1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 芸能
  4. 音楽

コートニー・バーネットが見つけた美しい感情 「非日常」がもたらした新境地を語る

Rolling Stone Japan / 2021年11月12日 17時45分

コートニー・バーネット(Photo by Ian Laidlaw)

オーストラリア発のシンガーソングライター、コートニー・バーネットが通算3作目のニューアルバム『Things Take Time, Take Time』を発表。収録曲に宿る「痛みや悲しみに似た何かから生まれた、喜びや感謝に似た感情」を、彼女はどのように見つけ出したのか?

2020年初頭、コートニー・バーネットは丸1年間制約なしに曲作りに没頭することを楽しみにしていたが、1つだけ条件を自分に課していた。「曲にするだけの価値がある何かを実際に経験する。それを忘れないこと」。同年1月に行われた本誌インタビューで、彼女はそう語っている。「家に引きこもったまま、アルバムを完成させるためだけに淡々と曲を書くんじゃなくてね」

筆者がその発言について触れると、彼女は笑った。「ウケるよね」。メルボルンの自宅で電話取材に応じてくれた、現在33歳のオーストラリア出身のシンガーソングライターはそう言った。「すごく皮肉に聞こえる。私が望む望まないに関係なく、世界全体がそれを押し付けられたわけだから。多分、今までで一番時間を持て余した1年だったと思う」



2020年の大半を、家に引きこもったまま曲作りに費やした結果生まれたアルバム『Things Take Time, Take Time』は、11月12日にMom + PopとMarathon Artistsからリリースされる。過去10年間で最も愛されたインディーアクトの1人である彼女の、日常の些細な出来事をユニークな視点で描くソングライティングに魅了されたファンは、今作に期待を裏切られることはないはずだ。一方で、ここには新鮮味もある。アルバムに収録された10曲は、過去2作に見られたクランチーなロックバンドらしいサウンドをほぼ脱ぎ捨て、ベッドルームでひたすら自身と向き合う日々から生まれた、ラディカルなまでの親密さを宿している。誠実さを惜しみなく世界と共有してきた彼女による、これまでで最もパーソナルなアルバムと言えるだろう。

コートニーは『Things Take Time, Take Time』について、「痛みや悲しみに似た何かから生まれた、喜びや感謝に似た感情」を描いた、長い夜の後に訪れる朝の光のようなアルバムだと説明する。同作のハイライトというべき、煌びやかな金属音が印象的な「Write a List of Things to Look Forward To」を聴けば、彼女の言わんとすることが理解できるはずだ。

森林火災とロックダウンの影響

彼女は2018年作のエモーショナルな2ndアルバム『Tell Me How You Really Feel』の発表直後に曲を書き始めたが、しばらくしてその大半をボツにした。前述の「Write a List of 〜」は、そのセッションから生まれた数少ない曲の1つだ。同曲が完成したのは、オーストラリアで猛威を振るっていた森林火災など、彼女が大きな精神的ストレスを抱えていた2019年末のことだった。

「とにかく気が滅入ってた」。当時のことを彼女はそう振り返る。「ずっと落ち込んでて、友達も私のことを心配してた。『何か楽しみにしていることを書き出してみたら?』てみんなから言われたんだけど、当時の私はこう答えるしかなかった。『そんなのない。1つも思い浮かばない』」

友達から何度も促され、コートニーはやっとの思いで「25ヴァース分くらい」の数をリストアップした。その一部は、新作に収録されたこの2分強のミニアンセムで使われている。アップビートなコード進行に合わせて、彼女は”隣に座って、世界が燃えるのを一緒に見よう”と歌う。「あの曲は気に入ってる、楽しい気分になれるから」。コートニーはそう話す。「すごく天気のいい日にドライブしてるような感じ。私はそういう、相性のいいもの同士を並べるのが好きなの」



2020年初頭に、森林火災の被害に対する支援金を募るイベントにいくつか参加した後、彼女はアメリカで短いソロツアーを行い、バレンタインデーにはロサンゼルスでチャリティーコンサートを開催した。メルボルンに戻った頃には、新型コロナの蔓延を理由に、彼女は自主隔離しなくてはならなかった。1人で過ごせるスペースを持っていなかった彼女は、使われていない友人のアパートに転がり込んだ。「結局そこで丸1年暮らした」。彼女はそう話す。「小さいけどすごく素敵なフラットで、大きな窓から太陽の光がたっぷりと差し込んでくる。あそこを使わせてもらえたのは本当に幸運だった」

ロックダウンという非日常に慣れ始めると、コートニーは料理について学び、Criterion Channel(クラシック映画を中心としたストリーミングサービス)に加入してアニエス・ヴァルダやアンドレイ・タルコフスキーの映画にのめり込み、以前から興味があった本を手に取り、時には水彩画を描いた。「壮大な計画をたくさん抱えてたの」。彼女は笑ってそう話す。しかし実際には、彼女は窓のそばに座り、コーヒーを飲みながらアコースティックギターを弾くことに時間の大半を費やしていた。

アルバム中最もスウィートな曲の1つである「Turning Green」における、陰鬱な日々の先に見え始めた希望を感じさせる歌詞(”木々が緑の葉をつけ始めた 春の日々にやる気のない背中を押されて 雑草に紛れて咲く花を探す”)からは、当時の彼女の日常を垣間見ることができる。「窓のすぐ外にある大きな木を見ていると、季節の移ろいが感じられた」。コートニーはそう話す。「比喩的な意味もある。あの曲にはすごくポジティブなところがあると思う。何かが自分の中で変化して、トンネルの向こう側に辿り着いたような感じ」

アルバムからの1stシングル「Rae Street」のテーマは古い記憶に根ざしている。「ある日、両親がよく口にしてた言葉を書き出すことにした」。彼女はそう話す。サビの”時は金なり でも金は誰の友人でもない”という謎めいたフレーズは、彼女の父親がよく口にしていた格言を、彼女が自分の価値観にもとづいてアレンジしたものだ。

ドラムマシンが導いた新境地

デモを何曲かレコーディングしようとしていた時、彼女はシカゴにあるウィルコの機材だらけのロフトを尋ねた際に譲ってもらった、ヴィンテージのドラムマシンRoland CR-8000を使ってみることにした。「アナログだから少し天邪鬼なところがあるの」。そう話すコートニーは「小さくてキュートなドラムマシンに夢中」だという。

彼女はその使い方について学んだことはなかったが(「いつも適当にビート組んでみるだけだった」)、当時は時間を持て余していた。彼女は友人のステラ・モズガワ(ウォーペイントのドラマー、コートニーとカート・ヴァイルの共作『Lotta Sea Lice』でもドラムを叩いている)に電話をかけ、その使い方について教えてもらったという。2人はドラムマシンの斬新な使い方を編み出したアーティストたちのプレイリストを作って交換するようになり、そこにはアーサー・ラッセルやヨ・ラ・テンゴが含まれていた。「ワクワクしたし、エキサイティングだった」。コートニーはそう話す。「あのドラムマシンの機械的なビートを聴いていると、なぜかすごくリラックスできた」。ステラが「制作において理想的なパートナー」であることを確信したコートニーは、彼女を次作の共同プロデューサーに迎えることにした。

2020年12月、彼女とステラはシドニーのGolden Retriever Studiosで合流し、レコーディングを開始した。いつもならこの段階に達すると、彼女はドラムマシンを棚にしまいこみ、バックバンドのメンバーをスタジオに呼び寄せていた。「ドラムマシンを使うのはあくまでデモで、スタジオでは生ドラムに置き換えるようにしてた」。彼女はそう話す。「それは絶対に譲れなかった」

しかし今回、彼女は自宅で作ったデモの親密さを残そうとした。収録曲の多くには、ステラが様々なドラムマシンで組んだローファイなビートが使われている。ヴォーカルとギターはコートニーが、生ドラムはステラが担当し、ベースやその他は両者で分担した。「ほとんど2人だけで作ったんだ」。コートニーはそう話す。「全部が同時に起きているようで、すごくリアルに感じられた」

ベースとドラムマシンだけで生み出される躍動するグルーブと、冒頭から2分の時点で突如放たれる強烈なギターソロが印象的な「Turning Green」は、長いプロセスを経て最終バージョンに至った。「あのメロディは思いついた瞬間からすごく気に入ってたけど、スタジオでステラに聴かせた時は違和感を覚えた」。コートニーはそう話す。「自分の他の曲の一部のように聴こえたの。それでステラが、『曲を一旦バラバラにしてみたら?』って提案してくれて。結果にはすごく満足してる。本当の気持ちを歌詞にできたっていう気がする、表面的なものじゃなくてね」

他の曲群が生まれる過程はそれぞれ違った。アルバムのセンターピースの1つである、ゴージャスで浮遊感のあるバラード「Heres the Thing」(”高いところは怖くない 落ちるのが怖いだけなのかも”)は、自宅でテレビを見ながら適当にギターを弾いていた時にアイデアが生まれたという。ヴォーカルをレコーディングしたのは、北部のニュー・サウス・ウェールズの郊外を訪れた時のことだ。「途方もなく大きな山のすぐ近くに泊まってたの」。彼女はそう振り返る。「ものすごく美しいところだった。だからヴォーカルにも特別なものが宿ったんだと思う」


Photo by Mia Mala McDonald

7月に行われたニュージーランドの数カ所を回るソロツアーを経て、彼女は2020年初頭以来となるツアーに出る。アルバムがリリースされる11月に始まる、バックバンドを従えた北米ツアーは来年2月まで続く予定だ。久々のツアーに興奮しているという彼女は、その過程で曲がどう変化していくのか楽しみだと話す。「バンドとのライブを重ねるうちに、これらの曲の別バージョンが生まれていくはず」。彼女はそう話す。「演奏すればするほど形が変わっていくの。いつもそうだから」

新しいアルバムがファンの元に届くのが待ち遠しい、彼女はそう話す。「去年、私は特筆すべきことを何ひとつ経験しなかった」。彼女はそう続けた。「でも同時に、すごくいろんなことを経験してたと思う。『Turning Green』に出てくる”雑草に紛れて咲く花”っていうフレーズは、思いがけないところに美しいものを見つけることの喩えなの。それを決して忘れないよう、今も自分に言い聞かせてる」

From Rolling Stone US.



コートニー・バーネット
『Things Take Time, Take Time』
2021年11月12日発売
解説・歌詞対訳、ボーナストラック収録

通常盤:2,400円(税抜)
詳細:https://trafficjpn.com/releases/things-take-time-take-time/


Tシャツ付限定盤:5,450円(税抜)
サイズ:S〜XL
詳細:https://trafficjpn.com/releases/cb-t/

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください