BIGYUKIが語る、ブラックミュージックの最前線で戦う日本人としての経験と葛藤
Rolling Stone Japan / 2021年10月18日 18時0分
NY在住のキーボード奏者、BIGYUKIがニューアルバム『Neon Chapter』をリリース。ア・トライブ・コールド・クエスト、J・コール、ロバート・グラスパー、カマシ・ワシントンなどと共演し、ブラックミュージックの最前線で活躍してきた鬼才の新境地とは。そして、日本人でありながら単身アメリカに飛び込み、アフリカン・アメリカンのコミュニティと音楽を奏でてきた彼は、自分の「異物感」とどう向き合ってきたのか。
【画像を見る】BIGYUKI、2021年10月のライブ写真(全12点)
―今回のアルバムは、昨年のEP『2099』とはずいぶん違った感じの作品になりましたね。
BIGYUKI:実を言うと、『2099』はアルバム用に作った音源から何曲か選んでリリースしたものだったんです。『Neon Chapter』もその一部なんですけど、その中でも音楽的に振れてる曲を今回は選びました。だから雰囲気は違いますよね。バラードが入ってないんですけど、その代わりにエリック・ハーランドと中村恭士とのピアノトリオ的な曲「Theia」を置いています。あの曲は俺の中でバラードですね。
―音楽的なコンセプトを教えてください。
BIGYUKI:今までアルバムを出した時にもよく言われたし、自覚もしていたんですけど、アルバムのバージョンとライブのバージョンが全然違うんですよね。BIGYUKIはアルバムは小綺麗にまとまっているけど、ライブではすごく肉体的なものになる。ライブを観てからアルバムを聴くと、ちょっと物足りなく感じると言われたこともあります。だから、今回はアルバムにもライブのエネルギーを入れたかったんです。どうしたら内包できるのかずっと考えていました。今回はそれが実現できた気がしますね。
―その「ライブ感」と繋がるのかはわからないけど、ピアノをかなり弾いてるのはこれまでとの大きな違いですよね。
BIGYUKI:以前、日本でピアノ・ソロのライブをやったんです。
―今年3月にCOTTON CLUBとGinza Sony Parkでやってましたよね。今まではやってなかったから、意外だなと思ってました。
BIGYUKI:これまではピアノに対して少しビビってたところがあるけど、ライブをやったり、そのためにトレーニングしていたら、俺はやっぱりピアノが好きだし、ピアノを自分の表現方法のひとつとして確立させたい気持ちも出てきた。俺のアルバムにはプロダクションがヘヴィな曲もあるので、聴いた人は俺が何やってるかわからないと思うんですよ。その点と点を繋ぐヒントがピアノなんじゃないかなと考えるようになったんです。俺がピアノを弾いて自由に世界を作っていくと、この人はこういう風に弾いてて、頭の中にこういうものがあって、それがピアノじゃなかったら、ああいう(プロダクションの)音楽になるのかな、みたいに連想しやすくなると思って。
2021年3月に池袋・STUDIO Dedeで収録された「Portrait Of An Angel」(ロバート・グラスパーのカバー)のソロ・ピアノ・パフォーマンス映像
―改めて、自分のピアニストとしての個性はどんなところにあると思いますか?
BIGYUKI:リズムやコードの積み方に関しては独特なものがあると思います。一方で、フレージングに関してはボキャブラリーが限られている。その中でどう組み立てて、一つの流れとして成立させることができるかを考えながら演奏していますね。昔、クラシックをやっていた時から、演奏していると、外の世界から分かれていく感じでその音楽の中に没入していくことがあるんだけど、もっと上手くなったら、その没入していく自分を冷静に見るような視点もできると思ってる。
今はボキャブラリーを増やしたいのと、ピアノ自体のコントロールをもっと上手くなりたいですね。小さい音を弾いたときにすごく鳴るピアニストがいるんですけど、俺もそういう風に表現したいんですよ。今は音量の小さいところで弾く表現の浅さをコンプロマイズ(妥協)するために、ガシガシ音量を上げようと弾いたりするところがあるから。抑制された中での表現の幅をもっと広げられたらと思ってます。
2021年10月7日、ビルボードライブ大阪にて
―フレーズではなくてリズムとハーモニーが特徴ということですけど、それが作用しているのか、ピアノを弾いてもいい意味でジャズにはならないのがBIGYUKIの面白さだなと思うんですよね。それにアルバムに関しては、ピアノ以外の部分はシンセが多いし、左手はベースラインを弾いてるし、サウンドもアトモスフィックだけど、ピアノを弾いてる曲と並んでも違和感がないのは、リズムとかハーモニーに特化した独特の演奏をしているからかもしれませんね。
BIGYUKI:そこは自分の強みでも弱みでもあると思うけど、異物感ですよね。ファンクション・プレイになり切れなくて、カマシ・ワシントンと演奏していても、誰と演奏していても自分の中の変な部分が出てしまう。だから、それを面白がってくれる人と俺はやっていくんだろうなと。俺は何を頼まれてもソツなくこなすオールラウンドなセッション・プレイヤーではないですから。今は自分の変なところを尖らせていきたいと思っています。音楽をやるにはファウンデーション(基礎)がありますよね。ヘタウマだと表現できる限界がある気もするし、楽器のコントロールに関しては自分で練習して、いけるできるところまでいきたい。そのうえで、自分の異物感としての部分を研ぎ澄ませていきたいですね。もちろんセンスも良いままで。
「ベース」というアイデンティティとの向き合い方
―それまでなかなか一緒にやることのなかった、中村恭士やエリック・ハーランドというストレートアヘッドなジャズの世界最高峰とトリオをやるのは刺激的だったのでは?
BIGYUKI:怖いですよね。普段は仲良く遊んでるけど、やっぱこいつらかっこいいなってなりますよね。恭士のベースはすごいから。俺の演奏をものすごく聴いてるし、俺が弾くフレージングを全部補完してる。俺がそのフレージングをどこに落とし込みたいか、どうやって次の段階に行きたいかを彼は全部わかってる。ジャズ・ミュージシャンって反応速度と演奏の選択の精度がほんとにヤバいなと思います。その中でも恭士はヤバヤバですね。それにエリックのリズムも音楽の膨らませ方もすごいから。素直に自分の友達はすごいなって思いましたね。
―でも一方で、そういう「ジャズ・ミュージシャンのヤバさ」を広くプレゼンするのが難しいという側面もあると思うんですよね。それをこういう形でパッケージングして届けているのも、今回のアルバムの面白いところだと思います。
BIGYUKI:そこもビビらなくなってきた部分はあるのかもしれない。自分の音楽を確立できているから、周りの友達がやってる、自分では演奏できないような音楽を素直にかっこいいと受け止められるようになったというか。俺なりにその要素を(自分の作品に)持ってきたいと思うようにもなりましたし。
View this post on Instagram (@bigyuki)がシェアした投稿 左から中村恭士、BIGYUKI、エリック・ハーランド
―3曲目「Tired N Wired」には羽鳥美保さん(元チボ・マット)と共に、ゴースト・ノート(スナーキー・パピーのロバート”スパット”シーライトとネイト・ワースが率いるバンド)のサックス奏者、ジョナサン・モーンズが参加しています。彼を起用したのも「ライブ感」をアルバムに取り入れるためなのかなと思いました。
BIGYUKI:彼はBlaque Dynamiteことマイク・ミッチェル(10曲目「Storm」に参加)と同じテキサスの仲間で、モノネオンと一緒にセントラルパークのサマーステージで演奏するためにNYに来ていたから、こうやって参加してもらうことができました。モノネオンも「ベースがほしかったら連絡ちょうだい」って言ってくれたから迷ったけど、今回は違うかなと思って頼まなかった。
今まではベースを弾くことに自分のアイデンティティを見出していたんだけど、別に弾かなくてもいいかなと思うようになったのはある。もし入れるんだったら、俺よりもヤバいベーシストを入れたい。普段、マーク・ジュリアナやマイク・ミッチェル、エリック・ハーランドみたいな凄いドラマーを入れたいと思うのと同じように、ベーシストを入れるとしたら恭士やモノネオンのような、確固たる演奏技術の上に強烈なオリジナリティを持った連中とやりたいですね。
モノネオンとゴースト・ノートのパフォーマンス映像
―ミュージシャンとして少し余裕ができてきたのかもしれませんね。以前は「俺はベーシスト、ベースは俺が弾く」って感じでしたけど。
BIGYUKI:確かに。自分のアイデンティティをシンセベースとそのグルーヴに見出していたから。でも、キーボーディストというよりもミュージシャンとして総合的に見た時に、そういうのもアリだと思えるようになりました。俺の視点がもっと上の方にいったんだと思います。
―これまでBIGYUKIの作品にベーシストって入ってないですよね。
BIGYUKI:一回も入ってないですね。
―中村恭士が入っているのは、とても大きな変化なんですね。
BIGYUKI:ライブではどうしようって感じですけどね。これからのやり方に関しては考えていて。Abletonを使って、そこに何らかのスポンティニアス性を維持するやり方を見つけられたら、フルバンドでやらなくてもいいんじゃないかって、パンデミックをきっかけに思い始めました。ソロピアノでライブをやったことで、そこには責任やリスクもあるんだけど、意外とひとりでもできるかもって考えるようになったのもあります。
「アルバムは投資」共演陣について
―話が前後しましたが、前述のジョナサン・モーンズを起用した理由を聞かせてください。
BIGYUKI:瞬発力ですね。ここは瞬発力が欲しかったから。フレージングだけじゃなくて、変な音を出してほしいと頼みました。彼はテキサスのメーカーが作ってるサックス用のペダルを持っていて、EWIではないサックス型シンセみたいな音が出せる。彼が録ったテイクから削っていって必要な部分だけ残したんですけど、ちゃんとしたフレージングは要らないって感じで、本能がほとばしっている音だけが入ってます。この曲の短い時間の中でどれだけ存在感を出せるかという意味で、彼の演奏は完璧ですよね。
―エリック・ハーランドの他にも、マーク・ジュリアナ、Blaque Dynamiteも参加していて、それぞれが全く異なるキャラクターで叩いてるのが最高ですね。
BIGYUKI:特に「Storm」はそれが欲しかった曲。Blaque Dynamiteにはとりあえず「クレイジーに叩いて」と言いました。
BIGYUKIとBlaque Dynamiteの共演ライブ映像
―9曲目の「Duck Sauce」はものすごくマーク・ジュリアナ的な演奏ですね。
BIGYUKI:ブレイクビーツ的な緻密さがいいですよね。最初にマークが送ってくれたドラムはかなりリヴァーブがかかってて音像が大きかったけど、マークが昔やってたHeerntというユニットの、変なところですごくドライな音が鳴ってる感じのサウンドがほしいと頼んだんですよ。NYの地下室でジャムってる感じの緻密なブレイクビーツですね。この曲はシンプルだからライブでやったらもっと進化していく可能性があって、楽しみですよね。
―羽鳥美保さんやアート・リンゼイも参加していますが、今まであまり付き合いがないコミュニティなのかなと思ったんですけど。
BIGYUKI:俺はあまり共演の機会はなかったけど、そこを繋げられるのが(共同プロデューサーの)ポール・ウィルソンなんですよ。美保さんは一緒にライブをやったり、彼女のアルバム『Between Isekai and Slice of Life』(2021年)でも弾いています。
8曲目の「LTWRK」はポールの才能がいかんなく発揮されてますよね。リズムのレイヤーもすごいし、そこにダンスミュージックへの理解度も出ている。ここではフットワークをやってるんだけど、リズムをひとつずつ外して、ステムごとに聴くとびっくりなんですよ。「こんなことになってるの⁉︎ これってドラマーは叩けるの?」みたいな感じで、彼のプロダクションはアートですね。
―フットワークをやろうというのは誰のアイデアなんですか?
BIGYUKI:俺がフットワークの曲が作りたいってポールに頼みました。今、自分の中でフットワークがかっこいいと思っていて。フットワークには音楽的にアヴァンギャルドになりうる自由度がある。フットワークを好きなやつはNYにもいて、DJも多いんですよね。
あと、ポールはミックスもやってくれている。ポールは俺の音楽を最も理解してくれてるし、音楽的な解像度も高いから、お互いのイメージを共有するのにも時間がかからないのもいいんですよ。
そして出来上がった曲を、ケンドリック・ラマーやアール・スウェットシャツにも携わってきたマイク・ボッツィがマスタリングしてくれました。マイクはかなり音を上げるんだけど、それでいてうるさくない音を作ってくれる。彼は他にもカッサ・オーバーオールの『I THINK IM GOOD』など、ポールが関わってるジャズ周辺の仕事をマスタリングしている。でも、ラジオヒットにも関わっていて、グラミーも獲ってる。彼独自のカラーもあるし、何をやっても今の音になる。
彼のことはカッサが紹介してくれて、マスタリングの金額を聞いたら予定していた額を超えていたけど、カッサは「アルバムは投資だと思っているから、マスタリングにはこのくらいの価値があると思って普通に払った」と言ってたから、俺も納得してすぐに決めたんですよね。
BIGYUKIが演奏で参加した、カッサ・オーバーオール「I Know You See Me」
―今回のプロダクションで特にこだわったところは?
BIGYUKI:「OH」はかなりの部分を自分で作ってます。最後のブラッシュアップはポールだけど、ドラムも自分でサンプルを見つけてきて、自分で(ビートを)組んでいる。ロックダウンになってから最初に作った曲で、時期としてはCHAIに曲を提供していた頃。あの頃は練習のつもりでどんどん曲を作っていて、CHAIに書いた曲もそういうアイデアからできた曲のひとつでしたね。
BIGYUKIがプロデュースした、CHAI「チョコチップかもね」
ブラックミュージックの最前線で思うこと
―ところで、『2099』をリリースした2020年の12月とは状況がかなり変わりましたよね。あの頃はアメリカでのコロナの状況もひどかったし、BLMのデモも大きい時期でした。
BIGYUKI:その後でアジアンヘイトみたいなことも大きくなったりしましたよね。
―アメリカでは大統領選挙もあったし混乱も続いていたけど、その後はトランプも退いて、以前よりも少し落ち着いているのかなと。『2099』の時は「そういう状況だからこそ前向きなものを、楽しく聴けるものを作ろう」といったことを話していましたが、『Neon Chapter』の制作中はどんな気持ちで臨んでましたか?
BIGYUKI:あの頃は先が見えないままでもポジティブにいようって感じでしたけど、今は抜けた感じがしますよね。秋の予定もどんどん入ってるし、ツアーのスケジュールも12月まで埋まってる。実感としてはもとに戻ってきていて、長いトンネルを抜けた感じはあります。『2099』の頃は「いつか終わると信じよう」みたいな感じだったので。
今はある程度、リスキーな音楽を出しても受け入れられるだろうって思えるんですよね。あの頃は、こんな変な音楽を出す必要ないってムードだった。だから、今回は振り切れたものを集めてますよね。
―最後に聞きたいんですけど、BIGYUKIの活動はNYのアフリカン・アメリカンのコミュニティにかなり根差してますよね。音楽的なアイデンティティの中にも、アフリカン・アメリカンの音楽に通じるグルーヴやセクシーさは見受けられると思います。でも一方で、BIGYUKIは日本生まれの日本人、平野雅之であるわけですよね。彼らのコミュニティの中にいて、カルチャーも理解していて、一緒に活動していて、受け入れられてもいるけど、あくまで違うコンテクストから来た人間であり、共有していない歴史や経験もある。
BIGYUKI:そうですね。
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―そういう立場のBIGYUKIの音楽は、アフリカン・アメリカンのコミュニティにどっぷり浸かっていて、絶大なリスペクトがありつつも、音楽的にはアフリカン・アメリカンのコンテクストをそのままなぞっているわけでもない、教会でゴスペルを弾いてきた経験があっても、ピアノの演奏にゴスペルっぽさがある感じでもないし、ヒップホップを敬愛していても、プロダクションはUKのダンスミュージックっぽい感じになったりする。そのズレてる感じ、異物感こそがアメリカのシーンの中で唯一無二の個性になっているとも思うんですよ。同じ文脈を共有してるし、それを演奏できる技術も、作曲する知識もあるんだけど、同化しようとするのではなく、わかったうえで違うものを出してますよね。
BIGYUKI:天邪鬼ってのもあると思いますけどね。現場でそのまま期待された通りにやれる自負はあるけど、それをやるなら自分じゃなくていいんじゃないかとも思うから。ひと捻りしたくなるんですよ。
あと、カルチュラル・アプロプリエーション(文化的盗用)って言葉がありますよね。カルチャーを理解せずに上澄みだけを掬って、そのコミュニティに還元せずに自分の利益にしてしまうみたいな。どうやったらそうならないかってことは考えますよ。自分が好きってだけで無邪気な気持ちでR&Bやりますっていうよりは、もうワン・レイヤーの深みが必要じゃないかと。自分はブラックミュージックが好きだから、彼らのコミュニティの中でやってきたんだけど、それは自分がそのコミュニティに受け入れられてきたからできてたわけですよね。俺がまだ今みたいに弾けない頃から受け入れてくれた人たちがいたから。そうやって活動してきて、今、自分がやるとしたら何ができるかなってことは考えますね。
ひとつは、今まで自分が得てきたものを自分のフィルターを通して出すわけだけど、それは正直なものでなければならないと思うんですよ。「あれっぽくしたい」ってなるとそこに誠実さはないと思うし、それはカルチュラル・アプロプリエーションになるかもしれない。でも、そういうのってすごく難しいんですよね、どこからどこまでが盗用なのかの解釈は人によって違うだろうし、そんなことを考えてない人もたくさんいるだろうし。模倣もスタイルを学ぶ上での重要なプロセスではあるから。でも、何も考えずにブラックミュージックをやってますってなっちゃうと難しいとも思うし、意識してやる必要はあると思う。
あと、還元するにしても、困っているところに寄付をするとかではなくて、もっと意識的なところで還元することは考えたいですよね。そのカルチャーの歴史や背景を理解して、その上でそのカルチャーをひとつのアートフォームとして捉えたうえで正直に作って、そこに誠実に向き合うことが必要なのかなと思います。そこを無自覚に不誠実にビートがかっこいいとか、歌い方がかっこいいとかでスタイルだけを真似て、それを作り替えるってことは俺は絶対にしたくない。自分が仕事で雇われているときはそのスタイルを心を込めてやるけれど、自分の作品を作るときは違いますよね。ブラックミュージックは大好きだし、それが自分の音楽のファウンデーションにあるのは大前提にあっても、自分から出てくるものが違うものだったら、それこそが自分だと思うので。それに違うものが出てきても、そこには確実にブラックミュージックの影響はあるわけで、影響って思いもよらない形で出てくるかもしれないものだから。
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―BIGYUKIが参加したア・トライブ・コールド・クエストのラストアルバム『We Got It from Here... Thank You 4 Your Service』はブラック・コミュニティの問題意識を表現しているし、カマシ・ワシントンの音楽にもそういうメッセージが込められている。そういう音楽に関わり、彼らのコミュニティにも出入りしながら、異なるカルチャーで育った人間として経験したり考えてきたことが、何らかの形で自分の作品にも出ている気がしました。
BIGYUKI:正直、そこはあまり意識はしてこなかったですね。でも、俺が意識しないで済んできたのも、ある種のプリヴィレッジ(特権)だと思うんですよ。彼らが俺を受け入れてくれたからこそ、そこと向き合わずに済んでいたわけですから。それに俺はアジアン・アメリカン(アメリカ生まれのアジア人)でもないわけですよね。アジアン・アメリカンはどこかで「自分は何者なのか、自分のルーツはどこか」という問題に行き当たるみたいで、アーティストにもそういう人はいますが、そうやって意識的に掘り下げる人を見ていると、アイデンティティって難しいものだなと思ったりもします。
アジア人はアメリカだと白人社会とも黒人社会とも違うわけで、「自分は何者なんだ」と考える気持ちはわかりますけどね。アメリカ社会で長い間、無視されてきた存在でもあるわけだし。でも、俺は日本の三重で生まれ育ってきたから、自分は何者なのかなんて考えることはない。だからこそ「人種なんか関係ない」とか言えちゃうんですけど、それは自分の中に日本の三重出身というファウンデーションがあるからですよね。それがなかったらそんなことは言えないと思う。もし、ファウンデーションがなかったら意識しますよね。それも自分が得ていたプリヴィレッジのひとつなんだなって今は思うようになりました。
BIGYUKI
『Neon Chapter』
発売中
配信・購入リンク:https://jazz.lnk.to/BIGYUKI_NCPR
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