デーモン・アルバーンが語るアイスランドへの愛と感謝、ブラーとゴリラズの未来
Rolling Stone Japan / 2021年11月12日 18時0分
デーモン・アルバーンが最新ソロアルバム『The Nearer the Fountain, More Pure the Stream Flows』の着想源となったアイスランド、ゴリラズの新作アルバム、ブラーとしてのツアー再開について語る。
幼少期、デーモン・アルバーンは黒い砂の広大な大地の上を浮遊するという夢を繰り返し見た。目覚めるときはいつも、この精神的な旅からパワーをもらった気がした。だが、それがいったいどこなのかはさっぱりわからなかった。90年代半ば、ブラーが全米ツアーを行なっている最中に偶然、アイスランドを特集したナショナル ジオグラフィックのテレビ番組を観るまでは。「僕がずっと夢で見てきた場所は、ここかもしれないと思ったんだ」と、デーモンはローリングストーン誌に語る。「だから僕はアイスランドに行き、この場所と恋に落ちた」
1997年に初めてアイスランドを訪れて以来、デーモンは毎年3〜4回は同地を再訪している。数年前には、島に家まで購入してしまった。デーモンのアイスランド愛は、ニューアルバム『The Nearer the Fountain, More Pure the Stream Flows』という形で結実した。11月12日にリリースされる今作は、アイスランドの自然の風景からインスパイアされたコンセプトアルバムだ。当初はオーケストラとのレコーディングを計画していたものの、新型コロナのパンデミックによってクルーの人数を削ることになり、デーモンを除いてたった2名のミュージシャンが参加する結果となった。
「クルーズ船に乗り込んだハウス・バンドのような気分だった。船はどこか知らない場所に停泊してしまって、僕ら以外に乗客は誰もいない」とデーモンは言う。「僕が求めていたのは、まさにそんな雰囲気さ」
プロジェクトの始まりは2020年1月にさかのぼる。ロックダウンが敷かれる約2カ月前だ。当時、デーモンはアイスランドの自宅にミュージシャン15名を招いた。計画のねらいは、窓から家の周りの風景をただ眺め、自然の美しさをとらえて音楽として表現することだった。
「ここでは、何もかもが驚くほど生き生きとしているんだ。緯度が高いし、空気も軽いから」と彼は言う。「光と気温、そして風速が極端なんだ。毎年決まった時期になると、自宅の前の芝生が風の動きによって凹んだり移動したりする。まるで外の世界全体が奇妙な渦に巻き込まれているかのようだ。とてもエクストリームな場所だ。僕らはまさにこうした点を活かそうとしているんだよ」
デーモンはイングランド南西部のデヴォンの別宅に戻り、アイスランドでコラボレーターのミュージシャンたちと手がけた楽曲をオーケストラと一緒にレコーディングすることを企画した。だが、コロナ禍によってこのプロジェクトは何カ月にもわたって休止せざるを得なかった。「アイスランドでは完璧なものがつくれたと思ったんだけど、世界は違っていた。それに、僕自身もまったく違う環境にいた」とデーモンは語る。「その瞬間の僕の感情ないし僕の内面世界を表現したかったんだ」
2021年1月、デーモンは、サイモン・トング(ザ・グッド、ザ・バッド・アンド・ザ・クイーンのバンド仲間)と、長年ブラーとゴリラズのツアーメンバーを務めたマイク・スミスと一緒にデヴォンのスタジオに入った。たった数週間で、彼らは1枚のアルバムを作り上げてしまったのだ。「僕がアイスランドで築いたムードがすべてのベースになっているんだ」とデーモンは言う。「全体を通じて、オーケストラのリハーサルテープが流れている」
深淵の底で生きる感覚
ニューアルバムのタイトルは、19世紀のイギリスのロマン派詩人ジョン・クレアの詩「Love and Memory」(邦題:愛と思い出)に由来する。「10代の頃、母親から詩集をもらった」とデーモンは言う。「ずっと昔にこの部分[The Nearer the Fountain, More Pure the Stream Flows/泉に近ければ近いほど、流れる小川は澄んでいる]を記憶して、いまではすっかり元の詩から切り離してしまった。アイスランドでのレコーディングを決意して、ただ窓の外を眺めながら目に映るものを演奏として表現しよう、風景の輪郭を音楽として描いてみようと思ったときにこのフレーズを組み合わせたんだ。かつての僕が感じていたことよりも、はるかに多くの意味が込められていることに気づかされたよ」
Photo by Matt Cronin
『The Nearer the Fountain, 〜』の収録曲の歌詞の多くは、ロックダウンまたはアイスランドの田舎での日常生活がもたらす深い孤立感を反映している。2曲目の「The Cormorant」は、アイスランドの海で泳いだデーモンの体験にインスパイアされている。そこで彼は、ウ科の水鳥やアザラシを日常的に目の当たりにした。デーモンは、”彼女は僕が哀れな侵入者だと思っている/深淵の底へ”と歌っている。
深淵の底で生きる感覚は、3曲目の「Royal Morning Blue」(”君はローブを羽織って消えてしまう”)、5曲目の「The Daft Wader」(”僕らが点火したロケットは、いまは雪に埋もれている”)、6曲目の「Darkness to Light」(”つぶれた衛星が踊る/静かなコンガを”)、8曲目の「The Tower of Montevideo」(”かつては映画があった/僕らはパーティーをした”)、10曲目の「Polaris」(”アラームとその音楽が恋しい”)といった楽曲にも引き継がれている。
アルバムは、最後に収録されている「Particles」とともにやや楽観的なムードで終わる。ここでデーモンは幼い頃の夢に立ち返る。”夜が部屋に模様をつけるとき”と彼は歌う。”黒い砂が戻ってくる/僕は大地のはるか彼方へと漂う/空が燃え始めると/僕を呼び戻すことができるのは君だけだ/君の肌に落ちる粒子は喜びに満ちているから”
「Particles」は、アイスランド行きの飛行機でラビ(訳注:ユダヤ教の宗教的指導者)と乗り合わせたのをきっかけに誕生した楽曲だ。「僕らは粒子について、粒子が互いを見つけ出す必然性について語り合った」とデーモンは言う。「すべての粒子は喜びに満ちている。別の何かとつながるから。そこからリアクションが生まれ、まさにそれが世界の喜びなんだ。ラビはウィニペグ(訳注:カナダのマニトバ州の州都)の出身で、いまはバンクーバーに住んでいる。すごく残念なことに、彼女の名前を忘れてしまったんだ。探し当ててアルバムを送りたかったのに」
ブラーとゴリラズの未来
デーモンは、8月と9月に英国で行われたスペシャルライブで新曲をいくつか披露した。2月には、英国を巡るソロ・ツアーも始まる。そこでようやくオーケストラとの共演が実現するのだ。アメリカでもツアーをしたいと期待を膨らませる。「あっちの人たちが気に入ってくれればの話だけど」と彼は言う。「物事はいたってシンプルさ」
それと並行して、デーモンはジャマイカにいるバッド・バニーとゴリラズの新曲でコラボレーションを果たした。「ゴリラズの次のアルバムの種みたいなものだよ」と彼は言う。「地面に種を蒔いて、今度はそこからどんな植物が生えてくるか見ているんだ」
計画はまだ漠然としている。だが、デーモンは2001年のデビュー作の精神をふたたびとらえたいと考えている。「常にあのときのような感じで音楽に取り組みたいと思っている気がする。あの頃はあまりに気取りがなくて、その瞬間と呼応していたから」と語る。「それが魅力だったんだ。音楽をつくることにあまり身構えないようにしているよ」
ブラーの今後のこととなると、さらに漠然としている。バンドは2019年3月に再集結し、イングランドのレイトンストーンで行われたアフリカ・エクスプレスのイベントでサプライズとして3曲を披露した。それ以外は、2015年のツアー終了以降も活動休止状態が続いている。デーモンは、ブラーがあまり頻繁にツアー活動を行わなかったことがバンドの魅力のひとつだと言う。それによって一つ一つのツアーが、ファンにとってかけがえのないイベントとなったのだ。
「こうしたことをやりすぎることはないと思う」と彼は言う。「若かった頃の自分とあまりに呼応しているから。何かをするには、感情と理由の蓄積がないといけないんだ。大事なことだから、無駄にしてはいけない。[今後ブラーとして]いわゆるツアー活動を行うかどうかはわからないけれど、彼らとブラーの楽曲を二度と歌えないと考えるのは嫌なんだ」
Photo by Steve Gullick
ブラーとゴリラズは、いまだに大勢の観客を惹きつけてやまない。デーモンは、アリーナを満員にし、まったく異なるアクトと楽曲とともに大規模なフェスのヘッドライナーを務められる数少ないアーティストのひとりだ。「時々、そんな自分がばかばかしくなるんだ」と彼は言う。「どうにかしてすべてをうまくこなさないと。でも、わからない……自分は予測不能な人間だから。これは僕にとって好都合でもあるし、頭痛の種のようなものでもある。何ひとつまとめることができないから」
たしかなのは、今後もアイスランドがデーモンの人生の重要な一部であり続けることだ。「去年、[アイスランド政府から]市民権をもらった」と語る。「僕にとても親切にしてくれる。だから、僕の人生のより大きな部分を感謝の気持ちとして捧げるべきだと思うんだ」
From Rolling Stone US.
デーモン・アルバーン
『The Nearer the Fountain, More Pure the Stream Flows』
2021年11月12日リリース
解説/歌詞/対訳付、アーティスト本人による楽曲解説付、日本盤ボーナストラック収録
詳細:http://bignothing.net/damonalbarn.html
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