R.E.M.デビュー40周年、ピーター・バックが語るバンドへの愛着と『New Adventures in Hi-Fi』
Rolling Stone Japan / 2021年10月30日 11時30分
メジャー5作目である『New Adventures in Hi-Fi』の25周年記念エディションがリリースされる今年は、R.E.M.がデビューして40年、活動を止めて10年という節目の年でもある。これまでにも周年記念作品が発表されるごと、メンバーは積極的にプロモーションを行なってきたが、今回もそれは同様。メンバー最年長でリーダー的な役割を果たすことも多かったピーター・バック(Gt)の声をお届けする。
80年代のカレッジ・シーンを牽引し、90年代オルタナティヴ・ムーヴメントの立役者のひとりであり、素晴らしい音楽を世に送り出したことはもちろん、特にそのバンドの在り方や音楽との向き合い方において現在のインディ・ポップ・シーンにも大きな影響を与えている彼らのチャレンジが詰まった『New Adventures〜』を今一度振り返るとともに、R.E.M.に対する思いを語ってもらった。
『New Adventures~』からの1stシングル「E-Bow the Letter」にはパティ・スミスがゲスト参加。のちに1998年のチベタン・フリーダム・コンサートなどいくつかの公演で、彼女のパートをトム・ヨーク(レディオヘッド)が担当した。
1988年、ワーナー・ブラザーズに移籍したR.E.M.はメジャー1作目の『Green』と、それに伴うツアーの成功で、広くロック・ファンにその名前が知られることとなった。さらに『Out of Time』(91年)と『Automatic for the People』(92年)では、それまでのギター・ロック・サウンドから、非ロック的な楽器使いやアコースティカルなアプローチでロックの多様性を表現し、結果、アルバム・プロモーションとしてのツアーに出ることなく、どちらも全世界で1500万枚を超える売り上げを記録、米南部の大学街アセンズ出身の4人組をシーンのトップへと導いた。
94年、時はオルタナティヴ/グランジの全盛期。そんなシーンの盛り上がりにも触発され、メジャー4作目となる『Monster』には、かつての彼らが鳴らしたようなダイナミックなギター・ロックが戻った。同作の発表から遡ること5カ月、自ら命を断ったカート・コバーン(ニルヴァーナ)に捧げた「Let Me In」も収録されたが、カートが亡くなった部屋に『Automatic for the People』が流れていたという話を、4人はどんな思いで聞いたのだろうか(当時、特にカートと親しかったマイケル・スタイプはカートとのコラボレーションの話を進めていた)。
「Let Me In」、後述の映画『ロード・ムーヴィー』より。マイク・ミルズはこの曲をパフォーマンスする際、カート・コバーンのギターを使用していた。
そんなオルタナティヴ・ムーヴメントの光と影が交錯する『Monster』を携えて、95年、R.E.M.は5年以上ぶりのツアーに出た。しかも、ツアーには8トラックのレコーディング機材を持ち込み、サウンド・チェックなどの時間を利用して新しいアルバム用の曲をレコーディングしようと企てていた。
「僕らはバンドとしてものすごく成功した。だったら、何かそれまでと全然違うことをしよう、ツアーをしながら、その時経験していることを反映させて、アルバム1枚を作ろうと思ったんだ。時間つぶしというのもあった。あの時のツアーは、僕らが経験した最も長いツアーだったからね」と、ピータ・バックは当時を振り返る。
ところが、だ。95年1月に豪州、日本からスタートしたツアーは、途中3度の中断を余儀なくされた。最初はビル・ベリー(Dr)が脳動脈瘤破裂で手術と入院、次はマイク・ミルズ(Ba)が腸管癒着を起こし、さらにはマイケル・スタイプ(Vo)がヘルニア悪化で緊急帰国&手術、とピーターの言葉を借りれば、まさに「クレイジーなツアー」となった。それでも4人は、11月下旬までの日程をなんとかやり遂げ、しかもその千秋楽となったアトランタでの3夜公演はピーター・ケア監督の手によりドキュメンタリー映画『ロード・ムーヴィー』にまとめられた。そして、満身創痍でツアーを終えた彼らの手もとには、新しいアルバムの”素”が出来上がっていた。
「ツアーが終わった時点でアルバムは8割方、出来上がっていたんだ。だから休みをとる意味がないと思えたんだよ。クリスマスから年明け1月くらいは休みを取ったはずだけどね。クリスマスを家族や子供たちと過ごしたのを覚えている。でも『このままアルバムを完成させてしまおうぜ』という気持ちだった。何をやりたいのか、その思いが自分たちの中で新鮮なうちにやってしまいたかったんだ。レコーディングして、半年のブランクを空けて戻ってきても、そもそも何をしようとしていたのか、記憶すらなくなっていたりする。でも、すぐにスタジオに入って完成させたおかげで、曲は新鮮なものになり得たんだ」
『New Adventures~』からの2ndシングル「Bittersweet Me」
実際にツアーをしながら曲を書くことに、難しさは感じなかったのだろうか。
「それぞれにアイデアを持ち寄り、そこにみんなが手を加えて変えていく、というのが僕らのいつものやり方で、それは変わらなかった。誰かのアイデアがメインになって、まだそこにマイケルの歌詞はないかもしれないけど、みんなでああだこうだと意見を出しあいながら、パーツを加えていく。各自のアイデアが、ツアー中のサウンド・チェックで曲に生まれ変わっていくということだよ」
ならば、ツアーをしながら曲を書き、レコーディングをすることで得られた最大の成果は何だったのだろう。完成したアルバムに現われた成果はもちろんあったろうし、ツアーにも何らかの影響があって不思議はない。
「そのどちらにも成果はあったよ。新曲を演奏することのエキサイトメントは、ツアーを新鮮なものにしてくれた。あれは、僕らがそれまでに作ったどんなアルバムとも違う、余計なものを削ぎ落とした、ストレートなアルバムなんだ。制作された状況から言って、細かい部分にこだわる時間的余裕はなかった。いい意味でラフに作られたレコードで、僕自身はそのことにとても満足しているよ」
「4人のR.E.M.」の終わり
R.E.M.史上最長となる14曲64分を収録した『New Adventures in Hi-Fi』は、96年9月にリリースされた。あの時点での彼らを圧縮して真空パックにしたある種の生々しさと重さに、当時の私はとっつき辛さを感じたものだが、それでも「Be Mine」や「Electrolite」には抗えない美しさや気高さがあって、それらを突破口に、他の曲も時間をかけて耳や体に馴染ませていったような印象がある。
そして、このアルバムは、バンドの新しい冒険という意味だけでなく、もう一つ、4人時代の終わりを告げる作品にもなった。
97年秋、ビル・ベリーが脱退を表明したのだ。先のツアー時に倒れたことがきっかけとなり将来を考え始めた彼は、以前のような、他の3人と同じような情熱が持てないことに気づいてしまったのだという。が、自分のことと同等にR.E.M.も大切だった。「僕が脱退することでバンドが解散するなら、僕はバンドに残る」とまで言って覚悟を見せた彼の意志を3人は尊重し、バンドの継続を決めた。以後、R.E.M.が正式なドラマーを迎えることはなく、それでも変わらず意欲的かつマイペースな活動を続けていたが、2011年、突然活動を停止した。
Photo by Chris Bilheimer
あれから10年が経ち、『New Adventures〜25周年記念エディション』のプロモーションに駆り出されるというのは、どういう気持ちなのだろう? 「R.E.M.の大ファンである私は、未だに”解散”という言葉は使いたくない」ことも伝えながら聞いてみた。
「解散という言葉は使いたくないと言ってくれたけど、実際、僕らは解散したわけじゃなかった。仕事として一緒に音楽を作ることを辞めただけ。未だに友達だし、会ったりもする。このバンドが達成したことは、僕にとって生涯をかけたライフワークなわけだから、機会があれば喜んでその話をするよ。これまでもしてきたし、これからも。それに、それほどいっぱい受けているわけじゃないしね。このインタビューも数年ぶりじゃないかな。やったことを忘れてるのかもしれないけど(笑)。新しい作品が出る時は、その話を喜んでする。ファンがこうやってずっとバンドと一緒にいてくれていることには感謝の気持ちしかないよ」
私に言わせれば、R.E.M.がこうして、恐らくこれからも、ファンと一緒にいてくれることに感謝の気持ちしかないわけだが。
「E-Bow The Letter」のB面曲、リチャード・トンプソンのカバー「Wall of Death」。『New Adventures~25周年記念エディション』は最新リマスタリングを施したアルバム音源を収録したディスク1と、シングルB面曲 /レア・トラックを収録したディスク2からなる2枚組。初回限定盤はSHM-CD仕様。
R.E.M.
『New Adventures in Hi-Fi』
25周年エディション(初回限定盤)
2021年10月29日リリース
2枚組 SHM-CD
視聴・購入:https://lnk.to/REM_NAIHFPR
輸入盤2CD+Blu-ray限定デラックス・エディション
2021年11月12日リリース
https://store.universal-music.co.jp/product/7226397/
輸入盤180g 2LP
2021年10月29日リリース
https://store.universal-music.co.jp/product/7224545/
R.E.M.デビュー40 周年カタログ・リイッシュー
デビュー40周年を記念し、スコット・リットとR.E.M.の共同プロデュース・アルバム5作品を初ハイレゾCD化。各作品25 周年記念時の最新リマスター音源を使用した MQA*UHQ-CD の高音質で再現。さらに、BBCに残された貴重音源のベスト盤 SHM-CD2 枚組『ベスト・オブ・R.EM.・アット・ザ・BBC』を初日本盤化で同 時リリース
『Green』
https://store.universal-music.co.jp/product/ucco46001/
『Out of Time』
https://store.universal-music.co.jp/product/ucco46002/
『Automatic for the People』
https://store.universal-music.co.jp/product/ucco46003/
『Monster』
https://store.universal-music.co.jp/product/ucco46004/
『New Adventures in Hi-Fi』
https://store.universal-music.co.jp/product/ucco45003/
『ベスト・オブ・R.E.M.・アット・ザ・BBC』
https://store.universal-music.co.jp/product/ucco2042/
R.E.M. 日本公式ページ:https://www.universal-music.co.jp/rem/
この記事に関連するニュース
-
フレディ・マーキュリー、ウォッカの力を借りて挑んだ死の直前のレコーディング…「波乱万丈だし、馬鹿でかい問題も抱えていたけど…」死を受け入れながら過ごした日々
集英社オンライン / 2024年11月24日 11時0分
-
クイーン 2024年版デビューアルバム「Queen1」の強い光
スポニチアネックス / 2024年11月21日 9時31分
-
ボン・ジョヴィ、40周年記念の日本限定ベスト・アルバム『オール・タイム・ベスト 1984-2024』 11月20日(水)発売!
PR TIMES / 2024年11月19日 18時15分
-
King & Princeアルバム『Re:ERA』収録「WOW」ティザー公開 高橋海人&永瀬廉のYouTubeライブも決定
ORICON NEWS / 2024年11月11日 10時3分
-
アーロン・パークスが明かす、ジャズの境界線を越えていくバンド「Little Big」の全容
Rolling Stone Japan / 2024年10月31日 17時30分
ランキング
-
1「私立恵比寿中学」メンバーが異例の謝罪動画 星名美怜の電撃契約終了受け9人が涙目で25秒以上頭下げ…
スポニチアネックス / 2024年11月25日 23時9分
-
2韓国ガールズグループ「NMIXX」、竹島の領有権主張する歌で「炎上」 日本公演反対署名が5万人突破
J-CASTニュース / 2024年11月25日 18時30分
-
3「エビ中」星名美怜 ドライすぎる「契約終了」の表現にファン困惑「卒業(転校)とかじゃなく?」
スポニチアネックス / 2024年11月25日 22時58分
-
4【韓国スターの招聘に失敗】チョン・ヘインがTBS大作ドラマへの出演を辞退、企画自体が暗礁に乗り上げる危機 W主演内定の坂口健太郎も困惑
NEWSポストセブン / 2024年11月26日 7時15分
-
5清原弁護士 東国原氏と激論 斎藤知事の問題めぐり「収賄とか…」「収賄とは言ってない」かみ合わず
スポニチアネックス / 2024年11月25日 19時1分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください