古田新太が語る、我が道を進む変わらぬ「生き方」
Rolling Stone Japan / 2021年10月30日 18時5分
音楽、文芸、映画。長年にわたって芸術の分野で表現し続ける者たち。本業も趣味も自分流のスタイルで楽しむ、そんな彼らの「大人のこだわり」にフォーカスしたRolling Stone Japanの連載。古田新太と松坂桃李が実写映画初共演となる話題作『空白』。昨年から今年にかけて映画『一度死んでみた』『ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち~』の出演はあったが、古田が今回主演を務めるのは7年ぶりとなる。我が道を進む古田の変わらぬ「生き方」とは?
Coffee & Cigarettes 31 | 古田新太
「7年ぶりの主役について? いや、何とも思ってないですね」
そう言うと、コワモテの目尻をクシャクシャにしながら「あははは!」と笑った。古田新太。劇団☆新感線の看板役者であり、『木更津キャッツアイ』シリーズや『土竜の唄 香港狂騒曲』など話題作にも数多く出演してきた映画俳優。ここ数年は、NHK連続テレビ小説「あまちゃん」や「逃げるは恥だが役に立つ」など、TVドラマでも唯一無二の存在感を放つ彼が、『台風一家』以来7年ぶりの主演に抜擢された。その意気込みについて尋ねたところ、返ってきたのが冒頭の答えだ。
「主役だろうが、脇役だろうが関係ないというか。そういう部分での気負いも、『主役をやりたい』という気持ちもほとんどないんです。仕事があればいい……若干ギャラが高いのはうれしいですけどね。とにかく、いつでもどこでも監督が求めている役を演じ切るだけ。思いついたことはやってみますが、『ダメ』と言われたらすぐ引っ込めます」
『ヒメアノ~ル』や『愛しのアイリーン』などで知られる吉田恵輔が監督・脚本を手掛けた映画『空白』は、古田が演じる主人公・添田充の娘、花音(伊東蒼)の壮絶な「死」から始まる。中学生の花音はスーパーで店長の青柳直人(松坂桃李)に万引きを疑われ、追いかけられた末に車に轢かれてしまうのだ。それまで娘に無関心だった添田は、彼女の無実を証明しようと店長を激しく追及していくうち、次第に常軌を逸していく。
©️表記:© 2021 『空白』製作委員会
「脚本を読んだときは『なんでオイラなんだろう?」と思いました。実生活ではフレンドリーなお父さんですから(笑)。添田さんは、きっとああ見えて真面目な人なんですよ。仕事もできる人だし信頼もされているのでしょう。だからこそ『俺は間違っていない』という考え方をしてしまう。奥さん(田畑智子)にも逃げられちゃうし、花音にも心を閉ざされてしまう。でもそういう人って多いんじゃないですか」
確かに、「こうあるべき」という理想が高ければ高い人ほど、現実とのギャップに心を引き裂かれてしまうのかも知れない。完璧主義で手を抜くことができないから、相手の至らないところも許せなくなってしまう。結局は自分で自分の首を絞めてしまうことになるのだろう。映画の中で添田は、「娘の何を知っていたの?」と前妻に問い詰められる。古田はどうだろう。「娘のことはちゃんと理解している」と言い切れるのだろうか。
「いや、何にも知らないです(笑)。子育てした覚えもないし、オイラ、娘を風呂に入れたこと1回しかないですから。その時にウンコされて、それから二度と入れてない(笑)。だから添田のこと、とやかくいう資格がオイラにはないんです。そもそも娘がどんな色のマニキュアをつけていたかなんて、世のお父さんが知るわけないと思ってます。ネイル詳しいお父さんもイヤじゃないですか(笑)」
とはいえお茶の間では、娘との仲睦まじいエピソードをよく話している古田。年頃の娘を持つ世のお父さんからすれば羨ましいばかりだが、何か秘訣でもあるのだろうか。
「どうだろう……。ハグだのキスだのしたことないからな(笑)。ただ、娘は反抗期もなかったし『パパ汚い』『あっち行って』みたいなことも言われた試しがない。いまだに一緒に飲んでて、家飲みにも付き合ってくれてます。添田さんのように真面目じゃないから、コケて血が出ていてもそのままテレビを見たりしてるので(笑)。それが日常のようになってるから、娘も奥さんも全然驚かないです」
威厳のある「父親らしさ」とは真逆の振る舞い。かっこ悪い姿を自ら進んでさらけ出しているのに、否、さらけ出しているからこそ、相手も安心して心を開くことができるのかも知れない。「この人になら、自分のかっこ悪いところを見せても大丈夫かも知れないな」と。映画の中で添田が、元妻の松本翔子(田畑)に「あなたは自分のことが、一番許せないんでしょう?」と言われるシーンが印象的だ。もし彼が「ダメな自分」を自ら許し、古田のようにさらけ出すことが出来れば、もっと生きやすい人生が送れたのかも知れない。
「真面目で優秀だからこそ『俺はダメなやつです、ごめんなさい』が出来なかったんでしょうね。(松坂)桃李が演じたスーパーの店長の方こそ、実はそんなに真面目なヤツじゃない。親父のスーパーを何となく継いで、企業努力もせず適当に生きてきたんです。そういう人間たちのぶつかり合いだから、いつまで経っても平行線のままなんだろうな」
そう言って古田はハイライトに火を付けた。「タバコと酒だけは、誰になんと言われようがやめられない」と彼は笑う。
「なぜ吸ってるかって、『美味しいから』としか言いようがない(笑)。ガムを噛んだり飴を舐めたりしている人と大差ないと思いますよ。銘柄は、若い頃からずっとハイライトです。とにかく昔は安かったんですよ。親父はピースを吸っていたから、他のタバコはぜんぶ薄味に思えてしまったのもあるかな。ハイライトは味がしっかりしているし、辛口なのも気に入っています。うちの娘はアメリカンスピリットを吸ってますね」
そんな古田にとって、もっともタバコが「美味い」と感じる瞬間はいつだろうか。そう尋ねると、しばらく考えたのちにこう答えた。
「寝起きかな。休みの日は朝っぱらから缶ビールを開ける。起きたばかりは喉が一番乾いている状態じゃないですか。そこにビールを流し込んで、タバコをスパーッと吸う瞬間が一番幸せです。『ああ、今日は何にもしなくていいんだ』と心の底から実感できる。酒飲んでいる時や、仕事が終わった後に吸うタバコも美味いけど、休日の朝イチに敵うものはない。そんな機会は滅多にないですけど」
喫煙可能な行きつけの飲み屋で一杯ひっかけるのが日課だったという古田。新型コロナ感染拡大にともなうステイホーム期間が続き、思うように外出できなくなった今、彼はどのような日常を過ごしているのだろうか。
「別にワイワイ騒ぎたくて飲んでいるわけではないんです。酒は一人で飲んでも美味しいですし。そもそもオイラにとって、自宅にこもること自体は決して苦ではないんです。Netflixで『スーサイド・スクワッド』と『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』を連続で見ながら酒を飲んでいれば幸せなので(笑)、『外出できないとフラストレーションが溜まる』という感覚がよくわからない。そりゃ友だちと会いたいけど、だったら電話でもなんでもすればいいと思います。別に直接顔を合わせることだけが『会う』行為ではないですし、コミュニケーションの形はいろいろあっていいじゃないですか」
とはいえ音楽好きの古田にとって、気軽にライブハウスへ足を運べなくなったことは「とてもつらい」とこぼす。
「もともとオイラは洋楽しか聴いてこなかったんですけど、椎名林檎さんと宇多田ヒカルさんに出会って衝撃を受けた。『日本にもこんなカッコいい音楽があるんだな』と知って、そこから日本のロックも聴くようになりました。オイラの友人である♀田(本人であるという噂も)が主催している『♀フェス ~日本一おもろいバンド決定戦~』も、2年連続で中止になってしまって。いつも出演してくれる仲間のバンドたちとフェスで暴れられなくなったのが、今は一番つらいです」
ライブハウスへ足を運ぶことも、映画館へ行くこともままならない状況が続き、「正義」や「良心」の行き違いによる対立や分断があちこちで起きている。それは古田が主演を務める映画『空白』の中でも重要なテーマだ。
「誰か一人でも『悪人』を作れば楽じゃないですか。勧善懲悪のカタルシスや、反対に悪人が勝つピカレスク浪漫の爽快感が得られるわけですから。でも、この映画は一つもすっきりしないでしょう? みんな自分の『正義』に意固地になっているが故に、誰も救われない話になっている。つくづく吉田さんって意地悪な監督だと思います(笑)。ただ、現実世界でも立場によって『正義』って変わりますよね。『マスクはコロナ対策の必須アイテムだ』と言う人もいれば、『ずっとマスクしていたら子供たちの免疫力が落ちているじゃないか』と言う人もいる。こんなふうに閉鎖された空間に長いこといると、どうしても考え方が偏ってしまいがち。『もっと臨機応変で大らかに生きましょうよ?』と思います。そうじゃないと、結局は自分を追い詰めることになるわけですから。映画『空白』を見ながら、そんなことをぼんやり感じてもらえたらうれしいです」
古田新太
1965年12月3日生まれ、兵庫県出身。劇団☆新感線の看板役者。劇団での活動と並行して、多くのレギュラー番組や、雑誌の連載などを持ち人気を獲得する。俳優としても他に代わる者のない存在として様々な作品で活躍中。映画やTVドラマ以外に声の出演も多く、『パディントン』(2016年)とその続編(2018年)の日本語版でブラウンさん役を務め、パディントン役の松坂桃李と共演している。
『空白』
全国劇場にて公開中
配給:KADOKAWA
出演:古田新太、松坂桃李、田畑智子、藤原季節、趣里、伊東蒼、片岡礼子、寺島しのぶ
監督・脚本:吉田恵輔
© 2021 『空白』製作委員会
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