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BMGのCEOが語る、IPOとアーティストにとって平等なシステム 

Rolling Stone Japan / 2021年12月6日 12時30分

BMGのハートウィグ・マズフCEO(Eva Luise Hoppe)

BMGのハートウィグ・マズフCEOがアーティストのさらなる平等の実現、IPO(株式公開)の可能性、さらにはティナ・ターナーと交わした歴史的な契約について語ってくれた。

BMGのハートウィグ・マズフCEOには、音楽業界をリードする大手企業を相手に競争力を保ち続けるための素晴らしいアイデアがある。それは、アーティストを平等に扱うことだ。

「私たちの最大の脅威は——致命的とまでは言わないまでも——他社が善良かつ公平、そして透明になることです」と、マズフはBMGのビジネスモデルについて正直かついたずらっぽく述べた。「その時点で、私たちの取り組みの多くは特別さを失ってしまいます。市場のリーダーが『我々だっていい人になりたいんだ。我々は金持ちになったのだから、これからは愛されたい』と思った瞬間から、私たちは競争力を維持するためにどうするべきか真剣に考えなければいけません」

長年にわたり、BMGは自らを大手レコード会社のシステムの代わりとなるアーティスト・フレンドリーな企業だと宣伝してきた。ドイツを拠点とするレコードおよび音楽出版社のBMGは、所有権の少ない短期契約を積極的に結んできた。さらに同社は、作曲家の収益に食い込むレコード業界の典型的な契約条項である「コントロールド・コンポジション・クローズ」の撤廃といった透明性を原動力とする活動にも取り組んでいる。

音楽業界にはびこる積年の人種の不平等を解消しようという声が高まるなか、BMGは他社よりもダイレクトな行動に打って出た。内部監査を実施し、過去に傘下レーベルが買い取った黒人アーティストの楽曲のロイヤリティの格差を調べるためだ。まもなくして同社は、4レーベルが黒人アーティストに対し、黒人以外のアーティストと比べてかなり低い金額を支払っていたことを知り、こうした格差の是正を誓った。

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音楽著作権市場が加熱するなか、BMGは買収にも力を入れてきた。米投資ファンド・KKRとパートナーシップを結び、一流の楽曲コレクションを追い求める一方、ミック・フリートウッドやティナ・ターナー(米現地時間10月5日時点)といった大物アーティストの著作権を獲得してきたのだ。

ティナ・ターナーの全楽曲の著作権売却を前に、米ローリングストーン誌はマズフCEOにインタビューを行った。音楽業界の現状、今後の楽曲獲得、刻々と変化する業界においてアーティストの平等を掲げることなどについて語ってもらった。

ーー音楽業界全体は、アーティストを平等に扱っていますか?

いいえ。ですが、それは一人ひとりの悪意によるものではないと思います。私たちはただ「この市場の一員になりたいのなら、我々の言うことに従い、我々が提示する条件に同意しなければいけない」という考えにもとづく慣習とともに仕事をしているのです。業界関係者一人ひとりがアーティストを助けたいと思ったとしても、その背後のシステムが「ロイヤリティをカットして、より収益性の高いモデルを開発したらどうだ?」とささやくのです。

ーー近年、音楽業界では透明性やアーティストに対してより公平な契約といったことが話題になっています。音楽業界が選択できるとしたら、こうした変化は実現すると思いますか?

いいえ。私たちは、ビジネスをする上で競争力を維持するための構造的な要素として透明性を導入することに誇りを持っています。それは、変化するための絶対的なニーズです。大企業は中小企業と比べると動きが遅いのに加えて、彼らは必要に迫られなければ動きません。信頼される企業になることは、BMGの競争的な理念なのです。私は、目覚めた瞬間から「善人であろう」という理念を抱くわけではありません。今後は、アーティストに対して「我々があなたたちに負っているものを手に入れるために、あなたたちは戦う必要はないのです」と言えるような関係性において強力な競争的要素になると思っています。


ーーレコード会社がアーティストにとって理想的なシステムでないとしたら、なぜレコード会社を公然と非難する人々の多くはインディーズに移籍するのではなく、同じレコード会社に残留したり、契約を更新したりするのでしょうか?

こうしたケースでは、声をあげているアーティストは超大物で、彼らはすでに相当な影響力を持っています。彼らは、そうした影響力を利用しているのです。アーティストは、こうした交渉力を武器にもっと高い前金だけでなく、より有利な条件を勝ち取ることができます。大物ではないアーティストの場合は、繰り返しになりますが、業界の構造の問題にふたたび行き当たります。ここ30年間でアーティストの契約条件が飛躍的に向上したことを示す事例は十分ありますが、そこには潜在的な前金を最大化しないという代償が伴っています。

ですが、アーティストの周りには、できるだけ高額の前金を勝ち取ることを重要視するアドバイザーがいまも多数います。なぜなら、彼らの報酬はそれにかかっているからです。それに、5年後も同じアーティストの代理人を務めているかなんてわかりません。15年後の権利の改定には無関心なのです。できるだけ高額の前金を勝ち取り、そこから15%をもらって逃げればいいのですから。

ーーBMGは大手とインディーズの中間的な存在ですが、アーティストに対するサービスがますます重要なセールスポイントとなるなか、BMGは具体的にどのようなサービスを展開する予定ですか?

BMGは、アーティストのクリエイションの極めて誠実な代理人として、極めてリーズナブルな価格でアーティストを売り出しています。もらえるものはとりあえず全部もらって、心配するのは後回し、という交渉は行っていません。

私たちはアーティストと差し向かいで腰掛けて、グローバルレベルのマーケティング戦略を開発するために必要な金額やディストリビューションのコストについて合理的な話し合いをしたいと考えています。当然ながら、こうした話し合いを行わずにすべて自己流で進めることはできますが、ご存知の通り、音楽業界はとても複雑な世界です。結局のところ、あなたの所得を最大限に増やしたり、所得を回収したりしてくれる代理人が必要になります。あなたの所得の80%を持っていくだけの存在ではないのです。

ーー新規上場したユニバーサル・ミュージック・グループ(UMG)やワーナー・ミュージック・グループ(WMG)といった大手が叩き出した高い評価額を踏まえて、IPOを検討したことはありますか?

BMGは家族経営の会社です。経営者一族は、BMGがゲームに参加するため、さらには潤沢な資金を手に入れるためのIPOは不要である、という考えを一貫して持っています。もちろん、マネジメントとしては彼らとこうした点について話し合いますし、(IPOによって)かなりの買収資金が準備できるとも言っているのですが、「必要な金額さえ言ってくれれば用意します」というのが彼らの答えです。

ーー判断がご自身に委ねられていたとしたら、上場しますか?

そうですね、上場によって私の仕事仲間たちが成し遂げたことをいくつか見てみましょうか。ものすごくうらやましいですよ(笑)。冗談です。でも、私としてはIPOには賛成です。資本市場にとって透明でなければ、そこから生まれる真の価値も透明ではありませんから。UMGのケースで優れている点は、評価にEBITDA倍率が関係しないことです。「みなさん、我々は過去12年にわたって素晴らしい価値を創造してきました。WMGやUMGの評価額と比較してみてください」と言えたら、誇らしいでしょうね。

ーー最後にベルテルスマン(訳注:ドイツを拠点とするメディア・コングロマリット。BMGは同社の傘下にある)にIPOの話を持ちかけたのはいつですか?

(UMGが)上場したわずか一週間後です。トーマス(ベルテルスマンの会長兼最高経営責任者トーマス・ラーべ)に検討してみるべきだと話しました。ご存知の通り、ベルテルスマンはポートフォリオの再編に関しては優れた戦略を持っていますから、現時点では障害となるものはありません。でも、いつまでもそうした状況が続くとは限りません。

ーー他社同様、BMGも近年は買収ゲームによりアグレッシブに参戦するようになりました。現時点で目をつけているアーティストは?

このあといくつか重大な発表があると思います。5〜6つほどの重大発表を予定しています。BMGはティナ・ターナーの全楽曲を手に入れました。これによって私たちの野心の度合いが定まったのです。今後発表される取引は、すべてティナ・ターナー級のものになるでしょう。

ーーその直後、KKRとご自身は、数十億ドル——あるいは必要に応じて最大その半額——をつぎ込む覚悟があると本誌に語ってくれました。現在もこうした取引をねらっているのですか? 今後の予定は?

私たちには、資金の制約がありません。(予定は)まだ未定です。しかし、市場にピンク・フロイド——彼らは楽曲の著作権を保有しています——が登場する日が来るかもしれません。所有権を求めてアーティストがとても巧みに交渉している楽曲は現在も山ほどあります。クイーンも楽曲の著作権を保有していますし、ローリング・ストーンズもほとんどの楽曲の著作権を保有しています。こうした大物アーティストが市場に出てくるとしたら、それに応じた取引が行われるでしょう。私たちもそうした話し合いに参加する予定です。

From Rolling Stone US.

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