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米政府、幻覚剤研究に約4億5000万円の研究資金提供

Rolling Stone Japan / 2021年11月16日 6時30分

Illustration by Carolina Rodríguez Fuenmayor for Rolling Stone

この秋、米連邦政府は50年ぶりに、古典的幻覚剤のセラピー・治療における有効性を調査するための研究資金提供を承認した。ジョンズ・ホプキンス大学、アラバマ大学バーミンガム校、ニューヨーク大学が共同で行う予定の研究は、マジックマッシュルームの主要な精神作用成分であるサイロシビンが、たばこを止める助けになるかどうかを調査するというもので、米国立衛生研究所より400万ドルの研究資金が提供されることになっている。

精神医学と行動科学を研究するジョンズ・ホプキンス大学の教授で、今回のプロジェクトの主任でもあるマシュー・ジョンソン博士は、「この決定は、遅れをとっている幻覚剤の研究を今後固めていくための大きな一歩です」、「国立衛生研究所は今やアメリカだけでなく、世界中においても最大のバイオメディカルサイエンスの資金提供者となりました。事実、いくつかの製薬会社が手がけているこうした分野の研究の大半が、国立衛生研究所からほとんどの資金提供を受けてきています」と語る。

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現在私たちは、「サイケデリック・ルネサンス」と呼ばれる流れの真っ只中にいる。ニクソン大統領が1970年に規制物質法にサインした頃、当時流行していたセラピー用の手段としての各種幻覚剤の研究はパッタリと中止された。1990年代に入るとDMT(ジメチルトリプタミン)という自然由来の幻覚剤の研究が始まり、2000年代にはサイロシビンがうつ病などの精神疾患の治療に効果があるという調査結果をジョンズ・ホプキンス大学が発表、打ち止めとなっていた幻覚剤研究が再びスタートした。しかし、そのような研究に対する資金提供はフィランソロピーや個人的な投資目的の小規模なものとなっていた。

あらゆる臨床試験には高額な費用がかかる。米国医師会の出版する情報誌JAMA(TheJournal of American Medical Association)に取り上げられた研究によると、アメリカにおいて、新たな薬品を開発するために必要とされる費用の中央値は985万ドル(約1120億円)とされている。国立衛生研究所は数十年前の時点で、メンタルヘルスのための幻覚剤の見込みを調査する早期研究の最大の資金提供者で、LSDの効果を研究した130以上の臨床試験に資金を提供してきた。しかし、幻覚剤を巡る政治やメディアの逆上を受けた政権が規制物質法を施行。その結果として同研究所の研究もストップしてしまった。しかし、現在起こっているサイケデリック・ルネサンスは指数関数的な成長をしており、営利目的で幻覚剤の開発を行う企業は、幻覚作用を持つ化合物へ数百万ドル単位の投資を行い、米食品医薬品局の認可を得、市場への進出を行なっている。

ジョンソン博士は「多くの人々が「どうやって麻薬取締局や食品医薬品局を説得したの?」と尋ねてきます。しかし、それらの機関はもう数十年前からすでにこうした研究を行っていたのです。正しい実験や研究を行うための要項を注意深く確約すれば、それは承認されるでしょう」と語る。

ジョンソン博士のような研究者たちとっては幸運なことに、ついに状況は変わり始めている。ジョンソン博士と同僚の研究者たちが今回受けた承認は、彼らに国立衛生研究所の下部組織である薬物乱用研究所から大量の資金提供をもたらした。喫煙習慣のある人たちの禁煙をサポートするための研究を行っていた彼らにとって、サイロシビンのうつ病やPTSDへの効果や、まだ明らかになっていない作用の研究という条件はまさに適格であった。



5月に行われた上院の予算公聴会で、国立衛生研究所前所長のフランシス・コリンズ博士は、同研究所と関係各機関はメンタルケアを目的とした幻覚作用を持つ化合物について、厳密な調査をする必要があると述べた。コリンズ博士は、幻覚剤の研究がこれまで長期にわたって違法とされてきたことを認めつつも、「脳の働きについてのこれまで行ってきた研究の結果、幻覚作用を持つ化合物は調査目的上、また、医療目的での使用するための潜在的な可能性があることを発見できた」と述べた。薬物乱用研究所もまた、研究の承認を求めたジョンソン博士に対し、同様のことを告げた。

ジョンソン博士は「私は彼らに「幻覚剤の治療目的の可能性を研究するなんて時間の無駄だというなら、知らせてくれてありがとう」と伝えました。私は、過去にこうした研究が中止されたのは幻覚剤だからという理由でも、政治的な反応であったわけでもないと告げられました」と語る。

議会においても一定の動きがあるようだ。幻覚剤について研究する非営利組織の薬草連合(Plant Medicine Coalition)の創設者で代表のメリッサ・ラヴァサニ氏は、大きな目標として今年中に100万ドルの研究資金を獲得することを掲げていた。彼女は、現在のサイケデリック・ルネサンスにおける同分野への国からの投資は過小評価されていると考えている。彼女とそのチームは、今年は資金を獲得することができなかった。彼女が言うには、議会ではバイデン大統領による55億ドルのインフラ投資など、その他の大きな項目があまりに多かったとのことだ。その一方、彼女らは100人以上の議会関係者と面会し、史上初となる、議会所属の幻覚剤に関わる幹部会発足に向けた基盤を築くことができた。

ラヴァサニ氏は、今回の資金提供にはメンタルケアのための幻覚剤研究のリソース確保以上のものがあると語る。確かに、国から助成金の出る研究は、製薬会社が新薬を開発し、市場に出すための助けにもなる。ジョンソン博士はすでに、製薬ベンチャーのマイデシンと協力し、喫煙依存者向けのマーケットにおけるサイロシビンの確保に動いている。しかし、ラヴァサニ氏によると、研究を製薬会社に頼り切るのは、例えばうつ病の治療向けのサイロシビン研究のように、極めて限定的な研究になりがちだとも言う。また、投資家による投資の対象となれば、利益の出る保証が必要だ。しかし小規模な研究において、幻覚剤は身体的な疾患、例えば神経変性症から炎症といった症状に至るまで、有用性が示唆されているものも存在し、これらの研究にも大きな価値がある。

ワシントンD.C.における自然由来の幻覚剤の合法化運動でイニシアティブを取ったラヴァサニ氏は、「幻覚剤をヘルスケアシステムの一環として見なすためには、より広範な分野を調査する必要があり、さらに社会的に良い影響を与えることを目標に研究を行う必要があります。政策担当者らがこうした研究を見るとき、彼らは研究が政府により資金援助されているかに注目するのです」と語る。



しかし、資金援助を受けているとはいえ、研究が実際に政府からの承認を得ることは極めて難しいという現状がある。承認はそれ自体で数百ページに上ることもある。ケタミンの慢性疾患、急性疼痛疾患への適用を独自研究するベクソン・バイオメディカルの共同創設者のジェフリー・ベッカー氏は、「研究のためには極めて有能で、思慮深くある必要があり、実績が必要です。助成金の申請が完璧だとしても、支給には6ヶ月以上かかりますし、実際に手元に届くのはそれから2ヶ月はかかります」と語る。

ジョンズ・ホプキンス大学に助成金が認められるまではおよそ2年かかった。国立衛生研究所は最初、計画書の変更と再提出を要求、その後半年経ち、再承認の手続きを始めた。国立衛生研究所は迅速にやっているように見えたが、その期間に研究資金が尽きてしまった。言うなれば、幻覚剤の研究に対し、国の金庫がオープンだというわけではない。さらなる研究に国からの支援が物理的に必須であることに加え、シンボル的な意味でも重要であることは間違いない。

国による助成金を用いた研究は、政治家たちが幻覚剤を合法なものと見做すためだけでなく、研究者や研究機関のサポートを集めるためにも極めて重要である。ベッカー氏は「幻覚剤の研究を見捨てた研究者たちの多くは、この研究に携わることを、自身のキャリアにとっての潜在的自殺行為だと言います」と語っている。

このことはジョンソン博士も経験してきたことだった。ジョンソン博士が若かった当時、同僚たちに幻覚剤の研究に興味があることを話すと、皮肉たっぷりに「幸運を祈るよ」と告げられた。大学において正規の教授となり、研究機関で職に就くためには国立衛生研究所の資金援助が必要であり、当時それは不可能に思われた。博士は、数十年前から衰退しつつあった幻覚剤研究について「まさに私の職を奪おうとしていたもの、いわばキャリアキラーのようなものでした」と語る。

こうした年月を過ごしてきた彼が今願うことは、今回の承認がサイケデリック・ルネサンスのためだけでなく、過去の彼のような研究者たちに良い影響を与えることだ。彼は「この承認は研究者たちにとって多くの意味があることです。国立衛生研究所の資金提供の可能性があるというだけで、若い研究者たちはそこでキャリアを築いていくことができます」と語る。

From:U.S. Government Funds First Therapeutic Psilocybin Research in 50 Years

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