ブランド化するトラヴィス・スコット、問われるコミュニティの必要性
Rolling Stone Japan / 2021年11月14日 18時0分
2021年11月5日、米ヒューストンのNRGパークで開催されたアストロワールド・フェスティバルでパフォーマンスするトラヴィス・スコット(Photo by Amy Harris/Invision/AP)
この10年近く、トラヴィス・スコットは流行のど真ん中に身を置いてきた。音楽に限らず、ストリートウェアやスニーカーカルチャーにも影響力を持ち、彼は事実上「クール」の代名詞となった。企業とのタイアップは数知れず、音楽誌はもちろんビジネス誌の表紙も飾る。良くも悪くも、スコットはミレニアル時代のマーケティングの象徴だ。実態がなんであれ、若者たちは虜になった。
【写真】子どもの頃のトラヴィス・スコットとドラマーでもある彼の父親
現地時間5日、米テキサス州ヒューストンで開催されたトラヴィス・スコット主催の「アストロワールド・フェスティバル」。9人が死亡した同フェスの大事故に対して、彼を支持していたファンからも疑問の声が上がっている。一部のファンはソーシャルメディア上でこぞって、スコットの楽曲をストリーミングしないよう呼びかけた。「Spotifyページにアクセスして……彼の名前の隣にある〈このアーティストの曲を再生しない〉ボタンをクリックすればいい。そうすれば彼は稼げなくなる」。大勢のユーザーがこうした文面をコピペして、「拡散希望」と添えて投稿した(アストロワールドフェスの悲劇があった日、スコットの「Escape Plan」はSpotifyで約200万回ストリーミングされ、その日のストリーミング1位を記録した)。
スコットの魅力は、パンクロックのアンダーグラウンドな精神をメインストリーム向けに再構築したところにある。彼のコンサートは激しいモッシュで有名だ――ラッパー本人が煽ることも度々ある。ただ、激情を全身で表現するパンクやハードコアのモッシュの美学と異なり、スコットが自らのショウで煽る「熱狂」は、ひたすら刺激を追い求める「暴動」に近い。アストロワールドフェスの現場にいた大勢の人々は、観客が思いやりに欠けていたようだ、と語っている。動画には、人ごみの中、救急車の上で踊っている観客の姿が見える。
「俺はトラヴィスの大ファンだが、彼は抑えるべき時を心得ておくべきだ。盛り上げるのが好きなことで有名なのは知ってるし、それは全然かまわない。だが昨夜は完全に手に負えなくなっていた」と、とあるファンはツIートした。「奴はいつもこういう風に煽ってくる。今回のことも彼にいくらか非があるんじゃないかな」
ソーシャルメディアでは、怒ったファンがスコットの過去のステージにも非難の矛先を向け(上階のバルコニーから飛び降りるよう観客をけしかけたり、ロラパルーザではファンを煽ったために無謀危険行為で有罪にもなった)、ラッパー本人が危険な環境を煽ったがゆえにアストロワールドフェスでも死者が出たのだ、と主張している。「彼は観客に盛り上がれとけしかける」とは、あるファンのツイートだ。「こうしたエネルギーを生み出したのは彼なのだから、責任を取るべきだ」
スコットはアストロワールドフェスで亡くなった人の葬儀費用を負担するだけでなく、BetterHealthというアプリと提携して、トラウマを経験した人々に無料カウンセリングを提供することを発表した。結果的に、スコットはここでも企業とのコラボという形を取っている。
今回明らかになったのは、数百万ドル規模とされるブランド力の根本的な欠陥だ。トラヴィス・スコットに、互いを思いやるファン・コミュニティの構築を求める者はいない。人々は騒ぎを求めてやってくるのだ。数カ月以内に4倍の価値がつくであろうスニーカーを手にするために、ソーシャルメディアにうってつけの経験を求めて最前列に並ぶために。アストロワールドフェスでの避けられたはずの悲劇の後、今後そうしたことはもう呼び水にはならないだろう。
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from Rolling Stone US
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