたいだった」と、Zoom越しのロンが答えた。このインタビューが行われたのはチャーリー・ワッツが他界する1カ月前のことだ。「俺は思ったよ、『ああ、これをやるなら今だな。全部、時間なんて関係ない曲ばかりだから』ってね」と、彼は続けた。
また、9月17日リリースの新しいソロ・アルバム『Mr. Lack – A Tribute to Jimmy Reed: Live at the Royal Albert Hall』の準備中に、他のミュージシャンの不朽の音楽をじっくり検証する時間もあったと言う。このアルバムは2013年に行ったコンサートの模様が収録されていて、70年代半ばまでストーンズを支えた、ギタリストのミック・テイラーも一緒に演奏している。さらにゲスト参加しているのはポール・ウェラー、シンプリー・レッドのミック・ハックネル、ボビー・ウーマック。ちなみにウーマックは翌2014年に他界している。「あのコンサートは彼の最期のライブの一つで、大切で、愛おしいよ」とロン。
ロンはここで、ジミー・リードに敬意を表したかった。それと言うのも、世間がこの偉大なブルースマンを見落としていると感じるから。リードは60年代にクラシック曲「Baby, What You Want Me to Do」「Big Boss Man」「Bright Light, Big City」などを作った。「みんな、マディ・ウォーターズやハウリン・ウルフ、バディ・ガイのことは話題に出すけど、ジミーが作った曲はシンプルだった。ブルース初心者が聞くと、ちょっとレゲエ風に聞こえる。理由は『全曲とも同じビートに聞こえる』せいだ。構成も似ている。でも、全曲ともそれぞれに独自の個性が光るんだよ」とロンが説明する。
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もちろん、ロンはそういうことに詳しい。60年代の彼は、フェイセズやストーンズと関わる以前から、熱狂的なブルースファンだった。ジェフ・ベック・グループではベースを弾き、後にボ・ディドリーとギグを行い、BBキングともセッションを行っている。そして、ブルースの域を超えて、ロンはジョージ・ハリスン、ボブ・ディラン、アレサ・フランクリンともレコーディングを行った。さらに、ビジュアル・アーティストとしても成功し、ストーンズのメンバーやセットリストの絵をよく公開している。今回、ローリングストーン誌の企画「The Last Word」で、これまでの生涯で得た人生訓や、著名人である友人たちと仲良くする秘訣などを語ってくれた。
ジミー・リードへの敬意、ミック・テイラーとの関係
―あなたにとって成功とは?
ロン:大勢の人を満足させること。彼らの表情を見たときに、俺たちのライブを観て感じている喜びを見ること。
―ステージ上のあなたは常にリラックスしていて、とても幸せそうです。人生を楽しむ秘訣は何ですか?
ロン:ほら、「何かで成功したいと思うなら、自分が楽しめるものを選べ」と言うだろう? 俺が満面の笑みを浮かべる理由は、ギターを弾いたり、新しいことを学んだりするのが大好きだからさ。
―最新ソロ作『Mr. Luck』はジミー・リードへのトリビュートで、中には1世紀前の曲もあります。そういう音楽とあなたの接点は何ですか?
ロン:ソウルフルな音楽には共通するものがある。いわゆるソウル・ミュージックだろうが、そうじゃなかろうがね。オリジナルのレコードを聞くとワクワクするし、自分が演奏したカバー・バージョンを聞くとかなり誇らしい気分になる。『これはライブ音源だし、エッジの部分はラフだけど、逆に俺らしいな』と思うんだ。それに、このライブを聞くとフェイセズのことを思い出す。あの頃の俺たちがライブで演奏すると、エッジのあたりがかなりラフだったし、俺たち全員ジミー・リードが大好きだった。
―あなたはミック・テイラーの後任としてストーンズに加入したわけですが、そのテイラーがこの時のライブでは全曲一緒にプレイしています。過去の経緯が原因で気まずくならない秘訣はなんですか?
ロン:これまでだって気まずいことなど一度もなかったよ。彼はいつも俺に優しくしてくれるし、俺もそうしている。思わしくない状況下でも、俺たちはウマが合ったんのさ。
俺たちが知り合ったのは遠い昔で、60年代まで遡る。彼がゴッズ(the Gods)、俺がザ・バーズ(The Birds)にいた頃で、当時の彼には自信がなかった。よく「もう続けられない。緊張しすぎてダメだ。ロニー、俺の代わりにやってくれないか?」って俺に頼んできた。だから、代わりに彼のセットをやって、その後で自分のセットもやっていたよ。でもね、こう思ったんだ、「俺はヤツをギグから追い出していないか?」って。彼は自分がどれだけ上手いかってことに気付いていなかったんだ。それに今では、彼が自分の頭の中で物事を理解するよりもずっと上手にギターで表現できている。彼のギターの表現力は唯一無二だ。今回のジミー・リードのトリビュート・アルバムでは、俺が聞いた中でベストと思えるプレイを披露しているよ。
がんとの闘い、人生の秘訣
―昨年はがんの恐怖に打ち勝ちました。前を向き続けられた理由は何ですか?
ロン:2017年に最初の勝負があった。これは肺がんで、無事に治すことができた。その次が2019年で、今度は小細胞がんになった。これは肺がんよりも厄介で、相当ずる賢いがんだった。おかげで化学療法と放射線治療を受けたんだけど、これが新型コロナのロックダウンのおかげで誰にも気づかれなかったんだよ。公に知られることなく、プライベートでゆっくり治療できたというわけだ。
多くの人が「教えてくれなかったね。教えてくれたら手伝っていたのに」と言うけど、俺は「誰にも迷惑をかけたくなかった。自分だけで処理して、自分ひとりで完治したかったのさ」と答えている。それに(妻の)サリーも本当によく尽くしてくれた。素晴らしかったよ。がんが全部消えたんだけど、それが大きなニュースになっている。世間がロックダウンから開放されたことだし、俺も本当のことを言わないとな。徐々にスタミナが戻ってきているから、近いうちにツアーに出られるようになるよ。
―生きる上で必ず守っている重要なルールは何ですか?
ロン:ゆっくり暮らそうだな。俺が愛してやまない治療プログラムが「ナルコティクス・アノニマス」と「アルコホーリクス・アノニマス」で、俺はこのプログラムのおかげで過去12年間救われてきた。一つの段階に1年かけたよ。第3段階に到達した時、俺は自分の意思と人生を俺以外の崇高なる力に預けた。抱えていた問題もすべて預けた。すると、そういった問題が、今後すべて解決され、何もかもが上手くいくと実感できて、心の底から安心するようになったんだ。
Illustration by Mark Summers for Rolling Stone
―依存症で苦しんでいる人たちにアドバイスをするとしたら?
ロン:今でも過去でも、自分が犯している、または犯した間違いを、恐れないで認めてほしい。少し前に、ウィリアム王子とキャサリン妃が支援している慈善活動が行ったある集会で話をしたんだ。壇上で話を始めたとき、俺は「こんにちは、俺はロニー。自分は依存者だ」と言った。スピーチを終えた後、みんなが「いやー、自分が依存者とみんなの前で言えるなんて本当に勇敢だ」と言うんだよ。だから「そんなことはない。これは普通のことだよ。何かに依存しやすい気質なら、それを口に出して言うことが重要なんだ」と返事した。みんな、本当の自分をさらけ出したり、したいことを言ったり、助けを求めたりするのを恐れちゃいけない。ここ数カ月間、俺は闘うべきものすべてと闘いながら、たくさんの人たちに助けを求めた。おかげで今は本当に良くなった。人は助けてくれるものなんだよ。
「今は最高に楽しい」と語る理由
―今でも心を動かされる音楽は何ですか?
ロン:(ロシア人チェリストのムスティスラフ・)ロストロポーヴィチが弾くモーツァルトだ。チャック・ベリーが「俺たちがやっていることは既にモーツァルトがやっている」と言っただろ。これはある意味で素晴らしい真言だ。なぜなら、いつだって(自分にとって新しいものを)見つけるのが大好きだからさ。
―リラックスする時に何をしますか?
ロン:大忙しの状態を維持する(笑)。絵を描くかギターを弾くよ。幼い子どもたちと遊ぶのも大好きだね。瞑想するといろんな効果があるし、読書、演奏、絵を描くことで気が休まるから、そういうことをするよ。太陽が輝く島に滞在していても、絵を描くし、ギターも弾くね。
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―ギターからは得られないけど、絵を描くことから得られることは何ですか?
ロン:俺の絵は表現主義だ。表現派の画家がお気に入りだし、ギターを介した表現も大好きだ。絵画という媒体は、俺にとっては一つのものに集中する習慣を維持するのに非常に役立っている。瞑想と似ていて、絵を描くときには独特のモードになって、それが何週間も、何カ月も続くんだ。それが終わると音楽モードになるんだけど、これは「おかえりおなさい」って感じだ。
あと、今は最高に楽しい。『Tattoo You』の再リリースのために、未発表のかなり古い曲をやっているだろう。ミックとの作業が終われば、その足でロッドと一緒にフェイセズで、これまた同じ時期にやっていた未発表曲をやったわけだ。60年代終わりから70年代初頭のね。両方のバンドで時空を超えた宝石をいくつか見つけたし、この曲たちは今後数カ月後か、数年後にはリリースされて、俺たちが楽しんだのとまさしく同じ感覚で、みんなにも楽しんでもらえると思うね。
ロッド・スチュワートやミック・ジャガーから学んだこと
―あなたもキース・リチャーズも、あなたのギターのインタープレイを「ウィーヴィング」(weaving)と形容します。そんなふうに聞こえるように弾く秘訣は何ですか?
ロン:ギブ・アンド・テイクさ。スペースを残すのが不文律で、もう一方がその空間に音を入れるとか、ギターの音で片方の質問に答えるだけなんだ。
―キースにスペースを与えるタイミングはどうやって決めるのですか?
ロン:そうだな。キースにスペースを与えなかったら、彼のギターが俺の頭に乗っかると思う(笑)。
―新作ではバンドのフロントマンですが、フロントマンとして、ロッド・スチュワートやミック・ジャガーから学んだことは何ですか?
ロン:彼らは嘘偽りのないサポートが大好きなんだ。「なあ、お前、今日は最高だったぜ」と言われるのが好きなんだよ。だって、それが彼らの仕事なんだから。ジャガーは「ミック・ジャガー」を、ロッドは「ロッド・スチュワート」をみんなに見せているけど、心の中では自分がちゃんとやっているってことを確認したいわけだ。だって、彼らにとって、自分たちの仕事の価値は本当に大きいから。彼らにとって最優先なのは観客を喜ばすことであり、最善を尽くすこと。ライブでも、アルバムでも、音楽でも、ベストを与えることなんだ。
―フェイセズのヒット曲「Ooh La La」のサビに”若い頃に今の俺が知っていることを知っていたかった”という一節があります。あなたが若い頃に知っていたかったことは何ですか?
ロン:プロモーターが俺を食い物にするってことを知っていたかったな。それこそ「なんてこった。あいつら、スーパーマーケットとか、レストランチェーンとかを始めたのに、俺の手元にゃ週給50ポンドしかない」って感じ。いや、ほんと、「今知っていることをあの頃知っていたかった」系のことだよ、これは。面白いよな。人それぞれ、自分なりの人生があるってことだ。
From Rolling Stone US.
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